「1、2……ショボいわね。」
「そう言うならおまえもやれよルゥ。」
「い、嫌よ魚釣りなんて。あの虫みたいな餌を触るなんて美しい私に出来るわけないでしょ。」
「じゃあおまえ夜メシ無しな。」
「ごめんなさい、ごめんさーい。私の分もお願いよー!」
「ったく、何で勇者のオレがこんな異国まで来て釣りなんかしなきゃならねーんだ…。」
ぶつぶつ言いながら海に糸を垂らすマコトの成果は芳しくない。
となりで妙に静かなボッチ(エスターク)はと言えば、案の定糸を垂らしたまま夢の中です。
私たちはポルトガの街の側にある灯台にいる。今朝方3人でどう話せばポルトガ王が船を貸してくれるか色々と作戦を練ったのですが…
「さて、ポルトガに来たのは良いけどどうやって船を借りるか。」
「バカねーマコちゃん。私たちは勇者一行です。魔王バラモスを倒すために船を貸してください。で良いんじゃないの?」
「バカはおまえだ!それだけで借りれるわけがねーだろうが!」
「私を誰だと思っているの?私はルビスよルビス。大精霊自らの願いなんだから答えなきゃ天罰ってもんよ!」
「ほぉ?じゃあおまえは自ら騒ぎの中心になってくれるってんだな?オレとエスタークはその間に船を拝借して逃げろと?さすがは女神だな。自らを犠牲にするなんて。よしそれで行こう。」
「……」
当然後で迎えに来てくれるのよね…と言いかけたけど、マコトがそんな人間でない事はそろそろ気付く。
結局言葉一つで貸してくれるとは到底思えないと言う結論に至り、そうこうしているウチに太陽が西の水平線へと沈んでいく時間になってしまったのです。
宿屋に泊まるお金がない私たちは、灯台近くの空家を見つけ、今夜はここで一晩過ごすことにしたのです。
「さてこれからどうすっか。」
「今まではどうしてきたんだ?」
マコトのつぶやきにエスタークが返す。
「今まで船を必要とする機会なかったからなぁ。船自体だって一回しか乗ったことねーし。」
「へぇマコちゃん船に乗った事があるんだぁ、初耳ね。」
「アリアハンで一度だけな。ルゥ、マリベルを覚えてないか?よくセブンやキーファと遊んでいた女の子なんだけど。」
「あーあのツンデレっ子ね。」
「そうそう、そのマリベルの親父さんがアリアハンの網元で一度漁に連れて行ってもらったんだよ。」
意外にも海に出た経験を語る勇者。今一信用は仕切れないものの潮の流れなどの知識を持っているのは少しだけ頼もしく感じます。
「まぁこんなところで何日も考えたって答えはでねーし、明日3人でとりあえずポルトガ王に会いに行ってみようぜ。」
「そうだな、マコトの言う通りだ。先ずは当たって砕けろだ。」
砕けてどうすんのよ砕けて。
私はバカ2人との会話に疲れて暖炉そばの椅子に座り息を吐いて改めて辺りを見回した。思えばこの灯台近くの空家は変だ。人が住んでいた形跡がある。空家は家なのだから人が住んでいたって不思議ではないけれど、だったら目と鼻の先にあるポルトガの街に住んだ方がより快適なはずなのに、わざわざこんなところに住んでいたのだ。
私はその疑問に気付きもしないバカ2人に投げかけ注意を払うように導いてあげた。
「ねぇ2人とも、この家少し変じゃない?」
「おまえほど変じゃねーよ。」
バスッ!!
「ぐわっ!!」
暖炉の上にあった書物をマコトの顔面に投げつけてやりました。
「確かに少し変だな。何故人里離れた場所に住んでいたのだろうな。」
「あら気付いていたの?ボッチにしてはやるじゃない。」
「オレはボッチじゃねー!最強くなるために1人(ソロ)で鍛えているだけだ。地獄に帰ればオレを王に迎えたいと言うやからがたくさんいるんだからな。」
「はいはい厨ボッチ乙と言ったところね。」
「ボッチと厨二を交ぜて呼ぶな。」
私とエスタークがいつもの言い争いをしていると、顔にぶつかった書物を何気なく読んでいたマコトが絶句していました。
「どうしたのよマコちゃん、文字が読めないの?美しく聡明な私が読んであげましょうか?」
そんな私をギロッと睨みながらも勇者は書物を私に渡した。
「まさか本当に読めないわけじゃないでしょうに全く…どれどれ…
私たち親子は色々あってイシスを離れ安住の地をもとめ海洋国家ポルトガへ流れ着いた。もともと身体の強くない妻の体調が良くない。長旅の疲れが出たのだろうか。そこでいろんな国と船による交易を行うポルトガなら私たちが知らないような良薬が手に入るかもしれないとの思いがあってのことだ。
妻に一度実家に帰ってみてはと提案するのだが、「絶対に帰らない!」の一点張り。
こんな所はあの義理母似の頑固っぷりを発揮しなくてもと思わなくもない。
私たちは妻と娘、そして娘が何処からか拾ってきたペットの風貌があまりにも目立つことから、人里から少し離れたこの家に暮らすようになった。
最初数ヶ月は普通に幸せを満喫できていた。時折娘も連れて街に出るとポルトガの住人達も娘のあまりの美貌に人だかりができていき、娘は次第にポルトガの住人達の人気者になっていった。
さすがは海洋国家なだけあって色んな人種がいる。
エルフの容姿をした娘であってもこの街なら受け入れてもらえそうだ。
妻の体調が良くなったら街に移り住むのもありかも知れない。
そうした平和な日々が暫く続くなか、私は娘の世話と妻の介護で肩コリするようになった。
娘に最近覚えた『ホイミ』をお願いするが、どうしても呪文を使うのが嫌らしい。
そんな娘が甲斐甲斐しくも肩叩きをしてくれると言う。
泣かせるじゃないかうちの娘は。涙が止まらねーぜちくしょう。
きっと将来は妻のような素敵なお嫁さんになる事間違いなさそうだ。
…嫁に出す気ないけどな。
娘は私の背後に立ち肩を叩き始めてくれた。
ズガーン!ズガーン!!
