「くっ…すまないマコト、あとは頼む…。」
そうマコトに言い残して崩れ落ちる戦士エスターク。
勇者は囲まれている敵の集団を相手しながら戦士の名を叫ぶ。
これだけの数の敵が相手では私の『バギ』も大した効果は望めない。
もう1人の商人トルネコはハナっから役に立たないのだから、ここで戦力の要であるエスタークに倒れられてしまうのはかなり厳しい。
私はすぐさま『ベホイミ』をかけにエスタークに駆け寄ると…
「ZZZ……。」
気持ち良さげにいびきを立てて眠る戦士がそこにいた。
「ちょっとマコちゃん…」
「なんだよルゥ、今戦闘で手が離せないから早くエスタークを『ベホイミ』で回復してくれよ。」
「この人…HP満タンなんですけど。」
「は?じゃあなんで倒れてんだよ。」
「『だいおうガマ』の『ラリホー』が効いてるみたい。ヨダレまで垂らして気持ち良さそうなんですけど。」
「またかよー!!!」
マコトが叫び、ピラミッド内にこだまするのでした。
※※※
鼻をくすぐられる感覚を覚えた私が目を開けると目の前に心配そうに覗き込む馬女(ミーティア)と目が合いました。どうやら彼女の長い黒髪が鼻にかかっていたようです。
彼女は失礼にも私と目が合うと小さく悲鳴を上げて腰を抜かした。
改めて周囲を見渡せば、隣にマコトにエスタークそして一回りお腹の部分だけ大きな棺に入っているトルネコの遺体があった。
そう、私たちは全滅したわけです。
今回はマコトが悪いわけではないから境界(ルビスのお仕置き部屋)には呼ばなかった。だから私だけが先に目覚めたようだ。
私はこんな時まで馬のお面をかぶる危篤なミーティアに早く教会から神父を呼んでくるようにお願いした。
程なくするとミーティアとともに神父がやってきた。
神父は既に『ザオリク』はかけたが効果がなかったと言う。
「だから何度も言うがルビス様の身に何かあったかは存じませんが女神の恩恵が無くなった今となっては生き返りができないのですよ姫。」
「そんな…ミーティアの運命のお方である勇者様に生き返っていただけなくては私、チャゴス様と結婚させられてしまいますわ。何としても勇者様を生き返らせてください神父様。」
「そう言われましてもなぁ、私としてはチャゴスと結婚してほしいのだが。」
などと勝手な事をのたまう馬女と神父を他所に私は仲間3人に生き返りの認可をくだす。すると目を覚ましたかのようにマコトとトルネコは起き上がった。それを見た馬女と神父は2人揃って腰を抜かし暫く放心していましたが、気を取り直した神父は
「おお奇跡だ。我が祈りを聞き入れてくださった偉大なる大精霊ルビス様に感謝いたします。」
「凄い、さすがですわ神父さま。」
「私ほどの毎日欠かさずルビス様への祈りを捧げている信仰心の高い神父なれば、大精霊ルビス様の御姿さえもみえるのです。ほら姫、そちら側にルビス様がいらっしゃって微笑んでいらっしゃいますぞ。」
と、私に背を向けどこに向かってか祈りを捧げている。
とりあえずこの神父の祈りは今後もブロックするとしよう。
「くそー。久しぶりの全滅だよなぁ。何が問題だったんかなぁ。」
「そうですなぁ。我々は自分で言うのもなんですがバランス良いパーティーだと思いますよ?」
「ZZZ……。」
マコトの言葉にトルネコが続く。
私はたまらなくなり
「…ねぇマコちゃん、あなた本当に全滅した理由分かってないの?」
「ああ。」
「なら言うわよ。まずトルネコさん!」
私は彼を指差して続ける
「あなた、ちっとも戦えないじゃない!あなたがやっているのは『おどるほうせき』が落とした宝石を拾うだけで、あとは逃げ回っていたんじゃお荷物が1人増えただけじゃない。」
「…確かに。でもエスタークは強かったぜ?」
「そうね、彼は確かに強いわ。私が今まで見てきた中でも飛び抜けていると言っても過言ではないわね。」
そう、エスタークは強かった。普通片手剣を持つ戦士のメリットはもう片方の手に盾を装備出来ることにある。つまり戦士は攻守に渡って戦闘の要になる存在です。
しかしエスタークは盾を装備せずに、もう片方の手にも片手剣を装備している。そう二刀流なのだ。防御を考えずにただ攻撃あるのみなんて必ず負ける。
私は普通にそう思っていたのですが、エスタークは本当に強かった。同レベルである私たちよりもはるかに。
しかもモンスターの唱える初級呪文は効かないわ、私の大精霊の眼を持ってしても細部まで見渡せないなんて初めてのこと。
本当に彼は人間なのだろうかと疑うほどです。
しかし
「なんでこの男はまだ寝てるのよ!しかも『ラリホー』なんていいところ三分の一程度の成功率だってのにこの男は100よ100!!どんなに強くたって寝てばかりいたら負けるに決まってんじゃない!言い分があるならなんとか言ったらどうなの。」
