「智也が浜咲だったら」   作:高尾のり子

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第9話

 

 

 一週間後の9月13日、歩と雅は最後まで道場に残って練習をしていた。そこへ水泳部の練習を終えた香菜が現れる。

「うん、うん、やってるね」

「はい、ご命令通り二倍の練習を二人でこなしております」

「ちゃんと、マッサージもしてる?」

「はい」

 雅と歩は疲れた身体を、お互いにほぐしている。

「よしよし♪ じゃあ、もう一つ、命令を増やすね」

「まだ増やすんですかっ? 勘弁したってくださいよ! 死んでしまうわ!」

「歩……口答えをしては…」

「せやけど、雅……」

「ふーん♪」

 香菜は呼び合う二人を楽しそうに見つめると、優しい微笑みを浮かべた。

「二倍の練習量は解除してあげる。だから、お互いの長所を三つ言い合うのと、マッサージするのは継続。あと、プラスして朝練の前と、練習の後、二人は着てる物を全部交換しなさい」

「交換…ですか?」

「そうよ」

「着てるもんて、制服ちゅーことですか?」

「制服も下着も靴下も、全部♪ もちろん、髪飾りも。だから、歩ちゃんはポニーテールになって雅ちゃんは髪をおろすのよ。わかった?」

「せやけど、家に帰ったら下着の柄とか、変わってたら親に……」

「明日の朝からでいいわよ。つまり、学校にいる間は、全部交換。じゃ、また来週」

 香菜は新たな命令をくだすと、楽しそうに立ち去った。

 

 

 

 放課後、いのりは部屋で藍ヶ丘第二中学の制服を着たカナタに拍手をしていた。

「わーっ♪ カナちゃん可愛い」

「んーーっ……めちゃ恥ずかしいんだけど…」

 カナタは高校三年生にもなって中学の制服を着る違和感に戸惑っているけれど、いのりは断言する。

「そーゆー恥ずかしい気持ちが大切なの。カナちゃんは女の子の恥じらいとか、忘れすぎ! だから、ショーゴ先輩にお前って呼ばれるんだよ?」

「ショーゴが、お前って呼ぶのは、たんに男性全般が女性を軽視してる傾向に乗ってるだけか、もしくは多くの夫が妻を所有物とみなしている傾向に感化されてるかの、どっちかだと、アタシは思ってる。だから、言い直させるの」

「………? ………よくわからないけど、哲学的な話なの?」

「どちらかといえば、社会学的♪」

「…う~……、そんな話より、明日はショーゴ先輩の誕生日! ゲームソフトを返しに行くって口実で家に行く約束もしてあるんだから、あとはカナちゃんが頑張るだけだよ。大丈夫♪ だって、ショーゴ先輩、ぜんぜん新しい彼女の気配なんて無かったでしょ? この二週間、私も観察してたけど、彼女どころか好きな人もいないって雰囲気だったもん。やっぱり、カナちゃんとのケンカで拗ねてるだけだよ。ね? 頑張ろう」

「でも…」

「デモは憂国騎士団が武力鎮圧しました♪」

「デモクラシーは暴力に負けないよ。だから、アタシのデモも続くの」

「続くって…」

「でも、もしも、ショーゴとヨリを戻せなかったら、また、アタシを慰めてくれる? いのりお姉様」

「ぉッ…お姉様って…」

「だって、ほら♪」

 カナタは女子中学生のような無垢な表情をつくり、いのりの浜咲学園の制服にすがりつくと、胸のリボンを口で引いて解いた。

「いのりお姉様♪ タイが曲がっていますわ」

「…………。そーゆー可愛い表情をショーゴ先輩にも見せようね。カナちゃん」

 いのりは妹にするよう頭を撫でてやり、それから、正しい姉としてカナタの身体を押し離す。

「もう二度とカナちゃんと変なことはしません。ショーゴ先輩にも失礼だよ?」

 イッシューにだって浮気じゃないけど、よくないことだもん、いのりは甘えたがるカナタを家から叩き出すようにして帰宅させた。

 

 

 

 クロエは学校から帰宅すると、中学の制服を脱ぎ、シャワーを浴びて汗を流してから、胸元に香水をふり、フランス製のキャミソールと丈の短いミニスカートを着た。

「先輩が来るまでに…」

 クロエは髪型を整え、それから焼いておいたクッキーを確かめ、もう一度、髪型を整えた。

「Bon!」

 フランス語で、よしっ、と気合いを入れる。玄関からチャイムが聞こえてきた。

「はい、今開けます」

 クロエがドアを開けると、智也がいた。

「社長にクロエちゃんの家庭教師を頼まれたんだけどさ……本当にオレ?」

「はい、お願いします」

「けどさ、オレって浜咲じゃ成績悪い方だぞ? 習うなら、せめて千羽谷の大学生とかの方がよくないか?」

「いいんです。先輩がよかったの」

「……。……」

「ご迷惑でしょうか?」

「いや、…時給いいから、ありがたいけど……それだけの役に立てるか、自信がない」

「いっしょに勉強してくれる人がいれば、それだけで楽しいんです。私、あまり友人もいませんし一人っ子なので、父が帰ってくるまで広い家で一人というのは、つい、時間も空間も持て余してしまって……、……やっぱり、ご迷惑ですか?」

