小戸禊は勇者であったか?   作:加賀崎 美咲

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 いつも通り緩い気持ちでご覧ください


第二話 触れ始めた君 前半

「私は勇者になる!」

 

 勇ましき雄たけびと共に友奈の拳がにヴァルゴ・バーテックスの一部が粉砕される。砕かれた断面からが溶岩にも似た内側が露出する。粉砕された断面から時間が戻るように再生していく。バーテックスが単純な破壊では壊れぬことを示していた。

 

「そんな…。治ってる?」

 

 一度距離を離し、ヴァルゴの全体像を見ながらつぶやきが漏れる。友奈の声に困惑と不安による震えが混ざる。

 

「どうやってこの怪物を倒せばいいんですか、風先輩!?」

 

「バーテックスはダメージを与えても回復するの。封印の儀式を踏まないと絶対倒せない」

 

「手順って何?お姉ちゃん」

 

「よけながら説明するわ。来るわよ!」

 

 ヴァルゴは下部から延びるリボンのような触手を手近にいた風と樹に振り下ろす。怠慢なその動きは神樹によって強化された身体能力をもつ勇者たちにとって容易にかわせるものであった。ヴァルゴもそれを当然認識し、飛び上がった勇者たちを狙って尻尾のような器官からゆうに人間大の弾丸を放つ。いかに身体能力が優れようと空中で人は自由意思で移動することはできない。

 

「落ちろ!」

 

 掛け声とともに禊の砲台は不規則な軌道で移動しながら砲口は常にヴァルゴの放つ弾丸を追いかける。ヴァルゴの放つ弾丸に焼き印を刻むように砲台からは光線とも熱線ともいえる光が射出され弾丸は撃破されていく。

 

 ヴァルゴを取り囲むように四人の勇者はそれぞれの位置に立つ。風の指示に従い友奈と樹は自身の持つスマートフォンに表示された祝詞をぎこちなくも読み上げていく。スマートフォンを今持っていない禊は手が空いていることを利用して、ヴァルゴに攻撃を仕掛け注意を自身に向けさせながら、その場に釘付けにする。

 

「おとなしくしろ!」

 

 風波声を張り上げて手にしている大剣を振り下ろす。精霊の様子からそれだけで祝詞と同じ効果がある事が明らかであった。

 

「ええ!? それだけでいいの?」

 

「要は魂込めれば言葉は問わないのよ」

 

「それを早く言ってよー」

 

「それを聞いて安心した」

 

 風からの情報を聞いた禊はヴァルゴに向けて右手をはがす。すると手の先に二体の騎士の格好をした精霊が現れる。勇者たちの出した精霊から花びらが舞い、ヴァルゴを拘束するようにのその周囲を包み込み、ヴァルゴはその一切の動きが封じられる。行動を封じられたヴァルゴの頭部が開き中から逆さまの四角錐の形をした物体が出現する。

 

「なんかベロンと出た!」

 

「封印をすれば御霊がむき出しになる。あれを破壊すればこっちの勝ち」

 

「それなら私が行きます!」

聞くや否や友奈は強化された脚力で跳び上がり、空中の御霊に近づき、壊すために拳を叩きつけた。しかし先程ヴァルゴの一部を削ることと同じ結果は現れず、硬い物と硬い物が激突する音が響くだけであった。

 

「かっ硬ーい! これ硬すぎるよ!」

 

あまりにも御霊が硬すぎたため、殴りつけた友奈が拳を痛めただけとなった。そんな友奈の様子を見ていた樹はふと足元の封印に目を向けた。よく見ると封印には漢数字が書かれており、それが毎秒減っていることに気づいた。毎秒減っていく数字に樹は直感的に危機を感じた。

 

「お姉ちゃん。なんか数字が減ってるんだけどこれ何?」

 

「それは私たちのパワー残量。それがゼロになるとこいつを押さえつけられなくなるの!」

 

「ふええー! ってことは」

 

「こいつが紳樹様にたどり着いて世界が終わると。友奈代わって!」

友奈と代わるために風が跳ぶ。同じように御霊に近づき大剣を力任せに振り下ろす。同じく金属がぶつかる音がするが御霊が傷つく様子はない。堅牢な御霊に風はたじろぐ。

 

「くっ…いきなりまずいかな。こうなったら私の渾身の女子力を込めた一撃を〜」

 