「ZZZ…」
「ふぅん…私への返答なんてイビキで十分だと。」
「まてまてルゥ、指をポキポキ鳴らしてエスタークに近寄るのはやめろ!」
ガツン☆
マコトが私を羽交い締めにして止めるので今回だけは『ザメハ』(木槌で顔面を叩く物理攻撃)だけで許してやりました。
「すまない、昔からどこでも寝られるのが特技で…」
頭をぽりぽりかきながらはにかむエスターク、
そんな特技は聞いたことがありません。
そんなやりとりにひと段落すると勇者が
「で、どうするよこれから。またピラミッドに入るか?とりあえずエスタークから貰ったこの『まほうのかぎ』が戦果でよくね?」
「そうですなぁ私も懐がだいぶ暖かくなりましたし無理には行かなくても良いかと。大事な婚活中の身ですからなぁワッハッハ。」
「オレはまたピラミッドに潜入するべきだと思う。それにオレの目的の『進化の秘宝』をまだ見つけてないからな。」
「そう言えばまえもソレ言ってたわね。でもそれって秘宝とか限らないんじゃない?もしかしたら秘法かもしれないし。」
「…そんな…それじゃオレはどう探せば…呪文なんか使えないから秘法だったら…。」
「まぁそう暗くなるなよエスターク。ルゥの言葉なんか適当に流しとけばいいんだよ。」
「なあぁぁぁんですってええ!!」
私は勇者の首をしめてやりました。
慌てた馬女が止めに入るまで。
結局今日の所は宿屋に帰り、ピラミッド探索の為に装備を見直すことになり解散するのでした。
が
「なんでみんないるのよ。」
そう、解散したはずなのに私たちの部屋にみんながいる。
「宿屋くらい静かにして欲しいよな。」
マコトも私に同意する。そうよね、1日の最期くらいはゆっくりとしたいものです。
「なんでエスタークが普通にオレ等の部屋にいるんだ?」
「そうよ!早くあっち行って!そして私の部屋から出てって!ほら早く出てって!!」
「ググッ」
エスタークは苦虫を噛み潰したような表情で悔しがる。
「おまえ何か妙にエスタークにキツイよな。おまえ一応元何とか様だろ?良いのか?生きとし生けるものは全て〜とか言われてんだろ。」
「誰よそんな適当な教えを広めたアホは。私自ら地獄に叩き落としてやるわ。」
「…おまえ呑んでるな?」
そりゃお酒も飲みたくなるものです。旅の最中唯一ゆっくりと息を吐ける宿屋だと言うのに、いくら馬女があてがってくれたスイートルームだとしても人口密度がぱない。
それに…
「何でか知らないけどエスタークを見てると不快な気持ちになるのよ。」
「まぁ一応仲間なんだし邪険にするなよ?で、女王(ミーティア)様は何しにこの部屋へ?」
「ミーティアは、勇者様の側におりたくて…。勇者様が棺に入っている姿を見てミーティアはミーティアは…。」
シクシクと泣いて見せしなを作っている。相変わらずあざとい女だと思う。そんな馬女に鼻の下を伸ばしてデレデレするマコトは非常に不愉快だ。まだエスタークの方がマシと言うものです。
「で、あんたは?何で神父がここに?」
「失礼な。私はこのイシス国随一の名家であるサザンビーク家のクラビウスであるぞ。たとえそなたが勇者であっても、唯一大精霊ルビス様の御言葉を聞ける神父の中の神父である。そんな私の息子の許嫁であるミーティア女王を……」
話が長いので『マホトーン』で言葉を封じてやりました。
「まぁ…あんたがあのチャゴスの親だということはわかったよ。それじゃあトルネコ、アンタはなんでいる?アンタは別に部屋をとっていただろ?」
「それが聞いてくださいよマコトくん。私のお金が半分になってしまっているんですよ。」
「そりゃ死んだからなぁ。」
「死んだらお金が半分になるんですか?私初めて死んだので知りませんでしたよ。」
「まぁ普通はそんな経験はないよな。」
男3人がどうでもいいような下らない話で盛り上がっている。なんでとかはどうでも良い。ようは大精霊である私への感謝の心をもち、1日3回私に祈ること。そして私がちょーだいと言ったものは私に何も言わず捧げれば良いだけ。
そんな偉大な私を差し置いて男3人が出した結論それは…
「案外ルビスってのは守銭奴なのか欲望に忠実な女神なのかもな。」
「お、おいエスターク、あまり女神の悪口をでかい声で言うなよ…」
こちらをチラチラ見ながら大笑いしているエスタークとトルネコを諌める勇者。
しかしそれはほんの少しだけ遅かった。
女神の怒りに触れた愚か者たちよ、地獄で震えながら懺悔なさい。
「ゴッドブロォォオ!!!」
ゴッドブローとは大精霊の怒りと悲しみを乗せた必殺の拳、相手は死ぬ!
私はギャーギャーと悲鳴をあげながら逃げ回る男達とインチキ神父、私に不快感を与えた女王に神罰を与えるのでした。
つづく