「はいマコトさん、お茶が入りましたわ。」
「ありがとうルゥ。」
ティーカップを口にするマコトくんは
「お湯…なんだけど。」
笑顔で言った。
「あら私ったら…お茶を浄化(二フラム)してしまったのね。」
「ハハハ!また淹れなおせば良いだけさ。ま、これはこれで戴くよ。」
そう言ってマコトくんとルビアちゃんは笑っている。
「アリーナ姫!!よくぞご無事で!このクリフト、アリーナ姫が死んだ時には未来(さき)が真っ暗に…」
クリフトが部屋に入ってくるなり私に抱きついてオイオイと泣いている。
「あ、クリフトも生き返れたのね。良かった。」
私たちはロマリア国を騒がし続けてきた盗賊団との死闘の果てに命を落としたらしい。その経緯は今ひとつ覚えていないのだけど。
魔王バラモスが現れたのが原因か、または別に理由があるのか定かではないが、世界から精霊ルビス様の恩恵が届きにくくなっているのか最近では神父によるザオリクでもなかなか生き返れないという。
そんな中で2人して生き返れたのは幸運だと思う。
その中で私は不思議な体験をした。死後の世界なんてものは信じていなかったのだけど、死んだ私がいた場所は辺りを見渡せないほど真っ暗な闇の中だった。
そこで私は精霊ルビス様の声を聞いた。
彼女は何を以ってひた謝りしているのかは分からないけれど、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと謝り続けていた。
そして生き返った私が最初に見た姿は、マコトくんに叩かれたであろう大きなタンコブをこさえたルビアちゃんが謝っていた。
その時本当に一瞬だけルビス様と被って見えた。
まぁ気のせいだろうけど。
そんな事を考えているとルビアちゃんが新しく淹れ直したお茶をマコトくんに渡す。
「ありがとうルゥ…うん、お湯なんだけど。」
「あらぁ私としたことが、ごめんなさい。」
「ハハハ、また浄化(二フラム)してしまったのかい?まぁこれはこれで戴くとするよ。」
「何やってるんだ貴様ら!気持ち悪い!!」
その光景を見ていたクリフトが我慢できなくなったのか叫ぶ。
「おいおいクリフトくん。君は国王に向かってなんて口をきくのかな?」
「は?誰が国王だと?」
「オレだよオレ。」
「そうよ、マコちゃんはロマリア王から直々に王位を継承したの。そして私が王妃よ。」
ルビアちゃんの話しを聞いて慌てたように私の方を振り向く。
「アリーナ姫?」
「クリフト、それは本当の話しよ。ロマリア王(おとうさま)は王冠を取り戻したマコトくんに王にならないかと持ちかけたの。」
まぁたぶん本気ではない。
ほんの少しの間休暇が欲しかっただけだろうと思う。
「そう言うわけだからクリフトくん、君は肩でも揉んでくれたまえ。」
「何だと貴様!何故私が…」
「おいおいクリフトくん、オレは王様だよ?お、う、さ、ま。分かる?」
怒りでプルプルしているクリフトが気の毒だけど少し面白い。
本当にこの2人は見ていて飽きない。
私も一緒に旅をしたい
この一言が言えたらどんだけ良かったか。
「アリーナちゃん。どうしたの?変なものでも食べた?」
私が言葉に詰まらせているとそれに気づいたルビアちゃんが変な慰め方で声をかけてくれた。
私はロマリア国の姫。簡単に国を出て旅ができる立場にはない。
今回ノアニールでのエルフと人間の駆け落ち騒動を見て改めて思ったのだ。
「なんでもないわルビアちゃん。」
そう言って私は笑顔で彼女に応える。
彼女はそれに満足したのか微笑んだ。ほんの少しだけ慈愛に満ちた微笑みで。
「クリフトさん、マコちゃんが終わったら次は私もやってちょうだい!」
「かしこまりました師匠!」
ん?今クリフトがルビアちゃんを師匠とか言った?
