樹海化の光が晴れると僕たちは樹海化した四国の中にいた。樹海化の時、隣にいた樹ちゃんを含め、友奈ちゃん、東郷さん、夏凜ちゃんがすぐ近くに召喚されていた。
約一ヶ月ぶりの樹海化に不安そうな人、勇猛果敢な人それぞれ様子は違っていたが顔は同じ方向を見ていた。樹海の端、ほぼ地平線と重なるように七つのシルエットが少しづつこちらに向かって侵攻していた。
「残り七体、全部来てるんじゃないのこれ?」
「在庫処分?」
「一ヶ月経ってる分、妙に生々しく感じますね」
「バーテックスを買う人なんているのかな?」
「友奈ちゃん、あんなの買っても置き場所がないわ」
戦いの前でも勇者部はいつもの勇者部であった。緩い空気の中、みんなの緊張感が抜けていくのを感じる。しばらくそうしていると遠くから既に自身の勇者装束に変身済みの風部長が跳んできた。
「敵さん、壁の位置ギリギリから攻めてくるみたい。みんなもそろそろ準備をお願い」
風部長が皆を取り仕切り、準備を促す。僕も変身しようとスマートフォンを取り出したところで横から樹ちゃんの笑い声が聞こえる。驚いて振り返ると友奈ちゃんが樹ちゃんの脇腹をこそぐっていた。樹ちゃんは身をくねらせてこそぐりから逃れていた。友奈ちゃんの指がなんだかいやらしく動いていたような気がしたが見なかったことにした。
「緊張しなくても大丈夫だよ、樹ちゃん。みんないるんだから」
「はい!」
樹ちゃんが一人ずつに振り返り、それの形が無言で同意する。樹の緊張もほぐれ、頃合いと見た風部長が号令を出す。
「それじゃあ、勇者部変身!」
「はい!」
みんなの声が重なり、全員が戦う意思を示して、スマートフォンの画面を操作する。
熱が体を通り抜ける。刺青のような黒い刻印が体の表面を走る。それを隠すように蒲葡の騎士甲冑を模した鎧が僕の体を包み込んで勇者装束が完成する。
変身したことにより、上昇した身体能力で皆で高いところに登る。開けた高いところに来たことによりよりバーテックスたちがはっきりと見える。通常のサイズのバーテックスが六体、明らかに大きいものが一体樹海の壁のところギリギリに鎮座していた。
「あんなに大きいのが並んでると圧巻ですね」
「でもあれを殲滅すれば全部終わりでしょ?」
「全部倒して、無事に早く帰りたいね」
これまで戦って来たバーテックスの残り、七体が勢揃いしたバーテックスの軍団が並ぶ光景はそれだけで重圧感を放ち、美森は素直な感想を漏らしていた。位置も通り自信満々な夏凜は前向きな事を述べ、禊もそれに同意した。
「それじゃあ、戦う前にあれ、いっときますか!」
「あれって何よ?」
風が何かしらを提案し、皆に呼びかける。夏凜は一人、風の言うあれが何を意味するのか、いまいちピンと来ていないようであった。風の言いたい事を瞬時に理解していた他は円形に並び、肩を組んでいく。そして一人分の空きを作り、端となった友奈と禊が夏凜に向けて手招きする。
「えっ、円陣?」
「ほら、夏凜。あんたも入りなさいよ」
「ちょっ、それいる?」
「まあ、入りなよ。これで最後なんだからさ」
「まったく、なんで私までやんなきゃいけないのよ」
「そんな事言っちゃって〜。本当は嬉しいくせに〜」
「そんな事無いわよ! しょうがないから入ってあげるのよ」
ニヤニヤしながら夏凜をからかう風と怒りながらも円陣に入る夏凜。全員で円陣を組み終えると途端に風は真面目な顔に変わる。
「あんた達、無事に生きて帰ったら好きなもの奢ってあげるわ」
「ようし、帰ったらいっぱい美味しいもの食べよう!」
「言われなくても殲滅するわ」
「私も叶えたい夢があるから」
「頑張ってみんなを、国を守りましょう」
「僕も帰りたい場所があるんだ」
円陣を組み、それぞれが自分を鼓舞していく。皆が団結していくのを確かに感じる。
「ようし! 勇者部ファイトー!」
「オー!」