「いや、そーゆーことなら引き受けるよ。ただ、オレの学力は期待しないように」

 智也は仕事内容の変更を受け入れ、リビングに通された。

「先輩、紅茶とコーヒー、どちらがよろしいですか?」

「どっちでも。けど、どっちでもアイスがいいな」

「今日も外は暑かったですよね」

「ああ、もう九月も半ばなんだから、もう少し涼しくなってもいいだろうに」

 智也はアイスティーを出されて、美味しそうに飲む。

「クロエちゃん、部活とかは?」

「私の趣味に合う部活動は学校になくて…」

「ああ、アーチェリーと競馬だったっけ?」

「はい。…いえ、競馬ではなくて乗馬です。先輩のご趣味は?」

「ん~……まあ、引退するまで加賀と…友達と同じバスケ部だったけど、それも無くなったから、めったに行かないけど競馬かな」

「競馬に行かれるのですか? でも、あれって未成年は…」

「大人っぽいカッコしていけば、バレずに買えるぞ♪ オレの将来の夢は、地主か、馬主になることだからな。そういえば、クロエちゃんが乗る馬って、自己所有なのか?」

「いえ、その都度、牧場主さんにかりています。でも、相性のいい子は決まっていて、だいたい乗るのも、その子です」

「へぇぇ……面白そうだな」

「はい、とても楽しいですよ。今度、いっしょに乗ってみませんか?」

「ああ、機会があれば。けど、一回いくらのレンタル料なんだ? すごい高いなら遠慮だぞ」

「大丈夫です。牧場主さんとは懇意にしていますから、私といっしょならお金のことは心配しないでください」

「ふーん……さすが金持ちって感じだな」

「その代わりといっては何ですが……」

「ん?」

「機会があれば、私を競馬に連れて行ってくれませんか?」

「おっ♪ やっぱり、興味あるか」

「はい。だって、全力で疾走する馬の姿って、なかなか見られないですし、乗馬用の子と競馬用の馬では、きっと迫力も違うかなって」

「なるほど。それじゃあ、場外馬券場じゃなくて、ちゃんと競馬場に行かないとな」

「お願いします」

 クロエは嬉しそうに可愛らしく微笑んだ。

 

 

 

 正午は帰宅して受験勉強をしながらカナタを待っていた。玄関でチャイムが鳴り、母親が応対している気配がする。カナタの訪問は予定されていたことなので、正午は呼ばれる前に階段をおりていく。玄関にいた母親と目が合うと、何とも言えない複雑な表情をしていた。

「正午。…カナタちゃん…が来てくれたわ。…返す物があるからって…」

「ああ、それは聞いて……って?! カナタっ?!」

 正午は中学の制服を着たカナタを見て、30センチ急後進した。

「ハーイ♪ ショーゴ」

「ハーイって、どうしたんだ?! その服!」

「ちょっとね、心境の変化ってヤツ♪ どう? 懐かしい?」

「カナタ……暑さで脳が蒸れたのか? 氷水で濯げ」

「ぶーっ……こーゆーときはさ、お世辞でも可愛いね。って言うものだよ?」

 カナタは無自覚でいようとしても、とても恥ずかしいことをしていることを自覚しているので頬を赤くして上目遣いに正午を見つめる。

「ったく……、で、グランツーは?」

「持ってきた」

 カナタは借りていたゲームソフトを持参していたが、玄関で受け取ろうとする正午に渡さないで、恥ずかしさと暑さで胸元に浮いた汗を制服をはだけさせて気化させる。ふんわりと甘い香水の香りが拡がり、正午の母親は一ヶ月ほど前から急に来なくなったカナタと息子がケンカしていることを勘づいているので、カナタが大きく譲歩して仲直りしにきたことにも洞察力を働かせた。

「暑いところを、わざわざありがとう。カナタちゃん、アイスコーヒーでよかったら、冷えてるわ」

「ありがとうございます♪ いただきます」

「母さん………。まあ、いいや。あがれよ。けど、すぐに帰れよ」

「お邪魔しま~す」

 カナタは慣れた足取りで階段をのぼり、正午の部屋へ入る。机の上にあった参考書とノートを見ると、感心した。

「へぇ~♪ 勉強してる! すごいじゃん、ショーゴが勉強してる!」

「当たり前だ。受験生なんだからな。そういえば、カナタは進路、どうするんだよ?」

「うん、まあ、大学には行かないよ。今の仕事を、もっと頑張るつもり」

「ふーーん……、りかりんは青峯学院とか行くんじゃないのか? モデルしてるけど」

「りかりんは、りかりん。アタシはアタシ」

 カナタが勝手にベッドへ座ると、部屋のドアがノックされた。数年前にノックせずに息子一人しかいないと思ってドアを開けたら、性行為の真っ最中だった小さな事件以来、必ずノックして静かに待ってくれる母親のために正午はドアを開ける。母親はバニラアイスを浮かべたアイスコーヒーを小さなテーブルに置いてくれる。