クリフトはマコトくんの肩揉みを早急に締めてルビアちゃんの背後に立つ。ニヤニヤしながら…
なんだか少しムカつく。
「師匠だいぶ凝ってますねー」
「そうなのよ、マコちゃんがヘッポコ勇者だから一緒にいる私も大変なのよ。」
「ところで師匠、カンダタ戦の時に使っていたあの呪文は…」
「カンダタ?誰よそれ。」
「師匠が覆面パンツと呼んでいた輩です。」
「ああ、アレね。」
「そうです。あの戦いで師匠が多数の敵を一度で息を止めたあの呪文は…」
「アレは『ザラキ』よ。」
「『ザラキ』?」
「クリフトさんが使っていた『ザキ』の上位呪文ね。」
「師匠!ぜひ私めに『ザラキ』の伝授を!!私はあの呪文に並々ならぬモノを感じまして。」
なるほど、それが目的でルビアちゃんを師匠と呼んでいるのね。
余談ではあるけど、クリフトはこのルビアちゃんから授かった『ザラキ』を生涯にわたって使い続け、後にザラキ神官と呼ばれるようになる。
「さて、世話になったな2人とも。」
ひと段落するとマコトくんが言った。ロマリアの王に就いてから今日で3日。ずっといる気かと思っていたら、まさかのマコトくんからの言葉だった。
「世界はまだモンスターに脅かされている。オレは勇者だから行かなきゃならないんだ。」
「マコトくん…」
「そうか…そうだな。貴様は勇者なのだから当然だな。…頑張れよ?」
クリフトが珍しく優しい言葉をかけている。
「マコちゃん、困難に負けず頑張るのよ?」
ルビアちゃんの…あれ?
貴女は行かないの?と聞こうとするとマコトくんが
「お前も行くんだよ!!元何とかさま!」
「ひたい、ひたい、頬をひっはらないで!!」
2人のいつものやり取りもこれで最後かと思うと涙が溢れてきた。
「…ッ、わ、私も一緒に…」
そんな私にルビアちゃんは
「アリーナちゃん、その先は言ってはダメよ。それにまた会えるわよ」
そう言って微笑む。
そして彼らはいつもの装備に着替えると、何故か窓から次の地へと旅立って行った。
「…気持ちの良い連中でしたね姫。」
「本当にね。」
「師匠も言っていた通りきっとまた会えますよ。」
そう言って私の肩を抱き寄せた。
「そうね…」
私が彼の胸に寄り添うのと同時にバンッ!!と、王室の扉が開いき、何人かの兵隊を連れてロマリア王(おとうさま)がやってきた。
「勇者はどこ行った!?」
「お父様、あの2人はもう次の地へと旅立って行ったわ。」
「遅かったか、奴らめまんまとやられたわ。」
「どうしたの?あの2人がなにか?」
「奴らはとんでもない事をして行きおった!!見よ」
そう言って私に見せた物は、ロマリアの王に就いてから3日間の間に贅沢を極めたその領収証。
金額にして30万G。かなりの金額だけど、そもそも自分がカジノに行きたいがために王位を一時とはいえ譲ったのが悪いと思う。
「ロマリア国姫アリーナ並びに神官クリフト!2人に勇者一行の確保を命ずる!」
そう言ってお父様は片目を瞑ってみせた。
「はい!」
私は返事をするとお父様に抱きついた。
「何を見てるんだルゥ」
「ロマリアの王がアリーナちゃんの冒険の書を更新したみたい。」
「ふーん、そんな事まで分かるんだソレ。あの2人はこの先どうなるんだろうな。」
「他人(ひと)の未来だから詳しくは教えられないけど、あの2人は私たちを追って旅たつみたいよ。」
「そうなのか?じゃあまた何処かで会えるかもな。」
そう言って勇者は少しだけ嬉しそうな顔をする。
あの2人は旅の途中、ギアガの大穴に落ちてしまい異世界に行ってしまう未来は黙っておくことにした。
こうして私たちは1ヶ月近くいたロマリアの地を離れ、新天地を目指し旅をするのでした。
つづく
職場って毎週のように飲み会に誘われるの…面倒です。
しかも普通にセクハラ…
気を取り直してまた頑張ります。次はアッサラーム?でしたっけ。