カンカンと渇いたが洞窟内に響き渡る。
私は昼食の入ったバスケットを片手に長いトンネルを降りていくと、
先程より大きな音を立てて岩をツルハシで削る勇者(マコト)と戦士(エスターク)がいた。二人とも一言も発さずに一心不乱に岩を削る。汗を拭いながら一生懸命働く男性の後ろ姿…なかなか良いものですね。
彼らは私の存在に気づくとツルハシを置き近くに座り、そしてムシャムシャとやはり無言で食し、そして再びツルハシを握ると岩壁に向かって打ち鳴らす。
陽が西に沈むと辺りのカンカン打ち付ける音は次第に消えて行く。
間も無く二人が帰ってくる時刻です。
私は洞窟の近くに借りた一室で夜ご飯を造って待っていると、大衆浴場で湯浴みを済ませたマコトとエスタークがクタクタになって帰ってきた。
素早く夕飯の支度をし、二人に安い酒と私に高級なお酒を入れ互いにグラスを鳴らし喉を潤す。
早々に酒に酔って夢見心地なボッチ(エスターク)を部屋の外に捨てると、同じくウトウトしているマコトをベッドに促し私も床につく…。今日も彼は頑張って働いた。私はそっと彼の頭を撫でるのですが……
「って違ーーう!!!」
「何よマコちゃん急に大きな声を出して。トイレに行きたいの?真っ暗だし着いて行ってあげましょうか?」
「いらんわ。そうじゃなくてだなぁ、おまえはおかしいと思わなのかこの現状。」
「何がよ。マコちゃんが昼間働いて私が夜ご飯とかお酒とかお酒を用意して帰りを待つ。何が不満なのよ。」
「酒が2回あるんだが?」
「……」
「そうじゃなくて、オレはなんだ?」
「ヒキニート?」
ガツン!!
「痛ったい」
「ヒキニート言うな。オレは勇者だぞ?魔王バラモスから世界を救う為に旅に出たんだぞ?」
「……はっ!!そ、そうよ!マコちゃんは勇者なのよ。早く私の本体を助けてちょうだい!」
「おまえ…いま完全に忘れていただろ?」
「わ、忘れるわけないでしょこの私が。」
「おまえの目、泳いでるけど?」
チッ、最近マコトはよく見ているわね。いくら私が美しいからって少しは遠慮しながら見てほしいものです。
「おまえが考えてる理由、違うからな?」
「なっ!わ、私の思考を読むですって!やるわね。」
「まぁ、そんなのはどうでも良いんだよ。それより何でオレたちはこんな所で重労働してるんだ?」
「そりゃあ……」
私はマコトに言われるままに少し前を振り返る。
私たちはポルトガ王が私の為に最高級のご馳走とお酒を振る舞うために必要な『くろこしょう』をバハラタの商人の店で買い付けて欲しいと言われました。
脅威は去ったとはいえ、かつての海洋国家の名残がかけらもない今のポルトガに私の為に無理をさせたくはない…やんわりと申し出を断ったのですが、世界の大精霊である私の為にどうしてもとポルトガ王は引き下がらず、ならばせめて大切な食材のひとつである『金にも等しいくろこしょう』を遠い異国の地まで買いに行く大変な役割だけは私たちが担いましょうと、私は従者(マコト)と弾除け(エスターク)を連れて旅をしていたのだ。
バハラタに行くには海路、またはロマリア領からイシス領へと渡り、さらに険しい山脈を越えなければならないのですが、それは人の身で踏破できるような山脈ではありません。そこで私たちはポルトガ王に山の麓にいる者に手紙を渡せば何とかしてくれるだろうと言われここまで来たのですが…
「おいルゥ、だいぶ自分に都合良く解釈しているみたいだがちょっと整理しようぜ。」
「ええ。」
「ポルトガ王は確かに『手紙』を渡せば何とかしてくれるって言ってたよな。」
「そうね、ドワーフの子孫だとか何とか言ってたわね。」
「確かにドワーフっぽい厳つさじゃああるけどよ…あのモヒカおかしいだろ、普通は『手紙』を渡したら凄い勢いで穴掘ってオレたちを山脈の向こうに渡してくれんじゃないの?何でオレたちが一緒になって穴掘ってんの?もう3日目だぜ?」
「そ、そうよね。あのヒャッハーとか言いそうなムキムキのモヒカン男、私たちをこき使いすぎよね。」
私たちが自称ドワーフの子孫の文句を言っていると、バンッと勢いよく扉が開き野太い声が鳴り響く。
「おまえ等うるせーぞ!!何時だと思ってんだ!!」
「「すいませんすいません。」」
当の本人が怒声をあげながら私たちの部屋へと入ってきました。
「ところで…なんでコイツは部屋の外で寝てるんだ?」
「その悪魔っ子は『オレはどこでも寝れるのが特技だ〜』とか言うから外に出したの。」
「なんちゅう女だおまえ。まぁそれはさておき、おまえ等の不満も分からんではないが、穴が開通しなきゃどうしようもないだろ。早く通りたきゃ手伝うのは当然だろ。それにポルトガ王の手紙にもそう書いてあるぜ?ほら。」
モヒカン男がピラピラともつ手紙をマコトは奪い取り読む。