「カナタちゃんの制服姿なんて、本当に懐かしいわね」

「ありがとうございます♪」

「たしか、正午の制服も、そこのクローゼットに残してあるはずよ。着てみたら?」

「ヤダよ。それに身長が合わない。そういえば、カナタは伸びてないな♪ 成長、止まったか?」

「ちゃんと成長すべきとこは、してるからいいの」

「じゃあ、カナタちゃん、久しぶりだから、ゆっくりしていってね」

「はい、ありがとうございます♪」

 カナタは笑顔で母親に手を振り、アイスコーヒーを飲んだ。

「美味しい♪」

「それ飲んだら帰れよ。中学生」

「ショーゴお兄ちゃん♪」

「っ……、気持ち悪いこと言うな!」

「じゃあ、ショーゴ先輩♪」

「っていうか、同い年なのに若返ろうとするな!」

「いいじゃん。ね、ジャンプしよ」

「はぁ?」

「三年前にジャンプ♪」

 言いながら、カナタは大きくジャンプした。その動作でスカートがめくれ、ライトグリーンの下着が見えるか、見えないかのギリギリのところまで裾があがり、まだ汗ばんでいる白い腿に正午の視線が吸いついてくるのを感じて、カナタは嬉しくなった。ほたるとコンクール前に抱き合ってから、ずっと性行為をしていない元気な男子高校生の眼球は素直だった。

「バカバカしい。なにが、ジャンプだ」

「あの頃は、楽しかったよね」

 カナタはベッドから立ち上がると、イスに座っている正午に近づき、前屈みになって見つめる。その動作でセーラー服の胸元が重力に引かれてさがり、素肌が奥まで見えるようになる。ブラジャーまで、よく見えた。

「それ、新しく買ったのか? 見慣れないな」

「うん♪ ショーゴの誕生日に合わせて、新調したんだよ。どう、似合ってる?」

「まあ、いいんじゃないか」

 いつも通りの気のない誉め方をしていても、正午のズボンが勃起で盛り上がっている。

「上下セットなんだよ。ほら」

 ブラジャーどころか、すべてを見ることに慣れているので、カナタが頬を赤くしながらスカートをあげてみせても、その行動に驚くことなく、さっきは見ることができなかったライトグリーンの下着を見つめる。

「……なかなか…いいな…」

「そりは、どうも♪」

 めったにしてくれない本気の誉め方をされてカナタは嬉しくなってキスをしたくなったけれど、一気に攻め込んで正午に拒否されないよう、一度、戦術的撤退をする。離れて、またベッドに腰をおろすと、寝転がった。

「このカッコで街を歩くの、想像以上に恥ずかしいね。知り合いに会ったら、どうしようかと思ったよ」

「みんな日射病だと思うぞ」

「う~……帰りは、正午の服、なにか貸してよ。ちょっと、もう勇気が尽きちまったよ。美味しいアイスコーヒーのおかげで脳も冷えましたし」

「ああ、テキトーにジャージでも着ていけばいい」

 別れた彼女が必死に接点を作ってヨリを戻そうとしていることに、まったく気づかず正午は吸いよせられるようにカナタへ近づき、いつもしていたように膝に触れた。柔らかい肌の感触が性欲を掻き立て、膝から腿へ、腿から股間へ手を進めていく。

「………」

「……ショーゴ…」

 うっとりとカナタが仲直りしてもらえそうな予感に目を潤ませて呼びかけると、正午もキスをしたくなり、唇を近づけたときに、ほたるのことを思い出した。

「って! ダメだ。ダメじゃん! オレ! ヤバっ、つい忘れるところだった!」

 正午は磁石の同じ極が弾き合うようにカナタから離れだ。

「ヤベェ。もう、ちょっとでカナタの魔力に負けるところだった」

「……」

 もうちょっとで落ちると思ったのに、やせ我慢しないでアタシの魔力に負けろよな、エロ少年、カナタは作戦を練り直すことにする。

「ね。最後の一回しない?」

「最後の一回って?」

「だってさ、いきなりアタシも別れるって言われても実感わかないし、心の準備もなかったから、先月からエッチしなくなって、正直、若い身体を持て余してるのよね。ショーゴと違って、新しい彼氏も、好きな人もいるわけじゃないから、このやり場のないモヤモヤした気持ちを整理するために、最後に一回だけ、エッチしてみようよ?」

「……最後の一回か……」

「うん♪ 最後の一回」

 傾いてる傾いてる、ピサの斜塔みたいに傾いてきてるよ、カナタは膝を立てて下着が正午に見えるようにした。正午のズボンにも塔が立っている。

「もちろん、二人だけの秘密。新しい彼女さんに言ったりしないよ」

「………」

「ね、想い出、ちょうだい」

「……………………」

「ショーゴ」

「…………やっぱり、ダメだ。それって裏切りだろ? オレは、そーゆーことできない。相手に失礼だ」

「……」

 傾いてるのに倒れそうで倒れないとこまでピザの斜塔かよ、カナタは作戦を第三段階に移行する。

「賭けをしようよ」

「はァ?」

「ショーゴが勝ったら、このままアタシは帰る。アタシが勝ったら、秘密のエッチをしてくれる。一つくらいさ、新しい彼女さんにアタシも抵抗してみたいからね。賭けで決めよ」

