「盲点だったよなぁ、まさか『どくばり』が魔法使いにしか装備できなかっただなんてな。」
「本当よねぇ。これじゃあ覆面パンツ(カンダタ)の討伐は厳しいわね…ねぇマコちゃん、あなた魔法使いになったら?」
「おまえ…とうとう勇者を否定しやがったな。」
パチパチと乾いた音を立てて焚き火が燃えている。
ガザーブの村を追われるように旅立った私たちは、村の北に位置する深い森でキャンプをはっています。
まさか精霊であるこの私が野宿をさせられるとは夢にも思いませんでしたが、まぁ目の前の勇者にそんな甲斐性があるとも思えないので仕方ないのかもしれません。
森の中からはモンスターなのか動物なのか判らない鳴き声が聞こえるんですけど…。この人いざとなったら私をちゃんと護ってくれるのでしょうかとても不安です。
「どうすっか。盗賊団の討伐は諦めるか。」
「そうね、別にロマリア王の王冠がなくても世界は困らないものね。『どくばり』が使えない以上、このクエストは破棄しましょう。」
「待て待て待て!それは困る。私たちは偉大なるロマリア王より直々に依頼を賜ったのだぞ?栄誉あることじゃないか。」
「…おまえまだいたんだ。」
「いるわー!!勝手に存在を消すな。」
ロマリアから付いてきてしまったクリフトさんとアリーナちゃんもまたガザーブから逃げ出したのですが、わざわざ同じ方向に逃げて来やがりました。途中2人を巻こうと何度か試みたのですが中々上手くいかず今に至ります。
「そうは言ってもよ『どくばり』が使える魔法使いがいないんじゃ、カンダタと戦って勝てる見込みが無いしなぁ。」
「マコト殿は勇者ではないか。勇者なら勇者らしく正面から堂々と撃ち倒せば良いじゃないか。」
「嫌だよ面倒くさい。」
「全く、勇者の癖になんて情けない。」
クリフトさんの言葉には激しく同意しますが、そもそもあなた方のレベルが5しかないのが問題なのですがね。本来ならこのガザーブ付近まで来ることができないような低レベルですから。
「貴様は勇者なのに王の頼みを無下にしても良いと言うのか?」
「そんな事言ったってなぁ。だいたいおまえ本当は手柄を立ててアリーナちゃんと結婚したいだけだろ?王様の願いなんてどうでも良いんだろ?なんで俺たちがおまえの為に戦わなきゃならないんだよ。」
「そ、そそそんな事はない!わ、私は…」
「こんな事言っているけどルゥどう思う?」
そうですね…。呼吸に動悸、視線の泳ぎ具合。少し体温が上がり頬の紅色具合からみて…
「クリフトさんダウトー!!」
私はクリフトさんの嘘を指差してしてきすると、彼は顔を手で覆い隠しうずくまった。彼は一応僧侶ですから、正体を知らぬとは言え精霊である私の宣告に自身を恥じたのでしょう。
ああ、私の隠しきれない高貴な…
「やっぱな。そんな気がしたんだよ。」
「私は…私はアリーナ姫さまが一番…」
あくまでも私の思考を最後まで語らせないマコトは、何が気に入らないのかクリフトさんをまともに相手していない。
そんな2人に声をかけたのはアリーナちゃん。
「そういえば魔法使いと言えば昔ロマリア王(お父様)から聞いたのですが、ロマリア領北端にノアニールと言う村があるそうなんですけど、なんでも代々高レベルの魔法使いを多く輩出する村なんだそうよ。」
「高レベルの魔法使い?」
身を乗り出すようにアリーナちゃんの話に喰いつくマコト。なんでアリーナちゃんの話だけはちゃんと聞くのか後で問い詰める必要がありますね。
「うん、本当かどうかは知らないけどノアニールの近くにはエルフの隠れ里があるらしくて…生まれつき魔法の才能に秀でた人が多いらしいんですよ。もしかしたらノアニールの人ってエルフの末裔なのかなって子供ながらワクワクした覚えがあるもの。」
「ふ〜ん…なぁルゥ、本当にエルフなんているのか?」
