ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。   作:シズりん

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私の国に勇者がやってきました。

「ミーティア、こんな所にいたのか。あまり夜風にあたっていると風邪をひくぞ。」

 

イシス城のテラスから見えるはずもないピラミッドの方を眺めていると背後から話しかけてきた。相手はふりむかずとも分かっている。

イシス国前王であり父のトロデ王です。

私は軽く会釈で応え再び勇者様のいる遠い北の夜空を眺める。

 

「マコトと言ったか?そんなにあの勇者が気に入ったのか。」

 

イシスの女王と言う立場上お断りが出来ない事も分かっています。少なからず政治的な背景も必要なことも理解しているのですが、お父様には申し訳ないのですがミーティアはどうしてもチャゴス様を受け入れられないのです。

そのチャゴス様がミーティアの許婚になったのはまだ何も知らない少女の頃。

あの頃はまだ自分の立場も知らず、毎晩のように泣きながら眠りにつく少女でした。

そんな少女が大精霊ルビス様にすがるように祈りを捧げるのは仕方のないことだったと今でも面白います。

 

毎晩毎晩、本当に何ヶ月にも渡り祈りを捧げた甲斐もあり、ある時一度だけルビス様はミーティアに語りかけてくださいました。

 

「…毎晩毎晩うるさいわね〜。私の睡眠を邪魔しないで!」

「もしかしてルビス様?」

 

 

私は歓喜した。歳を経た信心深い神父様やシスター様なら稀に大精霊ルビス様の御言葉を聞いたと聞いたことがあります。それこそ何年も何年も…長い年月をかけて信仰心を高めていく必要があるのだそうです。それでも大概の場合はルビス様は語りかけてはこない。

我がイシス国ではきっとサザンビーク家のクラビウス様くらいのものでしょう。まぁそれもマユツバものですが。

そんな偉大なる大精霊がミーティアの言葉に応えてくださったのです。

 

「で、何の用よ。貴女の祈りは魂が篭ってるからうるさいのよ。」

「は、はぁ…あのルビス様!ミーティアの…私の運命の人を教えてくださいませんか?」

「はぁ?運命?何よそれ。人間の価値観で私に話しかけないで。」

「も、申し訳ありません。私は…将来を共にするお方をどうしても知りたくて…。」

「…貴女はいずれ世界を救う勇者と結婚すると『冒険の書』にはあるわね。」

 

その御言葉を聞いた瞬間私の心は分厚い雲から陽射しが現れたかのような晴れやかな気持ちになりました。

あのチャゴス様が世界を救う勇者様になるとは到底思えません。要するにミーティアには他に運命のお方がいると言うわけです。

欲を言えば数年前まで近衛兵をしていた幼馴染の、私が兄のようにお慕いしたエイトお兄様だったら素敵なのですが、ワガママばかりを言う訳にはいきません。最優先事項はチャゴス様がミーティアの旦那様ではないことが重要なのですから。

 

「もう用は済んだ?最後にオマケで出会いのキーワードは『馬』である事を教えてあげるからもう語りかけて来ないでちょうだい。良い?私は忙しいの!邪魔をしないでちょうだい!!」

 

そう言ったのを最後にルビス様がミーティアの言葉に返事する事は無くなりました。忙しいとか言う前に寝ていたと言っていたような気がしますが、私にとって最も重要なことを知れたのだから偉大なる大精霊に感謝した。

 

それから数年色々あった。イシス国を襲った災害レベルの猛暑に大干ばつ。そしてそれが去ると同時に現れた凄まじい嵐は、経済大国であるイシスを砂漠へと一変させたり、前王(お父様)から無理矢理女王に即位させられるなど沢山ありましたが、ついに私たちの国に勇者様がやって来た。

 

ミーティアが幼き頃から想像する勇者像とは違いましたけど、それでも運命は運命です。私は一生懸命勇者様に尽くす事をしました。

かつてイシスが経済大国であった頃の成金趣味で造らせたらしい『おうごんのつめ』、ハッキリ言って価値は大してないのですが、ミーティアは国家予算クラスで買い取ると勇者様に伝えました。

勇者様はミーティアを娶る訳ですから、イシス国王になります。つまりは国家予算クラスと言っても過言ではないでしょう。

まぁ…予算ですから国の為に使ってもらわないと困りますが。

私の懸念は勇者様の隣にいらっしゃる見目麗しいあの女性ルビアさまです。女の私からみてもため息のでるほど美しい女性ですが、お二人を見ていると恋人同士って感じではない。

それに私には大精霊ルビス様の御告げもあるのですから、ここは恐れずに攻めに行こう。

 

 

「勇者様たちはご無事でしょうか…」

「そうじゃそうじゃ、ワシはその勇者一行が城下町の酒場にいるのを伝えに来たのじゃ。」

「え?もう帰ってきていらっしゃるのですか?」

帰ってきたのなら一刻もはやくミーティアの元に戻って欲しかったのですが…

私は数人のお供を連れお父様に聞いた酒場へと向かうのでした。

 

 

「今日はじゃんじゃん飲むわよー!カンパーイ!!」

 

 

酒場を開けるとルビアさまがはしたなくテーブルの上に立ち乾杯の音頭を取り、イシス中の国民が居るのではと言うくらい集まって大人たちがそれに応える。

イシスの酒場で大宴会が行われていたのです。

こんな活気溢れる国民を見るのは何年ぶりでしょう。皆が皆、楽しそうにお酒を飲んでいる。

「勇者様。」

私が勇者様のテーブルにつくと、

「お、女王様も来たのか。」

お酒に酔ったのか真っ赤な顔して笑う。

その後ミーティアも飲むか?とお酒を薦めてきましたが、私はまだ17なのでと応えると、勇者様はオレもルビアもエスタークも16だぜと笑う。

エスタークさまはお酒に弱いのか真っ赤な顔でテーブルで寝ている。トルネコさまは、こんな時でも商人の心が抜けないのか、同じくイシスの商人たちと話し込んでいた。

 