円陣を組み終え、勇者部はバーテックス達に向き合う。一番早く動いたのは夏凜であった。
「三好夏凜、一番槍!」
「小戸禊、二番槍!」
身軽な夏凜が飛び出し、それに禊が追随する。まず最初に接敵したのは突出して前進していたアリエス・バーテックスであった。出会い頭に羊に似た頭部に辻斬りのごとく、一閃の斬撃をお見舞いする。続けて追随していた禊が夏凜の作った切創をさらに開くように光刃で切りつける。頭部を完全に両断されたアリエスはバランスを崩してその場に崩れる。
「封印開始! 合わせなさい、禊」
「分かった!」
夏凜は足元に片方の日本刀を突き刺し、封印の儀を開始する。封印の儀の開始とともに花が舞い始め、アリエスの尾から見慣れた形状の御霊が飛び出し抵抗のために高速で回転を始める。そこに禊が飛び出し、光刃を両手で逆手にとって御霊に突き刺す。貫通するまでには至らなかったが御霊の回転は大幅に遅くなる。
「これなら殴れる!」
回転が触れても吹き飛ばされない程度には遅くなり、そこに友奈のパンチが突き刺さる。衝撃によって完全に動きが停止したところに美森の狙撃は入り、御霊の中心を撃ち抜く。撃ち抜かれた御霊は崩れ始め、倒した事を示していた。
「よし! あんた達ナイスコンビネーション!」
息のあった連携に風が思わずガッツポーズをする。アリエスを倒したところで少し気の抜けた四人を押しつぶすように牡牛座のタウラス・バーテックスが自身の巨体を用いたプレスを行った。急いで四人はいた位置から飛び、間一髪のところで巨体を避ける。禊はさらに奥から二対のバーテックス、天秤のようなライブラ・バーテックスと水風船をくっつけたようなアクエリアス・バーテックスが迫って来ているのを確認した。
「あっちの二体、天秤みたいな奴は任せて!」
タウラスとアクエリアスを他に任せて、禊は飛び出す。禊が接近するとライブラは自身を回転し始め、天秤のようなパーツが風を巻き込んで、小規模の台風と化す。突然発生した強風によって空中にいた禊は抵抗できず、吹き飛ばされる。そこで自身を追いかけていた遠隔操作の移動砲台を足場にして前方に飛ぶ。途中、移動砲台を使ったサーフィンを織り交ぜつつ、移動砲台を足場に何とかライブラの足元にまで移動する。
「まずはその回転を止める」
手首から伸びていたリボンを最大限まで伸ばし、回転するライブラに絡める。絡められたリボンはちぎれる事なく、際限なく伸びていく。絡められ、巻かれていくライブラ、数十回転するうちにリボンに巻かれてライブラ自身が半分ほど隠れる。そこまでリボンが絡まった事でライブラの回転が止まる。しかしリボンが手首から伸びている事、あまりにもリボンが長く、巻き取れない事から禊もそれ以上は動けずにいた。誰かにとどめをお願いしようと開いた口から声が出ることはなかった。突如、巨大な金の音が鳴り響いた。響く音はゆうにジェット機のエンジン音よりも巨大な音を鳴らす。その単純な攻撃はしかしそれ故に勇者達全員の動きを封じる。更に後ろの方では地中に潜航することのできる魚型のピスケス・バーテックスが射線が通せない美森を翻弄していた。
「音はみんなを幸せにするもの。そんな音は!」
歌手になりたいと夢見る樹にとって、音によって相手を苦しめるタウラスの攻撃は到底許せないものであった。自身の武器であるワイヤーをタウラスの頂上にある鐘に伸ばし、音を止める。
「ナイス、樹。まずはお前からー!」
「私はこっち!」
樹がタウラスの鐘を止めたことにより、自由になった風は自身の大剣を巨大化させてアクエリアスを横一文字に切り捨てる。さらに夏凜も大きく跳躍し、落下の慣性を利用して禊が固定していたライブラを切りつけて半壊させた。ところがアクエリアスとライブラは半壊したままの状態で、樹に固定化されていたタウラスは樹を引っ張りながら、今まで静観していたレオ・バーテックスの元へと集う。
