僕が勇者部に入部して一ヶ月がたった。新しい勇者部での日常はそれまでなかった生活の一幕を僕に与えた。学校と園子の病院を巡回する日々に平日の放課後の何日かは勇者部での活動が加わった。特筆して得意のない僕は写真を撮る記録係の地位に落ち着いた。勇者部の活動は多岐に渡る。部活の助っ人、子猫の里親探し、子供会のお手伝いなど様々だ。しかしその多岐に渡る活動の他にもう一つ、勇者部には重要な活動があるそれが神樹様のお役目。人類を滅ぼすべくやってくるバーテックスを倒す勇者としての仕事。そんなお役目が一ヶ月の間を挟んで再びやって来た。
「というわけで僕らは樹海化した四国にやってきています」
「なにそのリポーター風のナレーション?」
「いえ部長、こういう時は言っておかないと思って」
一ヶ月ぶりの樹海化の中勇者部一同はそれぞれの勇者の戦装束を身に纏い、やってくるバーテックスに備えていた。
「久々の戦いだから忘れてないかな?」
「友奈さん、これです。これ」
友奈と樹の二人はスマートフォンの説明画面を二人で覗き込み、そんな二人を見た風が緊張感の無さを脱却しようと叫ぶ。
「成せば大抵なんとかなる!ビシッと決めるわよ!」
「狙撃体制入ります」
大声の風に対して淡々と落ち着いた様子の美森は少し離れた高いところに自身の体を固定して狙撃銃を構える。こんな状況でも普段通りの様子である勇者部に安心感を覚えつつ禊は前を見る。少し離れた地点、五体目のバーテックス、牡羊座のカプリコーン・バーテックスがその姿をゆっくりと表す。最近加速器としての使い方を思いついた固定砲台を用いて禊は飛び出す。
「小戸禊、鉄砲玉いきまーす」
今回の戦いから固定砲台に追加された装甲がジェット噴射のように炎を吹き出し、禊は一気に高速に移行する。カプリコーンまで数十メートルというところで嫌な予感がして急停止する。頭上を見上げると三本の日本刀がカプリコーンの頭部めがけて飛び、そのまま突き刺さる。突き刺さった日本刀はそのまま爆発し、衝撃で禊は後ろへ転がっていく。
「ちょっと! 禊大丈夫? 今のは東郷?」
「いえ、私じゃないです」
正体不明の攻撃の出所を探す風と美森。友奈と樹の二人は転がってきた禊を回収する。
「いてて、今のは何?」
「ふっ! ちょろい!」
爆発の衝撃に飛ばされ混乱する禊をよそに謎の声が上から全員の耳に入る。
「え? 誰あれ?」
「新しい勇者⁉︎」
混乱する犬吠埼姉妹の声をよそに赤い装束の戦装束をはためかせて謎の勇者は己の武器を振るう。次々と新しい日本刀を出現させてはそれを適切に投げてカプリコーンにダメージを与え、瞬く間に封印の儀まで実行する。急なことに固まる禊たちを尻目に謎の少女は封印の儀を終えて御霊を吐き出させる。
「思い知れ! 私の力!」
吐き出された御霊は最後のあがきに毒ガスのようなものを吹き出し、周囲の視界を封じる。幸い、精霊のバリアによって勇者部はダメージを受けることはなかったが視界は完全に封じられていた。しかしそんな状況に臆することなく赤の少女は前へ出る。
「そんな目くらまし…。気配で見えてんのよ!」
視界の封じられた中、少女は正確に御霊の位置を探り当てて一刀のもと両断する。
「殲…滅…」
御霊を二つにされたカプリコーンはなすすべもなく、そのまま砂へと帰った。五体目のバーテックスを一気呵成に討伐した少女は振り返ると勇者部の面々の方へと振り返り、してやったりな顔のまま切り出した。
「揃いも揃ってボーッとした顔してんのね。あんた達が神樹様に選ばれた勇者ですって?」
「あの…?」
「何よちんちくりん?」
「ちんちく…!」
ちんちくりんと呼ばれ、友奈はショックを受けて固まる。一方で禊はぶつけた頭を気にしていた。
「いてて、あー、なんか腫れてる?」
「あっ! 禊先輩。頭の後ろちょっと膨らんでます。帰ったら湿布貼ります?」
「うーん、氷水の方がいいかなこれ」
「じゃあ、そうしましょう。保健室から氷もらってきますね」
