「智也が浜咲だったら」   作:高尾のり子

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第22話

 

 12月始め、ほたるはウイーンの学生寮で巴と唯笑から届いた手紙を読んでいた。

 

 はおっ♪

 ほわちゃんがウイーンにいって、もう三ヶ月になるね。すぐに連絡するつもりだったのに、あっという間に三ヶ月も時間が過ぎちゃって、私たちの友情は距離や時間に負けちゃうのかな?

 否、断じて否。

 恋愛に終わりはあっても友情に終わりはない!

 ということで、聞いてください。

 私ってば、失恋しました。

 フラれちゃいました。

 あっさりと「他に好きな子がいるから」って、その子に告白するための準備として、さっくり捨てられました。まあ、せめてもの救いは、そのバカが告白した相手(トミーの彼女だっていうから、これも驚きだけど)が、ばっさり彼を切り捨ててくれたことだけど。

 とまあ、笑っちゃうくらい、刹那的に一夏的に私の恋愛は終わってしまいました。もう、しばらく男なんていらない。演劇に専念します。

 でも、その前に、ほわちゃんに謝らないといけないことがあります。

 ごめんなさい。

 本当に、ごめんなさい。

 でも、最初は知らなかったんです。

 知り合ったときは知らなかったの。

 好きになった後、もしかしたら、ほわちゃんの彼氏かも……って、少しは考えたけど、そうじゃないはず、そんなことない、って自己欺瞞してた。

 最低なことをしたって思ってる。

 だから、お願い、今度会ったとき、私を怒ってほしい。

 お願いだから、無視しないで怒ってほしい。

 ごめんなさいを言わせてください。

           あなたの親友でいたい飛世巴より

 

 ほたるは手紙を読み終えると、深いタメ息をついてカナタの寝顔を見つめた。

「……………………」

 トトちゃんを捨てた健ちゃんが鷹乃ちゃんに告白してフラれて、トトちゃんは私と仲直りしたいって……………人の運命と未来なんて、あっという間に想像もしなかった方向に流れちゃうんだ………一年前には健ちゃんと付き合えるなんて夢みたいなことだったのに、今は正午くんと付き合ってるのにカナタちゃんが隣にいる………、あ、唯笑ちゃんからの手紙も読まないと、ほたるは二通目の手紙を開いた。

 

背景

ほたるちゃんへ

この手紙が届く頃、もう一つ、トトちゃんからも手紙が届くと思います。

もしかしたら、トトちゃんは自分が全面的に悪かったって書くかもしれないけど、そんなことはないです。トトちゃんがイナミ君と出会ったときには、ほたるちゃんの彼氏だとは知らなかったの。本当に。もしも、知っていたら絶対に友達を裏切るようなことはしなかったって、そう思うから。

でも、途中から、ほたるちゃんの彼氏かもしれないって思いかけたけど、もう、そのときには好きになる気持ちを止められなかったんだと思う。唯笑も、そーゆー気持ちが止められないことは知ってるから。もう、他の人の恋人なんだから好きでいちゃいけないって頭で考えてるのに、気持ちは消えないから。でも、いけない気持ちを続けることの代償が大きいことも、トトちゃんは後悔してるから。

それに、トトちゃんは反省してるし、もうイナミ君の彼女でもないから。だから、トトちゃんを許してあげてほしいです。

 お願いします。         刑具

                      今坂唯笑

 

 ほたるは手紙を読み終えると、長らく読んでいなかった日本語の辞典を引き、唯笑が背景と拝啓、敬具と刑具を間違えたことを確かめてから、手紙を片付けようとして、巴からの手紙に同封されていた紙に気づいた。

「……トトちゃん……」

 同封されていたのは劇団「バスケット」のクリスマス公演のチケットだった。

「……………………」

「…ん…ぅ……ほたる?」

 カナタが目を覚ましてベッドから起きあがってくる。

「手紙? 誰から?」

「唯笑ちゃんとトトちゃん」

「ふーーん……、読んでいい?」

「うーーーーーん………ま、いいよ」

 ほたるは手紙を机に置いた。カナタは手を伸ばそうとして止まった。

「読んでほしくない感じの内容?」

「さあ?」

「……アタシの真似してる」

「まあねン♪」

「読んでほしくないなら、いいよ」

「いいよ、読みたいなら読めば?」

 ほたるは机に置いた手紙をカナタに手渡した。カナタは迷ったけれど、ほたるが受け取った報せを読みたい気持ちに負けて手紙に目を走らせる。

「クスッ…背景って…」

 カナタは唯笑と巴からの手紙を読み終え、ほたるが公演のチケットを見ながら、スケジュール帳を開いているのを見て問いかける。

「……それ……行くの? 日本に、……行っちゃうの?」

「カナタちゃんも、いっしょに行く?」

「………」

 カナタは暗い顔をして黙り込んだ。ほたるはタメ息を隠してカナタを試してみる。

「ほたるは行くよ。正午くんに会いたいし」

「っ…」

 カナタの顔から血の気が失せて、小刻みに震えている。ほたるは症状が悪化しないうちに、優しくカナタを抱きしめて囁く。

「もちろん、カナタちゃんも大好きだから安心して」

「……うん……」

「カナタちゃんも、いっしょに日本に行こ」

「………でも…」

「クリスマス休暇の間だけだよ」

「…………」

「そろそろ日本に戻ってビザを取り直さないと滞在期限が過ぎて、次に入国するのが難しくなるし」

「…アタシは……ほたると、いっしょがいい……ずっと…」

「じゃあ、ほたるはウイーンと日本を行ったり来たりするから、ちゃんとビザを取り直してくれないと、ほたるまで不法滞在の幇助で逮捕されちゃうよ」

「………………」

「わかってくれた?」

「……うん…」

「……………………。そんなに、正午くんに会うのが怖い?」

「……………………………別に……」

「じゃあ、いのりちゃんに会うのが怖いの?」

「っ……、……………………」

 カナタが青ざめて身震いした。

「カナタちゃん……」

 いのりちゃんは、いったいぜんたいカナタちゃんをこれだけ怖がらせるなんて、どんなことをしたの………いのりちゃんって温和しそうに見えて、何をするか、わからないところがあるみたい………、ほたるはカナタを優しく抱きしめてキスをした。

 

 

 

 クリスマスソングが鳴り響くスーパーの食品売り場で、鷹乃とクロエが仲良く買い物をしている姿を智也は退屈そうに眺めていた。

「ねぇ、クロエ。お肉は何にする?」

「もちろん、チキン♪ クリスマスといえばチキンで決まり。本当は七面鳥なんですけど」

「じゃあ、見栄えもするし量の割りに安いから、丸一匹のチキンを買って料理に挑戦してみる?」

「はいっ♪」

 屈託のない微笑みを交わして買い物している二人を見ていると、姉妹にも母娘にも見えそうで智也は奇妙な心地だった。

「……」

 たはっ……鷹乃がクロエを産むのは無理………まあ、鷹乃が化粧して、クロエが子供っぽい服を着れば親子にも見えるか……って、じゃあ、オレはオヤジか? ……ったく、本当のオヤジは今頃、何をしてるんだか……、智也はクロエが鶏肉の品定めをしているのを横目にして、鷹乃の腿を撫でた。

「…」

 鷹乃は内腿を撫でられ、さらにスカートへ忍び込んできた智也の手がショーツをよりわけて陰部にまで入ろうとしたのでクロエに気づかれないよう睨みつける。

「……」

 さっき学校でエッチしたばかりじゃない、クロエの前ではやめてちょうだい、鷹乃が無言で抗議すると、智也は降参して二人から離れる。

「オレ、ちょっとブラブラしてくる」

 まあ、いいや、クロエがオレのこと諦めてくれて、代わりに鷹乃に依存するなら、そーゆー関係もありだろう、もともとクロエのオレへの想いは恋愛っていうより両親不在の家庭で育った子の本能的な反応みたいなもんだろうし、鷹乃が一番よく理解してやれるだろうから、まさか家出が年末まで続くとは思わなかったけど、クロエもオレと男女の関係に戻ることは望んでないみたいだから、オレも暮らし難いってわけじゃないし、とりあえず正社員になってから考えよう、智也は微笑して手を振る。

「二人は、ゆっくり買い物してろよ」

「智也がいない方が落ちついて買い物できるわ」

「んじゃあ、一時間後くらいに」

 智也は二人と別れてブラブラと歩き回り、二人へのクリスマスプレゼントを考える。

「やっぱり宝飾品系かぁ……。ガンプラとか送ったら二人とも喜ばないだろうしなぁ…」

 オモチャコーナーでは二人が喜びそうな物はなく、やはり年頃の女性なので宝飾品から選ぶことにした。

「二人とも同じものにするなら……指輪は避けて、ネックレスとかかなぁ…。鷹乃はサファイヤで、クロエは……えっと……唯笑の誕生日から10を引いた……7月2日だったからルビーか」

