13王とはHLで最も厄介で、そして面倒くさい存在のことだ。彼等は何かしらの分野において、既知の領域を遥かに超えた才能や力を持っている……だけではない。それを壊れた倫理観だの螺子の外れた信念の下に惜しみ無く振るい混沌を撒き散らす、世界有数の迷惑な存在である。
「それを忘れていた度胸は褒める」
「えっ、ありがとうございます!」
「違う」
「えっ」
扉を破壊して迫り来る触手を感知した瞬間、コルネリウスはミヨンを抱えて後方へと跳躍。とはいえ彼女は人狼であるから、運ばれる途中で存在を希釈してコルネリウスの腕をすり抜け、そのまま触手と壁もすり抜けて安全地帯へ。
手の空いたコルネリウスはシュラハトシュベールトを構え直し、扉の残骸を隔てた向こう側、寝室から居間へと這い出て来た異形を見やる。触手が多すぎてイソギンチャクの親戚にしか見えないそれ。犠牲者のものであろう血や衣服が一箇所に集中しているあたり、そこが口なのであろう。
「何でこんなもんがいるのか、これが何をしたのかは一先ず置いておこう。関わってるのは誰だ? こいつの作りだけ見れば『堕落王』か『悔恨王』、あるいは『偏執王』だろうが……」
「すいません。『悔恨王』は違うらしいってことしか……」
「それが正しいなら、個人的な予想はアリギュラの奴だな。フェムトの仕業にしちゃ派手さや演出が足りないし、このマンションに奴が興味を持つような存在がいたとも思えん」
壁から頭だけ出しているミヨンと会話しつつ、振るわれる触手を切り払うコルネリウス。彼は戦いつつも、眼前の異形を観察を止めない。13王が関わる案件において、相手が誰か知らないというのは致命的なのだ。
生物と無機物の中間のような触手は、十中八九魔術や異常科学の産物だろう。居間や寝室の壁には大穴が空いており、残った壁にも木の根のように触手が張り巡らされている。この分では隣室やその先の住人まで犠牲となっているかもしれない。
「これ、どうしましょう。二人で倒します?」
「俺が抑えておく。ミヨンは他にもこいつがいないか探ってくれ。本体や司令塔らしき存在がいたら、それが最優先」
「了解しました。でもお気をつけて!」
ミヨンが壁の中へ消えれば、室内に残るのはコルネリウスと触手のみ。触手が攻め、コルネリウスが防ぐ、ある意味単調な流れが暫しの間続く。
だが演舞でもなし、いつまでもそれを続ける意味はない。コルネリウスは少し踏み込んで大量の触手を切り飛ばすと同時、『門』からダガーナイフを取り出す。小規模な爆発の魔術が仕掛けられているそれを、触手を切り飛ばして開いた隙間を塗って触手の本体へと投擲。本体の口近くに突き刺さったナイフは、一瞬の後に起爆し轟音と粉塵を撒き散らす。
あくまで小手調べ。これで仕留めたと思っていないコルネリウスは、血を用いた索敵で粉塵の中にあっても十分な情報を得ている。果たして触手はその動きを止めておらず、それどころか今まで以上に激しい動きと速度で手足を伸ばし始めた。ただし、コルネリウスのいない方向に。
壁の中から、あるいは背後から攻撃するつもりであろうか。先程の爆発でも触手にダメージらしいダメージは見られない。その耐久性も警戒しつつ攻撃の機会を伺うコルネリウスだったが、触手は一向に攻めて来る様子がなく、索敵にもバックアタックの気配は感じられなかった。
では触手は何処へと伸ばされたのか。その答えは、膠着状態に飽いたコルネリウスが攻撃に転じようとしたちょうどその時にやってきた。
「コルネリウスさん! ここと、上下の階は住人全滅してます! あと今凄い勢いで触手が死体を引き寄せて――」
「索敵ありがとう。……しかしまぁ、このなりで保存食の概念があるとは。下手な薬中より頭いいんじゃないか?」
再度壁から現れたミヨンが見たものは、集めた死体を一つではなかった口で同時に貪り食う触手の本体。そして、食べれば食べるだけ膨れ上がる身体であった、
「卵まで産んでるとは随分凝った作りだったな」