「賭けって……それは、そーゆーのも…」

「賭けっていうか、勝負ね。これで」

 カナタは返すために持ってきたゲームソフトを正午へ挑むように見せつける。

「このグランツーリスモで勝負♪」

「………。ああ、いいぞ」

 正午はゲームソフトを本体に入れると、テレビをつけてコントローラーを握った。

「グランツーでオレに挑むとは、愚かな女だな。カナタ」

「愚かな女に誘われて禁断の果実を食べちゃったバカの末裔が君だよ、ショーゴくん」

 すぐに二人のレースが始まった。

「くっ…」

「ふふン♪」

 スタートからカナタは前を走り、一度も抜かせない。

「なっ…そのカーブ、200キロ以上で曲がるってアリかよ?!」

「ここは237キロまでグリップ走行できるよ♪ まあ、チューンと腕前によるけどさ」

「くそっ!」

 正午は負けた。

「アタシの勝ちだね」

「もう一回だ!」

「小学生かよ、君は」

「もっと何か賭ける! 最初に油断したから負けただけだ! わずか一ヶ月でカナタが、ここまでヤリ混んでるとは思わなかった。次は本気で勝負する! こんなんで最後じゃ後味が悪い!」

「ん~……何か賭けるかぁ……じゃあ、エッチを最後の一回じゃなくて二回。それも、いつもより優しく大切にしてくれるって条件ね。どうせ、別れる女だからって、やればいいだろ的なエッチされるのは願い下げだから、ちゃ~んと、いとしく恋しく、これが最後の二回なんだって、未練たっぷり後ろ髪を引かれる想いで抱いてくれるって条件なら、もう一回だけ勝負してあげてもいいよ?」

「わかった! それでいい!」

「よしっ♪」

 あっさりと、カナタは二度目の勝負にも勝った。

「……カナタ……速すぎるぞ……」

「まあねン♪ 才能の差だよ、才能の」

「…………たはーっ……」

「じゃ、約束は約束だよ」

「…………」

「アタシのこと、そんなに嫌いになった? もう、エッチもしたくない?」

「いや……そーゆーわけじゃ……」

「少しは好きでいてくれる?」

「………まあ……それなりに……」

「じゃあ、見せてよ。その、それなりってヤツを………ね」

 カナタはコントローラーを放り出して、正午の肩へ身体を傾ける。

「ショーゴ………アタシは、まだ、ぜんぜん気持ちの整理……できてないよ?」

「カナタ……」

「だから、お願い。優しくして、今日だけ。今日の18歳になった新しいショーゴだけは、アタシにちょうだい」

「………………………」

 こいつ、こんなに可愛い女だったっけ、正午は古くなったのに初々しく感じる中学の制服を着たカナタが目を閉じたのでキスをした。慣れた二人の唇は呼吸を合わせて絡み合い、深いキスをする。正午は本能のままにカナタのブラジャーを外して乳房を撫で、カナタは勃起している正午にズボンの上から触れる。

「…ショーゴ……愛してる」

「カナタ……」

 正午は胸を揉んでいた手を股間へ伸ばしてから、智也からもらった薬のことを思い出した。ほたるに使う前にカナタで試してみようという気になる。

「カナタ、ベッドに」

「うん」

 このままフローリングの上で続けるのは身体が痛くなるので、カナタは促されてベッドへあがり、正午はカナタが背中を向けている隙に、高校の制服に入れたままだった薬のチューブを取り出した。それをカナタに気づかれないようベッドの下へ置きつつ、カナタの膝へキスをする。

「ぁん…」

「……………」

 やっぱりスタイルは、ほたるよりいいな、細いのに胸もあるし、脚もキレイだ、正午は膝へのキスを繰り返しながら、だんだん上昇させて内腿へキスで這い登り、股間に到達して下着の上から軽く舐める。

「あっ…ハァ…、……んっ…」

 カナタは顔を赤くして息を乱している。それが可愛くて少し焦らしたくなり、いつもより丁寧なセックスをする約束もあるので、すぐに下着を脱がしたりせず、股間から離れて再び内腿へのキスをして、それをくだらせ、膝へ、ふくらはぎへ、靴下を脱がせて足首と足、足の指へキスをする。

「んっ…」

 ああ、気持ちいい、生きてることってなんて気持ちがいいの、カナタは優しく足の指を吸われてセックスの時に毎回感じる生命の充実感を覚えた。正午はカナタが姫君のように恭しく足を吸われることで大きな悦びえることを知っているので、その隙にベッドの下からチューブを取り、人差し指に薬を着ける。

「ハァ……ハァ…」

「…………」

 正午は足の指へのキスを終えると、またキスでカナタの脚を昇っていく。そして股間に辿り着くと、いつもより激しい下着の濡れ方に軽い驚きと男性らしい喜びを覚えた。

「………」

 そういえば、ほたるとオレはエッチしてたけど、カナタは一ヶ月以上も放置だったから、そりゃ興奮するよな、こんな濡らして、そこにプラスして、このクスリを塗ったら、どうなるんだ、正午は強い好奇心に突き動かされ、人差し指をカナタの下着へ滑り込ませると薬をまんべんなく塗りつける。

「…ハァ……ハァ……」

 なにか塗ってるの、なにこれ、あ、いのっちが言ってた智也の怪しいエッチな気分になるクスリ、そんなの塗らなくてもアタシは十分……でも、すごい熱くなってくる、やん、ホントに効くよ、これ、熱い、熱いよ、あの鷹ちゃんが学校でヘロヘロになってエッチしたいから家に帰ろうって、いのっちがいるのに智也にねだるくらい凶悪な効果があるって話だから、はうぅ、ホントに熱い、ヤバイ、ヤバイよ、これ、理性飛びそう、カナタは身もだえして下半身ばかり愛撫されて淋しくなった上半身を自分で抱いた。