ぶつけた頭を気にする禊の後頭頭を見る樹。見れば後頭部が膨らみ始めていた。そんな二人を傍目に少女は自己紹介を始めた。
「私は三好夏凜。大赦から派遣された完成型勇者よ」
「完成型 ?」
聞きなれない枕詞に夏凜以外の全員が首をかしげる。そんな皆の様子を気にせず夏凜は続ける。
「つまりあなた達は用済みってことよ。お疲れ様でしたー」
「…はい?」
「えぇー⁉︎」
突如現れた自称完成型勇者の夏凜の放った突然の爆弾発言に勇者部の声が驚きで重なる。後に残ったのは驚きで呆然とする勇者部、後頭部を手で冷やす禊、そして得意顔の夏凜出会った。
翌日、三好夏凜は讃州中学へと編入した。
「友奈と東郷と同じクラスだって」
「僕だけクラスが違うので寂しさを覚えます」
翌日の放課後、勇者部一同は部室の黒板の前へと集合していた
「編入生のフリなんてめんどくさい。でもわたしが来たからには安心ね」
「友奈さんが言うには編入のテストも満点だったとか」
「ほうほう。それはすごい」
「そうよ、すごいのよ。完成型勇者が来たからには完全勝利よ」
出されたブドウジュースを飲みながら転入して来た花凛の話を聞く。聞けば彼女の勇者システムは勇者部の実戦データを基に改良の加えられた特別性であり、援軍として大赦から派遣された勇者であるそうだ。
「それで夏凜ちゃん、ようこそ勇者部へ!」
「いきなり下の名前⁉︎ ていうか誰が勇者部に? 部員になるなんて一言も話してないじゃない」
「あれ? 夏凜ちゃん、もう勇者部に来ないの?」
「また来るわよ。監視のお役目があるからね」
「それなら部員になった方が話が早いよね」
なんだか気の抜ける二人の問答を眺める。黙って見ているのも飽きて来たのか風が口を開く。
「監視、監視ってまるで私たちがサボるみたいじゃない」
「トーシロが大きな顔すんじゃないわよ。いい? 大赦のお役目ってのはおままごとじゃ…ってあんた何してんのよー⁉︎」
風の文句に対する花凛の得意げなご高説が中断される。自身の精霊である義輝が頭丸ごと友奈の精霊である牛鬼にぱっくり美味しくいただかれていたからである。慌てて義輝のまだ食われていない部分を掴み、牛鬼から引き離す。
「なんてことしてくれるのよ。この腐れ畜生!」
「外道じゃないよ、牛鬼だよ。ちょっと食いしん坊なんだよねー」
「お腹すいたの牛鬼? よかったらタコス食べる?」
牛鬼を外道と呼ばれ、心外であると友奈が牛鬼にビーフジャーキーを与えながら抗議する。
合わせてポンチョを着込んだ禊はカバンの中からタッパーに入ったタコスを一つ取り出し、牛鬼に食すか問う。目の前に差し出されたタコスの匂いを少し嗅ぐとそのまま牛鬼は元気よくタコスを食べ始めた。
「自分の精霊の躾けもなっていないなんてやっぱりトーシローね! ていうか誰も聞かないからスルーしたけど小戸、あんたのその格好は何⁉︎」
「あぁ、これかい? これは遠い海の向こう側にあるメキシコって国の伝統衣装のポンチョって言って…」
「そんなことを聞いてんじゃないわよ! どうしてそんな格好をしているのかって聞いてるのよ」
「え? だって今日は君の歓迎会をするって風部長から聞いたから」
「なんであんた達はどいつもこいつもわたしが入部するって前提で話が進んでるのよー!」
部室に響く夏凜の絶叫。特に気にせず樹が気になったことを禊に聞く。
「禊先輩そんなのどこで売ってるんですか?」
「あぁこれ? イネスってところで売ってたんだよ。 そのうち新入部員が来た時に使おうって思って。日の目を見れて嬉しいよ」
「そのマラカスは何ですか? 見たところ降ってもならないみたいですけど」
「これかい? これもすごいんだよ」
ウキウキした様子で禊は腰につけたマラカスを軽く振る。本来であれば中の小豆などが擦れてマラカス独特の音を鳴らすはずであったが聞こえて来たのは水が揺れるあの音であった。思っていたのとは違う音が聞こえ、首をかしげる樹と風をにこやかな表情で見ながら禊はマラカスの手元を捻る。するとマラカスが半分に割れ、中からうどんと汁が姿を現わす。すかさずどこからか取り出したどんぶりでそれをキャッチする。