 智也が一万二千円のネックレスを選んでいると、いのりと一蹴に出会った。

「よぉ、一年生最強バカップル」

「あ、三上先輩。ちわっす。って、そんな呼び方、やめてくださいよ」

「お前も彼女にプレゼント選びか?」

「ぇ……ええ…まあ」

「プレゼントなんて、いいよ、イッシュー。私はイッシューがいてくれれば、それだけで満足なの♪」

 いのりはリボンを出すと、一蹴の首に巻きつけて蝶々結びにした。

「ほら♪ イッシュー」

「ほらって……言われても……」

 一蹴は抱きつかれてタメ息をつき、智也は苦笑した。

「お前ら熱いなぁ……」

「えへへ♪ イッシューそのものがプレゼントなの。だから、イッシューへの私からのプレゼントは、私ね♪」

「お前らエロエロだなぁ♪ 今夜何発やる気だ?」

「えっと♪ できれば12月だから12回っ♪」

「おいっ……」

「いのり……、絶対無理だから……」

「オレは冗談で訊いたのに、マジに答えるなよ。しかも超絶絶倫的な回数を」

「冗談だったんですか? でも、やっぱりクリスマスは特別だよ、イッシュー♪」

「いのり……クリスマスは、もともとキリストの復活を祝う聖なる夜なんだからさ。もっと静かに過ごそうよ。バイト代が入ったからさ。ピアスくらいなら買ってあげられるし」

「う~ん……身体に穴をあけるのは……、えへっ♪ 私の身体に入るのはイッシューだけ♪」

「………」

「………、そんなオヤジギャグっぽいことを言ってると、師匠みたいに捨てられるぞ」

「白河先輩なんかといっしょにしないでください」

「「………」」

「それに、きっとイエス様も、愛は祝福してくれるよ。ね、イッシュー」

「そーゆーものじゃないと思うけど、本来のクリスマスから考えると…」

「いや、本来のクリスマスというのはイエスを祝う祭りじゃないぞ。ローマの豊穣の神サトゥルナリアを祝う祭りで、収穫を喜び、酒を飲み、男女が交わって過ごすのが本来の姿だ。そこで贈り物を交換したのが、サンタクロースの始まりだとも言われている。だいたい、キリスト教とサンタは関係ないしな。ようするにローマ時代の神の行事にキリストが、あとから乗っかっただけだ。おまけに日本だと23日は天皇誕生日であって本来は陛下の誕生日を祝う日だ。日本国民として少子化に対応するため、どんどん励むのが本来の姿だと思わないか?」

「思いません」

 一蹴は疲れた様子で首を横に振り、いのりのためにブレスレットを買った。

 

 

 

 ノエルは嘉神川家のリビングで父親と二人で飾ったクリスマスツリーを見上げながら、ここにいない姉へ送るクリスマスカードの文面を考えていた。

「………」

 お姉ちゃん、早く帰ってきて……だと、余計に気分を悪くするかな……じゃあ、お元気ですか……これじゃあ他人みたいで……、ノエルは考え込むけれど、なかなか産まれてから一度もいっしょに暮らしていない実の姉に家出をやめてもらう呼びかけを思いつくことができない。

「どうした? ノエル、うかない顔をして。お腹でも痛いのか」

「ううん、何でもない」

 ノエルが考えていることを伝えると、幸蔵も悩むと察して幼女は父親に笑顔を向けた。

「メリー・クリスマス♪ パパと初めてのクリスマスだね」

「ああ、ノエル。メリー・クリスマス」

「明日はね、ノエルの日なんだよ」

「そうだな。ノエルはフランス語でクリスマスだからな。それに今夜は前夜で明日が本番なんだったな。日本では、明日になるとクリスマス飾りも一気に終わって正月飾りになるからなぁ」

 幸蔵が欧米のクリスマスを思い起こしていると、エリーズがタメ息をついた。

「どうせ、明日も仕事でしょ。信じられないわ。普通はクリスマスから1月1日まで休暇をとるものよ」

「そ、…それは、欧米での話でだろ。その代わり日本は大晦日から三が日までが休暇になるんだ。文化の違いじゃないか、な?」

「せめて明日くらい休んで二連休にしてほしいわ。だいたい、今日だって日本の皇帝の誕生日だから休みなだけでしょ」

 エリーズは文句を言いつつもプレゼントしてもらった高価な指輪を見つめて微笑む。

「まあ、いいわ。今夜は、これに免じて許してあげる。ね、ノエル」

「うんっ! パパ、大好きっ!」

 ノエルは七年分のクリスマスプレゼントとして七個もオモチャを買ってもらっている。あとはクロエのためにエリーズと選んだプレゼントを渡すだけだったけれど、どうやら今夜のパーティーにさえ帰ってきてくれない様子だった。幸蔵はプレゼントへ視線を落としてタメ息をついた。

「………クロエは……帰って…来ないか…」

「そうみたいね」

「……………。お姉ちゃんが帰ってこないなら、みんなでプレゼントを渡しに行こうよ」

「「……………………」」

「ね? ね♪」

「……クロエは私の顔を、まだ、見たくないはずよ」

「ママン……、じゃあ、パパとノエルで行こうよ」

「そうだな……、そうするか」

「やめてあげなさい。ミカミさんに迷惑よ。クリスマスに会社の社長と会いたいと思う? そうでなくても日本人って会社を離れてもプライベートと仕事の境界が曖昧でしょ。せっかくのクリスマスに社長の顔なんて見たいと思うの?」

「う…うむ…、そうだな。彼には迷惑をかけどうしだからな……」

「じゃあ、ノエルが一人で行く!」

「「……………………」」

「もう日本の町も覚えたから平気だよ! ノエル、一人で行ってくる!」

「いや、しかし、もう日も暮れているし……」

「そうね、じゃあ、タクシーで行って、帰りもタクシーにしなさい」

「やった♪ お姉ちゃんに会える、やった♪」

「ついでに料理も持っていってちょうだい。どうせ、チキンで済ませてターキーは取り寄せてないでしょうから」

 エリーズは七面鳥の丸焼きを切り分け、野菜の付け合わせといっしょにタッパーに入れてノエルに持たせた。

 

 

 

 果凛は花祭家の盛大なクリスマスパーティーで次々と挨拶に来る招待客へ微笑を送ることに疲れていたけれど、一片の疲労感も見せずに笑顔をつくっていた。そこへ、モデル仲間の音緒が気づかって声をかけてくれる。

「メリー・クリスマス♪ KARINさん」

「あ、NEOさん」

「今夜はお招きにあずかりまして、どうも」

「こちらこそ、来てくださって嬉しいですわ。ありがとうございます」

「ふふ、その挨拶、もう何回目なんです?」

 音緒が耳元で囁いてくると、果凛も作りものでない微笑とタメ息で答える。

「さあ、ヒマなら数えておいてくださいな。それより、NEOさん、おめでとう♪ レミューの件、決まったんだって?」

「ありがとうございます。おかげさまで♪」

「いよいよ私も追い越されそうね。負けちゃいそう。頑張らないと」

「……」

 おりょりょ……すでに、モデルとしては私の方が勝ってると思うけど……KARINさん、まだ雑誌の表紙飾ったことないし、せいぜい、記事の一つ、二つくらいで、あとは通販モデルくらい……田原食品のテレビCMも好評で、次はレミューブランドのイメージガールまで決まった私NEOに追い越されてないって認識なんだ…………まあ、これだけゴージャスなお嬢さまなんだし、あと、年齢は絶対に追い越せないから♪ 音緒は心の中の電子掲示板に書き込んだことを一片も見せずに笑顔をつくっていた。そこへ、二階堂達郎が現れたので音緒も果凛も、うっとうしく思ったけれど、やはり一片も見せずに笑顔をつくる。達郎も唇の端をつり上げるような笑顔になって、一流の紳士をマネした礼をする。

「これはこれは、お美しいお嬢さま方♪」

「今晩わ。来てくださって嬉しいですわ。ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそお招きにあずかり恐悦至極」

 達郎は果凛の手を取って甲へキスをしようとしたけれど、音緒がタイミングよくワイングラスを達郎に勧めてくれた。

「二階堂ディレクターも呼ばれてたんですね。このパーティー」

「ああ、まあね♪ 何と言っても、ほら、ボク、花祭議員から栄誉ある賞をいただいたからさ。この子と、いっしょに」

 達郎は同伴していた一条秋名を二人に紹介しようとしたが、秋名はカメラのシャッターを押した。

 カシャっ…

 いきなり写真を撮られた果凛と音緒は驚いて目を丸くし、さらに二枚目を撮られると果凛は一片の不快感も見せずに困った顔をつくったけれど、音緒は不快感の一片を見せて秋名に抗議する。

「写真、やめてくれる?」

「…ご……ごめ…なさい…」

「悪い悪い、ごめんね!」

 達郎が秋名の頭を下げさせる。

「この子、いきなり写真撮る癖があってさ。ごめんね。二人ともモデルなんだからさ、写真は事務所通さないとね。ごめん、ごめん」

「データ、消しておいてくださいよ」

「いや、それが、この子のカメラは…」

 達郎が秋名のカメラが旧式のフィルムカメラで、この場でデジタルカメラのようにデーター削除ができないことを説明すると、音緒がタメ息をつき、果凛は微笑した。

「かまいませんわ。でも、帰ったら処理しておいてくださいね。一条さん」

「…は……はい…」

「………」

 この子、たしか……心の闇を抱えた14歳とかいうコンセプトの写真集で……あまり見たい写真集じゃないかな、ちゃんと私の写真、消しておいてくれるといいけど、変なことに使われたらヤダなぁ……、果凛は終始笑顔で立ち去る秋名と達郎に手を振ったけれど、音緒は二度目のタメ息をついた。

