○○と一緒なら 作:ノムノム
「また会いましょう、か」
来てくれると言った最後のギルメンが帰った後、モモンガは一人呟く。
「そうか。もう皆、ナザリックを過去になって・・・」
「盟約に従い」
「え?」
いつの間にいたのか、そこには名状しがたい存在が立っていた。
人の体に蛸のごとき頭部を持つそれは、粘液にまみれた触手を動かしながら告げる。
「我が盟友の願いを叶えに来た。喜ぶがいい、我が友よ」
「タ、タブラさん!」
ギルドが誇る錬金術師であるそれは芝居がかった動作で一礼する。
「我が名はタブラ・スマラグディナ。偉大なる我らが君よ。長き間の留守を任せてすまなかった。今、此処に戻ったことを宣言しよう」
「あ、そのロール続けるんですね。じゃあ、コホンッ・・・良くぞ戻った、我が友タブラ。しかし、何年も留守にするのであれば途中で連絡位して欲しかったものだな」
タブラに合わせてモモンガもロールを開始すると、不意にタブラが頭を下げる。
「いや、それについては本当に済みませんでした。土下座したほうがいいですよね」
「急に素にならないでください。私が外したみたいで恥ずかしいじゃないですか」
「・・・・ふっ」
「あははっ」
どちらからともなく、笑い声を上げる。
「久々ですよ、この感じ」
「はい。帰ってきたって感じがします」
タブラは懐かしそうにそう言うと、徐ろにアイテムボックスを弄りだす。
「私は最後まで居るつもりで来ましたが、モモンガさんはどうしますか?」
「私もそのつもりです。最後は玉座の間で終わろうと思っていまして・・・」
「やっぱりそうでしたか。私も玉座の間で終わろうと思ってて・・・ほら!」
「あ!」
タブラの服装が一瞬で変わり、モモンガは思わず声を上げた。
「タブラさんの装備・・・取りに行ったんですね」
「はい。どうせなら最高の状態で、と思いまして。世界級も持ってます」
「もう。世界級アイテムの移動はちゃんと多数決で決めないとダメなのに・・・まぁ最後ですし別にいいですか」
「ですです。ささっモモンガさんもギルド武器持って!」
「あー、ギルド武器。確かにこれは持っていかないと」
モモンガは今まで動かしたことのないギルド武器を手にし、その効果を視界の中で確認して頷く。
「魔王モモンガ。共に参ろう」
「あぁ、行こう。我が友タブラよ」
そしてログインポイントである円卓の間を出て、ギルメン以外は誰も来たことも見たこともない通路を歩き出す。
歩いているNPCのメイドに近づくと壁に寄って一礼する。
AI担当のギルメンの努力の賜物だ。
「仕事ご苦労」
モモンガは帰ってこないと知っていようとも労いの言葉をかける。
「ここは変わっていないな」
「当たり前だ。此処は我々が作り上げた・・・我々の全てなのだからな」
「そうだな。その通りだ」
モモンガの言葉にタブラは何度も頷く。
まるで納得よりも別の感情を示すように。
「この執事の名前は・・・」
「確かセバス・チャンだったな」
「あぁ、そう言えばそんな名前だったな。たっちさんが作ったNPC」
拠点の家令で執事という設定のNPC。
それに付き従う六人の美女たちはセバスの部下たちだ。
「最後ですし、彼らにも仕事を与えてあげましょう」
「そうですね。では、付き従え」
コマンドにより、モモンガとタブラの後ろに七人が付き従うように動き出す。
二人は七人を連れながら、拠点の最深部へとたどり着く。
見事な悪魔と女神が刻まれた巨大な扉。
これこそが拠点の心臓部へと続く最後の扉だ。
「これを作ったのはるし★ふぁーさんでしたね」
「そうです。腕だけはいい彼ですね」
「あはは」
タブラの辛辣な言葉にモモンガは乾いた声で笑うと扉を開いた。
モモンガ自身も正直好きではないと言わせるほどにイタズラをしまくったギルメンを脳裏に浮かび上がらせながら二人は心臓部である玉座の間に足を踏み入れる。
「あぁ、久しぶりに見ましたが・・・やはり此処はすご・・・あ」
「どうかしましたか?」
「あ、えーと・・・」
タブラは途中で何かを思い出したのか焦り始め、モモンガは首をかしげるアイコンを出す。
「す、すみませんでしたぁ!」
「え、何がですか?」
「その、世界級アイテムをですね・・・」
「勝手に持ち出したことですよね。別に最後だからいいって言ったじゃないですか」
「そうじゃなくてですね。その・・・真なる無をですね」
「真なる無を?」
「ア、アルベドに・・・」
「アルベド・・・」
モモンガはタブラから目を離して玉座の間の奥を見る。
そこには水晶から切り出したような玉座があり、その隣に一人の女性が立っている。
その女性こそアルベドだ。
まだ遠くてよくわからないが、手に黒い杖のようなものを持っている。
「・・・・正直に話してください。タブラさん、アルベドに、真なる無を装備させましたね?いつから?」
「エ、エヘッ二ヶ月前くらいから」
モモンガの問いの答えに笑ってみせるタブラ。
「もう!ペナルティで世界級没収です!」
「あぁっそんなご無体な!」
「今日ならまだしも、二ヶ月も前!?アンタ、その時に連絡すらしないってどういう神経してんだ!」
「ごめんなさい!マジでごめんなさい!ちょっと「こんなこともあろうかと!」をしたかったんです!」
「確かにそれはちょっと憧れるけど・・・俺、怒りましたよ!とりあえず、真なる無は没収です!」
「うぅぅぅうぅ・・・」
呻くタブラを無視し、モモンガはアルベドから真なる無を取り上げる。
「ほら、ペナルティとしてセバスたちと一緒に跪いてください」
「く、くぅっ」
跪いた七人と同じ場所に跪いたタブラはチラリっとアルベドを見る。
「む、娘にも見下ろされるなんて・・・清楚な見た目なのにビッチな設定にしてあるギャップ萌えの娘に見下ろされるなんて・・・あ、新しい世界を開拓しそうですよ!モモンガさん!」
「やめろ!最後の最後で変なことをしないでください!というか、滅茶苦茶ヤバイこと言わなかったか!?」
モモンガはアルベドの設定を見ようとするが、既に時間は十数秒。
「長っ!タブラさん、アンタどれくらい書いてんだ!」
「上限一杯まで。つい、気分が乗っちゃって」
「この設定魔!」
「おぅっめ、目覚めそう・・・」
「ああああああああああ!」
モモンガの慟哭と共に日付が変わる。
「ああああああ・・・あ?」
「悔しい。でも・・・あれ?」
「此処、何処ですか?」
「さぁ・・・?」
そして気づけば何もない草原にいた。
「とりあえず、モモンガさん」
「何でしょう」
「普段は優しいのに、ちょっとつつけばサディスト・・・ギャップ萌えですね!」
「本当に何があったんですか!?引退前はもうちょっと紳士でしたよね!?」
骨と蛸の二人は、無限に続きそうな草原の真ん中で騒ぎ続ける。
その姿は楽しそうであり、幸せそうであった。