「うう、あの光景夢に出そうですよ……」
ダメージを受けては食事を、そして受けたダメージ以上の回復を繰り返す触手。本来なら被害者を増やしつつ、ずるずると長引くであろう案件だ。だが幸いにもコルネリウスの攻撃力が足り、触手は繁殖を終えていなかった。仕事や遊びで長期不在がちな住人の多い高級マンションだったことも、短時間での戦闘終了の一因であろう。
しかし二人はここに化物退治に来た訳ではない。コルネリウスはランドルナーザの経営者の身柄と、彼が持つであろう裏帳簿など更なる悪事の証拠。ミヨンは13王との接触の真偽を求めているのだ。
本体が死ぬと同時に壊死した触手を掻き分け、部屋を物色する二人。だが彼等は目的のものを見つけることが出来なかった。あったのはランドルナーザの経営者を脅すか始末しに来て、予定外の化物に食われた裏稼業連中の得物と服の切れ端ぐらいである。
「この際ガラだけでもいいんだが、下手すりゃさっきのあれに消化済だ。お手上げだな!」
「あ、諦めないでくださいよー!」
「いやもういいだろ……俺は確保済の証拠だけでも犯罪は証明出来るので依頼達成。お前は対象が何かしらの形で13王と関わりがあったとわかった。数日かけてここの検分をする警察以外は残業も無いし、みんなハッピーだ」
これ以上の調査は歩く、どころか座ってるだけで世界を滅ぼしかねない奇人変人共と関わることと同意だ。明らかにやる気を失ったコルネリウスに対し、ミヨンは不満げに食い下がる。
「うー、でももう少しはっきりとした証拠が欲しいというか。先輩達みたいにこう、敏腕なところを発揮したいんですけど」
「触手は魔術だけでなく、生体工学なんかも使われてた。技術の方向性から見てアリギュラの所業です、で十分だろうに」
「その偏執王さんの目的は何か、とか……」
「命がいくつあっても足りん。そういうのはライブラにでも任せりゃいいんだ。それに、追うにしても何の痕跡も無いんだぞ」
打つ手なしとばかりに両手を上げるコルネリウスだが、その言葉は真実ではない。彼の血に関する飛び抜けた把握能力は、この現場が"化物によって"作り出されたのが半日程前だということを伝えていた。そしてあと数時間以内であれば、元凶であろう人物に付着した血液を、魔術を用いて辿れるということも。
だがコルネリウスが言った通り、13王と関わることに百害あって一利無し。彼が本来の力でもって当たっても勝てるかわからない、どころか死に近い状況に追いやられかねない存在なのだ。必要もないのに、自身の力を隠しながら戦うなど罰ゲームどころではないだろう。
故に彼はでもでもだってと諦めないミヨンを振り切って帰ろうとしたのだが、そこに立ち塞がる男が一人。トレンチコートに左目を隠す黒髪。そして目付きの悪い彼はそう、HLPD所属のダニエル・ロウ警部補であった。
「おっと、そうは問屋がおろさねぇぞ便利屋さんよ」
「戦闘が終わった直後とは、官憲様らしいお早いお着きで。だが今回ばかりは帰るぞ、これは明らかに厄ネタだ」
「んなこたぁわかってる。下手すりゃこの街が滅ぶってこともだ」
「いつものことだろ。大丈夫誰かがなんとかしてくれる。人類を信じろ」
だがロウ警部補は、廊下を封鎖するように壁に付けた片足を下ろすことはない。コルネリウスを帰す気がない、どころか何かやらせようとしていることは明らかであった。コルネリウスは天を仰いで不運を嘆いてから、持っていた大剣を『門』へと収納する。
「あんたがどうして今ここにいるかは知らんがな」
「そこの嬢ちゃん経由だぞ」
振り返ったコルネリウスの目が捉えたのは、壁に逃げ込むミヨンの足だけであった。
「……まぁ、ともかくだ。追跡しようがないだろ」
「嘘だな」
あっさりと断言するロウ。片方だけ覗くその目は、冗談を言っているようには見えない。
「HLの神々に誓うよ」
「なお信頼出来ねぇじゃねぇか……お前がたまにヴェネーノと遊んでる時の様子を見りゃ、この現場からでも追う方法ぐらいあるだろ」
