ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。   作:シズりん

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ポルトガ一番の料理をもとめて

「するとおまえ達がアリアハンから来た勇者のパーティだと?」

「はいそうです。オレは魔王バラモスに苦しめられている世界中の人々を救うべく、同郷の僧侶ルビアと旅の仲間である戦士エスタークと日夜励んでいるんです。」

 

またマコトも心にも無い事をペラペラと話す。

 

「まぁそんな事はどうでもいい。ワシが知りたいのは主らがあの歌姫と知り合いなのかどうかじゃ。」

 

そしてそれをどうでもいいと言うのもどうかと思う。

 

「歌姫?なんすかそれ」

「知らぬとは言わさぬぞ?歌姫はアレじゃ、世界のいろんな場所に現れては美しい歌声で心を癒してくれる存在じゃ。名前も名乗らず会話をした者もいない。いつの間にか現れては消える…そうまるで女神の如きじゃ。しかもソレが絶世の美女と言われ、あらゆる男の心を鷲掴みしているのじゃ。ワシは彼女こそがあの大精霊ルビス様じゃないかと思うておるのじゃ。」

 

本物…目の前にいますけどね。

 

「とにかくじゃ、主らはその歌姫…いやルビス様と知り合いなのかと聞いておるのじゃ、正直に答えよ。」

「まぁルビス様は知り合いと言えば知り合いかもしれませんが…」

「なんじゃ歯切れが悪い解答じゃのう。よいかルビス様がポルトガに顕現なされた以上、ワシは王として女神に最大級のおもてなしをしなければならぬ。そして出来ればワシの嫁に…」

「ルビス様を嫁にって…正気っすか?」

「ほら聞いたマコちゃん。貴方もちゃんと私に優しくしないとこの先どうなるか分からないわよ?」

「何言ってんだこのビッチ。おまえが寿退社するならのし紙つけて送り出してやるわ!無駄にパーティ枠使いやがって。」

「なああぁんですってえぇ!」

「あ、止めろ貴様!勇者(マコト)を絞め殺す気か!」

「邪魔すんじゃないわよボッチ!!」

「だからオレはボッチじゃなくソロだと何度も言っているだろうが!それに今は貴様らとパーティを組んでるだろうが!」

 

私たちが牢屋内でギャーギャーと騒ぎ出すと、ポルトガ王は慌てて仲裁に入ってきました。なかなかできた王のようです。仕方がありません。ここは出来る女であるこの私が話題を変えて場の空気を変えることにした。

 

「それにしてもポルトガ王様、私を嫁にしたい程の信仰心だなんて…なかなか良い心がけじゃない。さすがに嫁入りはできないけど…そうね、それなら先ずは牢屋(ここ)から出してちょうだい。私をこんな所に入れた事は不問にしてあげるわ。」

「何を言っとるんじゃこの女は。」

「は?だって私(ルビス)を嫁にしたいっていま…。」

「ワシはルビス様を嫁にしたいのじゃ。ワシを殺すようなあばずれのことでは断じてない。」

 

……

 

「おいルゥ、分かってるとは思うけど相手は王様だぞ暴れんなよ?」

「マコトの言う通りだぞルビア、キサマの所為でオレたちは牢屋に入れられたんだからな?この上暴れたら死刑になりかねん。」

「わ、分かってるわよ。アンタ等私を何だと思っているの?……こうなっては仕方がないわね。この場にいる者たちだけに特別に秘密を打ち明けるわ。私はルビス!あなたたちが敬い崇める大精霊ルビスその人なの!!」

「おお……………プッ」

「え?」

まさかこの人間、今鼻で笑いましたか?

「ちょっとマコちゃんからも何か言ってやってよ!私女神よね?大精霊よね………ん?」

「プッ」

「うがー!!!」

 

「と、まぁこの自称大精霊ルビスを名乗る痛い女は放っておいて、ポルトガ王は何故その歌姫がルビスだと思ったんだ?ただ見てくれが良いだけの女ならそこ等中にいるだろう……あとルビア、そろそろ許してやらないと勇者(マコト)が死ぬぞ?」

「当然じゃ。ワシとてただ絶世の美女と言う事だけで歌姫をルビス様だとは思っておらん。お主らはこの国がかつて海洋国家と言われていた事を知っておるか?」

「私女神なのにぃ…私本当に大精霊なのにぃ…。」

「おいルゥ、もう泣き止めって。仕方ないだろ?バレたら大変なんだから…。」

「……ワシの話聞いておるか?まぁ良い。数年前、突然海に現れた強大な魔物がポルトガの船を次から次へと沈めて行きおった。当然ワシ等は軍艦を以ってこれにあたるが全く歯が立たず…結局壊滅させられてしもうたのじゃ。我らは海を捨て陸地に生きる術を探っておるのじゃが…今のままでは長くは保たぬ。そう思っていた所にルビス様が顕現なされたのじゃ。」

