それは何もない砂漠の真ん中にありました。
かつては鬱蒼と茂ったジャングルの中にあったと馬女(ミーティア)からは聞いていましたが、四角変に切り出された岩石を四角錐に積み上げられた巨大な石像建造物は、不思議と周りの砂漠の風景に合っているように見えました。
岩場の隙間からピラミッドへの入り口を見つけると私たちは辺りのモンスターに気付かれないようにピラミッド内部へと侵入しました。
ピラミッド内部はただただ薄暗く、随所にある灯火とマコトの持つ松明だけが頼りのようです。
まぁ精霊である私には暗がりなど関係ありませんが。
しかし人の心理的に真っ暗闇と言うのは恐怖の対象なのでしょう。一応勇者らしく先頭を歩いくマコトは、腰が引けてさえいなければそれなりに勇者に見えます。
「ルゥ、あまりオレから離れるなよ?」
「何よマコちゃん、暗いの苦手なの?大丈夫よぉ、辺りにモンスターはいないから。」
「え?お前この暗闇の中が見えるのか?」
「見えるわよ?昼間と変わらないくらいには。あなた一度聞いてみたいのだけど私を何だと思っているの?」
「疫病神かなんか。」
「ちっがうわよ!女神よ女神!美しく聡明な大精霊よ!」
「ワッハッハ、ルビアさん、いくら貴女が美女でも精霊を騙っていたらいつか本当にルビス様の神罰にあいますよ。」
女である私のさらに後ろを歩くトルネコさんがあいも変わらず大きなお腹を揺らす。
「今ここでその神罰を見せてやろうかしら。」
振り向いてモーニングスターを振りかぶると勇者が私を羽交い締めにして止める。
「ってかトルネコ、あんたいつまで付いてくるんだよ。目的のイシス国にはついたじゃねーか。」
「そうよ!関係ない人はあっち行って!シッシッ!」
「そ、そんな冷たい事を仰らないでくださいよ。私だってピラミッドの秘宝が気になるんですよ。それにルビアさんの希望通りの装備だって私が購入したのですから、一緒に連れて行ってくださいよ。」
「あ?今朝ルゥに無理矢理装備させられたこれか?」
ツバのある独特の茶色い帽子に、ヨレたグレーのシャツ、そして革でできた上着。腰には鞭を装備した勇者が自分を指差して言う。
「そうよ。マコちゃんは知らないかも知れないけど、ピラミッド探索にはピラミッド探索に適した装備と言うものがあるの。それはかつての偉人が装備した由緒正しい装備なの。」
私がどれだけ素晴らしい装備であるかを説明するが勇者は何故か白い目で私を見るのでした。
※※※
「いいかルゥ、お前は知らないだろうけどな、こういう遺跡ってのは大概盗賊よけの罠があるもんなんだ。だからやたらに触るなよ?」
暗闇の中を松明の炎のみを頼りに空を弄りながら進むマコト。
「知ってるわよそのくらい。私は罠よりマコちゃんのその手が私のお尻を触ったりしないか心配なんですけどー。」
ちらっと振り向き私の目を見た勇者は深いため息を吐き、無言で前を向くと再び歩きだした。
「ちょっちょっと何よその態度は!私のお尻に何か文句があるわケ…!!」
ゾワッとした感覚が背筋を走った。見ればトルネコがニヤニヤしながら私のお尻を触っていた。
ガン!!