それに、とロウは声を潜めて続ける。
「癪だが教えてやる。ここだけの話、事が起きる前に打つ手がねぇ」
「おいやめろよ。俺は宗教上の理由で、今すぐEUへの旅券を取りに行く必要がある」
「逃げんなアホ。……だからお前みたいなフリーランスでも、使えるなら使わなきゃならんのだ。別に13王を止めろって訳じゃねぇ。誰が、何をするかだけでいいんだ」
つまりは命がけだ。コルネリウスは顔をしかめるが、ロウがこの状況でこういった提案をすることの意味と深刻さは理解している。本気で断るなら、見逃されるということも。何だかんだで、警察では一番付き合いが長い相手だ。
「報酬は」
「表彰状でどうだ。おい待て、ポリスーツ共がまた壊滅したから金ねぇんだよ察せ」
「ノーギャラで人を使おうとする公権力など街ごと滅べ」
「この前ラーメン奢ってやっただろ!」
「お前が食いきれなくて店主に睨まれた分だろうが!」
「待ちたまえ。報酬は我々が、この場で払おう」
狭い廊下で、金について押し問答する男二人。そんな醜い争いを止めたのは、白いスーツを嫌味なく着こなした男であった。コルネリウスは男の立ち振舞いから、警察のそれとは異なる戦闘訓練の跡を感じ取る。それも普通の軍人というより、特殊部隊系の。
「貴方は?」
「あっ、この人はデリミド次長です!」
会話を聞いていたのだろう。コルネリウスの疑問に対し、壁から現れたミヨンが手で男を示しながら紹介する。もっとも当のデリミドはそれを肯定するでも否定するでもなく、ミヨンを叱り始めたが。
「部外者に許可なく名と肩書を教えるんじゃない! 何度言ってもわからんな、お前は!」
「いやぁ、それほどでも……」
「褒めとらん!」
一通り当然の注意を行ってから、デリミドはコルネリウスの視線を感じて咳払いをひとつ。そして彼へと向き直る。
「失礼、見苦しいところをお見せした。先程も言ったが、報酬は我々が払う。振込元は実際には存在しない組織であるが、そのあたりの事情は察してもらえるはずだ」
「額面は……あー、悲しいことに十分だな」
デリミドの持つ端末に表示された数字を見て、コルネリウスは残念そうに呟く。同じくそれを見たロウも嫌そうな顔をしていたが。
「ちっ、金のあるところはいいな。おいコルネリウス、税金払えよ」
「非課税だろくたばれ」
「コルネリウスさーん、本当にこのあたりなんですかー?」
「貰うものは貰ってるんだ。仕事はちゃんとやる」
「いや、疑ってる訳じゃないですけど……」
懐中電灯の光が照らすのは、車、車、また車。右を見ても左を見ても、見えるのは車の列ばかりである。ここはHL中心部である『永遠の虚』に程近い、サウスリム地区の巨大地下駐車場。訳ありや遺棄された車両が大量に放置された、別名車の墓場である。一方でそれを売り捌く連中や、トランクに詰められた新鮮な何かを求める連中からは宝の山扱いされているが。
地下だというのにろくに照明も無いそこを、二人は懐中電灯片手に歩いていた。もっともコルネリウスは吸血鬼故に暗闇を苦にしないのだが、それを言う訳にはいかない。ちなみにミヨンも人狼の力を応用することで暗中でも視界が確保できるため、高性能かつ高価なそれは完全に無駄な装備であった。
「でも13王がなんで管理放棄気味の駐車場なんかにいるんですか?」
「知らん。少なくとも、あのマンションから追ってる奴はここにいる。もしそれが13王じゃなかったとしても、何かしら知ってるだろう」
手元で懐中電灯を弄ぶコルネリウスとしては、13王などいないに越したことはない。その上で13王が何をしてるか、断片的にでも知っている者が見つかれば万々歳である。欲を言えばそも13王など関わっていなかったという結果が一番であるが、期待は裏切られるものだと彼は知っていた。
この場にいるのがたった二人なのもそのせいだ。戦闘が長引いて『夜』になることを危惧したコルネリウスの事情もあるが、13王相手では機動警察など弾除けにもならない。結果として万一の際も離脱出来る可能性の高いミヨン一人が、補佐役兼お目付け役となっている。