「なにあれ? 何しようって言うのよ」
「退却なんて今までなかった行動。何かくる!」
初めて見るバーテックスたちの行動に風が疑問の声を出す。夏凜は異常なバーテックスの行動に何かしらバーテックス側にも策がある事を察する。手近に集まった三体のバーテックスはレオの生み出した小型の太陽のような火球に飲み込まれる。三体のバーテックスを飲み込んでレオの体に変化が起こる。
「凄く大きいよ、お姉ちゃん」
「合体なんて普通、正義の味方の特権でしょうに」
元々、巨大であったレオであったが三体のバーテックスを取り込んだ事でさらに膨張、おおよそ倍の大きさに変化する。更に取り込んだ三体のバーテックスの特徴が各部に現れ、レオが合体した事を視覚的に表していた。
「三体取り込んで大きくなったなら、逆に言えば四体まとめて殲滅できるってことよ!」
「そういう前向きな発言は見習うべきだね」
むしろ楽になったと言いたげな夏凜に、禊はその前向きな姿勢に関心した。
巨大化したレオ、レオ・スタークラスターは背後の光背のようなパーツを開くように作動させると複数の小型火球を展開し、人間大の火球を無数に発生させ、弾丸として発射する。火球に一つ一つがかつてのヴァルゴの弾の様に追尾機能を有し、確実に勇者たちを制圧していた。各々の武器で迫る火球を打ち払うが数の暴力に対処が段々と間に合わなくなり、一人、また一人と吹き飛ばされていく。禊も移動砲台と光刃を駆使して火球を打ち払うがレオの近くにいたこともあって火球が集中し、ついに火球が命中する。火球が殺到し、周囲の樹海ごと禊は吹き飛ばされ、地面に衝突した衝撃によって気を失う。
次に禊が気絶から復帰した時、視界いっぱいに太陽があった。驚いて飛び起き、離れて見るとレオの放つ火球であることが見て分かった。急いで神樹の方へ向かって飛び、他の勇者に合流を図る。合流したところで風と樹、美森の勇者装束が神聖な巫女服連想させる物に変わっているのを見つけた。どうやら禊が気を失っている間に満開を行い、強力な力で三体のバーテックスを撃破したらしい。しかし強化された満開の力でもレオの放つ、自身よりも大きな超巨大火球には敵わず、押されていく。放たれた大火球は大剣を盾代わりにした風に阻まられながらも、ゆっくりと神樹に向かって進んで行く。このままではレオの攻撃によって神樹が破壊されてしまう。火球に焼かれつつ、吹き飛ばされた風の絶叫が樹海内にこだまする。
「誰か、こいつを倒して!」
「このままじゃ神樹様が!」
風と樹の叫びを聞いて禊は飛び出す。頭の冷静な部分が自身の今の装備ではあの火球にはどうしようもない事を理解する。ならば今できることは一つしかない。迷わず力を行使する。
「満開!」
天と地から光が伸びる。伸びた光を通して莫大な力が禊を包み込む。纏っていた蒲葡の装束が聖職者を思わせる装束に形を変え、そしてその変化を上書きするように膨らみ弾ける。弾け飛んだ装束は再度禊に纏わりつき、新たなる装束に形を変える。再度纏われた装束は異様なものであった。以前の騎士甲冑を思わせる蒲葡ではなく、また変化しようとしていた聖職者のような物でもなく、白色の鎧が禊の体を包んでいた。それまで着ていた角張った騎士の甲冑ではなく、丸みを帯びた生物的なシルエットの装束であった。
空中で新たなる装束に変身した禊は黙って右の掌を迫る巨大火球に向ける。掌の先から小さな黒い球体が発生する。生まれた黒い球体は指数関数的に大きくなり、あっという間に迫っていたレオの火球と同等の大きさに成長する。発生した黒い球体は迫っていた火球を飲み込み、完全に飲み込むと次第にそのサイズをしぼませていく。次第に小さくなり、黒い球体は消滅する。後に残っていたのは空中の白い装束の禊一人であった。