「ちょっと何をドサクサに紛れてあなたが私のお尻を触っているのよ!」
マコトならいざ知らず、会って間もないトルネコに触られるのは不快以外なにものでもない。私は制止するマコトを振り切ってトルネコをモーニングスターで殴り倒した。
本来ならマコトが私の代わりに怒っても良い場面だと言うのに、目の前の勇者(ヘッポコ)はパーティーメンバーを攻撃するなと私に怒る。とても心外です。
私はマコトに向かってもモーニングスターを振り下ろすが、マコトは見えないくせに器用に交わす。アタマにきた私は何度かモーニングスターで勇者に襲いかかっていると、カチリと乾いた音が足元から聞こえた。
「おいルゥ、今なんかカチリとか聞こえなかったか?」
「な、なんか聞こえたわよね…。」
ゴゴゴ…
と、地響きとともに重苦しい音がする背後を見ると、巨大な丸い岩石がこちらにめがけて転がってくる。
「いやぁぁぁぁ!!」
私とトルネコを背負ったマコトは必死になって走り回る。
もう、どこを曲がってどこを登り降りしたかなんて分からない。ただひたすら逃げ回り、なんとか難を逃れることに成功しました。
しかしそんなピラミッドの中で迷子になった私たちを追撃するかのように次から次へと罠が発動。
ようやく罠が落ち着いた時には、私たちのHPはもうオレンジ色です。
「あーマジで死ぬかと思ったぜ。」
「本当よね。まったく誰よこの罠考えた人間は。死んだ人でも許さないわ。」
この私にこれだけの事をしてくれた罠を作った人間のことを、泣いて謝っても、たとえ既に死んでいたとしても私は許さない。
そんな事を考えながら探索を続けていたら1人の男に出会いました。
私の大精霊の眼で見たその男は、年齢はマコトとそう大して変わらないように見えるところから16か7辺りだろうか。夜の色をした髪と瞳の色をしていた。
背中に背負った2振りの片手剣から見ても分かる戦士、レベルは…
24!?
なんと私たちと同レベルです。私たち勇者一行は私を救う為にモンスターを討ち倒(やみうち)しながら旅をしているから高レベルなのはわかるとして、いくら戦士とは言っても普通に生きてきた人間にしては驚くべきレベルです。
…しかしなんだろう、確かに人間…だとは思うのだけれど、どうにもこの戦士には良くないものが纏わり付いているように見える。それに私の眼を持ってしても良く見通せないのは初めてです。
そんな彼は私たちの姿を認めると笑顔で歩み寄ってきた。
そんな彼に一歩前に出たマコトが応対した。
剣こそ腰に納めたままではあるが、しっかりと警戒は怠らない勇者の姿に不覚にもちょっとだけ頼もしく見えた。
「オレの名はエスタークだ。見ての通り戦士だ。君たちは?」
「オレはマコト、勇者です。」
するとエスタークと名乗った青年はやはりと笑顔で手を叩く。
「そうかやっぱりか。こんな高難易度なダンジョンに入ってくるくらいだから、よほどのバカでなければ噂の勇者だと思ったぜ。」
「まぁ…どちらかと言えば前者も間違いではありませんけどね。」
私は心の中で一人ツッコミを入れた…のだけれど
ガン!
「おいルゥ、お前心の声がダダ漏れだぞ。」
どうやら声に出てしまったようです。だからと言って何も頭を叩くことはないと思う。
「こっちの僧侶はオレの仲間でルビアで、オレの背後で目を回してるのはトルネコと言う商人だ。まぁ…こちらは仲間かは微妙だけどな。」
「へぇ、ルビアさん…ねぇ。」
エスタークは意味深く私を見たあと鼻で笑いやがりました。なんか鼻に着く男ですね。
「ところでそんな高難易度のダンジョンにアンタは何をしに来たんだ?見たところ1人のようだけど。」
「バカねマコちゃん、今この人自分で言ってたじゃない。『こんな高難易度のダンジョンに入ってくるくらいだから、よほどのバカでなければ噂の勇者だと思ったぜ』とか。この人は戦士であって勇者じゃないんだから必然的にバ…モゴモゴ」
「そうだよなぁルゥ、エスタークさんはきっとバ…バカ強い戦士なんだろうなぁ1人でダンジョンに潜るくらいだし。」
