ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。   作:シズりん

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砂漠はつづくよ、どこまでも

暑い…

 

何が暑いかというと太陽の光が暑い。その太陽の熱をたっぷり溜め込んだ大地の砂が暑い。その砂塵を吸い込んだ体内が暑い。暑い…暑い、暑い暑い暑い暑い!!

 

「あーもう暑いわね!!」

「おわっ!なんだよルゥ、いきなり叫ぶなよ。」

「だって暑いの!暑すぎなのよ!!」

「仕方ないだろ砂漠なんだから。地図を見る限りあと少しでオアシスに着くからもう少し我慢しろよ。」

「そう言ってもう3日目なんですけどー。」

「おかしいなぁ…。」

 

勇者は地図を逆にして見たり斜めにしたりして見ている。どう見ても典型的な方向音痴だ。この様子ではいつになったらイシスに辿り着けるのだろうか、不安しかない。

 

「ルビアさん、そんなに暑いなら夏用の装備を買ってありますからお着替えになっては?ささ、その天使のローブを私に渡して…」

 

トルネコがそう言って装備袋から取り出しのは『あぶないみずぎ』

私は無言でエロ狸を殴り飛ばした。

 

「それにしても誰よ砂漠なんて作った奴は!」

「大地の精霊…お前だけどな?」

「太陽もギラギラし過ぎなのよ!明かりを照らすだけでいいのよ!」

「光属性の一番上にいるのも確かお前だけどな?」

「…」

「…」

「何よ何よ!!少しくらいは優しくしてくれたって良いじゃない!もっと優しくしてよ、讃えて褒めて崇めて!!そしてもっと私を楽させて甘やかして!!」

「この駄女神が!!何が慈愛に満ちた大精霊だ。何の役にも立ってないじゃねーか!お前ふざけるなよ?お前のせいでパーティ枠一人分使っちゃってんだぞこっちは。他の僧侶が仲間になったらお前なんかとっとと返品してやるとこだ!!」

「わー!!マコトが言っちゃいけない事言ったー!!」

 

ギャーギャーと勇者と喧嘩をしているといつのまにか意識を取り戻したトルネコさんが喧嘩を止めに入る。

 

「まぁまぁマコトくん、少し気持ちを抑えて。ルビアさんをパーティ枠と考えずにペット枠と考えれば良いのですよ。」

そう言って大きなお腹を揺らして笑う。

どうしよう…この人間には殺意しか生まれない。

 

「まぁ冗談はさておき、以前砂漠は昼間ではなく夜間に進むと聞いた事があります。昼間は日陰をつくり体力を温存するのだとか。」

「へー、トルネコは案外博識なんだな。おいルゥ、お前もそれで良いか?」

「私はこの暑さから開放されるのなら何でも良いわよ?」

「よし、じゃあ太陽の位置で方角だけ確認したら夜を待とう。」

 

 

なんて事を確か言ってました。

「寒っ!」

ブルブルとマコトが震えている。まぁそれもそうでしょう。

何せ砂漠の昼間と夜の気温差ときたら半端ない。もう氷点下近くまで下がっているのではないでしょうか。

私の装備は天使の羽で作られたものです。私を暖かく包み込んで…

 

「…いルゥ!しっかりしろ!!」

「はっ!?今私?」

 

どうやらあまりの寒さに私は死にかけていたようです。

それにしても砂漠は過酷な環境です。しかし真っ暗な夜間だからこそ見えるものもある。私たちは遠くに祠の灯りを見つけた。3日ぶりに休めるというのもあり、ついでにイシス城の情報もあるかもしれない。私たちは脇目も振らずに祠へと向かいました。

 

 

その祠は私の目から見ても随分と前に打ち棄てられたようでした。あたりは毒の沼地に囲まれ、明らかに人のいる気配もない。ただ、今私たちに必要なのは昼間の太陽の光を遮る屋根と、夜の寒さから身を守る壁が有れば良い。幸い明かりがついているということはまだ祠には私の加護が機能している証拠。モンスターも寄り付いてこないからゆっくり休めそうです。

 

私たちは内に入ると祠の中を調べた。

案の定、人は誰もいないようだったが何組かのベッドや暖炉があり、かつて誰かが暮らしていたようだった。

私はベッドの横にあるチェストの上にある一冊の日記を見つけた。

 

「ルゥ、そっちはどうだ?何か情報になるものは見つけたか?」

「マコちゃん。そっちは?」

「こっちは全然。それよりそれは?」

「これは多分、以前この祠で暮らしていた人の日記みたい。日付は…やく三年くらい前のもの見たい。」

もしかしたらこれにイシス城の情報があったりしないだろうかという期待を込めて私は日記を手に取り読み始める。

 