「おい2人とも少しはポルトガ王の話を聞いてやれよ、かわいそうじゃないか。」

「だってよルゥ。エスタークも言ってるし少しは機嫌直せよ。夜ご飯奢るからさ。」

「…お酒がいい」

「……おまえ本当はたいして気にしてないだろ。」

 

相変わらず私の内心を読み取る勇者はこんな時だけは鋭い。

そんな私たちを無視してエスタークとポルトガ王は話しを続けました。

 

「なんだと?するとその歌姫が海に現れたその魔物を倒したって言うのか?しかもたった1人で?」

「そうじゃ。ワシはポルトガ中の男が海辺で歌っている歌姫らしき人物がいて集まっていると聞いて駆けつけたのじゃ。すると確かに彼女は静かに、しかし美しく透き通る声で歌っておると件の魔物が水面から現れたのじゃ。真っ赤な目を光らせての。ワシ等は肝を冷やした。ポルトガの地で世界の女神を死なせてしまうかも知れぬと。その魔物がガシャンガシャンと歩み寄ると彼女は一言二言魔物に話しかけておった。距離が離れておったから何を話していたのかは解らぬが、ワシは兇悪な魔物に対しても慈悲を見せていたと思うておる。きっと魔物に対しての祈りのようなものじゃ。彼女は懐から『ひのきのぼう』を取り出してポカンと魔物を叩くと魔物は体中から火を吹き出して海の底に沈んで行ったのじゃ。」

「え?『ひのきのぼう』でポカン?」

 

エスタークでなくとも驚く。海軍を壊滅させ、ポルトガ国を滅亡寸前まで追い込んだ魔物を『ひのきのぼう』一撃で?

私たち3人は息を飲んだ。

 

「何者なんだ歌姫とは。まさか彼女こそが『進化の秘宝』を持っているのでは…」

『進化の秘法』ですけどね。しかしエスタークの指摘もあながち間違いではないように感じる。

 

「要するにアレか。長年苦しまされてきた海の魔物を退治してくれた絶世の美女=ルビス様となったわけっすね?それが何で勇者とはいえオレたちが知り合いだと思ったんすか?」

意外にも冷静なマコトの発言。

確かにそうです。強ければ、美しければ、優しければ大精霊と思われるとは私も随分と安く見られたものです。

 

「言っておきますけどルビス様は世界中の人たちが思っているような人じゃないっすよ?ここだけの話っすけどね、ルビス様は知能が恐ろしく低いんですから。」

「なんだとー!!ちょっとマコト!あんた表に出なさいよ!今日という今日は目にものを見せてやるわ!」

「おわっ止めろルゥ、おまえの事じゃなくて本物のルビス様の話だっつーの。」

こいつ、私が正体をバラせないと思ってか言いたい放題だ。

 

「そうだな、マコトの言う通りだ。それが何でオレたちに関係があるんだ?」

「しらばっくれるんじゃない、先程勇者が知り合いって言っておったじゃろうが。それに魔物を退治したルビス様はワシ等の方にペコペコ頭を下げると走り去っていったのじゃ。ワシ等は先程の理由からルビス様をずっと追いかけたのじゃ。そしてそなた等のいた家屋の中に入ったところをワシ等はしかと見たのじゃ。」

 

「は?オレ等の家に?まさか…」

私たちは無言で顔を見合わせた。私たち3人は誰も声を出さなかったのですが、確かに私たちは一人の女性と出会っている。

フードを深くかぶっていたから顔はわからないが、あの『ルーラ』で飛び去った彼女だろう。しかし彼女は…

 

「そこでじゃ、ワシを殺した罪を不問に処すから主らはルビス様を探し出してはくれまいか。」

「いや、流石にルビス様にだって都合があるでしょうから…」

 

うんうん、私は無言で頷いてみせる。

 

「それもそうじゃな…でさルビス様がいつかまたポルトガの地に来ていただいた時にポルトガ最高の料理でもてなしたいから『くろこしょう』をバハラタで買ってきてはくれまいか?」

「美味しい料理?」

「お主のようなあばずれにではなくルビス様にじゃ。」

「……」

「不満か?本来ならワシを殺した罪で死刑なんじゃが?」

「「「やります!!」」」

 

私たち3人に選択の余地はありませんでした。こんな所で足止めをされる訳にはいかない。最悪『くろこしょう』なんて無視して逃げてしまえば良いのですから楽勝です。ヌルゲーというやつですね。笑いが出てしまいそうです。

チラッと目が合った勇者もニヤっと笑うあたり私と同意見なようだ。さすがですね。

 

こうして私たちは一応バハラタという次の目的地ができるのでした。

 

 

 

つづく

 




こしょう…ラーメンでも食べるのでしょうか…
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