予想外の御霊の硬さに決めあぐねる風は焦りからか自分でもよく分からない発言をする。決め手に欠けるなか背後から蒲葡の影が飛び出す。禊は御霊に飛びつくと三基の砲台を御霊に密着させ、ゼロ距離射撃から焼き切ろうとする。

 

「これでもダメか…」

 

御霊に密着した砲台たちからは鉄すらも容易に溶かす熱量の光線が出続けるが溶ける様子もない。みな決め手に欠け焦りばかりが募っていく。

 

「他に何かないのか?」

 

火力不足を感じた禊は済んだ砲台や自身の装備から何か使えるものがないか見渡す。ふと禊は腰のハードポイントに筒状の物体が付いていることに気づいた。手で握ってみると容易に外れる。見れば機械的なデザインをした刀の柄を連想する部品であった。握りこんでみると空いた穴から光線が伸びる。光線が1メートル強まで伸びるとそこで固定され、光線で刃が構成された刀が完成する。

 

「これなら!」

 

手に持った柄を手の中で回して逆手に持ち、両手で掴んで御霊めがけて全力で振り下ろす。光刃の切っ先が御霊に触れる。それでも容易には貫通せず、光刃を押し付けると火花が飛び散る。1秒、2秒と続けると少しずつ刃が進んでいく。

 

「あっ熱い!」

 

火花が散るほどの熱量を間近に受けた蒲葡の鎧は熱を帯び中の肌を焼く。少なくもこのガスバーナーのような使い方と装備が噛み合っていなかった。しかし少なくとも拳大の穴を御霊に開けることは出来た。

 

「これで締めだ!」

 

待機させていた三基の砲台のうちの一基の砲口を開けた穴に押し付ける。内側に抉り込んだゼロ距離射撃は外層部分の強固さを無視し光線は浸透する。一拍を置いて御霊が内側から爆発する。それを受けてかヴァルゴは一度仰け反るように痙攣すると少しずつ形が崩れ、砂となって崩壊した。

 

「やった。倒した!」

 

離れたところから勝利に喜ぶ3人の声が聞こえる。極度の緊張からの解放ゆえか禊はそのまま地面に仰向けに倒れこむ。胸にたまった熱を放ち呼吸が荒ぐ。各々勝利の余韻に浸っていると周囲から樹海に入って来た時のように花びらと光が舞って光が強まり、視界をふさぐ。光が収まり、視界が開け、周囲を見渡すとそこは学校の屋上であった。

 

「あれ?ここ学校?」

 

 自身のいる場所を見て学校にいることに気づいた友奈。それに対して風からの補足が入る。

 

「神樹様が戻してくださったのよ」

 

「あっ! 東郷さん!」

 

 戦いの最中、後ろに下がっていた友人の姿を見つけ友奈がそこへ向かって駆け出す。

 

「無事だった? ケガはない?」

 

「友奈ちゃん…。 友奈ちゃんこそ大丈夫?」

 

「うん!もう安全。ですよね?」

 

 友人の安否を確認する。互いに無事である事を認識し、安堵する。先ほどまでの非日常が終わり帰ってきたことを確認する。二人のそばまで来た風は友奈に応ずる。

 

「そうね。ほら見て」

 

 言い放ち、学校の外、普段見る街へ視線を促す。そこにはいつも通りの街並みがあった。非日常の象徴たる太い幹の樹海は何処にもなかった。その光景は戻ってこれたのだと勇者部の全員に気付かせるのに十分なものであった。非日常なものが一切ない、普段通りの木曜日がそこにはあった。そんな何でもないものが彼女たちの守ったものであった。

 風が言うには時間は止まったまま、誰も気づくことはないとのこと。当然彼女たちは急に授業中の教室から消えたわけなのだが、そこが大赦からの手助けが入るのだという。何とも閉まらない終わりに緊張感の解けた面々。緊張の糸が切れたからか、それとも単に涙もろさから来るのか樹は声に安心と涙が混ざる。

 

「怖かったよ、お姉ちゃん。もう訳が分からないよ~」

 

「よしよし。冷蔵庫のプリン半分食べてもいいから」

 

「あれ元々私のだよ~」

 

 犬吠埼姉妹らしいやり取りに友奈は自身の頬が緩むのを自覚する。そこでふと気づく、そういえば一緒に戦ったその少年は何処へ行ったのだろうかと。薄布によって顔は見えなかったが確かに企画にいたはずである。周囲を見渡すと仰向けになって顔だけを犬吠埼姉妹に向けている禊と目が合った。顔を見て気づく、見知らぬ少年であった蒲葡色の騎士は隣のクラスの小戸禊であった。友奈は禊へ話しかけるために彼の下へ歩いていく。スカートの友奈が近づいてくるのを見た禊は慌てて状態を起こす。体に異常はなかったが妙な気怠さから倒れていたがこのままではマズいと慌てる。

