いつも通りのAfterglow
「……よし。今の曲、いい感じに仕上がってきたんじゃねぇか!?」
「うんうんっ、私達の幼馴染パワー最強って感じ!? 我らAfterglowにコワイものなしっ! ってね〜」
「いいやまだまだだ。特にひまり。Aメロのとこまたミスってたぞ。まず自分の弾くところを完璧にしてから言え」
「うっ……」
「ひーちゃん、怒られてるー」
「ま、まあまあ。私は良かったと思ったよ。ひまりちゃん、ナイスベース!」
くっ! つぐにそう言われると、この後ひまりにきつく言えなくなるな……。
「ひーちゃん、ナイスベース」
「もぉ〜! モカまで〜……!」
「ほらモカ。ほどほどにしとけよ? 修也も適切なこと言ってるのは分かるけど言い方には気をつけろよ」
「仕方ないだろ。俺はお前らの監督、いわば演奏のプロデューサーみたいな立ち位置なんだから。嫌でもきつく言うことだってある」
俺たちは今、学校近くのスタジオCiRCLEに来ている。理由は簡単。バンドの練習をするためだ。
今一度紹介すると彼女たちのバンド名はAfterglow。幼馴染5人で集まって作られたガールズバンドだ。ギタボの美竹蘭、リードギターの青葉モカ、ベースの上原ひまり、ドラムの宇田川巴、キーボードの羽沢つぐみ。この5人でAfterglow。そのAfterglow5人と幼馴染である俺が何故一緒のスタジオにいるかと言うと、監督&マネージャー的な立ち位置でみんなの演奏を見ているからだ。ギターをみんながバンド結成する前より触れていたこともあり、ある程度の知識は持ち合わせている俺に演奏を見て欲しいと5人から頼んできたのだ。最初は全く揃わなかったが徐々に音が揃い始めてきて、初めて揃った日のことは今でも覚えている。
(おっと、干渉に浸りすぎるのもよくないな)
兎にも角にも、音がズレたりミスしたところを指摘するのは今でも変わらず俺の役目なのだが……、
(なんか俺が悪いみたいな雰囲気を出されてもな……)
「蘭は今の演奏、どう思った?」
巴の疑問に蘭は暫く黙り込んだ後、こう告げた。
「…………『いつも通り』だね」
言うと思った。
「でたっ、蘭の『いつも通り』!」
「おおー」
「……ちょっと、変な風にいうのやめてよ」
決め台詞のように捉えられてしまった蘭は恥ずかしそうに返す。
「蘭ちゃんの『いつも通り』は『いつも通り最高』っていう、いい意味の言葉だもんね」
ホントつぐは優しいな~! だから好きなんだけど
「ああ。アタシ達は『いつも通り』でいいんだよ。いつだって最高の音、してるんだから」
すると、モカから珍しい一言が発せられる。
「でもさー。スタジオにこもりっきりってのも飽きてきたなー。そろそろライブしたいかもー」
「珍しいな。モカがそんなこと言うなんて」
「も~修ちゃんはモカちゃんのことをどんな風に思ってたのかな~」
いやだってお前いつも気だるそうにしてるじゃねぇか。だからあんなギターソロ引くの今でも不思議なんだが。
「いいね~!! そろそろスタジオ飛び出してライブやりたいかも!」
「いいね」
「アタシも同感。久し振りにステージでドラムたたきたいな」
「うんっ! 私もキーボード頑張るよ!」
「なら、俺がどこかいいとこがないか探しといてやるよ」
「ホント!? ありがとう~修也!」
「それが俺の仕事みたいなもんだからな」
監督的な立場として、みんなのスケジュール管理やライブの知らせなどは俺がやることにしてる。少しでもこいつらの負担を減らして練習に身が入ってほしいからな。
「また次のライブでも、ひーちゃんは感動して泣いちゃうのかな~?」
「ええっ!? この間のはなんていうか、たまたまっていうか……もぉ、モカいじめないでよー!」
「ははは、ひまりはモカにはかなわないな」
そんなこんなで話してるとすっかり終りの時間が近づき、
「っと、そろそろ終わりの時間か。あっという間だな」
「ん~、おなかすいた~」
「ふふっ。それじゃあ、モカちゃんが好きなパン屋さん寄って帰ろっか?」
「さんせー。つぐ、言いこというなー」
「よし、まずは、片付けだな」
「なら俺が先に会計済ませておく」
「いくらだっけ?」
「いつも同じ金額だろうが」
「そうだっけ~? えーと、100円だっけ?」
「ぶん殴られてぇか?」
「おー怖い怖い。こんな暴力的じゃあつぐも嫌だよねぇ?」
こ、こいつ!! 恋愛感情を逆手に取りやっがたな!
「え!? えっと……、ア、アハハ……」
急に振られ言葉に詰まるつぐは苦笑いでごまかす。
(よし、死のう)
「おいおいモカ、修也をあんまりからかうなよな。ガチで死にそうな目になってるから……」
「あーえーっと! 違うよ修君! 別に修君が悪くなくて!」
「でもー、暴力的な人は嫌いってことは否定しないんだねつぐ」
「こら、モカ!」
俺やひまりがモカにからかわれている間、蘭の携帯に着信が入る。そしてその着信相手の名前を見た瞬間、表情が曇る。
「……」
「ごめんごめん。……蘭?」
「なんでもない。ちょっと先出とく」
(まさか……)
表情が曇ったまま、スタジオの外に出て行った蘭の背中を見ながらおおよその予想がついたがここで言うのは無粋だろう。
暫くして全員分の支払いが済み、丁度みんながスタジオから出てくる。
「片付け終わったよ」
「支払いありがとう修也。それじゃあ帰りますかー!」
そこで、モカが蘭がいないことに気づく。
「……ねー、修君。蘭は?」
「あー蘭なら。と、噂してると」
「ごめん、ちょっと電話してた」
「……」
だが、帰ってきた蘭はどこか優れない顔だった。
「蘭、大丈夫か? 疲れた顔して……」
「なんでもない。……早くいこ。じゃないとモカの好きなパン屋閉まっちゃうよ」
「えっ!? もしかして、やまぶきベーカリーが閉まったら、パンは……?」
「食べられないね」
「……そんなの……そんなの嫌だよ……!」
「そんな落ち込むことかよ」
「修君、やまぶきベーカリーのパンはね、奥が深いんだよー。それはそれはまるで深い海のように~」
しまった……。余計なこと言ってしまった……。こうなったモカは止まらなくなるんだよな……。
「あーもうパンの凄さはわかったから! 早くいくぞ!」
「先、行くよ。モカ、修也」
「あー待ってよ蘭ー」
これが俺たちの『いつも通り』。こうして俺たちの『いつも通り』の日常が続くはずだった。けど、この日常がいつまでも続くなんて、この時誰も予想していなかったんだ。