「イヤな感じぃ……あの子って、ほら、KARINさん知ってます? あのグロい写真集の」

「そうなの?」

「なんか、心に暗黒を宿した14歳とか、どうの、みたいなテーマの写真集で、ネズミの死体とか、そんなの撮ってるって」

「………。それは……変わった御趣味ですわね」

 果凛がコメントを選んでいると、稲穂鈴が緊張した顔つきで近づいてきた。

「こっ、この、この度は…、ぉ、おまねきっいただきっ、あ、ありがとうございます。わ、私、ぃ、稲穂…いえ、鈴代黎音と、もっ、申します。こ、こんなパーティー、はっ、初めてで…その…」

「こちらこそ、来てくださって嬉しいですわ。鈴代先生の小説、わたくしも少し読みました。とてもステキな作品ですわね」

「そ、そんな…先生なんて、私、まだ駆け出しで…」

 鈴の後にも次々と挨拶を受けなければならず、果凛は音緒に視線だけで別れを告げると招待客に囲まれ、花祭家の令嬢としての任務を果たしていった。

 

 

 

 ほたるは半年前に金賞を獲った文化ホールの前で巴と再会していた。巴の公演が始まる前のわずかな時間、楽屋の出入口で再会した二人は視線を合わせ、歩みよった。

「元気そうだね、トトちゃん」

「…うん…、まあね! はおっ♪」

 一瞬戸惑った巴が笑顔になると、ほたるも笑い。もう二人の間にわだかまりはなかった。

「ほわちゃん、ウイーンの方は、どうよ? ちゃんと馴染んでる?」

「うん、ぜんぜん平気だよ。ご飯が脂っこいことくらいからな、馴染めないのは」

「それはつらいねぇ。でも太ってないじゃん♪」

「太ったら新しい彼氏にまでフラれちゃうもん」

「え? 新しい彼氏っ?! マジで?!」

「マジで♪」

「そっかぁ……ほわちゃん、ピアノも恋も頑張ってるのかぁ……、どんな彼氏か、あとで教えてよね」

「え~♪ どぉしよっかなぁ」

「教えないと、また、うっかり盗っちゃうかもよ」

「ふふ♪ そうそう何度も盗まれないよぉだ♪」

「あ、そろそろ時間。ごめん、また、あとで!」

 巴は楽屋の中から森監督に怒鳴られて戻っていった。ほたるは爽やかなタメ息をつく。

「たはーっ……会ってみると、あっさり仲直りしちゃうんだ……不思議♪」

 ほたるは取り戻した友情で胸が温かくなったのを感じたまま、巴の公演を観覧して、再び楽屋の出入口で親友を待った。後片付けをした巴が急いで出てくる。

「ごめん、遅くなって」

「すっごく良かったよ! トトちゃんの演技!」

「ありがとう♪ ほわちゃんが来てくれたからだよ。ありがとう、ホント」

 二人は手を取り合って喜ぶと、近況を話ながら道を歩いた。

「で、ほわちゃんの新しい彼氏って? どんな人、名前は?」

「う~ん♪ 一言で言うと……」

「言うと?」

「テロリストかな」

「それはまた過激だねぇ」

「うん」

「名前は?」

「オサマ・ビンラディンくん」

「へぇぇ…あの国際的に活躍してる?」

「うん♪」

「九月のテロはすごかったねぇ。感動したよ♪」

「でしょでしょ」

「んなわけあるかっー♪」

「きゃは♪」

「あくまで言わない気なのかな?」

「えへへぇ♪ まあ、彼氏って言っても、まだ落ちついてないしね。もうちょっとしたら報告するよ」

「そっか。あ……でも、クリスマスの今夜、私と会ってるってことは……その彼氏が外国人でも日本人でも、ちょっと進んでない感じ?」

「さあ♪」

「どこまでも秘密主義とは、やっぱりテロリストか♪」

 はしゃぎながら歩いていた二人は向こうから歩いてきた一組のカップルを見て黙り込んだ。

「「あ……」」

 ほたると巴が異口同音して立ちつくす。二人の視線を感じた健と相摩望も立ち止まった。

「「………」」

「「………」」

 ばったりと歩道の真ん中で出会った四人は戸惑いのあまり沈黙して5秒も時間を過ごした。

「なるほど。ごくろうさん」

 最初に口を開いたのは巴だった。

「そーゆーこと、まあ、そーゆー男だったしね。ごくろうさん」

「…トト……、ボクは…」

「いやいや、たいした男だよ、あんたは」

 巴は芝居がかった口調で感心すると腕組みして頷く。

「次から次へと、見事にゴールを決めて、これがサッカーだったら一人で四点獲ったシュート王。あ、違うか。三本目のシュートは外したらしいから。ハットトリックってヤツ?」

「トト……、ごめん……ボクは最低だ…」

「いえいえ、最高っすよ。最高のプレイヤーっすよ。プレイボーイ♪ これは君のために作られてた言葉なんだね。うん」

「……ごめん……君を傷つけたこと、忘れないよ」

「あっそ。ああ、そうですね。私、傷物にされたしね。あ、そうそう、ハットトリックって言っても、ほわちゃんはガードしたしね。トミーの彼女にも一蹴されてるし、入れられたのは私だけかな? その子とは、もうヤったの? っていうか、今夜、これから? やめときなよ。悪いこと言わないからさ。この男、すぐに女の子を捨てるよ、飽きて、ポイって♪」

「……………………」

 健が黙って顔を伏せると、気後れしていた望が巴を睨んだ。

「さっきから、失礼じゃないですか。なんなんですか、あなたはっ?!」

「あ、自己紹介がまだでしたわね♪ わたくし、そこの色男の元彼女の…」

 演劇魂に火がついて巴が路上ライブを続けようとするのを、ほたるが止める。

「トトちゃん、もう、いいよ、やめて」

「……ほわちゃん…が、言うなら…。でも……」

「人は、ただ、なんとか幸せになりたいだけ、だから。その人が幸せになろうとするのは私には関係ないことだよ。だから、トトちゃんとも関係のないことだと思ってほしい」

「……………………。うん、わかった、そーゆーことにする。もう関係ないから」

「ほたる……」

「……………………。さようなら、伊波くん」

 ほたるは健の横を通り過ぎると振り返らずに進んだ。

 

 

 

 クロエは三上家のリビングで鷹乃と智也に囲まれて幸せそうに笑っていた。智也が教えてくれるテレビゲームを鷹乃と楽しみながら、こんなに笑って過ごしたクリスマスは初めてだったのに、玄関のチャイムが鳴って、鷹乃が席を立つと一抹の不安を覚えた。

「こんな日の、こんな時間に……誰……? ……智也さん、わかる?」

「さあな」

 智也は気にしていないけれど、クロエは不安が膨らんでくる。

「……私、……まだ、ここにいてもいい……の? ………迷惑?」

「いたいか、いたくないか、クロエが決めればいい。オレは妹か、娘がいるみたいで楽しいぞ、お前がいるの」

「智也さん……」

「きっと、鷹乃も、そう思ってる。でも、お前が帰りたいと思うなら…」

 智也の言葉はリビングにノエルが現れたので中断された。

「今晩わー♪ メリー・クリスマス♪」

「可愛いお客さんよ」

 鷹乃がノエルの背中を押した。

「お姉ちゃん、はいっ♪ パパとママからプレゼント! ノエルも、いっしょに選んだんだよ」

「………」

 クロエは反応に困って差し出されたプレゼントを見下ろしたまま動かない。

「……お姉ちゃん……」

「…………」

「え、えっと……これ、ローストターキー♪」

 ノエルはプレゼントをテーブルに置いて、背負ってきたリュックから料理を出した。

「ちゃんと七面鳥なんだよ」

「………」

「ほお、七面鳥か。さすが本場だな」

 智也が純粋な好奇心から興味をもった。タッパーには鶏よりも何倍も大きい七面鳥の脚が入っている。

「デカいな。これが七面鳥かぁ」

「うん♪ ストラスブールでは毎年、クリスマスは七面鳥でお祝いするんだよ」

「海外のドラマとかで見るけど、やっぱチキンとは違うなぁ。スケールが」

「そうね、大きいわね」

 鷹乃も興味をもった。

「一羽で何キロあるのかしら?」

「えっと……16ポンドだから……えっと……、お姉ちゃん、何キロになるの?」

「……。7キロよ。およそ」

「わぁ♪ さすが、お姉ちゃん」

「………」

「すげぇな。全体で7キロってことは、この脚だけでも2キロちかくになりそうだな」

「うん♪」

「前の鷹乃なら丸一匹でも食べられそうだけど、また太るかもな♪」

「智也っ!!」

「はははっ♪」

 智也が蹴られて笑った。

「まったく。でも、せっかくだから、いただくわね。ノエルちゃん、ありがとう」

「どういたしまして」

「ノエルちゃんも、いっしょに、どう? もう食べてきたの?」

「ううん、まだ♪」

「そう、じゃあ、そこに座って。もう一度、四人で乾杯しましょう」

 すでに三人で夕食を摂っていたけれど、ノエルを交えて七面鳥を食べ始める。鷹乃が切り分けて皿に盛っていくと、クロエは母親が焼いたであろうターキーを見つめたまま停止した。皿にはタッパーに入っていた盛り合わせの野菜のうち、クロエの食べられるものしか盛られず、智也や鷹乃の皿にピーマンやニンジンが分けられているけれど、クロエは手にしたフォークを動かさない。

