「おいエスターク、そっちからも来たぞ。」
「わかってる。それにしても何だこの部屋は。ミイラ男だらけじゃねーか。」
部屋中に現れたミイラ男に私たちは取り囲まれている。最近は背後からこっそり戦わなくても勝てるようになってきた勇者マコトと、戦力は大変優れているが、なぜだか知らないが生理的に受け付けないエスタークがパーティを守りながら応戦しています。
「まさかピラミッドの地下にこの様な危険な場所があるとは思いませんでしたなぁ。」
回復担当の僧侶である私より更に背後に身を潜めている太っちょ(トルネコ)がいう。
「なんでアンタは戦わないのよ。」
「いやいや、私はまだ目的を達していませんからなぁ。ここで死ぬ訳にはいかないんですよ。ワッハッハ」
相変わらず大きなお腹を揺らして笑っています。
目的とか言っているけど、彼は若くて可愛いお嫁さん探しが目的だと言います。こんなピラミッドのような所に若くて可愛い女性が1人歩いているはずが無い。きっとこの人はアホの子なのでしょう。いくら慈悲深い大精霊といえど、トルネコの見当違いなお宝(お嫁さん)探しには何も言ってあげられることはない。
私は私の背後に隠れる痛い商人に憐れみの眼差しを向けてしまいます。
「ルビアさん、そんな熱い眼差しを向けないでください。確かにルビアさんは美人ですが、私の好みは甲斐甲斐しく…」
「こっちから願い下げよ!!」
「おいお前ら遊んでないで少しは手伝えよ。マコトが瀕死だぞ?」
エスタークに言われて勇者の方を見ると、HPは既にオレンジ色になっているマコトの姿が大精霊の目に入る。
それに引き換えエスタークはまだまだ余裕があるように見える。この戦士の強さはどうも本当のようだ。
「なになに?とーっても強い戦士様がぁ、私に助けを求めるわけ?クスクスぅ。」
「お、オレはいずれ地獄の帝王になる男だぞ?雑魚モンスターがいくら襲い掛かってこようが負けるはずがないだろうが。オレじゃなくてマコトを助けてやれって言ってんだよヘッポコ僧侶!」
「誰がヘッポコよ!それに地獄の帝王になるって…ちょう痛いんですけどープークスクス!」
「う、うるせえなぁ!良いから早く助けてやれって!」
やれやれですね。なんとなく生理的に受け付けない理由が分かった気がします。このエスタークは魔族のようですね。しかしこの世界に何故魔族がいるのでしょうか。魔界の精霊は一体何を…と、一瞬あの嫌なヤツの事を思い出して気分が悪くなるから考えることをやめた。
「おい、本当に早くしてくれ。ここでマコトが死んだらまた全滅だぞ?」
「ちっ…仕方ないわね。」
私の世界に魔族なんて異物が混じっているだなんて身の毛もよだつような気分ですが、今は私の本体を取り戻すことが何よりも大切だ。その私を救い出す勇者がまた死にそうだと言うのだから仕方がない。
「マコちゃん良く聞きなさい。今回貴方を助けるのは美しく優しいこの私ですからね?いい?これを機に毎日私に3回は祈りを捧げること。夜のごはんのオカズは私がちょうだい♡って言ったら何も言わずに捧げること。そして夜の宿屋は…」
「おいルゥ、おまえ危ないぞ?」
勇者のボソリと放った一言に目を開けると……
「えっ?ちょっと何で私の周りにミイラ男が群がってるわけ?」
さっきまでマコトとエスタークが戦っていたモンスター達が何故か全て私を取り囲んでいるじゃないですか。しかもご丁寧にミイラ男の上位種のマミーまでいる。
「ま、まぁ良いわ。この私自らの手で貴方たちモンスターを闇に返してやるわ。感謝しながら消え去りなさい!!」
『二フラム』
しかしふしぎなちからでかきけされた
「なんでよおおぉ」
「おまえオレの戦い見てなかったのか?どうもこのフロアーは呪文が使えないみたいだぜ。」
「そんな冷静に言ってないで助けてよ!私を助けて!」
「バ、バカルゥ、こっち来んなって。今夜の夜はオレが奢るから向こうへ行ってくれって。」
「嫌よ嫌よ!私が奢るから見捨てないでー!」
その後バタバタしながらもマコトとエスターク、そしてちょっとは戦えるらしいトルネコによって私たちはピンチをきり抜けるのでした。
「はぁはぁ…もう嫌。髪はグシャグシャになるし、全身は埃っぽくなるし、やたらアンデッドに囲まれるし。」
「まぁモンスターとは言えアンデッドは死者だからな、大方おまえの自称大精霊様とやらの神気にでも集まって来たんじゃねーか?」
「…魔族なんて人の心の弱みに付け込む寄生虫みたいなもんじゃない!そんな害虫がヒトを虫集めの街灯みたく言わないで!!それよりマコちゃんも早く地図で出口を探してよ!」
「こんなところでケンカすんなよ面倒くさいなぁ。」
ぶつぶつとボヤきながら再び馬女(ミーティア)から貰った地図を見る勇者は、ふと一つの疑問に気付きました。
「あれ?変だな。」
「どうしたのマコちゃん。頭悪すぎて変になったの?」
ガツン!
