緋色の羽の忘れ物   作:こころん

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第三章 境界都市の新入生
第七話


『ハドソン水中庭園前駅、ハドソン水中庭園前駅。二番線の列車はニュー・リバーデイル行きです。今週の生還率は――――』

 

 微かに見える光と、聞こえてくるアナウンスは駅からのもの。だがそれらに背を向けたコルネリウスが今いる場所は、改札を抜けた先の街並みではない。暗く、湿気がちで、嫌になるような静けさの線路上だ。

 土地柄なのか、所々ひび割れた壁面からは水が漏れ出ている。本来一定間隔ごとにあるはずの照明も灯っていない。このふたつだけでも、大抵の人間にとって好ましい場所ではなかろう。だというのに、ここにはそれを些末なことと言い切れる程のマイナス要因があった――――否、蠢いていた。

 

「愚かな機械信奉者の手先よ、我が愛し子達の爪牙に引き裂かれ果てるがよい!」

「まだこれだけいるのか……整備業者は今まで何を見て仕事してたんだ?」

 

 コルネリウスはぼやきつつ、頭上より襲いかかってきた黒い影をシュラハトシュベールトで叩き斬った。ぶちまけられる体液をしっかりと避け、硬質な音を起てて地面に落ちたそれを見る。暗闇を苦にしないコルネリウスの眼は、一言で表せば黒光りする油ぎった蟹のような何かの死骸をはっきりと捉えていた。

 

「これだものなぁ……」

 

 路線上には同様の、あるいは焼かれていたり、叩き・轢き潰された死骸が無数に転がってる。そして死骸だけではなく、生きているものも地面や壁、そして天上に所狭しと蠢いていた。

 ぬらりと光る黒いシルエットが、互いを踏みつけつつ緩やかに波打つ様。たとえそれが蟹のようなものであっても、見ていて楽しいものではない。触れるのを躊躇する程度に油ぎっている様子がわかるとなれば、尚更だ。

 

 コルネリウスが少し嫌そうな顔をしたをしたのを見咎めたのだろう。彼の眼前、ホームから離れる方向に蟹らしき何かに覆われた人影が叫ぶ。

 

「何が悪いと言うのだ! 蟹の美味しさを持ちつつ、調整次第では戦闘にも転用可能。そしてゴキブリと掛け合わせたことによる繁殖力と、高起動、高耐久性! これぞ増え続ける両世界の人口問題を解決する最適解!」

「掛け合わせた相手だろうよ、間違いなく。生態系も破壊するし、操作出来ないし」

 

 事実、HL内のとある生物研究用の区画がこれに飲み込まれた。しかもそれだけではなく、近隣に凄まじい勢いで広がり他社の研究区画まで被害に遭ったのだ。そしてその中には、VD社の区画もあったという。

 事件を起こした企業には、公的な責任を取る猶予さえ与えられなかった。大義名分を得たとばかりに周囲の企業に袋叩きにされ、既に解体されている。VD社は今まで手薄だった異界生物由来のテクノロジーが手に入り、カルネウスのような広い分野の技術を求める人物は喜んだそうな。

 

 ただし事件の原因となった研究員は、複数の企業に命を狙われたにも関わらず無事逃げおおせていた。それがコルネリウスの眼前にいるこの男だ。そも発端となった事件も、この研究員が社の制止を無視する形で引き起こしたものという。

 これを問題視したカルネウスが、報復と再発防止を兼ねてコルネリウスを雇って今に至る。なお、当初自社戦力で解決しようとしたVD社内の頭の固い派閥は、送り込んだ部隊を壊滅させたせいで勢力を削がれたらしい。

 

「何をおかしなことを……この子達は賢く、話がわからぬ者ではない。自らの身に同じゲノムを植え付けた上で、皮膚下を卵の保存場所として提供してやれば命令を」

「それはどう考えても行政の認可が下りないだろアホ」

「ええい、貴様も愚物であるか! 書類に認可に倫理に安定性。次から次へと否定ばかり……話は終わりだ、この子達の餌と卵置き場になるといい!」

 