「じゃ、いただくぜ。ノエルちゃん」

 智也が七面鳥を食べ始める。

「おお、美味いな。デカいのに、ちゃんと味があるな。歯ごたえがあってチキンとは、また違う感じだ」

「そうね。初めて食べるけれど、美味しいわ」

「エヘヘ♪ ノエルも味つけしたんだよっ」

「チョコは入れなかったか?」

「ぅっ……、どうして、ノエルがチョコを入れようとしたこと、知ってるの?」

「社長が言ってたんだ。お前、何にでもチョコを入れて食べようとするんだって? 先週なんか、お好み焼きにチョコが入ってたって」

「パパが……もお、恥ずかしいな。レディーのこと勝手に他で話さないでよ」

「他にも、カキコオロギ並みの…」

 智也が幸蔵から聞かされているノエルのことで盛り上がっていると、クロエはフォークを置いて立ち上がった。

「もう、お腹いっぱいなの。私、お風呂に入ってきます」

「「「……………………」」」

「……、お腹いっぱいだから」

 一口も食べなかったクロエはリビングを出て脱衣所に入ると全裸になった。

「……………………大人気ないかな……我ながら…」

 自分の行動を振り返って、軽い自己嫌悪をしつつ、熱いシャワーを浴びて湯船につかると少しは気持ちもほぐれた。

「あの子は……悪くないんだから……。……悪いのは……」

 クロエは頭を振って、風呂を出ると寝間着に袖を通した。洗面所の鏡を見つめると、妹そっくりの自分の顔が映っている。

「…………………………はぁぁ……」

 一つタメ息をついて脱衣所を出た。

「お先です」

「おう」

 智也がノエルとテレビゲームをしていた。

「ノエルちゃん、お前は覚えが早いな」

「そうかな?」

「まあ、ゲームは小学生が一番、強くなるからな。頑張れよ、このあたりのゲーセンを荒らして、ストラスブールの魔女を名のるといい♪」

 智也がノエルの頭を撫でた瞬間、クロエの中で何かが爆発した。

「っ!」

 ほとんど無意識にクロエの手がテーブルに残されたままのプレゼントを叩き落とすと同時に叫んだ。

「いつまでいるのよっ?!」

「っ………お姉ちゃ…」

「「クロエ……」」

「帰って! 帰ってよ!! あなたの顔なんて見たくもないっ!! 大っ嫌いよ!! 帰って!!!」

「「「………………………」」」

 あまりの剣幕に三人とも圧倒されて黙り込む。叫んだクロエも二の句がない。

「……………ごめんなさいっ!」

 ノエルが謝りながら部屋を飛び出し、玄関を出て行く。智也と鷹乃は一瞬のアイコンタクトで分担を決めて、鷹乃がクロエに歩みより、智也は飛び出したノエルを追った。

「おい、待てよ! ノエルちゃん!」

 待てと言うまでもなく、七歳の駆け足に追いつくのは簡単だった。走っているノエルの肩を捕まえる。

「暗いから走るなって、危ないぞ!」

「っ………おじさん…」

「うむ、お兄さんと呼べ」

「………。………ノエルは今、くだらない会話をする気分じゃないもん」

「では、大切な会話をしよう」

「……………どんな?」

「レディーの一人歩きは危険だ。家まで送る」

「……………………」

「………」

「……………………」

 ノエルが黙って歩くので智也も隣を歩く。

「……………………」

「……………………」

 くっ……沈黙が痛いな……七歳って、どこまで大人な部分があるのか……彩花と唯笑が七歳の頃って……けっこう大人かもしれないな……唯笑はともかく彩花は……よし……彩花並みだと想定しよう……、智也はノエルに話しかける。

「日本の国歌を知ってるか?」

「………………」

 ノエルは黙って首を横に振った。

「君が代、という歌だ」

「キミガヨ?」

「ああ」

 智也が国歌を謳うと、ノエルはタメ息をついた。

「なんだか、元気のでない歌……。フランスの国歌を知ってますか?」

「ラマルセイエーズだろ」

「……博識なんですね…」

「いや、オレにはフランス育ちのノエルちゃんが博識という単語を知ってるのが、驚きだが……。子供は子供らしくしろよ。ちょっと止まれ」

「はい?」

 ノエルが歩みを止めると、智也は背後に回って両腕を持つと、ノエルを肩車にした。

「わっ? ……わぁぁ♪」

 生まれて初めて肩車をしてもらった少女は感動して星空を見上げる。いつもより空が近い、地面が遠い。

「オレは一人っ子だからさ。お姉ちゃんとか、兄貴とか、そーゆー気分がわからない」

「……………………」

「ノエルちゃんとクロエは離れて育ったみたいだから、余計に普通の姉妹とは、違うだろうな」

「……違う……かな。……やっぱり……」

「ああ」

「……………………」

「だからって、それを慌てて埋めようとするのは難しいと思う」

「…………」

「誰かと友達になりたいからって、慌てて友達になろうとしても、相手が、その気持ちになってないと、うまくいかないだろ?」

「……………」

 ノエルは黙っていたけれど、肩車している智也には頷いてくれたのが伝わった。

「クロエは七年もノエルちゃんより大人だけど、でも、まだ、完全な大人じゃない。っていうか、まだ、子供に分類される歳なんだ。だから、簡単にノエルちゃんとお母さんが戻ってきたって言われても、はい、そうですか、と家族の気分になれないんだ。そーゆー気持ち、なんだと思う」

「………ずっと、放っておかれて今さらって……?」

「……………大人だな……君は……、…たぶん、そうだと思う……」

「……………………ノエルは子供だよ……、お姉ちゃんを傷つけたから……」

「ノエルちゃん………」

 智也は頭皮に熱い滴を感じて、ノエルが泣いていることを悟った。

「ごめんなさい……………家に……帰ってから……泣くと……パパとママが、……心配するから……だから……今…、…ぅっ…うぅっ…うくっ…」

「泣けよ。子供が泣きたいのガマンするな」

「うぅ…ううぅ…うああああっ! ああああんっ! ああああんっ!」

 ノエルが大声を上げて泣き、熱い涙をぽろぽろと降らせてくるので、思わず智也も目頭の熱さを耐えきれず頬を濡らした。それをノエルに気づかれないように静かに歩く。かなり遠回りしてから嘉神川家に到着した。

 

 

 

 ほたるは巴と別れてから、カナタが宿泊しているシティホテルに入った。フロントでホテルマンに声をかける。

「すいません。914号室に、あとで加賀正午という男の人が来るから、案内してもらえますか」

「かしこまりました。黒須様がお泊まりの914号室に加賀正午様がいらっしゃるということですね」

「はい。あと、どうなるか不明なんですけど、そのまま泊まれるように部屋の変更ってできますか? 二人か、三人で」

「少々お待ちください。………」

 ホテルマンはパソコンを操作して予約状況を確認する。

「申し訳ありません。あいにくと今夜はクリスマスイブということもあり、どこも満室でございます。現在のシングルの部屋にエキストラベッドを用意いたしまして二名様なら、お泊まりになれますが…三名様は…」

「そうですか、わかりました。ありがとうございます」

 ほたるは礼を言ってエレベーターに乗り、カナタの部屋を訪ねた。ドアをノックするとカナタが泣き腫らした顔で開けてくれた。

「ほたる……ぐすっ…」

「……。何を泣いていたの?」

 カナタちゃん、一人にすると、ぜんぜんダメ………正午くんと会わせたら治るかと思ったけど、この様子じゃぁ……、ほたるはカナタを抱きしめて背中をさすった。

「泣かないでいいよ。もうすぐ…」

「ぅぅっ…お婆ちゃんが死んじゃったって…」

「ぇ……、お婆ちゃんって、カナタちゃんのお婆さん?」

「うんっ」

「どうして?」

「病気で……ぐすっ…九月に……ぅぅっ……アタシがいない間に……ひっく…、さっき、りかりんが教えてくれて…ぅぅ…ぅ、うあああんっ!」

 声を上げて泣き出したカナタを強く抱きしめ、ほたるは正午の到着が遅い方がいいと思ったけれど、約束した時間通りにドアがノックされた。

(オレっ♪ 正午! 来たぜ♪)

