俺の提案というか俺がスタジオに行く予約をしていることを聞いた5人は全員行きたいとなり、一度解散となった。予約したのは3時からだし、楽器も何も持ってないからな。
俺たち、いや正確には彼女たち5人はAfterglowという名でガールズバンドを組んでいる。蘭がギター&ボーカル、モカがリードギター、ひまりがベース、巴がドラム、つぐがキーボードという具合だ。俺の役割としては、マネージャーでもあり、偶に彼女たちとともに演奏する場合がある。その時は俺がリードギター、モカがリズムギター、蘭がボーカルという形に変わる。
バンドを組んだきっかけは中学の頃に色々あって結成したのだが、それはまたのお話。今はバンドを組めてることに嬉しさも感じる。
第一あのつぐと一緒にバンドが出来るんだぞ!?部活とか委員会とかで一緒に作業出来る嬉しさ。あれと一緒だ!マネージャーをしてる身として常につぐの頑張ってる姿とかはにかむ笑顔とかが見れるんだ。こんなご褒美あっていいのか?いや、あっていいはずだ!!
「ママー、あの人なんか変ー」
「しっ!見ちゃいけません」
………さっさとつぐの家に向かおう。
時刻は2時を少し回った頃、スタジオに入る前に軽くつぐの家で昼食を取ることになった。つぐの家は羽沢珈琲店という喫茶店。商店街の中でも一、二を争う珈琲店と言っても過言ではない!まあ俺が勝手に言ってるだけなんだが。
今度は遅れずに全員揃ってつぐの家へと入る。カランコロンと喫茶店独特のベルが鳴り響き、お客が来たことを知らせる。
「いらっしゃいませー!あら、蘭ちゃん達じゃない。話はつぐから聞いてるわ。ここの席で待ってて」
「すみません。昼飯用意してもらって」
「いいのいいの!ささ、座って座って!」
明るく俺たちを出迎えてくれたつぐのお母さんは扉の近くの席に案内し、料理を持ってこようと調理場へと戻る。
それと入れ違いにつぐが出てきて蘭の隣に座る。俺は蘭に席を変われとアイコンタクトを送り、それに気づいた蘭だったが軽く無視した。
(お、おい!今絶対意図伝わったよな!?)
(嫌だ)
(一蹴かよ!)
こうなったらちょっと強引にでもと思い、行動に移そうとしたが、つぐのお母さんが料理を持ってこちらへやってきた。くっ、命拾いしたな蘭。
「今日はジャガイモが半額だったからポテトサラダを作ったわ。たんとお食べ〜」
「わーい」
「つぐのお母さんの料理凄く美味しいから嬉しいです!」
「あら、ひまりちゃん嬉しいこと言ってくれるわね。因みにつぐも手伝ってくれたのよ」
な、何ですとー!?と言うことはつまりこのポテトサラダはつぐの手料理ということに……!?
「修君〜、顔が怖いし気持ち悪いよー」
「……変態」
「待て待て!確かに変な顔になってたかもしれないが、変態とはなんだ!」
「そのままの意味」
一度制裁を加えたほうがいいらしいな。
「まあまあ修君落ち着いてー。蘭も煽るの抑えて」
「モカ、止めてくれるな。こいつには一度痛い目を合わせなければ言うことを聞かない」
「そんなことしていいの?つぐにあの事話してもいいならやってみたらいいじゃない」
「え、何の話?」
こ、こいつ!その話題を盾に使うとはなんて卑怯な…!