「そっちの上司にも伝えたが、俺は極力夜には働かないことにしてるんだ。さっさと仕事済ませて帰って飲んで寝る」
「いいなぁ……自分これ終わっても報告書書かないといけないんですよ」
「始末書が無いだけ優しい職場だと思うが……」
緊張感の無い会話をしながら、地下駐車場を進む二人。コルネリウスが吸血鬼の力と併用している探知の魔術は、時間が経っていることもあり大まかな場所しかわからない。夜であればまた違うのだが、力の落ちる昼の内はこのだだっ広い場所を隅から隅まで探さねばならぬのだ。おまけにエレベーターが停止して久しいようで、階層移動すら徒歩である。まぁ状況が状況のため、仮に動いていても危険で使えないのだが。
大雑把ではあるがこの階層の調査を追えたコルネリウス達は、地下四階へと続くスロープを下りていく。所々穴の空いたコンクリートの傾斜を踏みしめ、平らな地面へ。そこでまた同じような車列を眺めることになるのだと、些かげんなりしながら持ち上げた懐中電灯は、しかし一台の車も照らすことはなかった。あるのは等間隔に設置された車止めと柱のみだ。
「これは、撤去済み……とか?」
「やるなら上の階からだろうし、盗人が持ってく分は補充で埋まるはずだ。……嬉しくもなんともないが、当たりだろうなぁ」
明かりで敵に見つかるなどという発想は、こんなことを起こす相手には無意味であろう。広々とした、そして寒々しい駐車場を頼りない光源を持って歩く二人。暫し歩いている内に、一台のライトバンを視界の先に捉える。
見渡す限りに他の車両は無く、この階層にある車両はこれだけであろう。それだけにコルネリウスは、何の変哲も無いライトバンをやけに不気味に感じた。
「という訳で、ミヨン」
「じ、自分ですか!?」
「こういう時に人狼の力を使わんでどうする」
「当たらなくても、怖いものは怖いです!」
二人が騒がしく言い合っていると、突然ガチャリという音が響く。元から視線を外していなかったコルネリウスと思わず動きを止めたミヨンが見守る中、ライトバンのスライドドアが静かに開いていく。車内には、光を当てずとも見える無数の光点が不気味に蠢いていた。
「こ、これ絶対楽しくない展開です」
「そうだな。……だが一つ言いいたい。無事じゃないのは主に俺だ」
コルネリウスが『門』から取り出した大剣を構えるのに呼応したかのように、車内から大量の影が飛び出す。その正体は、複数の節からなる蝶のような腹部に、機械感溢れる牙付きの頭部と四本足を付けた異形の虫の群れ。そして先程戦ったものを小型にしたようなイソギンチャクの軍団だ。明らかに車の中に入り切らない数が、うぞうぞという擬音が相応しい動きをしながらコルネリウス達に襲いかかる。
「でも自分、虫は苦手じゃないので半分平気です!」
「そりゃ重畳。突っ切って下の階まで行くぞ。援護しろ!」
斬る、突く、払う、殴る、撃つ、燃やす、吹き飛ばす。大剣と魔術の併用で、虫とイソギンチャクを次々と屠りつつ走るコルネリウス。ミヨンはそれを拳銃で援護しているが、いかんせん火力が貧弱であった。加えて言えば敵の数が多いから当たっているだけで、射撃が壊滅的に下手である。
「こ、ここ地下何階までありましたっけ!」
「六階、次で最後だ!」
上下左右より襲い来る大量の敵を、服に血を纏わせることで得た防御力で強引に突破しながらスロープを走るコルネリウス。横のミヨンに飛びかかる敵が、彼女に触れることなくすり抜けて他の敵と激突している光景を少し恨めしそうに見つつも、剣を振るう腕と走る足は止まることがない。
そしてついに辿り着いた最下層。車が一台も残っていないことと、大量の敵がひしめいていることは、これまでの階と同じだ。だが決定的に違うことが一つ。
「おっきいですねー」
「こんな地下で何食ったらあんなに育つんだ」
