勇者マコトがアリアハンのお城へと歩いていく。
胸を張って意気揚々と歩く後ろ姿は、全人類の希望を一身に背負っているに相応しい逞しく頼もしい…
のですが、どこか不安なのでもう少しだけ近くで様子を見てみよう。私はお城で働く従者の女の子に入り込み、勇者が現れるのを王室の前で待つことにした。
勇者マコトの家から王室まで普通に歩けば二、三時間程度。
入城の際に手続きがあるかもしれない。お城までの道すがらアリアハンの街の住民から旅立ちに向けての送り出しや、涙なみだの昔馴染みの友人達との別れを惜しんでいるのかもしれない。
それは分かる。
馴染みある人達との別れが辛いのも分かるつもりです。
しかし
遅すぎやしませんか。
私が勇者を見送ったのはたしかに希望の1日の始まりを告げる朝日が昇る時間帯だったはずです。
それがお昼はおろか城門が閉まる6時になっても現れず、夕食の支度や就寝準備にてんてこ舞いとなり、中々借りた身体から抜け出すタイミングが見出せず、結局お城の従者としてのお仕事から解放された時は既に10時を回っていました。
それでも勇者は来ないのだ。
いったい勇者は何処へ…ハッ!もしかしてマコトは誰にも告げずに旅立ったのでは。
勇者がいくら父の仇とはいえ魔王討伐の旅に出るのです。アリアハンの王もそんな勇者を手ぶらで出すハズがありません。暫くは苦労しない程度の支度金や装備を用意するなどの忖度をすることでしょう。勇者…マコトはきっとそんな気遣いをさせまいと独り静かに旅に出たのかもしれません。
私はそんな優しさを持った青年に成長した勇者に目頭が熱くなりました。
もう何も心配はいらない。私はアレフガルドの地で彼が訪れるのをただ待てば良い。
私は霊体に戻りアレフガルドへと帰る道すがらトンデモナイ光景が横目に入った。
なんと勇者は自分の部屋のベッドでスヤスヤと寝ているのだ。
この私が10時過ぎまで働かされたと言うのに、勇者マコトは既に夢の世界にいるのだ。
私は部屋の隅にある棍棒を手に取りました。
勇者にお説教をするために…
暗い闇の中に立ち尽くす勇者マコト。
何が起きたのか分からないでいる彼は首を傾けている。
「あぁ…勇者マコトよ死んでしまうとはほんっっっとうになさけない。ちょっとそこに正座しなさい!」
「あれルビス様。もしかして俺また死んだんすか?」
私の声にまるで悪びれる様子のない勇者は渋々と正座する。
「あなた今日は旅立ちの日でしょう?あなたの冒険の書を更新いたしますので、今日一日のお祈りをしてください。」
「そうですね…先ずは目覚めっすかね。旅立ちの日に相応しくルビス様が夢に現れました。おかげで身の引き締まるようなシャキッとした朝を迎えることができました。」
シレッと嘘を吐くあなたは、あれほど苦労して起こした私の頑張りを夢だった事にして無かったことにしようと、そう言うのですね。
まぁ私も精霊です。言わば女神です。多少の事は目を瞑りましょう。
「続けてください。」
「はい、先ずはアリアハンの王様に出立の挨拶に行く道すがら昔馴染みの友人に会いました。そいつはツカサと言ってアリアハンでも有名な武道家なんですよ。」
「なるほど。いくら勇者と言えど一人では厳しいと踏んで強力な仲間を集めようって事ですね?自分の力を過信しない謙虚な姿勢は立派です。」
彼を少し見直しました。
だがそんな私の気持ちを嘲笑うかのように勇者は答えた。
「そうなんですよ。アイツどこで聞いたのかバラモス討伐の旅にオレも連れてけってきかなくて。」
「ふふふ、仲間に愛されているのですね。」
「ハハ、どうすかねぇ。まぁ断りましたけど。」
「え?断ったんですか?」
「はい。オレ最初からパーティメンバーは女の子って決めてましたから。」
「…。」
「そしたらアイツ、涙目になってしがみついてくるんですよ。」
目の前の勇者(クズ)は目に涙を溜めて笑っている。
なんでしょうか、無性に腹が立ちます。
「あまりにシツコイから合コンをセッティングしてくれたら考えてやるーって言ったらすっ飛んで行きましたよアイツ。」
「…」
「それにしてもツカサのやつ、あんなできる奴とは知りませんでしたよ。まさか合コンにルイーダさんとこの娘さんのリッカちゃんまで来るなんて思わなかったもんなぁ。本当に今回は大当たりだったな。あ、そうだ。今度人数増やしてまたやる事になってるんですけどルビス様もどうすか?女神なんてやってると出会いとか無いんじゃないすか?ルビス様も良い男ゲットできるかもしれないですよ?」
「よ…」
「よ?」
「余計なお世話よーー!!!」
ズガァァァァン!!
思わず顔面にグーぱんを入れてしまいました。
私に男がいるとか居ないとかどうでも良いじゃないですか!
私だって好きで……
おっと話が逸れました。
ようするに今日この勇者(クズ)は私が入る人間を間違えたため人間の王族の給仕にてんてこ舞いになっている間、女の子達と遊んでいたということだ。そして普通に家に帰って寝たと。
頭の上に星を回しながら気を失っている勇者にため息が出ました。
仕方ありません。そっと生き返らせておきましょう。
そしてもう少し監視が必要だと言うことが分かった1日目でした。
続く?