「ニャオーン」
「なんかやたらと猫がいる国だなぁ。」
勇者が言うようにイシス国の城門をくぐると、あいも変わらず砂だらけなのですが、たくさんの猫たちがのびのびとしていた。
日中嫌というほど温められた砂がまだ温度を保っているから暖かいのでしょう。
猫たちは気持ちよさそうに砂の上を寝転んでいる。
そのうちの1匹の黒猫が私の足元に寄ってきた。
「あら、さすが猫ちゃんは私の高貴さに本能で気付いて恩恵にあやかりにきたのね。」
私が黒猫を抱き抱えようとすると
ガリッ!!
「いったい!!この子私を引っ掻いたわよ!」
「お前猫が嫌がることでもしたんじゃねーのか?」
「失礼ね!私のような慈愛に満ちた大精霊が抱き抱えてあげようって言ってんのよ?嫌がられる訳ないじゃない!」
「ワッハッハ!ルビアさん、貴女が美人なのは認めますが、幾ら何でも精霊ルビス様を騙るのはやり過ぎですよ。」
『グフフフ…貴様らは勇者一行だな?わがはいは魔王バラっ!?』
「言ってやるななよトルネコさん。ルゥは自分が精霊だって騙る痛い女の子なんだよ。」
そんな事を猫の首根っこをヒョイと摘み上げた勇者(マコト)が言う。
「なあああんですってえぇ!ちょっとマコ…」
私に対して不敬を働いた勇者は、私の口に手を当てて小声で「お前自分で正体バラしてどうすんだ」と言う。
まぁ確かに大精霊がいるだなんて知れれば大騒ぎになってしまう事は間違いない。私としてもそれは望むところではない。今ひとつ納得がいかないけれど怒りを納める事にした。
「ところで今この魔獣喋らなかった?」
「おいおいルゥ、いくら引っ掻かれたからって猫に対して魔獣って…。それに猫が喋るわけないだろ…」
そこまで話したマコトは猫のあるものに気付いたようにソレをみている。
「この猫首輪してるし飼い猫か?名前も書いてあるぜ?」
「名前?魔獣のクセに生意気ね。で、何て名前なの?この不届き者の名前は。」
「ちょむすけ」
「は?今なんて?」
「この猫の名前はちょむすけって言うらしい。」
「「…」」
私と勇者は、首根っこを摘まれて伸びてダラんとしている魔獣を無言で見つめるのでした。
あらためて
私たちはイシス国にやってきました。
イシスは見渡す限り砂漠の中にぽつんと建っているお城しかない。ボロボロに朽ちた巨石が並ぶ城門を潜った先も砂砂砂、ひたすら砂漠化しています。
城下町らしきものもないこのお城が本当に国として成り立っているのか疑問でしたが、城内に入った瞬間に私は考えを改めた。
城内には豊富な水と緑が活き活きとしている。
イシスの国民の大半も城内に各々部屋を持ち、城内で店を開くなどしていた。おそらくはこの国の国王がイシスを立ち去らないで残った国民に対し、お城に招き入れたのでしょう。
かつての経済大国イシスはお城の中と言う狭い空間の中でちゃんと続いているようだ。
「さて、先ずはどうすっか。」
「私は宿屋に行きたい。早くお風呂に入って身体中の砂を洗い流したいわ。」
「いやいやマコトくん。先ずはこの国の元首に挨拶ですよ。私の情報によると今のイシス国はとびきりの美女が治めていると聞きますよ。」
「…詳しく。」
そう言ってマコトとトルネコがヒソヒソと話しいる。
なんだか面白くない。
「って言うかトルネコさん、あんたいつ迄いるのよ!もう約束のイシスに着いたんだからさっさとどこか行きなさいよ!」
「ル、ルビアさんそれは余りに冷たい。私たちはパーティじゃありませんか。」
「誰がパーティよ!ねぇマコ…何よそのダラシない顔は。」
見ると鼻の下を伸ばした勇者の間抜け面がそこにらあった。
やっぱその国の元首への挨拶は必要だとか何だとか、今までロマリア国はおろか、自分の生まれ故郷であるアリアハンの国王にさえサッサと会いに行こうとしなかった男が何を言ってるのだと言ってやりたい…。
しかし結局マコトの散々な言い訳を聞いてるのが疲れた私はマコトとトルネコさんのイシスの女王への挨拶を了承した。
王室はとても荘厳で美しい佇まいでした。
真ん中に敷かれた赤いカーペットの上を歩いて女王のもとへと歩くと、何でしょうか結構気持ちがいいも知れない。高揚感に満ちる。
