ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。   作:シズりん

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決戦!覆面パンツ(2)

「なかなか酔い潰れて寝ないなーアイツら。」

 

私たちは盗賊団と壁一枚隔てたところまで忍び寄りました。

フルアーマーを装備するような人たちではあっても盗賊は盗賊。そんな彼らに気付かれずにここまで近寄れた。アリアハンからずっとモンスターの背後を取るように旅してきた私たちが一番レベルアップしたのは忍び足かもしれません。

そう考えると、日々成長していることに感慨深いものがあります。

 

壁一枚隔てた所で息を潜め彼らが酔い潰れるのを待っていると、彼らの話し声が聞こえてきた。

 

「やっぱ美女と言えばエルフの女王だろ、それは外せねーよ。」

「おまえエルフの女王なんか会ったことねーじゃねーか。」

「ギャハハ!おまえらは空想の女が好きなのかよ、バカだなぁ」

「親分だって年増好きなマニアックな性癖じゃねーすか。オレ知っているんですぜ、親分が毎日欠かさずルビス像に祈りを捧げてるのを。」

「おいおい、精霊ルビスは空想じゃねーだろうが。それに年増を舐めるよ?年増ってのはなぁ…。」

 

 

「おいルゥ分かってるよな、飛びかかるなよ?」

勇者が私の腕をガッチリ掴んで小声で言う。

「分かってるわよ。私を誰だと思ってるの?精霊ルビスよ?言わば女神なの。その寛大で慈悲深い私がいちいち人間たちの悪口に反応するわけないでしょ。」

「…ならその構えたモーニングスターをおろせよ。モーニングスターの鉄球に付いてるトゲが痛いんだよ。」

チッ…最近マコトは何かとめざとくなりました。

だいたい私は精霊よ。世界の創造に関わった大精霊なんだから人間より遥かに長く生きているのは当たり前じゃないですか。その私を年増扱いするとは…この怨み、絶対に忘れません。

その後も盗賊団どもはくだらない話しを続け、それは深夜まで続きました。

 

「アリーナちゃんとクリフトは寝ちまったな。」

「そうね、2人は私たちと違って闇討ちに慣れてないものね。」

「おいルゥ、もう少し言葉を選べよ。闇討ちじゃなくてアレだ、相手の僅かな隙を突いた戦術だ。」

何が戦術ですか。アリアハンからここまで真正面から戦ったのなんて僅かじゃないですか。全くどうして男の子ってのはこう意地っ張りなんでしょうか。

「…おいルゥ聞いてるか?」

「え?」

「え、じゃねーよ。全く…若いのは見た目だけで中身ははやっぱ年増なのか?」

「あ゛?誰が年増ですって?どうやらマコちゃんは一度あの世とこの世の境界(ルビスのお仕置き部屋)に行って話しをする必要がありそうね。」

「待て待て!なんだよルビスのお仕置き部屋って。それにおまえは寛大で慈悲深いんだろ?そのモーニングスターを仕舞えって。」

「大丈夫よ、慈悲深い私はちゃんと峰打ちにするから。」

「モーニングスターの鉄球に峰打ちもくそもあるか!!って暗い笑顔で近づくな!」

 

ブォン!!

私のモーニングスターによる攻撃を身を翻して避けやがりました。さすがはここまで来た勇者と言うことでしょうか。しかし逃がしませんよ!私の次から次へと繰り出すモーニングスターによる攻撃をひょいひょいと勇者はかわす。

ええいちょこまかと!

 

「ちょっとそこのあなた!マコトを押さえつけて!」

ちょうど近くにいた人間に私はマコトの捕獲をお願いしました。

「な、なんだこいつら、何処から現れた!!」

「バカ!おまえのせいで見つかっちまったじゃねーか!」

「あ!また私のことをバカって言った!!」

 

しばらく押し問答が続きましたが、カンダタが騒ぎに気づき現れた事で状況は沈静化した。

 

「なんだてめーらさっきから騒がしいな。」

野太い声に違わぬ隆々とした筋肉の壁をまとった男が現れた。その声、佇まいから彼が歴戦を乗り越えてきた強者であることは直ぐに分かった…のですが…

 