「はぅんぅ……ショーゴっ、もう来て」

「…………」

 すげぇ効いてる、効いてる、エロエロになってる、すごいぞ、三上、これマジすげぇ、正午は楽しくなって逆にカナタを焦らせることにした。もう下着を脱がせてもいいタイミングなのに、もう一度、反対の脚をキスでくだり、くだりながらカナタの下着に入れたままの手で焦れったいわずかな愛撫もする。

「はあっ…んっ! しょ……ショーゴ…ハァ……もう、きて…」

「優しく大切に、だろ? お姫様」

 正午は反対の足を舐めてやり、その指を一本一本吸っていく。手での愛撫も続けると、カナタは顔を紅潮させ、快感と切なさで目をうつろにさせた。

「ぁはぁぁんっ!」

 カナタが感極まった声をあげて仰け反る。

「ハァ…ハァ…あっ、あっ! あっん!」

 焦れったい愛撫しかしてくれない手を両脚で挟み込み、無意識に腰を揺すって男性を求めている。その姿に正午は余計に焦らしたくなって、愛撫をやめた。

「ハァ……、……ショーゴ?」

「やっぱりさ、カナタとは……できないかな」

「っ、なんで?!」

 カナタが縋ってくる。それが面白いくらい必死で、正午は楽しくてしかたなくなってくる。

「悪いけど、もう、終わりにしよう」

「そんな! だって賭けは私の勝ちだよ?!」

「………わかってるけど………、もう、オレ、……」

「ショーゴ、お願いっ、お願いだからっ」

 カナタが涙まで零した。

「してよ…、してくれないと…、アタシ、頭がおかしくなりそうっ! 気が変になりそうっ!」

「……………………」

 正午は中学の制服を半脱ぎになって、懇願してくるカナタを冷たくあしらおうとして、思い止まる。

「……たはーっ……しょーがねぇな…」

 このクスリ効き過ぎだろ、カナタ完全にアッパッパーになってる、こいつが、ここまでプライドとか捨ててくるなんて、ホントに怖いクスリだな、正午はカナタの身体を優しく抱いて囁く。

「もう焦らさないから、泣くなよ。な?」

「ぅん……ショーゴ、来て…。ショーゴに抱かれたいの…」

「……」

 くっ…可愛すぎる、ごめん、ほたる、一回だけ、これが最後の一回だから、もう、カナタとは何があってもしないから、今日だけは見逃してくれ、ごめんな、ほたる、正午は心の中で謝りながら、勃起した男根をカナタへ向けた。

 

 

 

 翌日、カナタは昼休みに正午へ声をかけた。

「ハーイ♪ ショーゴ」

「よぉ」

 いつも通りの返事をした正午は昨日のことを忘れているように普段と変わりないけれど、カナタの方は気恥ずかしくて目を合わせられない。それでも、そばにいて話をしたかったのに、正午は素っ気ない。

「もう、あんまりオレに近づくなよ。一応、別れたんだしさ」

「っ…」

「昨日、気持ちの整理、できたんだろ?」

「……、まあね」

 カナタは泣き出しそうになって背中を向けると、音楽室へ走った。音楽室では、いのりと一蹴が寛いでいたけれど、カナタはドアを開けて駆け込むと、いのりに抱きついた。

「うぇ~んっ! ショーゴが冷た~いぃ!」

「……カナちゃん…」

 いのりは泣きつかれて困ったけれど、とりあえず頭を撫でて慰める。一蹴が驚いているけれど、カナタは喚いた。

「聞いてよ、いのっち! ショーゴ超冷たい! 昨日エッチしたのに! もう、あんまりオレに近づくなって!」

「…………」

 なんだか、日に日にカナちゃんが壊れていってる気がする、いのりは頭痛を覚えながらも、泣きじゃくる先輩を軽く抱いて落ちつかせる。けれど、カナタは落ちつかなかった。いのりだけでなく圧倒されている一蹴にまで喚く。

「男って、あんなに冷たい生き物なの?! 昨日だよ、エッチしたの! なのに、一応、別れたんだ、とか! 気持ちの整理できたんだろ、とか! どうして平気で言えちゃうわけ?! 女の子のハートはダイヤモンドより傷つかないとでも思ってるの?!」

「せ…先輩……、お、…オレに言われても…、オレ、まだ、エッチとかしたことないし」

 思わず童貞をカミングアウトするほど一蹴は動揺しているのに、カナタは言い募る。

「たしかにアタシは最後の一回って言ったよ?! だけど! あれはないよ! ショーゴが何考えてるか、わかんない! バカすぎて、わかんないよ! バカショーゴ! アホイッシュー! もう、いいから、アタシの思い通りになってよ!」

「カナちゃん……、冷静に、カナちゃん!」

 いのりは軽く両手でカナタの頬を叩いてからハンカチで涙を拭いてやった。こうまで後輩の前で意地もプライドも捨てて泣いているカナタを見ると胸が痛み、それが正午への怒りにもなった。