火球を飲みこみ、消した禊は体に不思議と力が満ちるのを感じる。体を満ちる力は溢れかえり、背中に連結された、かつての移動砲台を元にしたのだろう翼のようなパーツから余分なものが放出されていくのを感じる。
力を振るうのが楽しい。禊の心を占めていた感情を一言で述べればその様なものであった。背中の翼から黒い炎が吹き出し、加速器として機能する。百メートル弱はあった距離は一瞬の内に詰められ、禊はレオに肉薄する。
「消えろ、滅びろ!」
心の中を敵への憎悪が埋める。自然と言葉の語気が荒み、禊は荒々しくレオを殴りつける。しかし複数の同胞を取り込み、強化されたレオの表面には傷が付いていなかった。
「死ぬまで攻撃し続ければいいことだ!」
背中の翼が開き、作動する。先程、掌から発生した黒い球体が今度は掌からではなく、唐突に何もなかった空間に幾つも発生する。その全てがレオの一部に触れる様に発生する。発生した黒い球体は出現と消滅を繰り返し、球体が消えた位置にあったレオの体はくり抜かれた様にその部位を消滅させていた。
唐突に自身の体を穴だらけにした禊を脅威とみなしたレオはレーザー状に火球を放ち、禊を焼き払う。自身に向かうレーザーを確認した禊は腕を組み、防御姿勢を構える。レーザーは禊を飲み込み、吹き飛ばしていく。レーザーが晴れると端々が焦げた禊が現れる。構えを解き、レオに向けて笑みをこぼす。視界に入ったレオは再度、神樹ごと禊を焼きはらおうと先程の火球よりも、更に自身が隠れる様なふた回りも大きい火球を生み出す。
本来であれば間違いなく危機的状況であるはずが、禊は心の底から楽しいと獰猛な笑みを浮かべる。頭の冷静な部分が状況に違和感を覚える。何故自分はこんなにもこの状況を楽しめているのか。しかしそんな思考も敵を攻撃しようとする意志にかき消される。後に残ったのは敵を滅ぼさんとする憎悪のみ。
「力比べか、いいだろう!」
両手を上げて禊も黒い球体を作り始める。周囲の空間を飲み込みながら大きくなっていく。迫る火球に黒い球体がぶつかり合う。初め拮抗していた二つの衝突は不意に黒い球体が火球を飲み込む事で決着する。炎を纏った黒い球体はそのままレオを飲み込む。黒い球体の内側に向かう収縮の力と火球の熱量の両方がレオを襲う。全体の大部分がズタズタにされ、ついにレオの体が崩壊する。しかし周囲を探しても出てくるはずの御霊が見当たらない。
周囲をキョロキョロと見ていた禊に接近する影が二つあった。
「禊くん、スゴイ! あの大っきいやつ一人で倒しちゃった」
「気をつけて友奈ちゃん、まだ御霊を倒せてないわ」
背後から声をかけられ、接近に気づいていなかった禊は思わず、反射的に黒い球体で攻撃しそうになり、背後にいたのが友奈と美森であることに気づいて慌てて手を引っ込める。
「わわっ! 禊くん、私たちだよ」
「すまない、でも御霊はどこに?」
周囲を見ても御霊は見当たらず、不意に上を見た美森は大きく目を開き絶句する。上空のはるか先、宇宙空間にあの四角錐の御霊が浮いているのを発見する。
「友奈ちゃん、あんなところに」
「わぁ! あんなに大きいよ!」
宇宙空間にある事と遠近法を加味しても、浮いている御霊の大きさはそれまで見てきたどの御霊をも超える大きさであった。
「でも、勇者ならこんなことで諦めない!」
「そうね、友奈ちゃん。乗って、今の私なら友奈ちゃんをあそこまで送れるわ」
例え相手がどれだけ強大でも結城友奈は諦めない。それは共に戦う美森も同じであった。二人のやりとりを見ていた禊もうなづく。
「先に言ってる」
それだけ言うと禊は背の翼を大きく開き、加速器として使用する。翼から黒い炎が吹き出し、禊を押し出す。加速し続ける禊はグングンを高度を上げて、宇宙に鎮座する御霊が目前という場所にまで出る。