「ウケる!超ウケるんですけど!ロマリア王に見せてもらった姿絵もアレだけど、実物は更に酷いわ!どこに売ってるって言うのよその覆面パンツ!ぷーくすくす!!」

私は堪らず吹き出してしまいました。

すると覆面パンツ(カンダタ)の子分たちも日頃思うところがあったのか一緒になって笑いだした。

私とマコト、更には子分の3人を含めた5人に囲まれて笑われている覆面パンツ(カンダタ)は覆面ごしにも涙目になっているのが分かるから更に笑いのツボをつく。

 

「だ、黙れ貴様ら!!この装備はなぁ、オレがまだガキだった頃に勇者から戴いた由緒ある装備なんだぞ!」

「あ?勇者から?嘘吐け。」

マコトが変態の言葉に直ぐに反応した。

やはり勇者としては、勇者を語る者が許せないのでしょうか。

「嘘じゃねーよ。オレがまだガキの頃、ロマリアにアリアハンから来た勇者が纏っていたんだ。当時まだ弱っちかったオレにその勇者は着ていたこの装備を渡し、『誰にも負けないカッコいい男になれ』と言ってくれたんだ!」

「おい、今何て言った?」

「いやだからカッコいい…」

「そっちじゃねーよ。何処から来た勇者だって?」

「仕方ねーな。もう一度言ってやるからよく聞けよ。貴様のようななんちゃって勇者とは違い真の勇者であるオルテガさんから戴いた最強の装備だ!!」

「ぷー!!ケタケタケタ!!つまりなんですか?この装備の元凶はまさかのオルテガさんと言う事ですか!?どんだけセンスがないのよ?そしてどんだけこの変態装備を周りに拡めようとしているのよ!私長いこと生きてきたけど、こんなに笑わせてもらったの初めてよ。ぷーくすくす…」

 

ガン!!

 

「痛い!何すんのよ!」

「うるせー。」

マコトがまた私をぶちました。いつか絶対に神罰を降してやろう、私は心の中で決意しました。

そんな騒ぎで目を覚ましたのか役立たず2人(アリーナちゃんとクリフトさん)が入ってきた。何はともあれこれで4人対4人です。

 

『ザキ』

クリフトさんは戦闘に入るなり覚えたての呪文を唱えた。

カンダタ子分Aは死ななかった。

逆に返す動作から繰り出したヤリの突きがアリーナちゃんを掠めた。

『ベホイミ』

即座にクリフトさんはアリーナちゃんに回復の呪文を唱え傷を癒す。そして今度はアリーナちゃんが天井近くまで飛び上がり、勢いそのままにカンダタ子分Aに襲いかかる。

が、相手はフルアーマー装備。素手でダメージなど与えられる筈もなく彼女は逆に小指を突き指した。

『ベホイミ』

アリーナちゃんが転んだ。

『ベホイミ』

「「…」」

アリーナちゃんの髪に攻撃が掠め枝毛になった。

『ベホイミ』

「って、アホかーー!!」

堪らず勇者が叫ぶ

「何でかすり傷にもなってない程度のものにベホイミなんか使ってんだよ!自分に使えよ、おまえのHPオレンジ色じゃねーか!」

マコトの指摘の通りです。アリーナちゃんは持ち前の素早さでHPに変動はない。むしろ彼女を庇っているクリフトさんの方が攻撃を受けまくっている。だと言うのにひたすらアリーナちゃんにベホイミを使っているのです。

「しかし姫に傷を付けるわけには…」

「だったらヤラれないように攻撃しろよ!」

マコトの言葉にあまり納得していないような表情で渋々手を敵に向けると

『ザキ』

再び呪いの呪文を唱える。

しかしカンダタ子分Aは死ななかった。

「おのれ、私の必殺の攻撃に抵抗するとは生意気な!『ザキ』」

懲りもせずに呪いの呪文を唱え続ける。

しかしやはりカンダタ子分Aは死ななかった。

その後もクリフトさんは何とかの一覚えと言わんばかりに『ザキ』を唱え続け、とうとうMPが尽きた。

はぁ…あまり言いたくはありませんが本当に使えない男(ヒト)です。

向こうで覆面パンツと戦っているマコトもため息混じりにこちらをチラ見している。どうやら私たちは4人を3人で相手しなければならないようです。

 

勇者は覆面パンツと、アリーナちゃんはカンダタ子分A、役立たず(クリフト)はアリーナちゃんの周りをうろちょろしている。そして何故か私の前にはカンダタ子分BとCがいる。なんで私だけ2人なのよ!