「ショーゴ先輩には私から話すから、今は落ちついて。ね?」

 いのりは放課後までかかってカナタを落ちつかせると、正午と話すために一人で三年生の教室へ入った。ちょうど、正午は帰り支度をして、自転車の鍵をポケットから探っているところだった。

「ショーゴ先輩。ちょっと、いいですか?」

「……、な…なんだよ、その…人を呪い殺すような目は……」

 正午は睨まれて、いのりの眼力に怯えたけれど、持って生まれた罪悪感不感症のおかげで自分が悪いとは考えない。

「オレに何か用でも?」

「これ以上、カナちゃんをもてあそぶのは、やめてください。あなたは最低です」

「ぇ……っと……香菜って、…あの子はレズだろ?」

「っ…」

 正午は大きな誤解をしたし、いのりも誤解に気づかず、むしろ、自分とカナタの性的関係を思い出して、顔を赤くした。正午は個性的なタメ息をついて肩をすくめる。

「たはーっ……もてあそぶとか、そーゆーの、ぜんぜんオレに関係ないじゃん。君が好きなら、二人で好きなようにしてれば? オレは口出ししないぞ。そーゆーの個人の自由だろ?」

「っ…」

 いのりの脳裏にカナタとの数々の性的行為が走馬燈のように流れた。カナタは正午との行為を、いのりへ話していたように、正午へも開けっぴろげに、いのりと自分のことを話していたかも知れない、そうなると状況は大きく変わってしまう。

「い…いえ、……カナちゃんはレズじゃなくて…バイっていうか、……本当はショーゴ先輩が一番……いえ、ほたるさ…っ、…ち、…違います! わ、忘れてください! な、何でもないです!」

 いのりは頭が混乱して正午へ背中を向けると駆け出した。

「もう知らない! カナちゃんのバカっ! ショーゴ先輩に、私とのこと話してるなんて信じられない! バカっ! バカバカバカ! バカナちゃん!」

 いのりは音楽室で待っているカナタのところへ戻ると、怒鳴った。

「どうしてショーゴ先輩に私とのこと話したのっ?!」

「へ? ……何のこと?」

「私とエッチなことしてること! シューゴ先輩が知ってた!」

「っ……そんなはず………あいつが、そんなに鋭いはずないよ……アタシ、言ってないし、そんな気配も見せてないから……」

「二人は付き合ってたんでしょ?! 隠せるって思う方がバカだよ!!」

「……………………」

 カナタが目を伏せ、いのりは怒りと恥ずかしさで震えた。

「……もう……私に、近づかないで…」

「いのっち?!」

「………。絶交、させて」

「ま、待ってよ! アタシ、いのっちに相談できなくなったら…」

「ショーゴ先輩とヨリを戻したいなら、なおのこと、私に近づかない方がいいよ。それに……」

 気持ち悪くて、寒気がするの、なんで女の子同士でベタベタしたがるの、絶対おかしいよ、いのりは呪い殺すような目を10%くらいの眼力でカナタに向けた。

「っ……いのっち……」

「…さよなら」

 いのりは小学校からの腐れ縁に別れを告げ、音楽室から立ち去った。残されたカナタはフラフラと歩くと、足の力が抜けて、そのままピアノの前に座った。鍵盤へ手を置いたので不協和音が響く。

「………、……」

 先月まで、ほたるが弾いていて、いのりへ受け継がれたピアノの鍵盤を撫でると、カナタは背中を丸め、沈み込むように暗い考えへ落ちていく。

「……………人は、……簡単に絶望するんだね………あまりにも……簡単に……」

 独り言を零し、ピアノを頭で弾くと、立ち上がった。

「……まだ……諦めない……、きっと、いい方法はあるはず……必ず……」

 カナタは正午とヨリを戻す前に、いのりとヨリを戻すと決めた。

 

 

 

 翌日の9月16日、学校の屋上で智也は鷹乃と昼休みを過ごしていた。鷹乃が作った弁当を二人で食べて、水筒の紅茶を飲んでいる。とても幸せな気分だったのに、鷹乃はカナタが近づいてきたので反射的に不愉快になり、それから逆に罪悪感を思い出した。カナタは鷹乃へのプレゼントだった指輪を選ぶのに智也へ協力してくれていたのに、ひどい罵りをしたし、香菜がやったこととはいえ電撃をくらわせて失神させている。そのことを、まだ謝ってはいなかった。

「………あの、黒須さん…、ごめんなさい……この前…」

「智也。ちょっと話があるんだけど、こっち来て」

 カナタは鷹乃を無視すると、智也を顎で立たせた。

「鷹乃が謝ってるのに、無視することないだろ?」

「………。謝られたら必ず許さないといけないの? 神さま、禁断の果実を食べて、ごめんなさい。黄色いお猿さん、原爆落として、ごめんなさい。愚民どもサリンを撒いて、ごめんなさい」