「……。待って、すぐ開けるから!」

「ショーゴって……ほたる……なんで………ここに……」

「カナタちゃんは何も心配しなくていいよ。すべてカナタちゃんの望む通りになるから、ほたるが、そうするから。だから、安心して、落ちついて」

「でも……」

「大丈夫、ほたるを信じて」

「ほたる……」

「何もかも、ほたるに任せて、ほたるを信じて」

 ほたるの強い気持ちがこもった言葉を聞いてカナタは頷いた。ほたるはベッドにカナタを残したまま、ドアに向かった。

「正午くん、カナタちゃんもいるからね」

 ほたるはドアを開けるなりキスをされたりしないよう予防線を張ってから、鍵を外してノブを回す。正午は抱きつこうと待ちかまえていたのに、カナタの名前を聞いて戸惑った。

「なんで、アイツが…」

「大事な話があるから」

「……話って……?」

「入って」

「ああ」

 正午は部屋に入ると、すぐにカナタを見つけた。正午の予想に反してカナタは視線を合わせようともせず、弱々しくシーツにくるまって震えている。こんな彼女を見たのは初めてだった。

「……カナタ……、なんか……あったのか?」

「カナタちゃんのお婆さん、亡くなられたって……さっき、知ったらしくて…」

「え………そっか。………あの婆さんが………」

 正午も故人のことを想い、クリスマス気分が吹き飛んだ。

「面白い婆さんだったのにな……。でも、まあ、寿命じゃないか?」

「そうだとしても家族が死んじゃったんだよ。カナタちゃんに優しくしてあげて」

「あ、…ああ。…ぃ…いや…でもさ…」

 正午はアイコンタクトで、オレと付き合ってるのにカナタに優しくするのは問題アリだろ、と送ったけれど、ほたるは正午の背中を押した。押された正午はベッドに腰を下ろしてカナタのそばに座る。

「……よ、よぉ…カナタ。……こ…この度はご愁傷様……っていうか……。大丈夫か?」

「………平気…」

 かすれた泣き声がシーツの中から響いてくる。

「平気か。……そうか。……まあ、歳だし、仕方ないよな」

「……うん……」

 状況認識の深刻さに欠ける正午と、度重なる傷心で精神が崩壊しかけていてさえ、意地を張るカナタを見ていて、ほたるは怒りも悲しみも超えて、諦めを感じた。

「ねぇ、正午くん。やっぱり、ほたると別れてカナタちゃんとヨリを戻してよ」

「「ほたるっ?!」」

 異口同音して大きく驚く二人に、ほたるはタメ息をついた。

「ほたると別れてヨリを戻してよ。それが自然だし」

「「ヤダっ! ほたる、なんで今さら?!」」

「………」

 そーゆーところだけ、気を合わせて主張されても困るんだけど……、ほたるは説得を試みる。

「ほたるね、まだケンちゃんに未練があるし。トトちゃんとは終わったみたいだから、もう一回挑戦してみよっかなって♪ だから、カナタちゃんと正午くんもね」

「……ウソよ」

「ウソだな」

「う~ん……まあ、ウソなんだけどね。そーゆーとこ鋭いなら、もっと別のとこにも鋭くなってよ。とくに正午くん、カナタちゃんが正午くんのこと大好きなのに気づいてあげられない?」

「カナタが……?」

「………。アタシが好きなのは……ほたる……だよ。……ほたるが大好き……」

 カナタがシーツから這い出して、ほたるに縋りついた。

「ほたる……離れちゃヤダ………ほたるがいないと……アタシ……アタシ…」

「カナタちゃん……」

 ほたるは優しくカナタを抱き返して、そのまま正午を見つめる。

「どうしよっか。正午くん?」

「…どうって……ほたる? ……意味、わからない……」

「だからね」

 ほたるは縋りついているカナタの顎を指であげさせると、優しいキスをした。

「これで、わかった?」

「ぃ……、……ほたると……カナタって、そーゆー関係?」

「うんっ♪」

「………………………………た………………………たはーっっ!!!」

 正午が動揺してタメ息をついた。

「ちょ、ちょっと……時間をくれ……、……落ちつくのに……」

「どうぞ」

 ほたるはベッドに座ると、カナタに膝枕をさせてやり優しく髪を撫でる。正午は動揺した心を深呼吸とタメ息で落ちつけると、二人を見る。

「……二人が……そーゆー関係なら……オレ、……フラれた?」

「うーーーん……そーでもないよ。ほたる、正午くんのこと、好きだし♪」

「っ…」

 カナタが怯えて震えた。

「困ったね。どうしよっか」

「困ったも……なにも……オレは、ほたると付き合って…、ほたるのことオレも好きだし」

「カナタちゃんのこと、嫌い? 大嫌い?」

「いや、別に嫌いじゃないけど、そーゆー論法でヨリを戻させるのって強引だろ? そ、それに、ほたるとカナタってデキてるんだろ?」

「ふーーん……じゃあ、ほたるとカナタちゃんが付き合うから、正午くんとは別れたいって言ったら、諦めてくれる?」

「………、あ……ああ、……そーゆーことなら仕方ないし……」

「仕方ないしぃ、か。その程度の好きなんだね、ほたるへの気持ちは」

「そ、そんなことない! っていうか! オレを試してるのか?!」

「試してるよ。悪い?」

「……。……………………じゃあ、どう答えれば、いいんだよ? オレは…」

「試験にカンニングは無しだよ」

「………予習くらいしたかった」

「正直に答えてくれるだけでいいよ。正直に、ね。ウソも自己欺瞞もなし」

「……わかった……」

「カナタちゃんのこと好き?」

「……………………。嫌いじゃない」

「もっと、正直に」

「………………………。……そりゃ……夏までは付き合ってたわけだからさ。……それなりには……まあ、……好きといえば、好きだけど、ほたると別れてヨリを戻せってのは強引だろ?」

「質問してるのは、ほたるだよ。ほたるのこと、どのくらい好き? 何番目?」

「もちろん、一番好きだ」

「じゃあ、正午くんが世界で二番目に好きな女性は?」

「……………………。お母さん♪」

「お母さんは無し。っていうか、自己欺瞞しない。お母さんとはセックスしないよね? それとも、そっちの趣味アリなの?」

「ないっないっ! そもそも年上好きじゃないし!」

「で、正午くんが世界で二番目に好きな女の子は? カナタちゃん? 果凛ちゃん? 彩花ちゃん? のんちゃん? エリちゃん? 正直に答えて。本当に正直な気持ちで、よっく考えて答えて。胸に手を当てて、よくよく考えて」

「…………………………………………」

 正午は言われたとおりに考え、そして答える。

「……カナタ……が……二番で」

「……そう……」

 ほたるは今度はカナタを見つめる。

「カナタちゃんは、ほたると正午くん、どっちが好き?」

「………、そんなの……ほたるに決まってるよ」

「正午くんのことは嫌い?」

「…………嫌い」

「ほたるはウソをつくカナタちゃん、大嫌い」

 ほたるが膝枕を引いて、カナタから離れる。

「ほ…ほたる…」

 途端にカナタが泣き出しそうな顔をするけれど、ほたるは冷たい視線を浴びせた。

「ほたるの言うこと聞く?」

「うんっ!」

「どんなことでも?」

「…………うん……」

 カナタは頷いて、優しさを乞う子供のように、ほたるの袖をつかんだ。どんなことでも聞くけど、ほたると離れるのはイヤだという態度を示している。

「カナタちゃん。………」

 二人のヨリを戻させるのは無理………ほたるがいなくなっても正午くんはカナタちゃんを選ばない……でも、正午くんはカナタちゃんも好き……ほたるのことも好き……ほたるも二人とも好き……そして、カナタちゃんも正午くんと、ほたるを好き……これって何年か前の彩花ちゃん唯笑ちゃん三上くんの三竦みと同じだけど、もう肉体関係があるから自然に距離をとるなんてことはできない…………もう、この道しか……ない………、ほたるは決意を固めた。

「カナタちゃん」

「……ほたる……」

「正午くんのこと、好き?」

「………………………、…………」

 カナタは答えようとしたけれど、うまく声が出せなくて苦しんでいる。

「……んっ……………んんっ…………」

「カナタちゃんの裸の気持ちを答えて。何も飾らない隠さない気持ちを」

「………っ…………っ………んんっ………」

 答えられず、ほたると正午を見ることもできなくなって、泣き出しそうになっている。

「なら、こうしよ」

 ほたるは立ち上がると、上着を脱ぎ始めた。遠慮無くブラジャーを見せて上着を脱ぎ捨てようとして、思い止まってやめた。

「やっぱり、ほたるじゃなくてカナタちゃんが裸になって」

「ぇ…?」

「服、脱いで。裸になって」

「………で……でも……」

「早く」

 ほたるが少し威圧的な言い方をすると、カナタは正午がいることを戸惑いながらも上着を脱いだ。

「…………」

「全部脱いで」

「………」

 カナタはスカートとストッキングを脱いで下着姿になると、もう脱げないということを示すように両手で身体を隠して顔を伏せた。

「脱げないなら脱がしてあげる」

「…そっ……そんな……」

「お、おいっ、ほたる?! 何を考えてるだよ?!」

「正午くんは黙って見てて。余計な口出ししない」

「け…けどさ……」

 正午が見ている前でカナタは全裸にされてしまい、ほたるの背中へ隠れようとしたけれど、それを許さずに捕まえて正午の前に立たせる。

「……ぅ……ぅぅっ……ほたるぅ……」

 正午に全裸を見せるのは初めてではないけれど、別れて何ヶ月も経ってからの再会で、しかも一人だけ裸にされて、ほたると正午の間に立たせると恥ずかしさのあまりカナタは顔を真っ赤にして啜り泣いた。それでも、ほたるは容赦なくカナタの両手首を握って、隠している乳房と陰部を正午から見えるようにした。