「どうぞ。出来立てです」
「どう見たって作り置きじゃない! てか何そのマラカス!」
「樹ちゃんの入部の時に東郷さんがマジックを披露したって聞いたから一発芸をだね…。あっ!うどん早く食べないと伸びちゃうよ?」
「いらないわよ…」
「じゃあ私が食べちゃうわね」
せっかく用意した一発芸も夏凜から不評のようで禊はしょんぼりする。うどんは風が責任を持っていただきました。味は「まあまあね。かめやのうどんには負けるわ」とのこと。
「そうだ夏凜ちゃん! これから一緒にうどん屋さん行かない?」
「必要ない。行かないわよ」
そのまま夏凜は部室を後にする。後に残されたのは夏凜の出て言った扉を見る勇者部と禊のうどんを食べる風であった。
場所は変わってかめや。讃州中学からそれほど離れていないうどん屋さんに全員いた。晩御飯のうどんを食しながら話題の中心は大赦から来た勇者夏凜であった。
「こんなに美味しんだからくればいいのに」
「頑なな人でしたね」
「フッフッフ。あーいう頑ななタイプの方が張り合いがあるってもんよ」
「張り合うの? お姉ちゃん?」
新たなメンバーの参加に不敵に笑う風。
「おかしい。絶対面白いと思ったんだけどなー」
「ちょっと厳しいと思います」
ソンブレロを膝に置き、何がいけなかったかを考えていた禊に樹の冷静なダメ出しが刺さる。
「どうやったら仲良くなれるのかな?」
友奈のそんなつぶやきも店の喧騒にかき消されて食事は進んでいく。全員が食べ終わり、それぞれが帰路につく。もういい時間なため、禊は明日の朝食と夕飯などの食材を買うためにスーパーに寄り、外に出ると見事に夕焼けの眩しい時間であった。時間短縮のため、普段は通らない海岸線の道を自転車で走る。しばらく走っていると砂浜で見知った人物が目に入る。
「あれ? 三好? こんなところで何してるんだい?」
自転車を止め、話しかけるととても面倒くさそうな顔が禊に向く。
「小戸? あんたこそこんなところで何してんのよ?」
「僕かい? 買い物帰りさ」
禊はスーパーで購入した買い物袋を自転車の荷物カゴから引っ張り上げ見せる。
「男のあんたが料理? そんなめんどくさいことよくやれるわね」
「慣れてくると意外と楽しいものだよ。体が不自由な友達がいてね。いつか退院したらご馳走するって約束したから、それまで修行さ。東郷さんとか風部長には負けるけどね」
「ふーん。まあわたしには関係ないわ。こうして勇者として鍛錬を積み重ねる方がもっと大事だもの」
「それでこんな時間まで? 大変だね」
「もう帰るところよ」
そういうと夏凜は自身の自転車に乗り走り出す。禊もそれに追随するように走り出す。
「まだなんか用? 付いてくるなんて」
「いや? 僕も帰り道こっちだから」
会話を短く切り上げ、二人は夕焼けの道を進んでいく。しばらくして二人は同じマンションの駐輪場に自転車を止めていた。そのまま一緒にエントランスに入り、一緒にエレベーターに乗る。同じ階で降りて廊下を進んでいく。
「本当にどこまで一緒についてくるのよ!」
これまで黙っていた夏凜がついにしびれを切らして叫ぶ。叫ばれた禊は先に歩いていたため振り返る。
「いや、僕の部屋がここなんだけど」
そう言って禊は一室の扉を指差す。二人の間には扉と扉の間の壁一つ分の空間が空いていた。言い換えればお隣さんであった。
「あー最近引越しのトラックが前に来てたけど君だったのか。 あっ! 少し待ってて!」
何かを思い出し急いで禊は自分の部屋にもどる。中でがたがたと物音がなり、しばらくすると慌てて禊が戻ってくる。腕の中には大きめの箱を抱えていた。
「これ引越しうどん。よかったら食べるといいよ」
「あんたね、引越し祝いって普通引っ越して来た側が贈るものよ。大体わたし料理しないからもらっても腐らせるだけだからいらないわ」