接近した禊に気づいたのか、御霊は抵抗にブロック状に切り離した自身の一部を弾丸の様に射出する。あれ一つ一つが御霊なのか、判別のつかない禊は無数に発生させた黒い球体で潰していく。同時に展開した球体は数十に登るがその攻撃は正確さに欠け、幾つかの撃ち漏らしが背後の地球に向かって落ちていく。
「クソっ! 正確には当てられないか」
撃ち漏らした御霊の一部を追いかけて背後に向かおうとした所で禊は後ろから来ていた美森の満開特性の浮遊砲台に乗った二人を見つける。美森は自身の砲台を巧みに操作し、禊の撃ち漏らした御霊の一部を正確に撃ち抜いていく。
「ここは私が受け持つわ。二人は御霊の方を!」
「よし、捕まれ、友奈」
落下していく無数の欠片を撃ち抜いていく美森の砲台に乗っていた友奈の手を掴み、禊は御霊に向かって飛ぶ。あと少しという距離のところで更に御霊の抵抗は激しくなっていく。禊は手を掴んでいた友奈を遠心力を活かしつつ思いっきり御霊に向かって投げる。
「行け! 任せた」
「任された!」
投げられ、御霊に向かって加速する友奈。目と鼻の先という距離のところで友奈は力強く宣言する。
「満開!」
満開ゲージが消費され、地の神の加護が樹海から伸びる。神樹の力に包まれた友奈は光が治ると巨大な日本の腕の満開特性を纏っていた。自身の腕と連動する巨大の腕は力強く、御霊を打つ。しかし大きく御霊に傷をつけることには成功したが全体を破壊することには至らない。このままでは時間切れになるのではと不安が友奈の胸をよぎる。
そこで友奈を避けるように黒い球体が御霊の表面を大きく抉る。驚き振り返るとこちらに掌を向けた禊がいた。
戦いながら禊は自身に満ちていた力がもう残り少ないことを感覚的に理解していた。最後に残っている力を込められるだけ込めて黒い球体を放つ。禊の意図を理解した友奈は禊にうなづいて見せ、強大な二本の腕で御霊を掘り進めるように殴りつけていく。星の重力に引き寄せられ、禊は御霊が内側から崩壊していくのを確認して地球に向かって落ちていく。自身の満開が解除されていくのを感じながら、何処からかこちらを観察する視線を感じる。周囲を確認するが成層圏の中で禊以外には何もなく、気持ち悪さを覚えながら禊の意識は落ちた。
「樹! 禊のやつが落ちて来たわよ!」
「はい! まずは禊先輩から受け止めてみせます」
満開を展開した樹は、幾つものワイヤーを網状に展開し、禊をキャッチしようとする。幾つかの網を貫通しながら禊は減速していく。五枚目の網を破る頃には速度は落ち着き、頃合いと見た夏凜は空中で禊を抱えてキャッチする。
「ようし! 捕まえたわ。って禊?」
捕まえた禊が力なく腕を下ろして目を閉じていることに気づいた夏凜は禊に呼びかける。しかし返事は無く、禊は目を閉じていた。胸に耳を当て、鼓動があること確認した夏凜は安堵の息を漏らす。
「まったく、最後で気を失って落ちてくるなんて締まらないヤツね」
憎まれ口とは裏腹に夏凜の口角は上がっていた。無事に禊が帰って来たことに安堵した夏凜は禊を背に抱えつつ置いてきた樹の方へ向かう。たどり着くと後からやって来た友奈と三森を受け止めたと所であったようで頑張った樹は安堵の表情で地面に転がっていた。全てのバーテックスが撃破された事で樹海化が解除され、全員学校の屋上の社の近くに戻された。全員の無事を確認した夏凜のスマートフォンに退社からの着信が鳴る。
「こちら三好夏凜、負傷者五名、支給救急班の手配をお願いします。なお、今回の戦いで十二体全てのバーテックスの殲滅に成功しました!」
大きな戦いが終わり、夏凜の胸の中に達成感が満ちる。戦いが終わって気が抜けていたためだろうか、普段なら気付くであろう小さな異変を見逃した。
制服で少し隠れた禊の首元、火傷のような呪印が蛇のように肌を走っていた。動く刻印は一つの形を禊の鎖骨あたりに刻むと動かなくなった。鏡と炎を表す刻印は深々と禊に刻まれていた。