「正午くん、よく見て」

「…見てって……言われても…」

 言われるまでもなく視線が釘付けになっている元気な男子高校生は、すでに勃起している。

「カナタちゃん、恥ずかしい?」

「…ほたるぅ…、もう……やめて……アタシ……頭が変になりそう……」

「ずいぶん前から変になってるから大丈夫だよ」

 ほたるは脱がせたブラジャーでカナタの両手を頭上で縛りつけると、左手を乳首へ、右手を股間へ滑り込ませた。

「ひゃぅ……」

「ほら、正午くん、見て。もう、こんなに濡れてる」

 ほたるは陰毛のないカナタの陰部を拡げて、正午に見せる。濡れた小陰唇がピンク色に光って愛液が滴っていた。

「正午くんも触ってあげて」

「……、け…けどさ…」

「命令」

「…………。イエス・マイ・プリンセス」

 あえて、ほたるを自分のプリンセスと明言してから、正午は命令に従った。ほたるの指が拡げている陰部に正午の指も加わる。

「っ…ぁぁ……ぃや…」

 抵抗できないカナタは身をよじって逃げようとしたけれど、ほたるは逃がしてくれないどころか、カナタの右耳を甘噛みする。

「はむっ♪」

「あんっ!」

「はむはむっ♪ 正午くんは、こっちの耳、可愛がってあげて」

「………命令?」

「命令」

 ほたるは耳を甘噛みしながら指の動きも忘れない。正午の指にも協力させてクリトリスを愛撫しつつ、アイコンタクトで正午と息を合わせる。二人の指がクリトリスを擦って、膣を出入りする新感覚に、両耳の甘噛み、さらに両乳首への愛撫も加わると、カナタが絶頂に達するのは早かった。

「あああぁ…………っ………」

 喘いだカナタは腰から力が抜けて崩れそうになったけれど、ほたると正午が抱き支える。

「……ハァ……………………ぁぁぁ…」

 しょわぁぁぁ…

 崩れなかったカナタは立ったまま失禁した。

「…ハァ………………………ハァ……」

「カナタちゃん、イっちゃった?」

「っ………」

「おもらしまでして♪」

「……ぅ、…ぅぅ…」

「恥ずかしいね」

「…ひぅ…ぅぅ…」

 カナタは両手を縛られて顔を隠すこともできずに激しい羞恥心に苛まれて涙を零した。服を着ている二人の前で、一人で裸にされ、一人で絶頂を迎えさせられて失禁までしてしまった恥ずかしさで目が回ってしまう。

「…ぅぅ……ぅ…」

「カナタちゃん、ほたると正午くんに触られてイっちゃったね?」

「っ…」

「返事は? イったの? イってないの?」

「………」

「答えないの? ほたるの質問に答えないの? へぇぇ…」

「……ぃ……イっ…たの…」

「誰が?」

「…ぁ…アタシが……」

「誰と誰にされて?」

「…ぅ……ぅぅ」

「早く」

「…ほ……ほたると…………………………しょっ…………………………ショー……ゴっ…に…されて……ハァっ…ハァっ…」

 カナタは言葉を話す息継ぎが、うまくできずに息を乱れさせた。

「そっか。カナタちゃんは、ほたると正午くんにされてイっちゃったんだ。続けて言ってみなさい」

「……ハァっ……ハァっ…、……アタシ…は………ほ…ほたると………………………しょ……しょ……ハァ…ハァ…ハァ………ショーっ…ゴ…に……されて……イったの…」

「そうだね♪ ところで、床が濡れてるね。これ、なに?」

「……っ……ハァ……ハァ……」

「これ、なに?」

「……ぁ……アタシの……、……」

「カナタちゃんの?」

「…ハァ……ハァっ……………」

「カナタちゃんの何?」

「……ハァっ……ゆっ……許して……もう……アタシ………ハァっ…」

「ダメ。ちゃんと言いなさい。この水たまり、カナタちゃんの何?」

「…………ぉ………ハァ…ハァっ……おしっこ……」

「へぇぇ♪ おしっこ。ここ、トイレじゃないのに?」

「……ご…ごめ……ごめんなさい…」

「おもらししたんだ?」

「…………うん…」

「誰が、誰と誰の前で、おもらししたの? 言ってみて」

「っ…………しっ……死んじゃう……」

 カナタは羞恥心で脳細胞が茹であがる思いだったけれど、ほたるは続ける。

「カナタちゃんが、ほたると正午くんの前で、イっちゃって、おもらししたんだよね」

「っ…っ……ハァっ…ハァハァ…」

「カナタちゃんが、ほたると正午くんの前で、イっちゃって、シャアァって、おもらししたんだよね。シャアァって」

「……ぁあぁ…ぁあっ…」

 カナタは言葉責めだけで再び絶頂を迎えてしまい、気絶してしまった。

「おい、カナタ?」

「そっとベッドの上に寝かせて」

「あ、ああ」

 言われるまま正午はカナタをベッドに寝かせる。

「カナタ、すげぇ興奮してたな……」

「可愛かった?」

「……。ほたるの方が可愛い」

 正午は静かに、ほたるを抱きしめ、服を脱がせようとする。ほたるは脱がされることに抵抗せず、逆に正午の衣服も取り去る。裸になった二人はキスをして、見つめ合った。

「ほたる……」

「正午くん、準備万端だね」

 ほたるは勃起し続けている男根を撫でた。

「ぅっ…、ほたるだって準備できてるだろ」

 ほたるの陰部も濡れている。正午が指を這わせると吸いつくように蠢いてくる。

「んっ…、でも、今の正午くんの勃起はカナタちゃんを見て勃ったんだよね」

「……。まあ、それは否定しないけど…」

 正午は男性的な衝動のままに、ほたると下半身を重ねようと、勃起した男根を、ほたるの内腿へ滑り込ませる。

「あんっ……せっかち…、クリスマスの夜は、ゆっくり楽しもうよ」

「カナタが起きるかもしれないしさ」

「カナタちゃんを見て勃った分は、カナタちゃんに入れてあげようよ」

「…………。でも、ほたる、オレは…」

「その後、ほたるに入れて♪」

「…………それって……」

「正午くんは、選ばないでいること、できる?」

「……選ばないでいる……」

「そう。二人とも好きでいること」

「………………できないことは……ない、……かもしれないけど……そんなんで、ほたるはいいのかよ?」

「こだわらない生き方は正午くんに教えてもらったから」

「……こだわらない……って言っても…」

「人間ってさ、いっぱい、こだわるよね。人前では服を着ましょう、トイレ以外でおしっこしちゃダメ、パスタを食べるときは音を立てないこと、いっぱい、いっぱい、つまんないこだわりが世界にはあるけど、それって、意味あるの?」

「……まあ……ある場合もあるだろ。無い場合もあるだろうけど…」

「お蕎麦は音を立てて食べる方が美味しいんだよ。実はパスタも空気といっしょに吸い込むように食べる方が舌の上で味が拡がって美味しいし。トイレが無くて、おもらしするくらいなら電柱にする方が賢いよね。女の子でも思いきって外ですると気持ちいいし。夏は裸の方が気持ちいいんだよ。エコだし」

「それと、選ばないでいることに、どんな関係が…」

「たまたま、この国は一夫一婦制で、ほたるたちは、その文化で育ったけど、そうじゃない国もあるよね」

「ま…まあ…」

「そーゆー国だと、恋愛ドラマは、どういう風に進むのかな? フタマタ、サンマタありなら、あの子とアタシ、どっちを選ぶのっ? って修羅場はなくなるのかな」

「……どうだろう…」

「ほたると正午くんとカナタちゃんは一夫一婦制から自由になれない?」

「………。……………ほたるとカナタが……いいなら、オレに異議はないけど……」

「うんっ♪ さっすが、こだわらない男っ!」

「いや、たぶん、ほとんどの男が心から希求することだと思うよ。要するにフタマタ公認なわけだし」

「フタマタ公認っていっても、どっちかを選ぶ過程としてのフタマタじゃないよ。どっちも選んだ結果としてのフタマタでいてくれることが大事なの」

「………。わかった。オレは、ほたるもカナタも好きでいる。これで、いい?」

「うんっ♪」

 ほたるは正午へキスを送ると、カナタの寝顔を見つめる。

「あとはカナタちゃんの、こだわりだけ……これを解決してあげないと」

 ほたるはカナタに添い寝して、正午にも視線で命じて反対側へ添い寝させる。

「カナタちゃんは王子様のキスと、お姫様のキス、どっちで目覚めたいと思う?」

「………………………どっちでもいい気がするけど……」

「あ、おしい。正解は、どっちのキスもしてほしい♪」

「……やっぱり、カナタってバイ?」

「そーゆーことになるね。カナタちゃんの世界で大好きな男の子は正午くん、そして、カナタちゃんの世界で大好きな女の子は、ほたる。この恋の炎は二つ両立するみたい。フタマタとかじゃなくて、正午くんだって、ほたるやカナタちゃんを好きでいてくれる気持ちと、三上くんを好きな気持ちは両立するよね。そーゆー別腹感覚かな」