ちょっ、ちょっと待て、なんで肩叩きの一撃一撃が『痛恨の一撃』なの?痛っ!いたたたたた!
ちょっ死ぬ、私死んじゃうよ!
天使のような微笑みで私の肩を叩く娘とは裏腹に、明らかに私の肩からなる効果音がおかしいんだけど。
だ、誰か止めてぇ!!
あくる日、どうも私の為に肩叩きをした事が嬉しかったらしく娘は今日も肩叩きをすると言い出した。
ごめんなさい。無理だから。私あれ以上娘の肩叩きに耐えられないから。
やんわりと肩叩きを断ると、娘はこの世の終わりのような表情で部屋を出ていく。娘なりに私の為との善意を断るなんて私には出来ない。しかしこれ以上肩叩きを続けていては私の身がもたない。
そこで私は
「肩叩きはする方も大変だろう?おまえのパパを想う気持ちだけで嬉しいよ。」
そう言って頭を撫でてやると少しだけ娘の表情がパッと明るくなり、パタパタと自室に走って行った。
これでいい。娘の好意を無下にせず、やんわりと断った。これで私の命も安泰と言うもんだ。
と思ったのも束の間だった。
娘はどこでそんな物を覚えたかは知らないが肩叩きマシーンを造ってきた。
え?何これ。
硬き身体は鈍色。
其の者、2本角の兜の奥、紅く光る瞳は1つ。
其の者、左の手には片刃の大剣、右手には無数の棘の生えた鋼棒。
其の者、尾には弓を携え、球型の下半身に脚は無く、魔導乃力で宙を駆ける。
何をどうしたらこんな肩叩きマシーンが出来上がるの?
ガスンガスン!と娘程じゃないにしてもあまりに強烈な肩叩きに私は一瞬だけ三途の河をみた。
これはダメだ、妻の介護の前に私が死んでしまう。
真夜中私はそのヘンテコな肩叩きマシーンを海に捨てた。だってしょうがないじゃん、あんなの毎日喰らってたらさすがに死んでしまうし?だからと言って断れば娘も泣きそうだしな。
私が海に捨てた3日後だった。海上の交易船が次から次へと炎を巻き上げ沈んでいく。それは港に停泊する船、海上を進む船。漁船から交易船と言った船が次々と海底へと消えていく。
私は嫌な予感がし海を覗くと、紅く光る眼とあった。
やっベー!
なんであの肩叩きマシーンが海の底で活動してるの?
マシーンが壊れるんじゃなくて、海の上の船を壊しまくってんじゃん!
これバレたら死刑だろ!
そうでなくてもとんでもない賠償金がくるだろ!
どうすんのこれ、どうしたらあのマシーンが止まるの?
ねぇちょっと教えてくっさい。
ねぇ誰かアレ止めくっさい。
どんどん船が海に消えていくじゃん!
もうこれじゃ海洋国家なんて言えないんじゃないの?
だって海に見える船…1隻も無いしな。
って言うか誰だよあんなもの作らせたやつ!そいつバカだろ。止め方を知らないは、目にするもの壊しまくるようなマシーンを作るなって言うんだ!しかも海にそんな危険なもの捨てるんじゃねーっつうの。
おっと、あの肩叩きマシーンを造らせたのも海に捨てたのもオレでした
終わり。」
「またおまえかー!!」
マコトは私から書物を奪い取ると両手でひきちぎった。
「な、なんだこの手記はいったい。」
初めて聞いたエスタークは目を点にしている。地獄の帝王を自称する彼もさすがに驚いている。
しかし私とマコトは識っている…
この世界に災いを振り撒く親娘の存在を。
「変だと思っていたんだよな。だってポルトガに来てから一度も海で船を見てないし。」
マコトが呟く。
言われてみればそうだ。仮にも海洋国家をなのる国に一隻の船も見当たらないと言うのは変と言えば変だ。
「と、とにかく明日一度ポルトガ王に会いに行ってみようぜ。」
「あぁそうだな。ルゥもそれで良いな?」
「え、ええ…船が有れば良いけどね…。」
私の投げかけた言葉に返事を返す者はいない。
3人とも分かっているのだ。きっとこの国もかつての姿は無いのだと…。
まだポルトガの街に着く前から絶望感たっぷりの私たちを、静かな夜の闇が包み込むのでした。
つづく
さっそく使わせていただきました。キラーマジンガ様♡
Wikiでみたら海の底にいるよう記述だったので…とりあえず帳尻を合わせてみましたw
ネタありがとうございます(о´∀`о)