 

「ゲヘヘ役得だぜ、どうせ戦うなら女が良い。しかも飛び切りの美女だぜ!」

美女は否定しませんが、あなた方は先程私を年増扱いした事、忘れていませんよ。

「…あなた方は大きな間違いを犯しました。」

「あ?」

「私は先程あなた方の無礼を忘れていません。この呪文は私の怒りと悲しみの大呪文、受けた者は死ぬ!!」

 

『ザラキ』

 

役立たず(クリフト)とは違う、更に上位の呪文に精霊の力が強力な後押しがつく。

 

カンダタは死ななかった。

カンダタ子分Aは死んだ。

カンダタ子分Bは死んだ。

カンダタ子分Cは死んだ。

 

アリーナは死んだ。

 

「うっ…」

「ひ、姫ー!!」

あれ?今なんか敵に混じって関係ないものが見えた気がするんですけど…

私は恐る恐る振り向くと、アリーナちゃんが紫色の顔で倒れていて、その隣で役立たず(クリフト)が一心不乱に叫んでいる。

 

「…よ、よくも私たちの仲間をヤッたわね、絶対にゆ、許さないんだから」

「バカ!何やってんだよおまえは!!」

「なあああんでよおぉ!おかしいでしょ、ねぇちょっと、おかしいーでしょ!」

「うるせーこの駄女神、おまえこの戦闘ではもう呪文使うな!」

「あ!ちょっと誰が駄女神よ!」

そう言ってマコトは私の『さくせん』を『呪文を使うな』にしました。そうなると私たちは2人+役立たずで戦わなきゃなりません。仕方がないので装備しているモーニングスターを振りかざすと

 

「グワッ」

短い悲鳴とともにグニャっと鈍い感触が手に伝わりました。

見ると頭から血を流して倒れている役立たず(クリフト)がいました。しかもご丁寧にルビアとダイイングメッセージまで遺して…。

 

「お、おまえもう何もすんな!!」

「怒らないでよわざとじゃ無いんだから怒らないで!」

その後やたら過剰に背後を気にしながら戦う勇者マコトは、激戦の末ついに宿敵覆面パンツ(カンダタ)を打ち倒しました。

彼はここまで強くなっていたんだと少しだけ感動してしまいそうです。

 

 

 

光も通さぬ闇の奥深く、生と死の境界(ルビスのお仕置き部屋)

 

「ああ勇者よ死んでしまうとは何ごとですか…」

「…おいルゥ、オレは確かカンダタに勝ったよな?」

「ええ、勇者マコトよ貴方は私の期待どおり見事覆面パンツを討ちました。」

「だよな?そのオレがなんでこんな所(生と死の境界)にいるんだよ。」

「…それは貴方が不甲斐なく死んでしまったから…」

「違うだろ!ちゃんと言え!」

「マコちゃんが『アリーナちゃんと役立たずの棺を連れてロマリアまで帰るのめんどくせぇ』とか言うら…」

「別に声色まで真似なくていい。それで?」

「今回私、あまり役に立ててないじゃないですか。」

「まったくな?それで」

「…だからせめて最後くらい役に立とうと…やりました。でも聞いて?これは『死んでルーラ』って言って、知る人ぞ知る究極の奥義なの。精霊である私がいるからこそできることなの。そうよ本当は感謝されたいくらいだわ」

「このバカが!殺されて持ち金を半分なくして誰が感謝すんだこの駄女神が!」

「あー!!ちょっとまたそれ言った!!」

 

今日も生と死の境界(ルビスのお仕置き部屋)は死の入り口だと言うのに騒がしい。

とにかくようやくにして私たちはロマリア王からの依頼を達成すことが出来、私は私への悪口を中心に『冒険の書』を記すのでした。

 

 

つづく

 




次回、第2章的なロマリア編の最終回です。

よろしければお付き合いくださいね。
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