 その声と共に、黒い蟹の大群が動き出す。横歩きだけでなく縦歩きも習得したらしい生物兵器達は、その力強い鋏と牙でコルネリウスの命を奪わんとする。

 普通に考えれば、コルネリウスがいかに大剣の扱いに長けていようとこれ程の数に対処することは不可能だ。蟹は人より小さく、天井や壁を使った三次元の機動も出来るので一度に襲いかかれる量が多い。しかし踏み潰せる程に小さくはなく、一撃も軽くはないからだ。

 だが、彼は剣士であり、錬血術師であり……そして、魔術師である。彼の手から複雑な文様が描かれた紙が放たれる度、炎や雷が暗闇を照らし、敵を焼き払う。線路内に食欲がそそられる香りが充満していく。視覚的には、そうでもないが。

 

「成程、先日のサイボーグ共よりはやるようだ。だが貴様が戦い始め、ここに辿り着くまでに何時間かかった?」

 

 線路の奥から、換気口から、排水口から。いくら減ろうとも、まるで底など無いかのように補充されていく蟹の群れ。それら全てを操る研究員は両手を広げて笑う。

 

「たとえその身を機械に置き換えようと、消耗はついて回るもの。所詮『個』は『群』には勝てぬのだ!」

「……であれば、その『群』にお前という司令塔を作ったのは失敗だったな」

 

 自らが作り出した生物兵器という力。それへの自信に満ちた言葉に返されたのは、線路内に響き渡る轟音であった。

 戦いの最中に各所へ、というよりそこら中の蟹に仕掛けられていた魔術符。研究員が見逃していた、あるいは不発であると捨て置いていたそれらによる爆発である。

 吹き飛ぶ蟹と飛び散る体液。視界は煙と粉塵に遮られ、狭い空間での轟音により聴覚にもダメージを受けた研究員は思考の空白を生んでしまう。

 そして、彼が己の失態に気付いた時。彼の右側には、既に大剣を振り下ろさんとするコルネリウスがいた。

 

「が、がああああっ!?」

 

 そのままであれば致死であったろう一撃は、身に纏っていた蟹を退避の足と防御に使ったことにより研究員の右腕を肩口から切り飛ばすに留まった。

 研究員はそのまま黒い波に運ばれつつ、コルネリウスから距離を取る。傷口自体は蟹達が吐き出す泡のようなもので即座に塞がれた。しかし脂汗が滲み、血色も悪くなった顔からは、先程までのような余裕など感じ取れない。

 

「子分共と違って自切は出来ないのか。再生速度も早くはなさそうだな」

「き、貴様ァ……許さん、許さんぞォ!」

 

 痛みに震えつつも怒声が放たれると、線路内に蠢いていた黒い波が研究員を中心に集まってゆく。僅かな時間の後、そこには禍々しい四本足の巨人が誕生していた。

 

「もう貴様の攻撃は届かん。これで捻り潰してやる!」

 

 振り下ろされる黒い腕を避けるコルネリウス。その攻撃は表面の蟹の幾らかを死なせながらも、鉄とコンクリートで覆われた地面を線路ごと砕く。

 それだけではない。群体が形作る腕はその性質を活かし、追撃を仕掛ける。巨人の拳にあたる箇所から、新たな腕を生やしたかのように何本もの蟹の線がコルネリウスへと迫っている。更には衝撃の瞬間、腕から飛び散った蟹までも個々にコルネリウスへと攻撃を行い始めた。

 一撃では終わらぬ、流れるような連続攻撃。コルネリウスはそれを血を纏わせた大剣で裁き、切り裂き、時に魔術で焼き払う。だが巨人はいくらその身を削ろうとも、新たな個体で穴を埋めていってしまう。

 

 防戦一方となったコルネリウス。巨人の胴体にあたる場所に潜む研究員は、それを見て余裕を取り戻していく。

 

「はは、は。先程の一撃で私を仕留められなかったのは痛恨のミスだったな! 企業の私兵共だけでなく貴様まで仕留めれば、私を認めなかった連中もきっと――――」

 