「黒須……………鷹乃を許す気……ないんだな?」

「ないよ」

「………一応さ、オレの彼女なんだから、オレからも頼むよ」

「そんな話しに来たわけじゃないの。アタシの話が先で、アタシの話だけで終わり」

「……………」

 あいかわらず、ワガママな女だ、しかし、まあ、鷹乃も悪かったから、ここは黙って言うことを聞いておこう、智也は少し耐えることにした。

「で、黒須の話は?」

「ショーゴに変なクスリ渡したでしょ?」

「…………。記憶にございません」

「ウソは上手につこうね?」

「……返す言葉もございません。渡しました」

「ふーん……。のんから仕入れたってね?」

「……まあ…」

「のんに訊いたら、のんじゃないって言ったよ」

「その話なら、のんと決着がついてるが…」

 智也が言い逃れようとしていると、カナタは財布から三万円を出した。

「あれ、アタシにも分けて」

「…………」

「足りない?」

 カナタが五万円を出した。

「……。加賀に使われて、そんなに良かったのか?」

「っ…」

 カナタが頬を赤くして、それからポーカーフェイスを作った。

「いいから分けて」

「分けなくはないけど………何に使うんだ? 男に使っても、たぶん効果ないぞ」

「やっぱり、女子専用なの?」

「まあ……そんな感じかな…」

 いや、ただのメ○タームとメ○ソレータムのハイブリットだ、粘膜に塗ればメントールの刺激で分泌液が異常に増えるから、女だと感じまくってるように見えるけど、男だとスースーするだけだからな、もしかして、加賀に使って復讐でもする気なのか。

「加賀に使っても効かないかもしれないぞ」

「女の子になら、誰にでも効くの?」

「……いや……まあ、……効くには効くが、強姦とかムリヤリなことで使っても効かない。ある程度、いつも関係してる仲でないと効果ないだろうな。よく考えてみろよ、そんな誰に塗ってもエッチしたくなるクスリあったら世の中、メチャクチャだろうが」

「なるほど……それは、そうね」

「何に使う気だ? オナニーか?」

 智也は余計なことを言ってカナタに頬を叩かれた。

「痛ぅ……」

 智也が頬を押さえ、鷹乃が振り向いた。

「ちょっと何してるのよ?!」

 少し離れた場所にいた鷹乃が近づいてくる。

「どうして智也を叩いたの?!」

「……」

 カナタは鷹乃を無視して、智也の胸ポケットへ五万円を押し込んだ。

「さっさと分けて」

「わかった、わかった」

 もう懲りたので智也は素直に自家製のクスリを容れたチューブを渡した。用事が済んだカナタが立ち去ろうとすると、鷹乃が前に回り込む。

「どうして智也を叩いたの?!」

「………智也、これ、どけて。邪魔」

「黒須……鷹乃をコレとか言うなよ。小学校で習わなかったか、お友達を無視するのは、とても悪いことです、って」

「アタシは小学校で学習したの、許せないヤツには死んでもらう。アタシの中では不在するの」

「………黒須、オレからも謝るから鷹乃を許してやってくれよ」

「一つだけ許してもいい条件があるよ」

「どんな?」

「二度とアタシの視界に入らないこと。できれば、遠くに引っ越して、明日」

「………………、もういい……、鷹乃、黒須のことは気にするな。オレが叩かれたのはジョークが笑えなかったからで、オレが悪い」

 智也は鷹乃を引きよせるとカナタを見送った。

「……はぁ~……黒須とは、軽い絶交かもな……」

 智也がタメ息をつくと、鷹乃は申し訳なさそうに謝る。

「ごめんなさい、私のせいで……黒須さんと……」

「別にいい。気にするな。昔っから黒須はヒネたところがあるヤツだから」

「…………」

 黒須さんの性格に問題があるというよりは私と香菜が彼女にしたことの方が悪いわ、でも謝っても許してもらえそうにない、それに智也と私の知らない中学からの交遊がある黒須さんが遠のいてくれるなら……、鷹乃は自分の思考を振り返って自己嫌悪を覚えた。

「……私って……イヤな女……」

「それは間違いだ。鷹乃は、いい女だぞ♪」

 智也がキスをしてスカートに手を入れる。

「あんっ…」

「ホントいい女…ん?」

 智也は鷹乃の身体を楽しもうとして見知らぬ一年生が三人も近づいてくるのに気づいた。三人は後輩らしい遠慮をしながらも、智也に声をかけてくる。

「あの、三上先輩」

「誰だ、お前ら?」

「一年の山王です」

「天野です」

「中谷です」

 剣道部とサッカー部の一年生を智也は知らなかった。

「オレに何か用か?」

「はい、ちょっと男同士で話したいことがあるんですけど………」

「ふーーん……鷹乃、ちょっといいか?」

「ええ」

 相手が男性なので鷹乃は気にも留めず、四人から離れていく。智也は生まれつきの尊大さに加えて三年生らしい横柄さで三人に接する。

「で、何の用だ?」

「三上先輩が野乃原先輩から仕入れたクスリを分けてもらえませんか?」

「……」

 やたらウワサが広まってるな、智也は葉夜が怒っていた理由を噛みしめた。

「お前ら一年にも広まるほど有名なのか? その話」

「はい、あの男嫌いだった寿々奈先輩を射止めたって超有名っすよ」

「………………」

 いや、あれはオレの実力と実力行使の結果だ、クスリは関係ない、まあ、でも事情を知らないヤツらには、そんなもんかもしれないな、さて、どうしたものか、智也が考え込むと三人が頭を下げる。

