「何か言いたいことはありますか?」
「ごめんなさい。」
普段太々しい勇者も流石にしおらしい。
そうでなくては私も困る。何故ならば私は勇者とともにアリアハン城の地下牢に閉じ込められているのだ。勇者マコトの所為で。
私は深いため息を吐くと今日1日を振り返る。
トントントン!
木製の扉を叩くと軽快な音を立てた。
中からへ〜いとだるそうな声とともに勇者マコトが現れた。
「げっル、ルビすさぶぁ…モゴモゴ」
お母様も後ろにいるのにも関わらずいきなり正体をバラそうとするマコトの口を塞いだ。
「あら、あなたは…。」
「お久しぶりですおばさま。マコちゃんの幼馴染のルビ……ルビアです。」
自分でも安易過ぎるネーミングセンスかと思ったけど『そうそうルゥちゃんね、おばさんど忘れしてたわぁ』と、愛称まで作って話を合わせた。
そう言えばローシュも適当なところがあった。その子孫である彼女が適当なのも頷ける。と言うことは勇者マコトがこんなヘッポコなのも…その先を考えるとヘコむから辞めました。
「で?ルビ…ルビアは朝っぱらから何しにきたんだよ?」
うまく幼馴染に合わせてくれる勇者。ニヤリと笑って親指を立てているところをみると私の意図はある程度忖度してくれたようだ。
「マコちゃん、今日…は!王様のところに行くんでしょう?私も一緒に行こうかと思って。」
は!を強調しながらも、まさしく女神の微笑みで答える私に勇者はどこ吹く風だと言わんばかりに
「魔王バラモス討伐に女はあぶねーって言ったのに、仕方ない奴だなぁ。ほら今日もバラモス討伐に行くぞルビア」
パーティメンバーは女の子って言ってたのはどの口でしょうか。
しかもあなた、昨日は女の子と遊んでただけですよね。
かくして私達はマコトに手を引かれアリアハンのお城へと向かうことになりました。
アリアハンのお城への道すがら、家が見えなくなったとたんに勇者はニヤニヤしながら話しかけてきた。
「それにしてもルビス様、わざわざ僧侶の服まで着て気合い入ってるじゃないすか。」
「私のことはルビアと呼びなさい。バレたら大騒ぎになるじゃない。それと敬語もいらないわ、私の力でアリアハンの人々に私は教会の神父とシスターの娘で、あなた達の幼馴染って記憶を操作してあるから。」
「おお!凄え徹底ぶりだな。女神とは言ってもやっぱり女の子なんだな。そんなにしてまで合コンに行きたかったなんて。」
「ちっがうわよ勇者(バカ)!!」
「あ、お前いま勇者にバカって当てやがったな!」
「解りづらい突っ込み入れてないでお城いくわよ!」
「えーマジで行くの?勝てるわけないじゃん、相手は魔王だぜ?」
ぶーぶー文句を言う勇者を縄でぐるぐる巻きにしてお城へと歩く。道すがら会うたび会うたびに
「ルゥちゃんいつも大変だねぇ」
と街の人達に同情されました。そんな細かいところまで記憶操作した覚えはないのにだ。つまりマコトは普段からこんなヘッポコだと言うことか。まだ出発もしていないのに早くもお先が暗い。
それにしても昨日給仕の女性に入った時も思ったのだけど、どうして人間の王族ってのはこんなに無駄に煌びやかな住まいにするのでしょうか。天井は高くシャンデリアが眩しい。あまりに広過ぎて何処に何があるのか全く分からない。隙間風も冷たい石造りの壁には松明がゆらゆらとしている。照明は既にあるのだから松明は要らないでしょうに。まぁバカと成金は高いのがお好きと言いますから、女神としては馬鹿だなぁって心の中で笑ってあげる程度にしてあげましょう。
「そうかマコトよ、遂にお主も16になったか。お前の亡き父オルテガにも立派になった姿を見せてやりたかったものだ。オルテガは我がアリアハンで1番強く優しい戦士であった。そのオルテガが兵士長を辞職して世界を救う為に旅に出たいと申し出があった時わしは…」
永遠と続く王様の長い話し。
なんで偉い人ってこう話しが長いのでしょう。隣の勇者(マコト)は器用に傅きながら寝ているわよ。
かれこれと2時間以上話しをしたところで王様の話しは終わり、次は勇者旅立ちのセレモニーが始まった。アリアハンが全面的に勇者をバックアップすると言うことの現れでした。
そしていよいよ出発のその時、王様から私たちの旅立ちへの餞別といったところであろう、宝箱を渡されました。
勇者(マコト)は宝箱を開けた。
マコトは棍棒と旅人の服、そして50ゴールドを手に入れた。
横で見ていた私は表情に出さずに心の中でショッボって思うに留めたのにマコトはしっかり言葉にして吐いた。
「おいおい王様、いくらなんでもこれはしょぼ過ぎやしませんか?仮にも一国の王が勇者に魔王討伐の命を出したんだぜ?それがなんだ棍棒って!!その辺の木を切っただけの武器じゃねーか!!それに50ゴールドってなんだよ、子供の小遣いだってもう少しあるわ!ケチにも程があるわ、このハゲ。」
ツカツカ歩み寄り王様の首元をグワングワンしながら詰め寄る勇者。私はつい笑ってしまった。そうよね、やっぱりそう思うわよね。
しかし当然の如く怒り出した王様は私たちを地下牢に閉じ込めたのだ。
「ちょっとどうすんのよこの状況。」
「全くもって申し訳ない…って言うかお前だって笑っていたじゃねーか!」
「笑ってない。」
「嘘付けー!」
確かに敬語は要らないとは言いましたが精霊に対する尊敬の念まで要らないとは言ってません。私は王様に貰った棍棒を手に持つと彼に滲み寄る。
「どうやらまたお仕置き部屋に行きたいようねマコちゃん…」
「待て待てルゥ!俺はアリアハンを出る前から3回も死にたくねー!」
ギャーギャーと牢屋の中で騒いでいると、ガチャガチャと重い鎧の足音を立てて数人の兵士がやって来ました。
「お前ら王様にたてついたらダメだろう。オルテガ様も草葉の陰で泣いてるぞ。」
どうやら彼はオルテガさんの弟子であった方で次の兵士長と言う事ですが、この勇者(バカ)と一緒にされるのは心外です。
「ほら二人とも出て良いぞ。」
「え?良いんすか?」
「王様からのご命令だ。城門が閉まる頃には出してやれとな。ほら、訓練用のどうのつるぎをやるから今日は二人とも帰りなさい。」
そう言って私たちを地下牢から解放してくれた。
城門が閉まると言う事は時刻はまもなく6時。夜の入り口です。
どっと疲れが出た私たちがトボトボ歩いていると夕飯の買い物帰りの勇者のお母様に会いました。
「あらあなた達まだこんな所にいたの?」
こんな所と言う言葉がサクッと胸に刺さりました。
「もう遅いから続きはまた明日にして今日はもう帰って来なさい。ルゥちゃんも今日はウチにお泊りしなさい。」
「「はい…」」
こうして私たちは、2日目もまたアリアハンから一歩も出ることなく1日を終えるのだった。