 そして再度の油断をしたところ、巨人の胴体に嵐のような勢いで撃ち込まれた無数の徹甲弾によって五体を引き裂かれた。

 主を失い、戦うことなく四散していく蟹の群れ。警戒を解いたコルネリウスは、親指を立てつつ駅のホーム側へと振り返る。視線の先、駅を越えた更に奥。線路上からは多量の硝煙がたなびいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 コルネリウスが報告をしてから二分も経たぬ内に、VD社の担当員が警護の人間をつけてやって来る。警護の者達は、表向きには線路内から響いた爆発音を調査するための人員だ。標的の潜伏先が地下鉄の線路内だとわかっていたため、交通局をはじめとする各所には事前に話が通っていた。

 線路脇にある作業員用スペースで死体の一部を引き渡し、簡単な首実検の後に依頼達成を認められる。

 

「いや、しかしこれ程早く片付けていただけるとは。正直な話、長引いたところに他派閥からの横槍が入って面倒な事態になると思っていましたよ」

「逃げに徹されたら長引いたかもしれませんね。……ただ、線路に大穴作ってしまいましたが」

 

 コルネリウスの視線の先には無残な有様の線路。大規模な爆発だけでなく、長時間続いた戦闘で各所が破壊されている。いかにHLの地下を走る"生きた"列車とはいえ、この悪環境では走れまい。

 幸い戦闘の中盤からは戦場が固定されたため、VD社の働きかけによって電車を止めることが出来た。だが厚い壁の向こう、反対側の路線では今も普段通りに電車が走っているのだ。序盤のような双方が電車を避けつつの機動戦が続いていれば、あるいは大事故が起きていたかもしれない。

 

「いえいえ、この程度であれば問題ありません。なにせ今回の件は当社だけでなく、研究区画に被害を受けた二十七社も何かしらの形で連携しています。事前にお伝えした通り、大抵のことは揉み消せますよ」

 

 自信ありげに頷いてみせる担当員。コルネリウスとしては、それだけのことが出来るのであれば、駅の完全封鎖をして欲しかったところだ。警察の横槍を避けるためには、鉄道内の問題に留め、表向きには大事にしない方が重要なのであろうが。

 

 これでも戦場を移さぬよう気を遣っていたコルネリウス。彼が心中でのみ苦言を呈していると、彼の背後にいた男が巨大なライフルをケースに仕舞い終えて立ち上がった。

 

 彼の名はレナート・カザロフ。今回コルネリウスの紹介で共にVD社に雇われ、その化物じみた火器で標的の命を奪った男だ。

 服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体。陰気とまでは言わないが、どこか暗い印象を与える厳つい顔。年齢は四十代ぐらいであろうか。

 コルネリウスとは何度か仕事を共にした仲であるが、コルネリウスが彼について知っていることは少ない。銃火器の扱いに秀でていることと、依頼への背任はしないということぐらいだろうか。まぁ、それだけわかれば十分であるのだが。

 

「依頼達成が認められたのなら、私はもう帰っていいか?」

「ええ、お疲れ様でした。そちらの整備員用の通路からホーム端に出ることが出来ます。改札はこれを係員に渡せば、詮索されませんので」

 

 レナートは手渡されたICカードを上着のポケットに滑り込ませ、コルネリウスにとどめだけ貰う形になったことを詫びると去っていく。

 敵の意識を引くと同時に広域への展開を阻止し、安全を確保した後に意識外からの狙撃で確実に仕留める。これはコルネリウスと彼が事前に話し合った計画通りであるのだが、それでも一言謝っていくあたり律儀である。コルネリウスからすれば、ただの人間が数時間に渡り狙撃の機会を伺い続けるというのも、楽な話ではないと思うのだが。

 

 コルネリウスはその後、担当員とHLの企業間闘争などについて会話をしつつ作業を見守る。大企業の人間たるもの仮の身分であっても職責を果たすのか、その仕事に手抜きは感じられない。