「……気持ち悪いから、そーゆー例えは、やめてくれ。っていうか、悪いけど、ほたるを好きな気持ちと、カナタを好きな気持ちも両立するんだ。……男ってのは、さ。ほたるこそ、男を好きな気持ちと、カナタやトトへの気持ち、どうなんだよ?」

「トトちゃんは、そーゆーんじゃないよ。でも、カナタちゃんは可愛い。愛せるよ」

 いのりちゃんが暴走したのは、ほたるの責任だし……ほたるはカナタちゃんを愛さないといけないしね……でも、ホントにカナタちゃんは可愛いし……、ほたるは眠っている顔を見つめ、頬にキスをした。

「正午くんもしてあげて♪」

「はいはい」

 正午もカナタの頬へキスをする。何度目かのキスでカナタは目を覚ました。

「……ぅぅ…」

「「おはよう♪」」

「………」

 カナタは二人からキスを送られていたことに気づいて混乱する。混乱しながらも、さきほどまでの記憶を振り返り、すぐに顔を真っ赤にした。

「…ぁ…アタシ…」

「正午くん、ほたるにユニゾンして動いて」

 ほたるはカナタの乳首を吸いながら、両手の指でカナタの肌を愛撫する。十本の指が、それぞれに意志を持っているかのような巧みな愛撫を、正午も必死で見習う。

「オレの…指は、そんな器用には……くっ……、魔法みたいな動きを…」

「ぁッ…あアッ…はぅん…ハァ…ぁぁっ…あんっ!」

「カナタちゃん、ここ感じるんだよ♪」

「それは知ってる」

「んんっ…んぅっ! ぃ…はうっ…」

「そっか、先輩だもんね。ほたるは妹になるのかな?」

「そんな兄妹関係、聞いたことないし」

 会話しながらも手を休めない二人の愛撫を受けてカナタは三度目の絶頂を迎える。さらに、ほたると正午の人差し指が膣へ、中指がアナルへ滑り込み、親指がクリトリスを責めると、続けざまにカナタは絶頂の波に翻弄され、もう恥ずかしいという気持ちも消えてしまい、ただただ快感の海に漂っている。これ以上、愛撫を続けると痛いというラインまでカナタの身体を愛してから、ほたるは問いかける。

「正午くん、カナタちゃんの、ここと、ここに傷痕があるよね」

「え? ああ、あるな」

 正午は額と腿の傷痕を見る。ほたるは優しくキスをした。

「いつからあるか覚えてる?」

「ん~……、いや、オレに会う前からだろ?」

「……。やっぱり、忘れてる。ほら、カナタちゃん、ずっと、こだわってきたこと、言ってみて。イサコちゃんのこと」

「っ…」

 カナタは人見知りする幼女のように顔を伏せて、ほたるの胸に隠れた。正午が首を傾げる。

「イサコ? 誰だよ、それ」

「正午くんが幼稚園の頃、カナタちゃんとフタマタかけた相手の子。ホントにキレイに忘れてるなんて彩花ちゃんたちが呆れるわけだよ。たはーっ…」

「幼稚園……、……カナタと………イサコ…」

 正午はオフになりかかっている記憶を脳内から探してみる。かすかに公園で遊んだ二人の幼女を思い出した。以前から仲の良かったカナタに似た幼女と、後で仲良くなった幼女とのこと、自転車の事故、その後の幼い婚約と引っ越し、すべて想い出した。

「そういえば……あの子、……カナタに似てるかも……」

「やっと、想い出した?」

「想い出したけど……そんな昔のこと、今のカナタに関係あるのか?」

「好きって言えなくなるよね。もし、言って、オレは君より、あの子が好きって言われるかもって考えたら、素直に好きって言えなくなる」

 ほたるは指先でカナタの胸を撫でた。

「そーゆー呪いがかかってしまう。病気って言ってもいいかな。でも、もう、その呪いは、ほたるの魔法で解けたはず、もうカナタちゃんには守るものも、隠すものも、ないよね」「ぁ……アタシは……」

 ほたるに促されたカナタは潤んだ瞳で正午を見つめる。

「…アタシは……ずっと、……ショーゴが好き…、大好きっ…」

「カナタ……」

「よく言えました♪」

 ほたるは告白を終えたカナタの頬へキスをする。そのキスを続けながら正午の肩へ腕を回して引きよせると、反対の頬へキスをさせた。カナタは両頬にキスを受けて陶然として嬉し涙を零した。

「…ぁ……アタシ……アタシ……、ずっと……こうしていたい……ショーゴ……ほたる……大好き…」

 カナタの両頬を温めていたキスが左右から唇に近づいてくる。ゆっくりと、ほたると正午の唇がカナタの唇の上で合流した。

「「「んっ…」」」

 キスがディープキスに変わって、三本の舌が踊る。

「…はふっ…」

「んぅ…」

 一対一のキスには慣れている三人も初めての経験に異様な興奮を覚える。カナタの口へ入った正午とほたるの舌が別々の意志を持ちながら息を合わせてカナタの舌とからみ、吸い、吸い出されたカナタの舌が、ほたるの口へ入ると、正午も追いかけ、ほたるの中で踊る。

「はふっ…」

 カナタちゃん……正午く………これ、すご……異常に興奮する……、ほたるは股間が灼熱するのを知覚した。ほたるの高まりを敏感に正午とカナタが嗅ぎつけて、攻守が変わる。ほたるの左右の乳房を別々の手が包み、股間へもカナタと正午の手が伸びてくる。

「あッ…ああンっ…」

 ほたるが身をよじるとカナタは上下を入れ替え、正午は上手にカナタの体位変換を助けた。ほたるが下になり、カナタと正午から見下ろされる。

「「いただきます♪」」

「ま…待って、まずはカナタちゃ…」

「アタシさんざんイかせてもらったし」

 カナタが右の乳首に吸いつくと、正午は左へ食いつく。

「あッ…」

 同時に乳首を吸われる初めての快感に、ほたるは背筋がとろけそうな衝撃をうけ、抵抗する意志は欠片も残らなかった。

「あぁあんっ…ああぁ…」

「「ほたる可愛い」」

「ふ……二人で…」

「「ほたる愛してる」」

 男と女から同時に求愛され、ほたるの脳も混乱と興奮の波に飲まれる。乳首を吸っていた唇が、わき腹へ下り、さらに下腹部の子宮や卵巣の上を、キスのラインが、まるで二人組のフィギアスケートのようなコンビネーションで滑り回ると、ほたるの膣から愛液が溢れてシーツに拡がっていく。あえて、カナタと正午は下腹部から一気にクリトリスへ攻め込んだりせず、大陰唇の外側をキスで埋め尽くすと、内腿までさがった。

「あぁぁ………、…ハァ…ハァ…」

 ほたるのクリトリスと膣は強く期待していた愛撫を焦らされ、熱く疼いて、思わず自分で慰めたいほど切なくなった。

「…ハァ………ぁあ…」

 左右の内腿へキスを送るために、ほたるは大きく脚を開かされる。体勢を変えたことで愛液が膣から漏れていくところが、カナタと正午に見えた。それでも二人とも陰部へは攻め込まず逆に遠ざかって膝の裏を舐め、アキレス腱を甘噛みして、踝を吸い、足の甲をキスで埋め尽くすと、足の指を親指から順番に吸っていく。

「ああぁ…ハァぁ…はぁん…うはん…」

 両脚を二人の口に連携して愛撫される快感で、ほたるは足の小指を吸われた瞬間、絶頂に達した。

「はぁあッ………」

「「ほたる……イった?」」

 カナタと正午は小指を咥えたまま、ほたるを観察する。息の乱れ方や、紅く染まった肌の色と汗の浮かび方で、女性のオルガスムを迎えていることを確信して喜び合う。まるでシュートを決めたチームメイト同士のように軽く手を打ち合わせる。そして、舐めていた脚を交換して、今度はキスのラインで脛を登る。そして、再び内腿を入念に巡ってから、陰部を目指すけれど、何度も焦らして、二人の唇は大陰唇の内側には息を吹きかけるだけで舐めてはくれない。

「ハァ…っ…ハァ…」

 ほたるは股間の切なさに耐えられなくなり、自分を抱いて悶えていた手を乳首とクリトリスへあてた。無意識に自慰を始めた手をカナタが捕まえる。

「何やってるの?」

「…だ…だって…」

「ほしい?」

「…うん…」

「何がほしいの?」

「……舐めて……ほしいの…」

「誰の、どこを?」

「………ほたるの……ハァ…ハァ…おまんこ…」

「誰に?」

「……ハァ……ハァ………カナタちゃんと正午くんに、……ハァ…ハァ…ほたるの、おまんこ……なめなめして…ハァ…ほしいの…」

「じゃあ、思いっきり脚を開かないとね♪」

 カナタの言うとおり股間に二人で顔を埋めるとなると、かなりのスペースが必要で、ほたるは限界まで開脚させられる。そこへ、カナタと正午が顔を入れ、待ちきれずに蠢いているクリトリスへ左右から舌を這わせた。