「あーそっか、逆だったかーって三好料理しないって晩御飯はこれからどうするんだい?」
間違えた贈り物をしてしまったことを指摘され禊は恥ずかしそうに頭をかくがそれ以上に料理をしないという夏凜の発言に驚きの声を上げる。
「いいのよ。これからコンビニ弁当買って来るから」
「一人暮らしの中学生がコンビニ弁当⁉︎ 青少年の何かが危ない! ちょっと上がって行きなよ」
「ちょっ! 待ちなさいよ!」
夏凜の腕を引っ張り、禊は自身の部屋に上げる。リビングにまで案内すると椅子に座らせ、先ほど持っていた引越しうどんの箱を開けて調理を開始する。
連れ込まれるような形になってしまったが禊が料理に夢中になっているのを見てしまい、何をしていいか分からず夏凜は部屋の中を眺める。部屋の中は物が少なく、まるでモデルルームのようであった。しかし殺風景な部屋の中机の上に置かれた折り紙と折り紙教本が色が浮き立つように自己主張していた。
「小戸。あんた折り紙なんて趣味あるの?」
料理をしていた禊は手元から目を離さず答える。
「それは来週の幼稚園の時ためのやつだよ。多分男の子たちのドッチボールの的になりそうだけど一応折り紙も練習してるんだよ」
「あんた達勇者部って変なことやってんのね」
「そうかい? やってみると案外楽しいよ。人のためになる事を勇んでやる。結構な事じゃないか」
「あっそう」
再び二人の間に沈黙が降りる。十分ほど経つとうどんが一人分出来上がる。黙って座っていた夏凜の前に出来立てのうどんが出される。
「どうぞ」
「…いただきます」
今日初めて会う人に何故自分が料理をご馳走になっているのか大いに疑問であったがせっかく作ってもらった好意を無為にはできず、夏凜は差し出されたうどんを食べ始める。
「…美味しい」
「でしょう?」
「ちょっ調子に乗らないで! まあまあよ。まあまあ」
「そうかい。 まあ実際東郷さんや風部長の方が美味しいとは思うよ」
自分を卑下するような言い方ではあったが禊は実ににこやかであった。キツイ口調にも笑って流す禊の態度に夏凜はどうしていいか分からずただ黙ってうどんを平らげる。
「…ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした。あぁ、どんぶりはそのままでいいよ」
カリンは荷物を背負い部屋を出る。玄関で靴を履き、扉に手をかける。半分ほど開き、振り返る。振り返った顔は照れによるものかほんのりと朱に染まっていた。
「…ありがと」
ボソリと言う小さな声であったが禊にはしっかりの届いていた。今日一日で彼女の不器用な性格を認識し始めていた禊は少し面白くなって吹き出す。
「なっ何笑ってるのよ!」
「いやちょっと面白かった。また来てよ。いつでも料理くらい出すからさ。コンビニ弁当なんて味気ないだろう?」
人の好意になれないのかまた夏凜は難しい顔をする。少し悩んで今日のようにまた勝手に作られるのかと思い。諦めのような気持ちと嬉しく思う気持ちが心の中で相反する。そして自分が嬉しく思ってしまった事がなんだか恥ずかしくなって思わず声が大きくなる。
「まあ? 気が向いたらまた来てあげるわよ!」
部屋に戻り、買っておいた煮干しの袋を開けてかじる。食べ慣れた煮干しの味が口の中で広がる。
「何なのよアイツ。今日あったばっかりのやつにわざわざ料理作ったり。勇者部のやつらもそうよ。へらへらして緊張感のない奴ら」
口では色々と言うが口元はニヤケていた。ただ一つ思い出し、スマートフォンを取り出し、大赦から送られて来たメールを開く。
From 大赦
三好夏凜、あなたの任務は勇者達の監視とお役目が滞りなく遂行されるように監督する事です。また監視の際、小戸禊については特に細心の注意を払い、もし些細な変化があるようであれば即時報告なさい。
「大赦にこんなにまで言われるなんてあんた何したのよ」
今まで投稿したものもそのうち書き直したいとか思うこの頃