○○と一緒なら 作:ノムノム
「ヘロヘロさん?」
「ふぁっ!?」
黒いコールタールのような生物が体を───常に形を変えているが───震わせる。
彼の名はヘロヘロ。
ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のメンバーである強力な酸を持つ
「寝ちゃってた・・・すみませんモモンガさん。眠気がやばくて・・・」
「いえいえ。そんな状態でも来て下さるなんて・・・感謝したいくらいですよ」
現実で転職してから仕事が忙しくなり、二年ほどヘロヘロはユグドラシルにログインしていなかった。
それなのにログインしたのは今日がユグドラシル最終日だからだ。
ギルド長であるモモンガのメールを見て、最終日を知ったヘロヘロは少々無理をして仕事を切り上げてログインしたというわけだ。
とは言っても、終了時間の一時間前だが・・・。
ヘロヘロは時計を見ると、既に残り時間は半分を切っている。
「もうこんな時間ですか」
「ですね。楽しい時間が短く感じますね」
モモンガは楽しそうに言葉を紡ぎ、対してヘロヘロは欠伸を噛み殺している。
「モモンガさんは。ギルド長はどうします?」
「強制ログアウトまでいようかと思っています」
「そうですか・・・」
ヘロヘロは睡魔と戦っていたが、不意にあることに気づいて睡魔が消し飛んだ。
もしかしたら、モモンガの声に含まれた何かを感じ取ったのかもしれない。
ヘロヘロは周りを見回して確認する。
何も変わっていない。
自分がログインしなかった二年間、拠点を維持し続けたのは誰か。
残った自分以外のギルメンたちもロクにログインしていないであろう期間、拠点の維持費を稼ぎ続けたのは誰か。
たった一人で、寂しく、毎日ログインして稼ぎ続けただろう彼。
大変でも、辛くても、誰も賞賛してくれなくても、ずっと一人で続けていた。
自分が最後だと言っていた彼を、最後まで一人にする。
それはとてつもなく、
今までの彼が感じてきた事に比べたら、たかだか数十分の睡魔など屁でもないだろう。
「私も」
「え?」
「私も、ご一緒してもいいですか?最後まで一緒に居てもいいですか?」
モモンガはヘロヘロがこのままログアウトするだろうと思っていたので、一瞬だが言っていることが信じられなかった。
「もちろんです!だって、此処はヘロヘロさんも含めた全員で作り上げた場所なんですから!」
思わず大きな声で叫んだモモンガ。
一人寂しく終わりを迎えると思っていた。
誰とも、何もなくなった、過去の遺物の中で。
見た目通りの墓守としてただ一人で・・・。
だが、共に消えてくれる───ゲームの中でだが───仲間が出来た。
最後まで一緒にいてくれると言ってくれた。
一人ではないということが嬉しくて、モモンガは頷いた。
「ありがとうございます。モモンガさん」
ヘロヘロはお礼を言うと、壁にあるギルド武器を見やる。
「最後に何処でとか決めてますか?」
「はい。玉座の間で終わろうかと思ってます」
「じゃあ、ギルド武器を持って行っちゃいましょう!」
「え。でも・・・」
「多数決です、多数決!ギルド武器を持っていくことに賛成!モモンガさんは?」
「え、えーと」
煮え切らないモモンガにヘロヘロは追撃を放つ。
「最後なんですから、最高の状態で終わりましょう!」
「そう、ですね。最後なんですから・・・これくらい良いですよね」
「はい。皆さんも許してくれますよ」
「ですね」
モモンガの声に明るさが戻り、モモンガはギルド武器を手にする。
「作り込み過ぎですね」
手にした時のエフェクトにツッコミを入れると、モモンガはヘロヘロに提案をする。
「ヘロヘロさんの装備は宝物殿にあるので、それを取りに行ってから玉座の間に行きませんか?」
「あ、そうしましょう」
「ついでにそこにある世界級を持ち出して装備するってのはどうでしょう」
「それいいですね!モモンガさんも乗ってきましたね」
「ふふふ。ちょっと楽しくなってきました。あ、これヘロヘロさんの
「ありでーす」
指輪を装備し、二人は宝物殿へと転移する。
天高く積まれる大量の金貨や雑に積まれる財宝の数々を素通りし、二人は黒い物質に包まれた扉の前で止まる。
「合言葉は・・・何でしたっけ」
「ヘロヘロさんは覚えてませんか。まぁ私もうろ覚えですけど・・・かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう。だった気が」
モモンガが自信無さげに言った合言葉は合っていたようで、黒い物質は小さくなり扉は開かれる。