 

「隣のクラスの小戸君だよね? 私結城友奈。勇者部やってます」

 

「えっと小戸禊です。はい。君たちも神樹様の勇者なんだよね?」

 

「そうだよ。小戸くんもだよね? よろしく!」

 

 禊からすれば園子に頼まれてよく様子を見ていたために一方的に彼女らのことは知っていたが、面と向かって話すのは初めてのことであった。このまま話してボロを出すのはまずいとその場を離れようとする。

 

「それじゃあまた今度…」

 

 踵を返し帰ろうとする禊。出口を向いたところで左肩に重さが掛かる。動かない。掴まれている。油の切れたブリキ人形のように首を回しながら禊は重さの法へと振り返る。イイ笑顔の風がいた。

 

「それで?あんたは何者なのかしら?説明がないまま、はいそうですかって帰れると思ってる?」

 

「えっと…。ほら僕今日は用事があるんで」

 

 少なくとも風にとって禊は大赦からも何も聞いていない謎の勇者。そんな怪しい彼を放置することは始めから選択肢には入っていなかった。事と次第によっては大赦に彼を引き渡すことも辞さないつもりでいた。

 

「世界の危機より大事なこと?」

 

「あー…。うんと…。多分大赦の方から説明があると思うのでそれでは…」

 

 

 

 

「それで帰って、こっちに来たの?」

 

 ベッドの上から疑問の声が聞こえる。あの後禊は引き留めて話を聞こうとする風を振り切り、明日勇者部においでという友奈の声を背に屋上を駆け下りていった。呆れた視線に禊は肩をすぼめるしかなかった。いたたまれなさから脱出するために話題を変えた。

 

「そうだ。やっぱり勇者に選ばれたよ」

 

 その一言に園子の目尻が下がる。声色も下がる。

 

「ごめんね。みーちゃんに負担を掛けてばかりで」

 

 首を横に振り否定する。

 

「いいんだよ気にしなくて。少なくとも何もしないのはいやだったから」

 

「やっぱりみーちゃんも勇者に選ばれたんだね…」

 

「勇者適性だったっけ?」

 

「うん。みーちゃんのそれも高かったんだよ。だからきっと選ばれるのは間違いなかったんだ」

 

「なら頑張るよ。何もない僕だけどこれなら君や大赦の人たちにお返しができるし」

 

 禊にとって記憶喪失の自分を養ってくれる大赦や友人の園子へできることはやっておきたかった。

 

「そっか。なら…うん。もうこれについては何も言わないよ。ただ…頑張りすぎないでね?」

 

「ありがとう。今日はもう帰るよ」

 

「うん。またいらっしゃーい」

 

 少しおどけた声を園子は出し、禊は微笑む。そのまま禊は病室を後にする。

 

 残された園子は天井を見上げて一つ溜息を漏らす。最も恐れていたことは起きていないようだ。少なくとも禊がいつも通りにここに来て、何事もなく帰っていったことが何よりの証明であった。大丈夫、きっとみーちゃんはいなくならない。園子は自身に言い聞かせるように、祈るようにただ胸の内に思いを秘めた。

 

 

次の日禊は家庭科準備室の中の勇者部に来ていた。正しく言えば連行された。最後の授業が終わって帰ろうと準備していると風が直接教室に襲来、そのままここまで連れ去られたのである。

 

「小戸。あんた大赦から派遣された勇者だったのね。昨日大赦の方から連絡が来たわ」

 

「あー…うん。そういうことになるのかな?」

 

「なんか歯切れ悪いわね」

 

「僕の場合、勇者適性が高かったからほぼ確定みたいだったし、結果的には派遣って形になるのかな?」

 

「あんたにもあんたの事情があるのね」

 

 納得した様子を見せる風。そこに横から友奈がプリントを一枚差し出す。

 

「はい。小戸君」

 

 差し出されたプリントを受け取るとそれは部活動の入部届であった。

 

「うん?」

 

「入部届だよ。ようこそ勇者部へ」

 

 禊は察した。どうやら勇者に選ばれた事と勇者部に入ることはイコールらしい。そもそも彼女らは適性のある子が勇者部に集められたと禊は聞いていた。順序が逆になるが勇者である禊も勇者部の一員になるらしい。いかように返事したものかと悩んでいると禊に関係なく、風による説明会が始まっていた。黒板によくわからない線の塊を描き終えると話が始まった。