「「「お願いします!!」」」

「………。高いぞ。さっき、友達だったヤツに五万で売ったくらいだからな。知り合いでさえない、お前らには………その三倍だな」

 これで諦めるだろ、智也はふっかけることで事態を収拾しようとしたが、三人は異性を求めるために金銭をいとわなかった。

「今は持ってませんけど、必ず用意します!」

「………。……」

 おいおい、三人で45万だぞ、ボロ儲けじゃないか、智也は胸ポケットに入ったままの五万円の重さに加えて、その9倍を想像して生唾を飲んだ。

「ああ、わかった。オレも、さっき売ったばっかりで今は持ってない。そうだな、来週にでも用意しておく。それで、いいか?」

「「「はいっ!」」」

 山王と天野、中谷は野望に燃えていた。

 

 

 

 四日後の9月20日、山王は考え抜いた作戦を実行に移していた。廊下を歩いてくる雅を呼び止める

「おい、藤原」

「…、何ですか?」

 雅は呼び捨てにしてきた山王を斬り殺しそうな目で睨んだが、山王は予想通りの反応だったので作戦を進める。

「お前んとこの顧問が、これを道場に運び入れとけってよ」

「そうですか」

 雅は山王が指したダンボール箱を持ちあげようとしたが、思ったよりも重かったのでバランスを崩した。

「ぅっ…」

「大丈夫か?」

 山王はフラついた雅を軽く支えながら微笑する。

「重そうだな。女には無理かもな。持ってやろうか?」

「けっこうです! この程度…」

 意地っ張りな雅は助力を拒否して、ダンボール箱を抱えあげる。

「くっ……」

 いったい何が入っているのです、この重さ、雅は背中に山王の視線を感じて、なるべくフラつかないように歩くけれど、とても重い。

「へぇ~…強い強い♪」

 ホントに強いな、それ、15キロのバーベルが三個も入ってるんだぞ、顔はきれいなのに恐ろしい女だ、山王は雅のあとを冷やかしながらついていく。

「手伝ってほしかったら、言えよ。しょーがないから、手助けしてやる」

「けっこうです! 立ち去りなさい!」

「そう言われてもな。道場で落とされたら、やっかいだしな……ま、強い藤原なら、なんとかなるかな。はは♪」

 山王は手助けを雅が求めにくくなるような言動をしながら、後ろをついていく。雅は45キロのダンボール箱を額に汗を浮かべながら涼しい顔を装って、廊下から校庭へ、校庭から道場へと運ぶ。

「ハァ…ハァ…」

「道場の戸、開けてやろうか?」

「ハァ…当然です…」

「はは♪」

 山王は笑いながら道場の戸を開け、フラフラになった雅が入ると戸を閉めた。

「道場で落とすなよ。畳が痛むから」

「わかっています!」

「んじゃ、神棚の下にでも置けよ」

「ハァ…ハァ…くっ…」

 最後の力を振り絞ってダンボール箱を抱えて歩く雅の無防備な背後で、山王は智也から買ったクスリを指に着けると、素早く雅のスカートへ手を入れる。

「きゃっ?!」

 驚く雅にかまわず下着の奥にまで指を進め、クスリを塗りつける。すでに剣道部で好成績を築いている山王の突き込みは鋭く素早かった。

「な…何をっ…」

 雅はダンボール箱を落として、山王の手を払った。

「こ……この痴れ者!」

 怒りと羞恥心で真っ赤になった雅へ山王が襲いかかる。

「いいから、オレに抱かれろよ。前から藤原のこと狙ってたんだ」

「くっ…このっ!」

 雅は抵抗しようとしたが、疲労しきった腕に力が入らない。為す術もなく山王に押し倒された。

「は…離しなさい! 狼藉者!!」

「まだ足りないのかなぁ…」

 山王は残りのクスリを全て雅に塗りつけてみる。

「な…何をっ?! 何ですか、それは?!」

「気持ちよくなるクスリだ。すぐに良くなるから暴れるなよ。痛い思いはしたくないだろ?」

「あ…怪しげなクスリを……この愚か者…」

 口では抵抗していても、身体は恐怖心で震え、ろくに力が入らない。雅は不本意なキスをされ、絶望感から脱力して天井を見上げた。

「っ………ぃや……」

 こんなところで、こんな男に、こんなことをされるために、私は生まれてきたの、こんな命なら、もう、いっそ、死んで現世と……、雅が自害を決意しようとしたとき、のしかかっていた山王が白眼を向いて倒れてきた。

「神聖な道場で何をしとるんやっ! このド畜生!」

 薙刀で山王を打ちすえた歩は気絶した強姦未遂犯を押しのけると雅を助け起こしてくれる。

「雅っ! もう大丈夫や! 雅!」

「っ……あゆ……む? …どうして……ここに…」

「二人が道場に入るとこ、校舎から、ちらっと見えたんや! ほんでイヤな予感がしたさかい! 来てみたら、これやろ? 大丈夫やったか? どこか痛とうないか?」

「っ…ぅっ…ぅぅ…」

 泣き出した雅を抱きしめた歩は優しいキスをする。

「もう大丈夫や、安心しぃ、もう大丈夫やから。何かされたんか? 痛いとこは?」

「ぅぅ……おかしなクスリを………、……大切な処に…」

「見せてみぃ、キレイにしたるさかい」

 歩は神聖な道場で雅の身体を清めることにした。

 

 

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