現在、春休み。
全寮制であるこの学園だが、在学している殆どの生徒は里帰りをする
しかしここに残っている生徒もいるので、カウンセラー室は毎日開けていた。
とは言え来客は少ない。
いつものことだ。
そもそもこのカウンセラー室は校舎や学生寮とは離れた位置に設けられている。
故にここに来る者は少ないのだ。
だが、常連が毎日のように来るので暇ではなかった。
「失礼します」
入って来たのは三つ編みメガネっ子の真面目そうな少女である。
名前は布仏 虚。
三年生で生徒会役員だ。
彼女はよくここに来る。
しかし来客は来客であるが、彼女は悩みを相談しに来たわけではない。
「すみませんがお嬢様……生徒会長がここに来ていませんか?」
「来てませんよ」
そう答えると虚さんはハァっと溜息をついた。
ここに来る彼女はいつもが決まって今のように質問する。
「苦労しますね」
「えぇ……どうすればいいでしょうか?」
「小型のGPSを体内にこっそり埋め込めばいいのでは?」
「成るほど。確かにその手なら……」
冗談のつもりなのだが本気にさせてしまったようだ。
だが、それだけでその人には手を焼かされているのが解る。
「それでは失礼しました」
虚さんが出て行った後、数秒後に天井を見上げた。
「そろそろ降りてきたらどうですか?」
僕の言葉に反応し、隠れていた逃走犯は姿を表した。
その光景はまるで忍者。
だがその例えは的を射抜いている。
「やっぱり気がついていたのね」
「当然ですよ……一応、副業絡みで気配察知くらいは基本中の基本ですから」
青い髪に赤い瞳の美少女。
彼女こそが先程虚さんが探していた生徒会長こと更識 楯無である。
「ジュース、貰うわよ」
「言う前に冷蔵庫を開けないでください」
楯無さんは冷蔵庫から勝手にオレンジジュースを取り出して飲む。
その姿はまるで自分の部屋にいるかのようだった。
「逃げ出すのはいいですが、結局問題を先送りしているんだけじゃないんですか?そう言うのはあまりよくありませんよ?」
「ちょっとした息抜きよ」
「早めに終わらせてゆっくりするほうがいいと思います。鬼ごっこしている時間が持ったないでしょ?それにこんなに遠くまで逃げなくてもいいでしょ?」
「あら、貴方は美少女が来なくなってもいいのかしら?」
「問題ありません。ってなわけで早速通報します」
携帯で虚さんに伝えようとしたが、その前に楯無さんに携帯電話を奪われる。
いつものことだ。
しかし、いつもと違うのは表情だった。
「もう少し話に付き合って」
彼女は悩みを相談に来た客だった。
と言うか彼女は常連である。
決まって内容は同じ。
「妹さんの話ですね?」
楯無さんは黙りながらコクリと頷く。
彼女は妹である更識 簪と仲が悪くなっていた。
簪さんに対して言った言葉が原因らしい。
「先程も言った通り、問題を先送りにしているよりも早めに蹴りをつけたほうがいいんですよ?」
「解ってる……けど、簪ちゃんは私を避けるようになったし……だったらこのまま……」
このような家庭内の相談は対処に困る。
何せ部外者が口を出していいレベルを軽く超えているからだ。
「貴女の家庭の事情は知っています。はっきり言って遠ざけた方が将来的にも良い判断と言えます。しかし、今の貴女の態度ではどちらにしても変わらない」
僕は冷蔵庫から缶コーヒーを出して飲み始めた。
時に意味はない。
ただ喉が渇いただけのことだ
「いいですか?もし仮に簪さんと要人のどちらか一方しか助けられないとしたらどうしますか?」
「そ、それは……両方助けるわ」
「無理ですね。迷いなく答えられなければどちらも助かりません」
空になった缶をゴミ箱に入れ、僕は彼女の顔を見ながら真剣な眼差しで話を続けた。
「先代はともかく先々代は非道な方と聞いています。例え親兄弟を犠牲にしても任務を全うする覚悟を持っていたとか……貴女にその覚悟はありますか?」
「……無いわ。だって簪ちゃんを失いたくなもの」
「なら楯無の名を返上することを勧めます」
更識家もこれで終わりかな?
まあ同じような人が多くいるから困らないちゃ困らないだろう。
「それから一つ言っておきますが、簪さんは貴女の事を避けているならなんでこの学園に入学したんですか?」
簪さんは今年から嫌っているはずの姉と同じ学び舎に入学する。
それは以前に楯無さんから聞いた話だ。
「確か日本の代表候補生らしいですね。わざわざ候補生になって嫌いな姉のいる学校に入るなんて、まるで姉を超えたいとか見返してやるとか思っているんでしょうかね?そしてその先の……」
「見つけましたよ、お嬢様」
秘密裏に呼んでいた虚さんが迎えに来た。
タイミングは悪いが、この相談はこれで終わりだ。
「ちょっと待って!そ、その先のってなに?」
「それは自分で考えて下さい。あ、ちなみに明日から副業で世界旅行に行ってきます。お土産をお楽しみに」
「そんなことより続きを!」
「こちらの続きが先ですから」
楯無さんは虚さんに連れられて去っていく。
するとカウンセラールームは静かになった。
「やれやれ、妹や弟を持つ姉ってのはどうもブラコンやシスコンが多いみたいですね……」
とある知人二人を連想する。
まあ僕も仮に妹がいたらそうなっていたかもね。
「さて、更識家の分まで頑張りますかね」
僕は世界旅行という名の裏稼業の支度に取り掛かった。
その日、楯無は名を返上して元の名である刀奈に戻る。
こうなることは予想していた楯無……刀奈の父はこうボヤいたそうだ。
「彼が養子に来れば安泰なのにな……」
と
仕事の行き帰りに書いています。
感想や誤字報告などよろしくお願いします。