 マニュアルを見るだけで出来る仕事なのか、それとも練習して来たのか。そんなくだらないことを考えているコルネリウスの耳に、パトカーのサイレンが響いてきた。正確な数こそわからないが、一台や二台ではない。

 もしやここを目指しているのでは。そう懸念したコルネリウスはそれを担当員へと知らせたが、担当員は慌てる様子も無く言った。

 

「それはストムクリードアベニュー駅への追加人員でしょうね。それにこの場所を目指しているのであれば、地上から連絡が来ますから」

 

 その言葉をひとまず信じたコルネリウス。しかしそうなると、その駅では余程の大事件が起きていることになる。

 

「最寄りでもない署から援軍を? また地下で独自進化を遂げた怪獣でも出たのか」

「そういえばそんな事件もありましたねぇ。世間では好事家のペットである飼育禁止生物が逃げ出した結果だと言われていましたが、実は……とと、話が逸れましたね」

 

 雑談は好きなのであろう。この話はまた今度と断ってから、担当員は続ける。

 

「あちらではなんと『血界の眷属』が出たんですよ。最初に派遣された機動警官隊は全滅したそうで。その増援でしょうね」

「……死者が増えるだけだと思うが」

「ああいや、事件そのものは解決したそうです。どうも『ライブラ』がなんとかしてしまったそうで。いや、実在は存じていましたが両方とも化物じみた戦闘能力ですねぇ」

 

 最初はこちらの件かと思って危うく向かうところだった。担当員はそんなことを言いつつ笑っている。対するコルネリウスは、凄まじい動揺を表情に出さないようにするので精一杯だったが。

 

 

 

 

 

 

 

 車輪とレールの摩擦によって生み出される音、そして列車の"呼吸"音。先頭に脳と眼球を持つ"生きた"列車は、大きな音と風を伴って狭い空間を疾走していく。

 HLの交通網を支えるそれは僅か数秒でその場を通り過ぎ、列車が遠ざかるにつれ静寂を取り戻していく線路内。本来動くものなど何もないはずのそこに、天上から一つの影が降り立った。何かしらの手段で張り付いていたのだろう。HLの地下路線を行くには客だけでなく、列車の目も欺かねばならないから。

 

 どこぞとは違い、全てではないながらも生きている路線上の照明が影を照らし出す。その影――コルネリウスは、乏しい明かりなどまるで苦にせず歩き続け、やがて線路脇に目的のものを見つけて立ち止まった。

 

「…………第四十二封鎖区画。ここか」

 

 それは古びた鉄扉であった。かすれてはいるが、扉いっぱいに危険を表すマークが描かれている。決して作業員の通路や照明の電力供給設備室ではない。それを証明するかのように、コルネリウスの足下には大量の鎖と錠前が落ちていた。もっとも、そのどれもが引き千切られているのだが。

 

 ここはHLの地下に無数にある、様々な要因で生まれた本来の設計に無い空間だ。共通するのは危険であるという一事だけであろうか。原因が完全に排除出来るものであるならば、そうした上で埋め立てるのが当然なのだから。

 放置される原因は生物の異常進化だの、解除出来ない罠だのといったものが多い。地下鉄などという公共の場に、そのような危険を放置するのはどうかという意見も勿論ある。

 だが何事にも金はかかるし、予算は有限である以上、封が出来るだけでも御の字。中にはそれを研究対象としたい企業が、資金援助の代わりに放置させている場所もあるとかないとか。

 

 そんな曰く付きの場所にコルネリウスがいるのは仕事のためではない。昼間は蟹使いと戦って十分に働いていたし、何より『夜』が近いのだ。

 実際のところ、彼が吸血鬼へと変わる唯一の条件は厳密な時間指定のない曖昧なものであった。極端な例では、一時的とはいえ真っ昼間に変化した事例すらある。それでも彼の経験上、あと一時間もすれば世界でも屈指の化物へと変貌するだろう。

 

「…………まだ新しいな」

 