私たちを出迎えたモンスターの様な小柄な老人に連れられて通された玉座の間にいたのは言わずと知れた…
「馬だな。」
ポツリと呟くとそれにトルネコさんと私が続く
「馬ですな。」
「馬ね。」
そこには純白のドレスを身にまとう、馬のお面をかぶったイシスの女王がいた。
「ようこそイシス国へおいでくださいました勇者様。私は今代のイシスの女王ミーティアです。」
「俺は勇者マコトです。で、こちらが仲間の僧侶ルビアです。」
「マコト様にルビア様ですね?あの…そちら様は?」
「あぁ、こっちは縁あってイシスまで同行しただけの商人です。」
「ちょっとマコトくん、それは余りに寂しいじゃないですか。私はもう二人を仲間だと…」
「誰が仲間よ。割と二人で楽しくやってるのよ。邪魔だから早くどっかいって!」
私の言葉に涙目になるトルネコさんと、それを見ていた女王がクスクスと笑う。
「ところで何でミーティアは馬のお面なんかかぶっているんだ?」
場の空気が女王の笑いで緊張感が霧散したところでマコトが誰もが気になりながら聞けないでいるところをつく。
「これは…ミーティアはお馬さんが大好きでして…。」
「はぁ、好きって言う理由だけっすか?」
「はい。それはもう、本当になれるものなら本当にお馬さんになりたいくらいですわ。」
イシスの女王は、ずいぶん変わった感性の持ち主のようです。
とりあえず言えるのは彼女が何を言っているのかわかりません。
それからも私たちの今までの冒険の軌跡に、楽しそうに耳を傾ける女王はお面のせいで分からないけど、きっとマコトに近い年齢の少女なのかも知れない。
なかでも驚かされたのはモンスターみたいな風貌の老人が、従者とばかり思っていたら彼女の実の父親であると知ったときでしょう。
そして夜の手前の時間になり私たちがおいとまをしようとしたとき、
「見ての通り今のイシス国はかつてのような経済大国ではありません。3年前にイシス国を襲った二つの太陽が現れると言う謎の厄災によりイシスは砂漠の国と化しました。豊かな木々や瑞々しい清流も、今やイシス城のみとなってしまいました。コレを私たちイシスでは『レイダメテスの悲劇』とよんでいます。」
「レイダメテス?」
「はい。私たちの国を壊滅の一歩手前まで追い詰めた厄災…
この世界で 平和に 暮らしていた
すべての 生きとし生けるものは
滅亡の危機に さらされた。
今 空には ふたつの太陽が 昇っている。
ふたつめの太陽…… それが現れてから
この世は 地獄と化してしまったのだ。
いまわしき ふたつめの太陽は 自在に空を駆け
大地を焼き 海を干上がらせ
人々を 灼熱の絶望に おとしいれた。
太陽が ふたつになった理由など 知る由もない。
わかっていることは 地上に 生きる者すべてが
滅亡しようとしているということだけだ。
…と言う伝承さえ今や国中を巡っています。」
マコトも私も固唾を飲み込んだ。この厄災の原因を私たちは知っているからです。まだ半信半疑のトルネコさんはあの日記を信じていない様子だから口にしないようでしたが、私たちが口にしないのはもっと別な理由だ。
魔王バラモスのことだけでも世界は危機にあると言うのに、バラモスが可愛く見えるかのような破壊神(デストロイヤー)までもが世界にいると知れれば、人々が絶望してしまい、ひいては私への信仰心までもが捨て去られかねません。そうなれば私の恩恵は絶たれてしまい、世界は更なる荒廃へと向かうでしょう。
けっか、私たちもまたイシス国を襲った厄災については触れないことにしました。
知らないと言うことも幸せです。
長きに渡る会談を終えた私たちが宿屋に帰るさい、女王は私たちに西にあるピラミッドの存在を教えてくれました。モンスター…もとい彼女の父、トロデさんは驚き反対していましたが、女王は国として勇者への支援ができない代わりに、せめてとばかりに豊かな頃の財宝が眠るピラミッドの中の探検を許可してくれたのです。
深夜
宿屋の部屋で私とマコトは、明日からピラミッドの中の探索をしようと決めたのでした。
それが悲劇の始まりとも知らずに…
続く
ちょむすけ…もうでませんw