勝ち誇ったドヤ顔をしている蘭に俺は手も足も出ずにそのまま椅子に腰掛けた。
「おー、流石蘭。煽られ慣れてることはあるー」
「……うるさい」
「え、ええっと?結局私は関係なかったって事なのかな?」
「いつもの修の暴走だから気にするな」
その後、ご飯や味噌汁などポテトサラダ以外のおかずも用意されていて、他愛もない話をしながら完食し終えた。因みに、俺はポテトサラダを食べてボロボロと泣いていた。流石につぐ以外の4人に引かれました。
時刻は3時を少し回る前。羽沢珈琲店で昼食を済ませた後、予約していたライブスタジオへと向かう。
ライブスタジオの名はSPACE。ここには皆が恐れるオーナーがいるのだが、根は優しく音楽と真剣に向き合っている人だ。厳しい一言をもらう時だってあるし、無慈悲な言葉を投げかけられる場合もあるが、それは俺たちバンドをしている人にとっては心に深く突き刺さるものだった。
「だからあの人は憎めない人なんだよな……」
「なんか言った?」
「いや、何も」
そうこうしてるうちにSPACEに着く。中に入り社員さんである真次凛々子さんに変更点を伝えに行く。
「予約してた斎藤修也です。後、個人練で予約していたんですが、バンドに変更します」
「分かりました。もう空いているのでどうぞ」
第2スタジオですと言われ、早速入ろうとしたら中から人が出てきた。
「……げっ」
「げっ、とはなんだい。人の顔を見て嫌そうな顔をするんじゃないよ」
出てきたのはこの店のオーナー、都築詩船。俺は心の中でクソババアと呼んでいる。
「出入り禁止にするよ」
「何故分かった!?」
「あんたの顔を見れば分かるよ。ほら、早く入りな。新しいマイクに変えたから思う存分練習しな」
そう言って、スタッフルームへと戻って行くクソババアもといオーナー。偶になんか優しいこと言ったりするからやっぱり憎めないんだよな…。
「修君どうしたの?早く行こ!」
「お、おう」
うん、つぐの笑顔を見たらあのオーナーのことなんてどうでもよく思えるわ。
皆それぞれ楽器を取り出し、セッティングやチューニングにかかる。そして10分か20分経ち、全ての準備が整った。
「じゃあまずは蘭たちだけで演奏してみろ」
「……分かった。じゃあいくよ。That is How I Roll」
蘭とモカのギターから始まり次にベースドラムキーボードと続いて全ての音が重なり奏であう。数秒のイントロから歌が始まり、蘭の力強い歌声がスタジオ内に響き渡る。Afterglowは結成してまだ2年しか経ってないが実力は普通の素人よりは腕があるレベルだ。
でも、頂点を目指せるレベルではない。
演奏を終えて、蘭がこちらに向き直り一つ深呼吸して俺に聞いてきた。
「どうだった?」
「……まあ去年よりかは上手くなったな。2年前では考えられない出来だ」
率直な感想に5人もそれぞれ喜びの笑みを浮かべる。
「けど、一つ及第点というかダメ出しするとすれば……」
その瞬間、5人の表情が一変する。モカはあんまし変わってない気もするが。
「まずモカ。初心者でいきなりリードギターで辛い部分もあると思うが、もう少し速さをゆっくり目に、抑えた方がいいな」
「はーい」
「ひまりのベースはもう少し大きく音を出してもいい。途中、音が小さくなってきている部分があったぞ」
「りょ、了解…!」
「巴は普段から和太鼓をやってることもあってか力強く叩きすぎの部分があったな。勿論、悪いことではないが力を抑えることも忘れずに」
「あぁ」
「つぐはみんなに合わせる感じになってるからもう少し自分の意思を持って音を出してもいいぞ」
「う、うん…!」
「そして最後は蘭だが、やはりまだボーカルとギターのバランスがまだ取れてない。歌の方に集中しすぎてギターのソロ、一箇所ミスってたぞ。まあ自分でも理解してるみたいだけど」
「……ん」
「まあ俺の意見としては以上だ。じゃあ次は俺も入ろうかな」
「え……?」
目を丸くする蘭。いやいや、元々俺が予約してたからね?俺にもギター弾かせてくれよ。
「修君もやるの〜?ってことはあれやるんだね〜」
「あぁ。みんなの演奏見てたら俺もやりたくなってきたし」
「懐かしいなー。私たちの最初の曲だもんね」
「あぁ。蘭が初めて歌詞を書いた……」
「やめて巴!」
「今更恥ずかしがることもないだろ。それに、つぐがバンドやろうって言わなかったら始まりもなかったしこの曲が完成することもなかったしな」
「そ、そんなことないよ!あの時、私は修君がギターやってることを思い出して言ったことだし…」
「それでも……、つぐのあの言葉で今の私たちがある。ホントに感謝してる」
「あー、蘭が照れた〜」
「て、照れてないし!!」
「ツンデレ蘭本領発揮だな」
「殴るよ」
「待て待てギターは違う!それは洒落にならない!」
「あはは……」
「蘭落ち着いてー。早く始めようー」
「……分かった。修也、準備いい?」
「いつでも。モカ、俺のリード見とけよ」
「おー、修君が凄くカッコよく見えたー」
「普段ヘタレなのにな」
「うるせえ」
偶にはカッコつけさせてくれ。
「じゃあ行くよ。Scarlet Sky」
一応これでプロローグは終了です。次話からオリジナルとバンドストーリーに描かれてるストーリーの同時並行になると思います。