ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。   作:シズりん

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愛の逃避行

「あーなんで洞窟の中ってこうジメジメするのかしら!」

 

誰にぶつけるでも無いアリーナちゃんの愚痴に私は頷いた。

 

私たちは一旦ノアニールに戻ると、アンちゃんと駆け落ちした男性の父だと言う、唯一呪いから逃れた老人から2人が逢瀬によく使った泉があると聞いて来たのですが…

何でそれが洞窟の中にあるのよ!

光が届かない洞窟ですから先程アリーナちゃんが指摘したようにジメジメしていて髪はくしゃくしゃになるし、やたらと『ルカナン』を連発する変な犬(バリイドドッグ)に追いかけ回されるわ、目が痛くなるような鱗粉『マヌーサ』を撒き散らす蛾(ひとくいが)がいるし、叩くと胞子『あまいいき』を撒き散らすおばけキノコ(マタンゴ)がうじゃうじゃいる。

そこに付け加えるように弱すぎて話にならない自称槍使いと、パンチやキックと言った近接戦闘なのにやたらミスを連発してくれるお姫様。ベラちゃんはと言えば、エルフの里の外の世界が物珍しいのか、気付けばどっかへふらふらと行ってしまう。極め付けは極度の方向音痴。

 

そしてマコトはか弱い私を全く護ろうとせず、ベラちゃんばかりを気にしている。あとでロリコン認定してやりましょう。

そんなおおよそパーティと呼ぶにはおこがましい程まとまりない様に私のストレスは溜まる一方です。

 

「でもよぉ、いくら逢瀬を重ねた思い出の場所だとはいえ何年も経つんだろ、さすがにもういないんじゃねーか?」

「バカねぇマコちゃん、2人の思い出の場所なんでしょ?いるに決まってるじゃない。そんな事もわからないから彼女ができないのよクスクスゥ。」

「余計なお世話だ!」

「痛い痛い、頬を引っ張らないで。」

 

ギリギリとマコトが私の頬を引っ張りやがりました。

 

「え?お二人ってまだ付き合ってないの?私てっきりお二人も…」

「アリーナちゃんそれはないわ。だってヘタレよ?まぁ…マコトがどうしてもって言うなら…」

「おいルゥ、アリーナちゃんもう行っちゃったぜ?」

 

話を振っておいて先に行ってしまうとか。アリーナちゃんはとんだおてんば姫ですね。

でもアリーナちゃんとクリフトさんが話を区切ってでも走って行ったのもすぐに理解しました。

不快な洞窟の中とはとても思えない、一面に広がる地底湖がそこにはあったからです。

 

「綺麗だな。」

「もうマコちゃんったら…そう言うのは夜に宿屋で言ってちょうだい。」

「地底湖がだからな。」

思いっきり勇者の足を踏んでやりました。

そんなやり取りをしていると向こうでアリーナちゃんが私たちを呼んでいる。何か見つけたようです。

 

 

「ルビアちゃん、これってやっぱり…」

「ダメよアリーナちゃん、現場を保持しなきゃ。」

 

地底湖のほとりに二足の靴が綺麗に並べてあった。それは仲睦まじさを物語るように靴が寄り添っていた。

 

「そしてそばにはコレ(紙切れ)が飛ばないように石を乗せて置いてあった。」

 

私はクリフトさんから紙切れを受け取る。それはアンちゃんと駆け落ちした男性の書いたものだと直ぐに分かった。

 

「ルゥ…なんて?」

「これは手記ね…」

私はおもむろに手記を読み始めた

 

 

 

 

私は運命の出会いをした。

彼女の名はアン。エルフの少女だった。彼女は天女のごとく美しく、私たちはすぐに恋におちた。

私たちは彼女の母に結婚の許可を貰いに行った。そこでまさかアンがエルフの女王の娘だと始めて知った。

やべっ、お姫様じゃん。

テンション上がってきたー。

しかしエルフの女王は人間が嫌いならしく結婚の許可は得られなかった。

 

しかしエルフの女王といえど私たちの愛を引き裂くことは出来ない。

私たちはこの地底湖を住処とし共に暮らし始めた。

やがて1人の娘ができ、その娘が6歳になった時私たち三人は再びエルフの女王に結婚の許可を得に行った。

いくら頑固な女王でも孫が出来れば少しは軟化する…そう思っての事だ。

 

予想通りエルフの女王は娘を見るなり目尻を下げた。

彼女は惜しみなく娘に魔法を教えた。娘はハーフエルフではあるが魔法の素質が飛び抜けているそうだ。女王も娘は必ず最年少記録で賢者になると言い切っていたくらいだ。

これはいける!

私は改めて女王にアンとの事を認めてくれと頼み込んだ。

 

ダメ

即答だよチクショー!