マコトが私の頭を叩きました。
「見ろよこの地図。地下一階には何もないみたいだぜ?」
「それの何が変だっつうのよ。」
「なるほど、確かに変ですなぁ。」
マコトの持つ地図を横いるようにみたトルネコもマコトに同意する。
彼らが言うには地下室を作る意味がないのだとか。
地図にも宝を配置したと言う記載はない。地図を見ながら歩いていたマコトが落ちた落とし穴の先、それだけのために地下室が存在するのだ。しかし偉大なる大精霊である私は知っている。時に人間はどうでもいい事に力を入れる事を。どうせ一階を歩いている冒険者をこの呪文が使えないフロアーに落として慌てている様を楽しむだけのために作ったのでしょう。言わば嫌がらせです。
そんな賢い私の推理とは裏腹に勇者はかってな推理を始める。
「この地図を見ろよ。一番上階に大きな宝箱の印があるだろ。そこにはこの『まほうのカギ』があったんだろ?エスターク。」
「ああ、それは確かにオレが丸いボタンの仕掛けを解いて手に入れたものだ。」
「ピラミッドの地図上、一番大きな宝箱の印である『まほうのカギ』を持ってミーティアの前にいたにもかかわらず彼女はピラミッドの財宝を見つけろと言う。そこから導き出される答えは…」
「そうか!分かったわ。国家予算クラスの金額で買い取るのが惜しくなったのねあの守銭奴は。」
「ちっげーよバカ!」
この私をバカ呼ばわりする勇者の首を絞めてやりました。
「おまえはマコトを殺す気か?ようするにマコトは『まほうのカギ』より重要な財宝がまだあるのではないかと言いたいのだろ?しかもそれほど重要な財宝なら、この呪文が使えないフロアーこそ怪しいと。」
「ふむふむ、全くわからないわ。」
「…おまえ絶対に知力のステータス低いだろ。」
さっきから何だろう。マコトだけじゃなくエスタークまで。
コイツらいつか覚えていなさいよ。
「確かにこの部屋は怪しい臭いがしますなぁ」
くんくんと犬のように鼻を鳴らすトルネコがいう。商人はお宝に対する嗅覚があるとか言っているが、普段が普段なだけにいまひとつ信用はない。
全く…私は男3人の子供のように目を輝かせて宝を探す姿にため息を吐きながら柱に寄りかかると
カチリ
渇いた音が鳴り響き、ゴゴゴゴゴ…と地響きを立てて下へ降りる階段が現れました。
さすが私ですね。
ところが男3人は私を誉めるでも讃えるでもなく、目の前に現れた階段を降りていくではありませんか。少しは私に感謝くらいしてほしいものです。
そんな事を考えながら私も彼らについて階段を降りようとすると中から歓声が聞こえた。何かをみつけたようです。
それは輝く黄金でできていた。人間の価値観などよくわからない私からみてもそれは立派な武器が台座に納められていました。
勇者は『おうごんのつめ』を手に入れた。
宝を手にした瞬間でした。辺りの空気が一変した。
マコトは身構える。エスタークはさすがは魔族と言うべきか平然と
「これは瘴気だな。かなり濃ゆいぞ。」
なんて言ってのける。
トルネコは瘴気にあてられたのか顔面蒼白だ。それでも普通の人間なら倒れているであろうから、彼も彼で立派なものです。
なんて悠長な事を考えている暇なんかない。
隠し回廊の壁がパタンと全てひっくり返り、数えることも出来ない程大量なミイラ男が現れたのです。
これにはさすがの勇者も戦士も真っ青になる。
商人は死んだフリをしている。
私は一目散に逃げ出したが、マコトが私のローブを掴んでいる。
「ちょっとマコちゃん、離しなさいよぉ…」
「おまえオレを置いて逃げてんじゃねーよ。」
「あなたの献身的な姿、とても素敵よ。ちゃんと未来永劫まで勇者マコトの『冒険の書』を人々に語っていくから離して♡」
「離して♡じゃねー!オレは片時もおまえから離れないからな!」
普段なら女の子がドキッとするセリフも、今の状況ではイラっとしかしない。
「「「「いやーーー!!!」」」」
私たち4人の叫び声は、ピラミッド内部に大量に現れたミイラ男によって埋め尽くされるのでした。
つづく
夏風邪を拗らせて遅くなりました…