バカと言おうとした私の口を手で抑えつけた勇者は苦笑いをしている。しかし私の言いたいことを理解したようで、エスタークは引き攣った笑いを浮かべてピクピクしている。
なんだろう、この人間には申し訳ないけれど彼が悔しそうな顔をしていると気分が爽快になります。
それにしても
「ちょっとマコちゃん、何あんな男に気を遣ってるのよ。」
「お前はバカか?ただでさえモンスターがうようよいるようなダンジョンの中で敵を増やすんじゃねーよ!」
「何よ、あの男のレベルは私たちと同レベルよ?二人掛かりで戦えば余裕よ。」
「…お前まさか1人を相手に2人で戦う気か?」
「そんな訳ないでしょ。マコちゃんの背後にいる重石(トルネコ)を入れて3人がかりよ。」
「汚ねえなお前。モンスター相手なら分かるけど同じ人間に対してそれは卑怯すぎないか?」
「何言ってんのよマコちゃん。戦いはね、勝てばいいのよ勝てば。」
「お前は本当に女神か?」
ボソリと言いやがりました。
「マコトあなたねぇ、私もその内本当に怒るわよ?」
私がマコトの胸元を掴み上げると、黙って私たちのやりとりを見ていたエスタークが突然大笑いをした。
「まってくれ2人とも。オレは2人と戦う気はないよ。ピラミッドを一緒に探索しないかと思ってな。」
「あなたと一緒に探索して私たちに何の得があると言うのよ。分け前が三等分になって減っちゃうじゃないの。」
「四当分ですルビアさん。」
ちゃっかり目を覚ましたトルネコが自分の取り分まで乗せて来やがりました。
「まぁそう言わないでくれよ。君たちパーティーの目的はたぶんコレだろ?ソレをやるからさ。」
そう言ってエスタークはマコトに向かって何かを放った。
手の上には銀色のカギがあった。
マコトは『魔法のカギ』を手に入れた。
「何だ只のカギかよ。もっと金銀財宝を期待していたんだけどな。」
「本当よ、これじゃ私がリッチな生活をおくれないじゃない。」
「何だ、2人はそう言ったものを求めていたのか。それならコレもピラミッドで見つけたものだからやるよ。どうぐやに売ればそれなりの額にはなる筈だ。」
そう言ってエスタークと名乗った青年は『ルビーのうでわ』やら何やらと沢山の宝石類を私(パーティー)に貢ぐ。
なかなか見所のある青年ですね。
そんな宝石類をホクホク顔で抱える私を横目にマコトは
「エスタークさん、アンタは何を探しているんだ?」
至極当然とも言える質問をする。私はあまり機嫌を損ねて宝石類を返せと言われないでほしいのですが…
って言うかもう返しませんけどね。
「オレは…この世の何処かにあると言われている『進化の秘宝』を探しているんだ。」
「『進化の秘宝』?」
マコトは聞いた事もないとばかりに首を傾けるが、私はその不穏なワードに背筋を冷やす。
「ちょっと待って!どこでそんなモノの事を知ったのかは知らないけど、『進化の秘宝』は人が手にするものじゃないわ。」
「へぇ、ルビアは『進化の秘宝』がどんなモノか知っているんだな。オレは最強の戦士になる為に絶対に必要なモノなんだ。」
こいつ…初対面の私を呼び捨てにしやがりました。
しかし今はそれどころではありません。
「ダメよ。『進化の秘宝』は闇の根源の欠片だもの。力に飲み込まれて暴走するのがオチよ。」
「…それでも構わない。」
エスタークは少しだけ悲しそうな瞳をした。
何か訳ありで強さを求めているのだろう。しかし当然女神としてそれは見過ごすことができないものです。
なんとしてもこの青年の考えを変えなければ、きっと人間の世界にとって厄災がふりかかるでしょう。
何に変えても私が人の世界を救ってみせる。それこそが大精霊の責務と言うものだ。
「あ、仲間になるのを断ったらさっきの宝石類は返してもらうからな。」
「何言ってるの、私たち仲間じゃない。一緒に頑張りましょうね♡」
「…あっさり買収されてんじゃねーよ。」
マコトのツッコミは聞こえないフリをしてあげよう。そもそもあなたが甲斐性なしだから私が苦労の旅をしているのですから。
こうして私たちのパーティーに戦士と言う強力な仲間ができたのでした。
つづく
新キャラの人間verのイメージはキ○トです。
私の旦那様♡