よりにもよってアンと娘だけ置いて1人で帰れとか言いやがった。

それを聞いたアンが烈火の如く怒った。

そしてアンの怒りが娘に影響してか娘の『メラ』が大暴走した。

やっベー!

エルフの居城が燃えちゃったよヤベー!!

 

あ、他の家屋にも引火した。もうダメだ、エルフの王国はもうダメだ。私はアンと娘を連れてエルフの王国から逃げ帰った。逃げる時にアンはせめて今後の生活費の足しにと『夢みるルビー』を盗んできたが、今はそれどころじゃない。先ずは逃げよう。

 

そして時が経ったその後、王国を失ったエルフたちは小さな隠れ里に移り住んだと、そして財宝を盗まれた事に腹を立てたエルフの女王がノアニールの村に呪いをかけた事を風の便りに聞いた。

けど…なんで私が『夢みるルビー』を盗んだ事になってんの?

もうロマリア国にいられない。

私たちは旅に出ることにした。

 

そして私たちはネクロゴンド国に流れ着いた。

人口20万を超すネクロゴンドは軍事大国だ。きっとこれだけ人がいればエルフの容姿をしたアンも娘も少しは紛れるかもしれないとの配慮によるものだった。

娘はネクロゴンド国で『イオ』を覚えた。

嫌な予感は的中した。

 

なんでたかが『イオ』が『イオナズン』を遥かに超えた爆発力なの?ちょっとおかしいでしょこれ。どんなステータスになってるの私たちの娘は。

やっベーネクロゴンド国が燃え盛ってるよ。

軍隊が私の事を追いかけてくるよヤベー!!

 

こうなりゃヤケだ。もうなるようになれ!ポロっと2人の前で呟いたら娘がニコリと笑い『イオナズン』を唱えた。

やっベー!!ネクロゴンド国が滅んじゃったよやっべー!!

 

滅んだネクロゴンドに魔物がドサクサに紛れて忍び込んできたけど私は知らねー。

って言うか人間…もういないけどな。

もうどうしようもないけどな。

 

って言うか誰だよこんな『イオナズン』一発で軍事大国を滅ぼすような娘を育てた親は。

バカだろそいつ。ちゃんと子供くらい育てろって言うんだよ!

 

「おっと、娘の父親、私でした。…終わり。」

 

「なめんなー!!」

私が手記を読み終えると勇者が叫んだ。

 

「ネクロゴンドと言えば魔王バラモスの居城ではないか。ネクロゴンドはバラモス率いる魔物が滅ぼしたとばかり思っていたが…まさか1人の娘に滅ぼされていたとは。」

「きっと3人は追われるように最期を思い出の地で迎えたのね。」

クリフトさんにアリーナちゃんの表情は暗い。しかしマコトは意外にも暗い表情をしていない。

きっと地底湖のほとりに子供の靴がない事に気付いているのでしょう。まぁそもそも靴しかありませんが。

 

 

私たちは『夢みるルビー』と手記を持って再びエルフの女王のもとを訪れた。

 

「私が人間を受け入れなかったらばかりに…アンと孫を失ってしまった…。」

彼女はベラちゃんを始めとした侍女に支えられながら泣いていた。そうです。貴女の頑固が招いた悲劇なのです。

 

「ポワンちゃん…これを機に貴女も少しは他種族を受け入れなさい。一つの事にこだわっていては周りを不幸にするだけです。」

「ルビ…ア様。わかりました。私は娘と孫の死を決して忘れない教訓とし、これからは結界も解きありのままに生きようと思います。」

 

今回はアリーナちゃんとクリフトさんがいる事にルビスとは呼ばない配慮をしてくれたようです。

 

私たちはポワンちゃんから『めざめのこな』を貰いエルフの隠れ里を後にしました。これでノアニールの人々も目を覚ますことでしょう。

 

「それにしてもおまえ今回はやけに冷たいな。アンたちを生き返らせてやればいいのに。」

「前も言ったけど私は誰も彼もを生き返らせるつもりはないわ。って言うかそもそも三人とも少なくともあの場所では死んでないけどね。」

「え、そうなの?だって遺書や靴が…」

「ただの嫌がらせでしょ?あの場所には後悔や恨みと言ったような負の痕跡がないもの。間違いないわ、あそこでは過去に渡って死んだ者はいない。断言するわ。」

「え?じゃあ三人は…」

「ええ生きていると思うわ。そのうちヒョッコリ顔を出すでしょ。それまでは精霊の私に一晩中文句を言った罰として教えてあげないですけど!プークスクスゥ!」

「こいつ…。」

 

白い目で私を見る勇者とアリーナちゃんとクリフトさん。

私たちはノアニールの村に向かうのでした。

 

 




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