 

 

 

私たちは安住の地を求めてイシス国にたどり着いた。

水と緑といった自然溢れるイシス国は言わば資源大国でもある。その勢力は隣のロマリアやポルトガにまで影響を与えるというのだからかなりのものだ。

しかし私は前の地の二の舞は踏まない。

多少不便ではあるがイシス城から遥か東に位置するこの森の中なら誰にも見つかる事なく親子3人で静かに暮らしていけるだろう。

アンと娘の容姿を人混みに隠すのではなく人から離すのが一番なのかもしれない。

 

娘が13歳を迎えたとき、彼女が『メラゾーマ』を既に覚えている事が判明した。

何故父親である私にその事を隠していたのかを尋ねると、彼女は呪文が怖いと感じている事を知る。物心ついた娘が自身の呪文を恐れるだなんてあまりにも可哀想だ。

そこで私は誰にも迷惑にならないよう空に向かって放てば良いと教えた。空なら人はまずいないからだ。

娘は戸惑いながらも空に向かって『メラゾーマ』を放った。

何だかんだ言いながらもせっかく身に付けた呪文を使って見たかったのだろう。

巨大な火球が上空へと昇っていく…のだが、あれ?何で太陽が二つあるの?なんか無性に気温が上がっているんだけど。

 

娘が『メラゾーマ』を放って3日目。

今日の気温はついに50度に到達。暑い。太陽の光を抑えている森の中にあってもこの気温は異常だ。

5日が過ぎたころ、私がイシス城に買い出しに行くと街中で水が干上がったとの噂を聞いた。

たぶん私たちのせいではない。自然のなせる技であろう。

7日目、ついにイシス国の豊かな森の木々が全て枯れた。暑さで水が干上がったせいで地中の水が吸えなくなったせいであろう。

空にはギラギラと輝く太陽が二つ、今日も熱を発している。

 

ここまで来ると流石に私たちも無視はできない。アンも水が飲めずに体調を崩しはじめている。

私は娘に『メラゾーマ』の火球に向かって『ヒャド』を放ってみるよう言った。『メラゾーマ』に『ヒャド』ではまさに焼け石に水ってものだが、まだ娘は『マヒャド』は覚えていないのだから仕方がない。

 

娘が火球に向かって『ヒャド』を放つと、凄まじい風が吹き荒ぶ。考えてみればそうかもしれない。暑いところに寒気を放てば上昇気流が発生する。水のない場所で起きた嵐は『バギクロス』など可愛いそよ風のような凄まじさだ。

 

ヤッベー!何か枯れたとはいえ木々が全て吹き飛んじまったよ。倒壊した建物やらの粉塵が砂となって大地を覆いはじめてるよヤベー!

このままじゃイシス国は緑豊かじゃなくて砂が豊かな国になっちまいそうだ。

でも今更どうにも出来ないけどな。

って言うかもうすでに見渡す限り砂漠しか見えないんだけどな。

 

誰だよ空に向かって放てば誰にも迷惑かけないとか安易な考えを娘に吹き込んだやつ。

そいつバカだろ!ちゃんと娘のステータスくらい把握しておけってんだ。

 

 

おっと、空に放つよう言ったのも、娘を育てた父親も俺でした。

 

 

 

 

「…終わり。」

「またお前かー!!!」

私が日記を読み終えると勇者がさけんだ。

 

以前の手記を知らないトルネコさんは状況を把握出来ずポカンとしているようですが、私たちは知っているのだ。

 

「こ、この世界にはどうやらとんでもない子がいるようね。」

「ああ、この子なら魔王バラモスも倒せるんじゃねーか?」

「バラモスどころかその先も…」

「その先?」

 

私は言いかけて止めた。

まだ成長段階の勇者に旅の目的であるバラモスが実は単なる尖兵でしかない事を知ったら冒険を辞めてしまうかもしれない。

何せマコちゃんは生粋のヘタレだから。

 

「とにかく日記にはイシス城は東に位置するってあるし、日が沈んだら行って見ましょう。」

「なぁルゥ…」

「何よマコちゃん」

「東じゃなくて西だ!!お前バカだろ!ちゃんと読めよ。こんな砂漠の真ん中で迷い子になったら死ぬだろうが!」

 

この偉大なる精霊をバカ呼ばわりする勇者と、全く止めようともしないエロ狸にいつか神罰を与えてやろう。

私は心の中で呟きながら『冒険の書』を更新して明日に備えるのだった。

 

 

 

つづく

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