様々な武器が展示される廊下を抜ける。
そこにはピンク色の肉棒のような粘液がいた。
「今回はぶくぶく茶釜さんかー」
「戻れ、パンドラズ・アクター」
ヘロヘロさんの呟きとモモンガの命令が同時に響く。
粘液がドロリと姿を変えると、それは黄色い軍服を着たはにわ顔になる。
モモンガが作ったNPCのパンドラズ・アクターだ。
「パンドラにヘロヘロさんの装備を預けてあります。私は世界級アイテムを取りに行ってくるので受け取っておいてください」
「了解でーす」
「あ、指輪お願いします」
「はい、預かります」
モモンガは指輪をヘロヘロに預けると、さらに奥の通路へと足を踏み入れる。
引退したギルメンたちの姿をしたアヴァターラの群れを抜け、最奥にある世界級アイテムを回収して来た道を引き返す。
「戻りました」
「おかでーす」
戻ってきたモモンガを出迎えたのは、完全装備となったヘロヘロ。
「やっぱりヘロヘロさんはその姿じゃないと、ですね」
「そうですか?えへへ、久しぶりでちょっと恥ずかしいですけどね」
恥ずかしそうに触手を伸ばして頭をかくヘロヘロに、モモンガは小さく呟いた。
「やっぱりヘロヘロさんはそうじゃなくちゃ」
「え?」
「いえ、なんでもありません。じゃあ、ヘロヘロさん。この中でどれがいいですか?」
「あ、全部持ってきたんですね。えーと・・・あれ、真なる無がないですけど」
トレードのコンソールが開かれ、それを見てヘロヘロが気づく。
「ヘロヘロさんも知りませんか。多分、誰かが勝手に移動させちゃったんだと思います」
「えー。それは酷いですね。今度、調べて犯人を叱りましょう」
「あ、いえ。どうせ最後ですし別に構いませんよ。さっ選んでください」
「そうですか?じゃあ、えーと・・・幾億の刃にします」
「分かりました。どうぞ」
「ありがとうございます」
指輪と幾億の刃のトレードが成立し、ヘロヘロに世界級アイテムが譲渡される。
ヘロヘロは早速、世界級アイテムを装備すると軽く振る。
「どうです?」
表情は変わらないがキリッとした───キメ顔をした気がする───ヘロヘロを見てモモンガは拍手を送る。
「似合ってます似合ってます。流石はヘロヘロさんです」
「えへへ。褒められると照れるなぁ・・・って、あ。時間」
「あ、やばっ一気にレメゲトンに行きましょう」
「りょうです」
指輪で玉座の間の前のレメゲトンに移動し、二人は扉の彫刻に圧倒される。
「久しぶりに見ましたけど、よく出来てますね」
「はい。作った本人はアレですけど」
「あぁ、るし★ふぁーさんでしたか」
ギルメン一の問題児を思い浮かべ、ヘロヘロは嘆息する。
モモンガが扉を開き、玉座の間の光景が目に飛び込んでくる。
「ここも変わってませんねー。うわっ」
感動していると、突然ヘロヘロの視界が高くなる。
抱き上げられたと気づいたのはすぐだった。
「モ、モモンガさん?」
「最後ですし良いじゃないですか」
「せ、せめて手のひらに乗せてください。そうした方が魔王らしいですよ」
「そうですか?じゃあ・・・」
ヘロヘロを大きな物を持つように抱き上げていたのを、球体を持つように持ち替える。
「古き漆黒の粘体を持つ死の支配者ってえげつないですよね」
「弱点を補う魔法を掛けて特攻して装備を溶かすんですね、分かります」
雑談をしながら、二人は変わらない、ギルメン以外は見たことのない拠点の最奥部を歩く。
「あぁ、此処にあったのか」
無くなった世界級アイテムを持つNPCを見つけ、モモンガとヘロヘロは安堵の息を漏らす。
「アルベドが持っているってことは犯人はタブラさんですね」
「みたいですね。でも、もう終わったことですし許してあげましょう」
「まぁ、モモンガさんがそこまで言うなら」
ヘロヘロが折れる形で、タブラの行動が許される。
「ふふっ。久しぶりにギルド長らしいことをした気がします」
そのやりとりで昔を思い出したモモンガが笑う。
「たっちさんとウルベルトさんはよく喧嘩して、その度に仲裁して」
「特にあれ。原初の炎と原初の氷。どっちを狙うかでもめましたよね」
「ありましたねー。あの時は当の本人であるやまいこさんの意見ガン無視でしたね」
「あはは。懐かしいですね」
二人は時間を忘れて思い出を話し続ける。
その世界の最後まで。
そしてこの言葉。
「「あの時は楽しかったですよね」」
何かを吹っ切るかのような楽しさに満ちた声が玉座の間に響いた直後。
二人は草原にいた。
「・・・・え?」
「・・・・は?」
これからは二人で歩んでいく。
幸せと時間に満ちた世界を、心ゆくまでずっと・・・。