「はうぅっ?!」

 ほたるは二枚の舌で舐められる快感の激しさに身をそらせ、脚に力が入って閉じてしまう。

「「ほたる」」

「ご…ごめん…」

「さすがに、ここを二人同時は無理かな。……どうしよっか?」

「カナタが、ほたるにシックスナイン体勢になってクリトリスを舐めて、オレは普通のクンニ体勢で膣を、ってのは?」

「うん、やってみよっか」

 カナタはシックスナインの体勢になって、ほたるのクリトリスに吸いつき、正午も膣へ舌を入れようとする。

「ああぁっ! あああっん!」

 ほたるはクリトリスと膣を同時にオーラル愛撫される感覚で数秒も耐えられずに絶頂へ達したけれど、カナタと正午はお互いの顔が当たって邪魔になり、思うようには舐められていない。額と額を合わせている距離でアイコンタクトすると、ほたるから離れて作戦を練り直す。

「ほたるを横にして、前と後ろから舐めるなら、お互いの顔があたらないかも」

「それもいいな」

 ほたるの身体を横に寝させると、ほたるのお尻に正午が顔を埋め、カナタは前からクリトリスへ舌を伸ばす。

「あっ…ああっ…あああぁ…」

 ほたるはクリトリスと肛門を舐められながら、二人の指が連携して膣の中を突いてくる快感のあまり、失禁して尿を漏らした。

 しょわ……しょわ…

 勢いの弱い尿がカナタの口の中に拡がる。

「……んくっ…んくっ…、ふふ、ほたるも、おもらし♪」

「ハァ…ハァ…も、…もう……ほた…る……正気が…ああっ! やああ! やめてぇ!」

 ほたるが懇願してもカナタと正午は愛撫を続ける。ほたるは膣と肛門へ同時に舌が入ってくると、再び弱々しい失禁を繰り返した。その尿がカナタの鼻に入って、さすがに噎せた。

「けほっ! …けほっ! …ぅぅ…」

「ご…ごめ…ん…カナタちゃ…」

「平気、ほたるの、おしっこ大好き♪」

「お前、変態か……」

「あれ? ショーゴは愛する人のおしっこ飲めないの? あと、お前じゃなくてカナタって呼んで」

「……珍しく素直に……、そうだな。カナタ」

 正午は濡れたカナタの鼻を舐めて、ほたるの尿を味わった。

「まあ、オレら、アナルセックス普通にしてるあたり、欧米人から見ると超変態らしいしな。今さら、おしっこくらい。ほたる、まだ、出るか?」

「出ないよっ! もおっ」

 ほたるは、この隙に起きあがってカナタに抱きつくと、自分が下になる形で寝転び、カナタを四つん這いにさせて、見上げる。

「今夜の最初のおちんちんはカナタちゃんのアナルにね。正午くん、久しぶりだからコンドームなんか着けないで思いっきり出したいでしょ?」

「そうだな。アナルなら着けなくても妊娠しないし♪」

 正午は四つん這いになっているカナタのお尻を捕まえて勃起したままの男根をあてた。

「やんっ♪」

「カナタちゃん、これから、ほたるとキスしたまま、正午くんに突かれてイくの。いっぱい喘いで見せてね」

「キスしたまま喘ぐの?」

「うん」

 ほたるはカナタの唇に吸いつきながら、両手はカナタの股間へ伸ばしてクリトリスを指先で転がしながら、膣へ指を挿入する。正午はカナタのアナルへ男根を挿入すると、背中から手を回して両方の乳首をつまんだ。

「あふっ…」

 思わずカナタは喘いでしまい、ほたるとのキスが崩れるけれど、ほたるは唇を吸い続ける。

「あふっ…ふぅ…んっ…ふわっ…」

「カナタのアナル、久しぶり♪」

 正午が激しく突くと、カナタは四本の手に愛撫されながら、アナルを突かれ、唇を吸われる快感の激しさに、目まいがするほど陶然となり、ヨダレと愛液が溢れて、ほたるに滴る。

「ふふ、カナタちゃん、可愛い」

「あはう…ふうぅ…」

 カナタは唇から零れるヨダレが、ほたるの顔にかかることを気にかける余裕もなく喘いで何度も絶頂を迎えると、ほたるの胸に崩れた。

「はぁ…ハァ……ハァ…はぁ…」

「おい、オレ、まだイってないぞ」

「早くイってあげて。カナタちゃんのアナル、そろそろ限界かも」

「……ショーゴ…ハァ…ほたるに…」

「一発目はお前…カナタに、って気分なんだ♪ ゴム着けて前、行くぞ」

「待って…アタシ……限界…」

「お前は…カナタは、何もしなくていい」

 正午はコンドームを着けてから、カナタの膣へ男根を入れる。

「あぁあぁ…」

「ゆっくりがいい? 早めがいい?」

「ハァ…は……早めで…」

「了解」

 求められた通り正午は早いピストン運動でカナタを攻める。ほたるは下になったまま、カナタの背中へ腕を回して抱きしめ、耳元に囁いた。

「カナタちゃん、大好き」

「オレもカナタが大好きだ♪」

「ぁ、ぁ。ぁぁ。ぁああ……アタシ…も」

 ほとんど言葉にならない声を漏らしてカナタは正午が射精してくれるのを心と身体で味わった。正午が離れるとカナタは完全に崩れて、ほたるに全体重をかける。

「カナタちゃん、気持ちよさそう♪ やっぱり、最期は、おちんちんだよね」

「ほたる、いつから、カナタと?」

 正午は萎えた男根からコンドームを外すと、あわれな息子たちをゴミ箱に投げ込み、ティッシュで残った精液を拭く。

「ちょっと前に、ウイーンで会ったの」

「ウイーンって……カナタ、ウイーンにいたのか?」

 まどろんでいるカナタは正午の質問が耳に入っていない。代わりに、ほたるが答える。

「正午くんに冷たくされた後、他にも、いろいろあって……、ほたるのとこに来てくれたの。それで、気がついたら♪ そーゆーこと」

 ほたるは可愛らしく指先に残ったカナタの愛液を舐めた。

「おちんちん、ほたるにも生えたらいいのに」

「いや……そーゆーほたるは見たくない」

「……アタシも…」

 カナタが起きあがって、ほたるの膣を撫でる。

「ほたるは、ほたるだから、可愛いんだよ。アタシの、ほたるは女の子じゃないと、ダメ」

「そーゆーものなの?」

「そーゆーものなの」

「オレが女言葉を使っても、二人ともイヤだろ?」

「「イヤ」」

「だろ」

 会話している正午の男根が、全裸の女子二人を前にして再び勃起してくる。

「正午くん、リチャージされてる♪」

「ショーゴの数少ない長所だもんね」

「短くはないからな♪」

「オヤジギャグ……」

「ギャグなら、ほたるが言うっ! ほたる的ギャグっ」

「いや、いい。雰囲気壊れて萎えるから」

 やる気の失せるギャグを言われる前に、ほたるの口をキスで塞いだ正午はカナタにアイコンタクトを送って援護を頼む。

「ショーゴ、じゃあ………ほたるのアナルに騎乗位の変形で入って。ショーゴはベッドの端に座って、ほたるは背中向きに。アタシは前から、ほたるを♪」

 カナタが思いついた通り、正午はベッドの端に座って、ほたるの背中を迎えて、アナルへ挿入する。カナタは前から、ほたると対面した。

「ふふふ、どう? ショーゴのちんちん、ほたるのアナルに入ってるよ」

「カナタちゃんこそ、どう? 大好きな正午くんのおちんちん、大好きなほたるに入ってるの見て、どう?」

「ぅ……、アタシも交ざる!」

 ほたるに負けたカナタは乳首に噛みついて、ほたるの膣に指を入れた。

「はうんっ!」

 ほたるは快感に身をよじり、正午とキスをする。二度目の勃起になる正午は、なかなか射精してくれず、ほたるのアナルが快感よりも痛覚を刺激されるようになると、コンドームを着けて膣と交わる。

「やん、ショーゴ、それじゃ、アタシが淋しい」

「なら、カナタは……、オレが寝て、ほたると完全な騎乗位になるから、オレに顔面騎乗して、ほたると向かい合えば?」

「そーする♪」

「カナタちゃんとキスしながら、イけるね」

 ほたるは立ち上がって正午から離れる。正午はベッドの中央に寝て、ほたるが騎乗位で交わり、カナタは股間を正午の顔面に押しあてた。

「カナタちゃん……可愛い」

 ほたるは正午の男根を膣に受け入れながら、カナタを心底愛おしいと思える自分に驚きを覚えた。ほたるの右手がカナタの左手と指を絡め合う。

「ほたるはカナタちゃんと正午くんに出会えてよかった♪」

「「ほたる……」」

「二人とも愛してる、大好き」

 ほたるは目を閉じてカナタとキスをする。二等辺三角形を形成した三人は一つのベッドで夜を明かした。

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