 

「戦い方はアプリを見るとして、今はなぜ戦うのかを説明していくね。こいつバーテックス」

 

 指で黒板に書かれた絵を指す。なんでもバーテックスは合計十二体いて、海の向こう側からやってくる。

 

「あっ!それ昨日のやつだったんだ」

 

「奇抜なデザインをよく表した絵だね」

 

 妹の樹と友奈のそれぞれ遠慮ない言葉とフォローが入る。風の顔がぐぬぬと歪むが気にせず続ける。禊にはしっかりと伝わっていた。そんなに分かりづらいだろうか口には出さずにおく。

 

 説明が続き、以前は追い返すことが精いっぱいであったこと、今は神樹の力を借りて勇者に変身し戦えるようにそのシステムが作られたこと。ちょくちょく風の絵の下手さに茶々が入り、だんだんと禊にはあの絵はダメなのかと思い始めていた。思索にふけっていると美森が発言する。

 

「この勇者部も先輩が意図的に集めた面子だったというわけですよね?」

 

「そうだよ。適性値が高い子は分かっていたから。私は大赦から指名を受けているから…」

 

「知らなかった」

 

 家族の知らない一面を知った樹から驚いたとつぶやきが出る。

 

「次の敵はいつ来るんですか?」

 

「明日かもしれないし、来週かもしれない。そう遠くはないはずよ」

 

「なんで勇者部の本当の目的を早く話してくれなかったんですか」

 

 攻めるような声が美森から出る。自分や友奈の居場所であった勇者部にこのような目的があったことに裏切られたような感情が沸く。

 

「友奈ちゃんも樹ちゃんも死ぬかもしれなかったんですよ?」

 

「実際にバーテックスが来るまでどのチームが当たるかは分からなかったんだ。むしろ変身しないで済む可能背のほうがよっぽど高くて」

 

 場の空気が不穏になっていくのを禊は感じた。どうやら勇者関連のことを風以外は知らないことであったらしい。

 

「こんな大事なことずっと黙っていたんですか…」

 

 それだけ言うと美森は俯いたまま車いすの車輪を回して勇者部を後にする。友奈もそれを追いかけて出ていく。後に残った禊、風、樹も間にも無言が流れる。出来ることもないので禊は無言で入部届を見ていた。ふと横を見ると樹は何やらカードを並べ始めた。

 

「それはタロットカード?」

 

「え!? はい…どうやったらお姉ちゃんと東郷先輩がどうやって仲直りできるかカードで占ってみようかと…」

 

 急に禊に話しかけられて驚きながらも樹はしどろもどろに答えた。カードで未来を占えるらしい。初めて見るタロットカードに禊は関心していた。へぇと感嘆すると黙って樹の向かい側に座り、カード占いの結果を固唾をのんで見守る。

 

「えっと~。説明足りなくてゴメンね♪」

 

 何やら軽い調子の謝罪が聞こえる。どうやら風は自身のネコ型の精霊を相手に美森に対する謝罪を練習しているらしい。

 

「軽すぎてもっと怒っちゃうかな?」

 

 自己分析できる程度には冷静らしい。

 

「本当にごめんなさい。…低姿勢過ぎるかな? 困ったどうやって仲直りしよう」

 

 その後もいくつかの試行錯誤が続くがなかなか結論は出ないらしい。助け舟を探して風は樹にカードの結果を聞く。

 

「樹~どうしたらいいか占えた?」

 

「今、結果出るよ!」

 

 初めて聞く樹の強い自信を感じる声に禊の期待も高まる。一枚目をめくり『恋人』のカードが出る。

 

「なんかモテそうな絵じゃない!」

 

 どうやら風の価値判断はそこにあるらしい。禊は一つ賢くなった気がした。

 

「他のは?」

 

「えっと」

 一枚一枚、並べられたカードがめくられていく。どの様な結果が出るのかと三人の視線がカードに釘付けになっていると樹の手が止まる。いや正しくはカードが空中で固定される。同時に風と樹の携帯から警報のようなアラームが鳴る。瞬間的に理解する。また来たのだ。

 

「まさかの連日?」

 

 静止した世界から光があふれ、神樹の加護で世界が満ちる。まばゆい光が収まるとまたあの樹海へと禊たちはいた。




 次回更新はテスト期間につき来週を予定しています
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