そんな私たちの所へルビアさまがやってきました。

「あら、ミーティアも来たのね。今日は私たちの奢りなんだからミーティアも何か飲みなさいよ。」

「いえ、ミーティアはまだ17なので…」

「良いのよ良いのよそんな事。私たちなんか16よ?ほらこの私が許可するわ、貴女も飲みなさい。」

そう言って渡して来たグラスをとり、私は恐る恐るソレを口にした。初めて飲んだお酒はちょっぴり辛く、でもどこか甘さが残るような不思議な味がした。

 

「ところでコレは何の宴会なのですか?」

「何言ってんのよ、私たちがピラミッドで黄金のお宝を見つけたからそのお祝いよ。」

「ああそうなんですのね。じゃあこれはミーティアと勇者様の結婚のお祝いでもありますのね?」

「は?ちょっとアンタ何言ってんの?この『おうごんのつめ』を国家予算クラスで買い取るのよね?」

「ええ、ミーティアと勇者様が一緒になるわけですから私のものは必然的に勇者様のものとなりますわ。これからは大事なお金でイシス国を豊かに導いてもらわないとです。あ、もちろん国王になるわけですから旅はここまでとなりますが。」

「何言ってんの?ねぇちょっと何言ってんの?」

「子供はたくさん欲しいですわ。ちゃんと勇者様に愛していただけるように日々努力をしてきましたから、ご満足いただけたら嬉しいですわ。」

「だ、ダメでしょ。それに魔王はどうするのよ?バラモスを倒さなきゃだし?」

「大丈夫ですわ、私たちの息子か娘がいつか。」

「…じゃああの…お金の方は…」

「?もちろん国を豊かにする為の予算ですから、2人で大切に使わなきゃですわ。」

 

目の前のルビアさまの顔がみるみる青くなっていく。美しいのにとても面白いお方です。そんな彼女に酒場のマスターが「そろそろお会計を」と言って紙を渡した。

ルビアさまはその紙を持つとプルプルしだした。

そしてしばらくすると

 

「ちょっと私お手洗いに〜」

と、何故かいつもと違う声色で言うと、コソコソっと勇者様の所に歩み寄ると何やら小声で話しかけいた。

それを聞いた勇者様は笑顔が一転し、ブーッと飲んでいたお酒を吹き出した。

 

そして寝ているエスタークの襟元を掴むと

 

 

ガシャーン!!

 

盛大に窓ガラスを割って2人は外に走り去って行きました。

それを見ていた私を初めとした酒場中の国民はしばらく呆然とし、酒場のマスターの

「食い逃げだー!!」

一言まで何があったのか理解が止まっているのでした。

ようやく頭の回転が追いついたところで隣に立っていたトルネコさまに気づいた。

「トルネコさまは行かないのですか?」

「ええ、私の冒険はここまでですな。私には他にやらなければならない事がありますから。」

「他にやらなければならない事ですか?」

「はい、私には若く可愛く尽くしてくれるお嫁さん探しがありますから。どうですか?ミーティアさんなら完璧なんですが。」

「お断りします。」

 

即答するとトルネコさまはガックリとうなだれた。

 

こうして私たちイシス国から勇者様一行は立ち(逃げ)去りました。

世界は魔王バラモスに脅かされています。きっと彼はまだミーティアの元へは来れないのでしょう。

ですからミーティアは良妻として役目を果たした勇者様の帰りを待つだけ。

大丈夫。私と勇者様は大精霊ルビス様により定められた運命の2人なのですから。

 

彼らのいたテーブルに置いていかれた『おうごんのつめ』が優しい輝きを放っているでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しばらくイシス国には来れないな。」

「あぁ、きっとオレたちは出禁だろうな。それどころか追ってだっているかも知れない。捕まれば牢屋行きだな。」

「まぁ一応『おうごんのつめ』は置いてきたからソレで何とかなるだろ。」

なんて言って2人の男は笑っている。

「それにしてもマコちゃんはよく馬女(ミーティア)と結婚しなかったわね?あの子と結婚すればマコちゃんは王様よ王様。」

「オレは魔王バラモスを倒さなきゃだぜ?結婚なんてまだまだだよ。」

「お?マコトも女より戦いの道を行くのか?よしオレとどっちが最強になれるか競争だな。」

「いやそこまでは…。だいたい何でミーティアに勇者と結婚するなんて昔言ったんだよ。ルゥが適当な事言うから大変だったじゃねーか。」

「おかしいわね…確かに適当にあしらったけど、嘘をついたつもりもないのよね。」

「使えねーなこの駄女神。」

 

パカン!と良い音を立ててマコトの頭をモーニングスターで叩いてやりました。

酒場のマスターの執拗な追ってから逃げ切った私たちはようやく言葉を交わすゆとりが出来ました。

最初から財宝とはいえ国家予算クラスでの買い取りなんておかしいとは思っていたのよ。全く…これで私たちパーティはロマリア国に続いてイシス国まで追われる身となったわけです。

 

私は大精霊ルビスなのに…どうしてこんな目に…。

 

「おーいルゥ、早く来いよ置いていくぞー!!」

少し前で立ち止まり私が追いつくのを待つ勇者マコトと戦士エスターク。まぁこんな旅も悪くないかと1人笑いながら『冒険の書』を更新すると

「ちょっと待って2人とも」

私は走り寄り、新天地を目指して旅を続けるのでした。

 

 

つづく




次回はいよいよ…
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