数十メートル先をキョロキョロと辺りの様子を探りながら歩く男がいる。夜の街の裏路地という場所もあってかどう見ても不審者そのものです。
「あの男(ヤロウ)…何が夜の街を散歩してくるー…よ。どう見たってさっきの牛女のとこに行こうとしてるじゃない。」
「まぁまぁルビアさん。マコトくんも勇者とは言っても16歳の男子、たまには目を瞑るのも…」
「あ゛?」
私が振り向くとトルネコさんは言葉を飲み込んだ。
普通に振り向いただけなのにそこまで怖がられると少し傷つくからやめてほしいです。
宿屋から歩くこと数分。
ヤツはやはり先ほどの牛女の宿屋の前にやってきた。
「あのヤロウ…私に嘘ついてまで牛女のところに行こうだなんて良い度胸してんじゃないのよ。…ブッ殺してやる。」
私が指をバキバキ鳴らしながらマコトの現場を差押えようとすると、トルネコさんはこの期に及んでまだ私を止める。
「ルビアさん、大丈夫だから落ち着いてください。」
「何が大丈夫だと言うのよ。今まさに入ろうとしてるじゃない!」
「あの店はですね、実はアッサラームじゃちょっと有名でして、ああやってセクシーなお姉さんがあたかも『ぱふぱふ』と言うキーワードで男性の期待を引いておきながらいざ出てくるのは彼女の父親なんですよ。」
「は?どう言う事よ…ってまさか、男同士で!?」
「いえいえ、ルビアさんがどんな恐ろしい事を想像しているかは聞きませんが、興奮しないでください。あの娘の言う『ぱふぱふ』とは肩たたきの事なんですよ。」
「は?肩たたき?」
「そうなんです。色香に迷った男が部屋に入ると灯りを消されて…暗闇に乗じて父親と入れ替わり肩たたきをするのですよ。」
「…まるで美人局ね。」
「はい、ですから大概の男はガッカリした顔して出てくるのです。ですからマコトくんもきっと…。だからルビアさんは何も心配しないで大丈夫なんですよ。」
そう言ってまた大きなお腹を揺らして笑う。
まったく…私がなんの心配をしていると思っているのでしょうか。勘違いもはなはだしい。ですがまぁマコトはあとで境界(ルビスのおしおき部屋)でお説教ですね。私は密かに心に誓う。
「それにしても随分とあの店に詳しいわねトルネコさん。」
「いやっはっは!お恥ずかしい。実は私も引っかかったクチで。」
どうしようもなくみっともない話しでよくもそこまで笑えるものだと思う。しかしなんだろう、マコトと違って目の前のトルネコが美人局にかかろうとどうでも良いから不思議だ。こう言う感情を人はなんと言っただろう。
まぁ考えても分からないからやめました。
そんなわけで私とトルネコさんは砂漠越えの為の買い出しに行くことにしました。なにせトルネコさんは商人、きっとお金も持っているでしょうから。それに本人もイシスまで一緒に連れて行って欲しいと言ったからには相応の謝礼くらいあるのではないでしょうか。
いやでも期待が膨らみます。
案の定トルネコさんは店の人との交渉に長けていた。あっちの店では〜だとか、隣国のロマリアでは〜だの、あの手この手で強気な値引き交渉によって破格の値段で装備や武器を買い揃えていく。
「トルネコさん、あんた中々使えるじゃない。」
「ありがとうございますルビアさん。ところで…ずっと気になっていたのですがルビスさんの装備しているその法衣って…」
「ああ、これ?これは『天使のローブ』よ。」
「や、やはりですか!!これがあの伝説の『天使のローブ』…。ルビアさんはどこでこれを?」
「これはエルフの里で買った(奪いとった)ものよ。どうよ、私にぴったりの装備だと思わない?」
「エルフの里ですか?それはどこにあるのですか?」
似合うかどうかを華麗にスルーしやがりました。
どいつもこいつも…ため息しかでません。
「…なにトルネコさん、エルフの里に行きたいの?でも多分無理よ?あそこの頑固な女王は人間嫌いだから。」
「そ、そうでしたか…で、でもルビアさんは入れたんですよね?」
「私?私はあの娘(ポワンちゃん)とは昔からの知り合いだから特別なのよ。」
どうよ、正体は教えてあげられないけれど大精霊である私の凄さを思い知るがいいわ。
「そ、そうでしたか。それではルビアさん、もう一度エルフの里に行くってのは…」
「嫌よ面倒くさい。」
「…で、ですよねー。では紹介状を書いていただくってのは。」
「それは構わないけれど、そもそもその紹介状を渡すエルフ自体に会えないと思うから無意味よ。」
ガックリと肩を落とすトルネコさん。しかしあのポワンちゃんが私が一緒ならまだしも、人間を里に入れるとは思えない。
きっと深い森の中を彷徨うだけだろう。
「では今着ているその法衣を売って頂くってのは…」
「100万Gよ。」
「100万!?」
「それはそうよ。この『天使のローブ』はもともと価値の高い装備、そしてそれを他でもないこの私が装備したのよ?何倍も神聖な力が宿るこの法衣はもう天使のローブじゃないわ。そうよもうこれは女神のローブよ!」
「は、はぁ…しかし中古ですからなぁ…」
ちゅ、中古!?大精霊であるこの私がまるで中古扱いされているようだ。何だろう、先ほどからストレスが溜まっていく。目の前のトルネコさんに悪気がないから余計にだ。
「では…とりあえず『天使のローブ』は保留と言う事で。」
そう言ってまた大きなお腹を揺らす。
「ルビアさん、明日は砂漠入り、今日は宿屋に帰って体を休めましよう。きっとマコトくんももう帰って来る頃ですよ。」
「そう言えば聞いていなかったけどトルネコさんは何でイシスに行きたいんだっけ、やっぱり商売?」
「まぁ商売も理由の一つですが、イシスは最近代替わりしたそうで現在女王が治めているそうなんです。」
「ふーんそれで?」
「しかもその女王が若く美しいのだとか。」
「…それで?」
「いやぁ、やっぱり私も伴侶が欲しくて。どうせなら若くて見目麗しい女性が良いですからな。欲を言えば毎日愛妻弁当なんか作ってくれるなら最高ですな。」
「いや、あんた最低よ。まぁ要するに大精霊ルビスのような完璧な女性が好みと言うことね。」
「いえ、ルビス様は確かに完璧な存在ではありますがお若くはないですからなぁ。私年増はちょっと…」
「…」
よし明日コイツは砂漠に埋めよう
それにしても今日は本当にイライラが募る。早く宿屋に帰って寝てしまおう。苛立ちが募る私が宿屋に着くと、ガックリと項垂れている勇者がいた。
顔は月明かりの下でも分かるほどにこの世の終わりのような表情をしている。どうやらトルネコさんの言っていた事は本当のようだ。
「あれ?ルゥも出かけていたのか?俺も夜の散歩は疲れたよ」
渇いた笑顔を向ける勇者があまりにも哀れだ。
私は優しく微笑んでマコトに近寄ると…
「ゴッドブロー!!!」
マコトの顔面に私の溜まりに溜まった怒りのこぶしが炸裂した。
そして境界(ルビスのおしおき部屋)で私は呆然とする勇者にこえをかけるのだ。
苛立ちをマコトにぶつけるのは酷だろう。私自身も何を言ってしまうかわからない。でも最初の言葉だけは決めてある
「ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか」
と
続く