「いるわよ。まぁエルフは多種族との交流を嫌うからあまり姿を見せないけど。ほら、私の『冒険の書』にもノアニールの事は書いてあるもの。」
「ちょっとそれ見せてみろ。」
「ちょっとマコちゃん、それは人には…あっ!」
勝手に私から冒険の書を奪い取る勇者は、ペラペラとページをめくって読み始める。しばらくして首を捻った勇者はおもむろに私にソレを返すと
「字が汚くて読めない。」
と宣いやがりました。
「失礼ね!字が汚いんじゃなくて最近は夜寝る前に急いで書いてるから仕方がないのよ!決して私の字が下手なワケじゃないんですけど!マコちゃんがちゃんと王様や教会で祈らないのが悪いんですけど!!」
「『冒険の書』をルビア殿が?冒険の書は王族や神父が精霊ルビス様に祈りを捧げる事で更新する冒険の記録なはず。神々の書を人間が書けるわけがない。ルビア殿はいったい…」
「クリフトさん…やはり教会に通ずる僧侶である貴方に隠し通すことは出来ないわね。ルビアは仮の名前、私は精霊ルビス。あなた方が崇める精霊ルビスその人なのです。」
「「プッ」」
「…」
クリフトさんとアリーナちゃんが鼻で笑った。
「ちょっとマコちゃん、貴方からも言ってやってよ、私が精霊ルビスだって!!」
「プッ」
「ウガー!!この背教者め!!」
私は勇者の首を絞めガンガン揺さぶると、それを見たクリフトさんとアリーナちゃんが慌てて止めに入りました。
「と、まぁルゥはたまに自分が精霊だ女神だなどと痛い事を言うがそっとしてやってくれ。」
納得いかない説明ですが、おまえの正体がバレると大騒ぎになるだろのマコトの一言で私は正気を取り戻しました。
「字がアレすぎて読めないけど、やっぱりエルフって魔法使いが多いのか?」
「…アレって何よ。エルフはもともと魔力を扱うのが得意な種族だもの、魔法使いは必然的に多いわね。」
「よしっ!!じゃあカンダタ討伐の為にノアニールに仲間になってくれる魔法使いを探しに行くか!」
マコトは重い腰を上げて盗賊団の討伐を決意した…のですが、あくまでも自分のレベルを上げて盗賊団を討伐するって考えがないところは流石ですね。
次の日
深い森を抜け私たちはノアニールの村に辿り着きました。
村に入るなり私はこの村全体が何者かによって呪いをかけられていることを直ぐに悟りました。どの様な効力の呪いか判らないので私たちは慎重に村中を調べました。
そしてそれはすぐに判明した。
「この村は皆んな昼間から寝てるんだな。」
マコトの言う通り、店の店員も民家の住民も…村を散歩する住民までもが静かな寝息をたて眠っているのです。
そして手分けして起きている住民を探し回り、日が沈みかけた頃、勇者がやっと起きている住民を見つけたのでした。
「この老人だけがただ1人この村で起きている人だそうだ。」
勇者は少しだけ声のトーンを下げて話した。その理由は老人の話を聞いて納得しました。この村の若い男とエルフの女王の娘が恋に落ち駆け落ちをしたそうです。それに怒った女王はノアニールの村に呪いをかけたそうです。
「ワシは…その時駆け落ちをして居なくなった息子を探し回り村を離れていたから呪いから逃れたのじゃ。ワシは何度も何度もエルフの隠れ里に行き謝ったのじゃが…。」
老人はそれ以上語りませんでしたが、勇者には少し思うことがあるのか珍しくエルフの隠れ里へ行って呪いを解いて貰おうと言っている。
クリフトさんとアリーナちゃんも形は違えど身分の壁のある恋をしているせいか乗り気です。
こうして私たちは
覆面パンツ(カンダタ)を倒す為に必要な『どくばり』を使える魔法使いの仲間をノアニールで探す為に、村に呪いをかけたエルフの女王の所へ向かうと言った訳の分からない旅へと向かうのでした。
エルフの女王…あの子頑固だからあまり会いたくないのですが…
続く
早く邪魔な2人を撒かないと…旅費が倍です