 扉を開けた先、コルネリウスは人の通った跡を見つけて呟く。

 足跡、ではない。草を掻き分けた跡だ。コンクリートで舗装されていない以上、そこに土があるのは当然ではある。しかしこのように、まるで熱帯地域の密林のような光景が広がっているのは言うまでもなく異常だ。そして、それがHLであった。

 コルネリウスは虫除けの薬を身に振りかけてから、密林に踏み入っていく。

 

 吸血鬼であることを喧伝する気が無い。それどころか、なるだけ隠そうとするコルネリウスがこの時間、この場にいるのには勿論理由がある。

 それは"自分と同じ存在"を探すためだ。

 

 ストムクリードアベニューでの一件を聞いた彼は、怪しまれない程度に素早くその場を辞して真偽の確認に全力を費やした。

 VD社は交通局をはじめとする地下鉄に関わる各組織から情報を吸い上げていたため、吸血鬼が暴れていたこと自体は間違いない。問題はそれを解決したのが『ライブラ』であるのか。そして事件がどのような形で決着したのかだ。

 起きたばかりであるし、事が事だけに一般の目撃者など生き残っていない。しかもある意味HLで一番恨まれている秘密結社『ライブラ』の情報であるため、その点でも値が張った。まぁその秘密結社の情報が欲しかったという理由付けが出来たので、悪いことばかりではなかったが。

 だが日頃から有能な情報屋を探していたお陰だろう。コルネリウスはまず正確であろうと思える情報が掴むことが出来た。もっとも、その内容は彼にとって凶報以外の何物でもなかったのだが。

 

 

 

 ――――『長老級(エルダークラス)』が人間に敗れた

 

 

 

 コルネリウスは思った。成程『ライブラ』は確かに世界の均衡を守るため、世界の中心にいるに相応しい力を持っているのだ、と。

 

 『血界の眷属』の中でも特筆して強力な存在は、裏社会において『長老級』と呼ばれている。彼等は吸血鬼狩りに度々討たれているような下位のそれとは違い、HLを基準とした常識の範囲内にいる生物には負ける筈が無いスペックを持つ。

 では彼等が神性存在やそれに類する相手以外……つまり"下等種族"には無敗であるのかと言えば、そうでもない。だが、それが奇跡的と言っていい程の確率であることは間違いないのだ。

 

 そして、何より重要なこと。それは『長老級』に――――即ち、コルネリウスにも届く人界の牙が、HLに存在しているということなのだ。

 

 故に、彼はその危機へと備えねばならない。危険を承知で、戦場となったストムクリードアベニュー駅へと魔術的な調査を行ったのだ。

 そこに警察しかいなかったのは幸運であろう。科学的な、あるいは吸血鬼のそれに比べれば拙い魔術的な監視を掻い潜ることは容易であった。そうしてコルネリウスは、未だ残されている戦闘跡から有益な情報を得たのだ。

 

「――――こんなところに客が来るとはね」

 

 急に立ち止まったコルネリウスの眼前。苔と蔦に包まれた木の陰から、一人の男が現れる。HLPDの特殊部隊が使う防弾服、そして軽薄そうな雰囲気も身に纏った青年だ。

 防弾服は着崩されており、戦装束ではなくお洒落といった状態。それだけ取れば、青年はとても戦場に立つ人間には見えないだろう。だが、コルネリウスは彼が発する殺気と、強い魔力を感じ取っている。

 

 上着の内にある『門』から大剣を取り出したコルネリウス。だが青年は無骨な凶器を一瞥しただけで気に留めた様子すらない。青年は笑みを浮かべて言う。

 

「心得はある、ってところかい? だがシニョーレ、運が無かったね。なにせこのトーニオ・アンドレッティは……人間を超越した存在なのさ!!」

 

 トーニオと名乗った青年の身体が変化し、肩や腕から血で作られた刃が生える。

 

 青年はストムクリードアベニュー駅の戦闘で確認された"二体"の片割れ――――紛うことなき最強種、吸血鬼であった。

 

 




つよそう

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