「なになに…その者等はワシを殺した死刑の執行猶予者である。女神に振る舞うご馳走の為に働かせておる。穴掘りはもちろん、報告に聞いておる巨大な大蛇討伐も好きなように使って良いから穴掘りを完成させるのじゃ?ふざけんなーー!!」
マコトは手紙を破り捨てた。
「まぁ手紙にもあるが大蛇討伐はもう終わったから、もう少しで開通の筈だ。文句を言わず手伝ってくれ。さ、わかったら明日も忙しい、早く寝ておけよ。」
そう言って彼は再び自室へと戻って行った。
「あのおっさん見るからに強そうな戦士だからな。オレたちの手伝いなんてなくても大蛇を退治したんだな。」
「そうね。楽で良かったわ。」
私たちはお互い安堵すると、再び眠りに就くのでした。
そ し て よ が あ け た
「なん…だと…」
あくる日ソレを見てエスタークが絶句した。
「あぁ、コレがおっさんが討伐した大蛇かぁ。」
「コレを討伐しただと?人間が?」
「なんだよエスターク、おまえこの大蛇知ってるのか?」
「コイツはオレの世界では神殺しで有名な『オルゴデミーラ』と言う魔王の一柱だ。信じられん…オルゴデミーラを狩ることができる人間がいようとは。」
「あらぁ、自称地獄の帝王サマともあろう者が人間より弱いだなんて…。」
「ふ、ふはははは。オレがオルゴデミーラより弱いなんていつ言った?まだ『進化の秘宝』を見つける前だが、オレより強い者なぞそう何人もおるまい。ましてや自称精霊神なんかには、な!」
「「…」」
言ってくれるじゃないこの悪魔っ子が。私がエスタークを折檻しようとしたらマコトが間に入って私たちを止める。
「こんなところでケンカは止めろよ!それより早く開通させようぜ?」
「そうだ!勇者の言う通りだぞ。」
屈強なモヒカン男が騒ぎを聞きつけてか、後ろからやってきた。
「アンタがこのオルゴデミーラを倒した戦士か?」
エスタークが言う
「この大蛇はオルゴデミーラと言うのか?残念ながらコレを倒したのはオレじゃねーよ。オレたちは何十人もの冒険者たちとで大蛇の討伐を試みたんだが、その都度全滅。いよいよオレも死ぬのかと覚悟した時な、何処からともなく歌声が聞こえたんだ。」
「歌声?」
「あぁ。オレはてっきりもう死んでいて女神が鎮魂歌を歌っているのかと思ったんだが…その歌声を聞いた大蛇が急にビクつき出したんだ。もともと緑色した顔が真っ青になって逃げ出しやがったんだ。しかも大慌てでな。しかし光を纏うように現れた女神がな、逃げした大蛇の尾を掴んで壁に投げつけたんだ。闘いは一瞬だったよ。壁に叩きつけられた時点で大蛇は目を回していたのだからな。女神は大蛇に強力な『ラリホー』をかけると、数百年は起きないから安心してくださいとだけ言うとペコペコと頭を下げて、『リレミト』で洞窟から立ち去って行ったよ。彼女は名乗らなかったがきっとあれは…いや、気のせいかな。」
そう言ってモヒカン男は硬目をつむる。
それにしても魔界の魔王の一柱を一撃ですか。心当たりがない訳ではありませんが私もマコトも一言も発さない。エスタークはと言えばその女神とやらに興奮気味だ。
「ま、まぁ最大の脅威は取り除かれたんならさっさと開通させようぜ。オレたちはこんなところで足留めされてる場合じゃないしな。」
「さすがは勇者じゃねーか、良い事を言う。さぁ、ラストスパートだ!さっさと掘るぞ!」
屈強なモヒカン男の掛け声に始まったラストスパートとやらは、その後3日目にしてようやく開通したのでした。
開通し太陽の光を浴びた勇者がちょっとだけ頼もしく見えたのですが、言うと調子に乗りそうだ。これは私の『冒険の書』の中に小さく小さく記録しておくだけにしよう。
「おっさん、世話になったな。」
「おっさんは止めろよ、こう見えてオレはまだ若いんだ。それよりおまえさんはこれからどうするんだ?」
「オレはとりあえずバハラタに行ってみようと思う。そうだ、おっさんも一緒に行かないか?アンタほどの戦士なら魔王バラモスの討伐にも力になりそうだし。」
「いや、オレは辞めとくよ。だってオレ…戦士じょなく大工だしな。」
「大工って…あんた村人かよ!!全く…じゃあなおっさん、またどこかで会おうぜ。」
そう言って勇者とモヒカンは固く握手をした。友情が芽生えた美しい瞬間だ。私は二人の出会いを祝福しましょう。
「それなら次に会う時まで名前くらい覚えとけ。オレの名はおっさんじゃなくハッサンだ。」
「ああ、覚えとくよおっさん!じゃあな!!」
「だからハッサンだ!全く…オレはもしかしたら貴重な男の出立の瞬間を見ているのかもな。いや、気のせいか。」
何やらぶつぶつと呟いては一人物思いにふける大工のハッサンと別れ、私たちは目的地のバハラタを目指すのでした。
つづく
遅くなりました。ちょっと身内に不幸がありまして…。もう落ち着いたのでボチボチ再開します。