フロアの中央に鎮座する、天井に届かんばかりの巨大イソギンチャク。もはや触手が多すぎて、成長前を知らねばモップの先か何かに見えなくもない状態である。
前方にも敵、後方にも敵、正確には天井にも敵。承知済とはいえロウへの恨み言を呟くコルネリウスに、巨大イソギンチャクがその太い触手を振り下ろす。コルネリウスが避けたそれはコンクリートの床だけでなく、その軌道上にいた虫や同族までもミンチに変えた。しかも潰したそれらを回収し、貪り食うおまけ付きだ。
「なるほど、これならご飯も沢山ですね」
「卵が先か鶏が先か……」
振り回される触手はその質量もさることながら、とにかく数が多い。唯一の救いはこの怪物にも知性らしきものがあるということだ。階層全体をミキサーの内部に変えたかのような触手の嵐は無差別のように見えて、その実柱を折らぬような軌跡を描いている。故にコルネリウスは柱を盾に、避けられぬ触手を斬り捨てるか弾き返すかしつつある程度は前進することが出来た。
だが、それも本体に近付くにつれ難しくなっていく。やはり知性があるのだろう、本体に近い柱だけは既に取り払われており、障害物が存在しないのだ。コルネリウスは試しに幾つかの魔術を撃ってみたが、それらは触手に阻まれるか、直撃しても有効打にはなり得ない。先程の戦闘とこの巨体を鑑みれば、これを仕留めるには剣で付けた傷を広げる形の攻撃か、この地下駐車場を崩落させる規模の魔術や呪いが必要だ。後者はコルネリウスであれば生き残れるとはいえ、機械化もしていない身では大いに怪しまれるだろうが。
「ここに遠隔操作で爆破出来る魔法陣を書いた紙があるんだが、あれの奥に仕込めたりするか」
「すいません……あれだけ大きいと全身で入り込まないといけないんですが、そこからその紙だけ実体化させるのは私には調整が難しくて……」
「そうか。まぁ気にするな、そもこの紙が溶けんかもわからん」
この場で唯一、巨大イソギンチャクへ接近が容易なミヨンでも打開策にはなれない。だがコルネリウスが柱の陰で触手を弾いている間にも、『夜』は近付いているのだ。
時間的には急ぐ程ではないが、ゆっくりしている暇もない。しかし正面突破は、当然ながら分が悪い。そうなると一度上層に戻り、天井を破壊するなり、車を拾って血で強化しつつ突っ込むなりの作戦が必要であるとコルネリウスは判断した。近付いた時と同じように、柱を使いつつ入り口を目指して動き始めようと
「仕方ない、一度上に戻って近付く準備を――」
「も~! うるさいうるさい、近所迷惑でしょ~!」
したところで、その場に響き渡った女性の声に足を止めることとなる。コルネリウス達が振り返れば、急に大人しくなった巨大イソギンチャクの脇。先程まで何も無かったはずの地面に階段が現れていた。
「えっと、誰ですか?」
「……恋する災害」
その声の主と面識が無いミヨンと、あるコルネリウスの反応の差は凄まじい。前者は純粋な疑問を投げかける余裕があるが、後者は身に纏う血を張り替える程に臨戦態勢だ。
「まったく、もう少しで、作業が、終わるって、いうのに、どった~ん、ばった~んと!」
テンポよく不満を吐き出しつつ、階段を上がってくる声の主。静寂な駐車場に足音が響き、それはいよいよコルネリウス達の階層へと辿り着く。
「とうっ、ちゃ~く。おうおう騒がしいのはだれだ~……って、あれ」
ぴょん、と擬音が付きそうな様子で飛び出してきたのは、桃色の髪を大きなリボンで纏めた黒ゴス風ワンピースの少女。目を覆うマスクを付けているにも関わらず、その足取りは乱れることもない。
「なんだ、あんただったの。久しぶり~、きゅう――」
「あー待て待てアリギュラ! そこんとこなしで!」
け、と続けようとした少女を慌てて制止するコルネリウス。
そう、彼女こそが歩く災害、神の御腕、悪意持たぬ赤い蛇、世界を殺す好奇心。
13王が一、『偏執王』アリギュラである。
「え~? じゃあ、え~っと……う~ん……あっ、コルネリウスでしょ!」
アリギュラはどちらかと言えばアニメ寄り