山脈の地下通路の穴掘りという、魔王討伐に必要か?と思うお仕事を終えること3日目、私たちは目的地であるバハラタに来ました。
バハラタはどこの国にも属さない言わば自治都市…いえ自治村です。
そんな小さな村ですが多くの人々が賑わいを見せている。
というのもバハラタは立地が良いらしい。近くを流れるガンジスは、生命を育む水に溢れる。その私の如く清らかな水は多くの恩恵をもたらす。なかでも『くろこしょう』をはじめとした良質な香辛料が採れ、各国の要人がわざわざバハラタに買いに出向くほどの人気なのだそうだ。
「……店、開いてないな。」
私へのご馳走のために必要な『くろこしょう』の店、意気揚々とやって来た私をドン底に突き落としたエスタークの一言に絶望しました。
「ちょっと休みとか困るんですけど、私のご馳走はどうなるのよ!!」
「ルゥ…言っておくがポルトガ王がご馳走するのはおまえにじゃないからな?」
「バカねぇマコちゃん。ポルトガ王は大精霊ルビスにご馳走を献上したいって言ったのよ?私以外にいるわけ無いじゃない!」
「……バカはおまえだ。」
ポソリと呟いた。
しっかりと聞き取ったわよ…。私は来たる日のためにマコトの私に対しての不遜をカウントした。
しかしです、少しくらいは天罰の小出しも悪くはありません。
私は
「お店は休みだけど内から人の声が聞こえるわね。マコちゃん、あんた扉をノックしてみなさいよ。もしかしたら売ってもらえるかもしれないじゃない。」
「そうか?まぁ聞いてみるだけならタダだしな。」
そう言って勇者は扉を叩こうと手を伸ばした瞬間バンッ!と勢いよく扉が開き勇者の顔面にヒットしました。
グエッと何処から出たのか分からないような小さな声を上げてうずくまる勇者…少しだけ私の気分も晴れると言うものです。
「グエッはないわよねグエッは。世界を救う勇者がグエッとか、ありえないんですけど。プークスクス。」
「コイツ!」
「おいおい貴様ら、店の前で夫婦漫才はヤメロよ。人様に迷惑がかかるだろ。」
「悪魔っ子に人様に迷惑とか言われたくないわよ!」
私たちがいつものように会話をしていると
「あれ、お客さんですか?申し訳ありません。」
内から飛び出して来た若い男はカエルのようにひっくり返っている勇者を助け起す。そんな彼を追いかけるように内からもう一人、こちらはいかにも裕福そうな恰幅の良い…なかなか愉快な姿の中年の男性が現れた。
「アンディ早まるんじゃない。おまえが行ったところで返り討ちに遭うだけだ。今は焦らず犯人からの連絡を待とう。」
「それではフローラの身が心配です!きっと彼女は僕の助けを待っているに違いありません!!」
「しかしアンディ、おまえまで奴らに捕まってしまったら…」
「ルドマンさん…。僕はそれでもフローラを助けに行きます。必ず助け出して見せますのでルドマンさんは家で待っていてください!!」
そう言ってアンディという名の青年は村の外へと走り去っていきました。何でしょうこの演劇じみた茶番劇は。隣の勇者と目を合わすとマコトも首を振り、無言で関わるなと言っています。
さすがは勇者ですね。大精霊である私と完全に意思の疎通がとれています。
しかしヘンテコな髪型の中年は
「あー困った困った。何処かにあのちょー強い盗賊団を倒せる者はいないだろうか…。」
そう言いながらチラチラと私たちの方へ視線を送っています。
私たちは敢えて視線に気付かないフリして聞き流していたのですが、ルドマンさんは引き下がる気は無いようです。
「娘のフローラを救ってくれた者には金にも匹敵する価値の『くろこしょう』無料であげても良いのだけどなぁ。」
チラ、再び私たちの方へ横目を送る。そして『くろこしょう』にピクリと微かな反応を示したボッチ(エスターク)を見た彼は
「何なら娘のフローラの婿に迎えても良いな。そうだな、婿には祝いの品としてポルトガに停泊させてある私の船を進呈するのも良いな。」
反応を見てチャンスと思ったのか、そう言って再びチラチラと目線を送る。
作戦タイムです。
私たち3人は隅っこでしゃがみ込み小声で話す。
「おいルゥ今の聞いたか?『くろこしょう』だけじゃなくて船まで貰えるみたいだぜ?」
「ちょっとマコちゃん、あんた船より娘さんが欲しいとか言いださないわよね?」
「そ、そんな事ねーって。」
「んー?怪しいわね。マコちゃん、あのルドマンさんを見なさい。あのヘンテコな髪型と自分の足元も見えないようなお腹のあの彼の娘よ?可愛いワケないじゃない。よく考えなさいよ。」
「……それもそうだな。でも…船は欲しいよな。ついでに『くろこしょう』もだけど。」
「船はたしかに必要だがオレは人間相手は嫌だぞ?」
「何でだよ。エスターク、おまえなら盗賊団くらい余裕だろ?」
「余裕だからだよ。オレは最強を手にする為に旅をしてきたんだ。レベルの低い人間なんか相手したらオレが弱くなっちまう。まぁマコト、おまえが相手してくれるなら話しは別だが?」
「痛いのは嫌だからパス。しかしそれだとどうするか…。売ってくれないとなると選択肢は限られちまうしな。」
痛いのが嫌と断る勇者もどうかと思うけど、確かに売ってくれないとなると私たちとしても困る。マコトやエスタークの事だ。二人が思い付く選択肢と言えば殺して奪うだとか、『ラリホー』で眠らせて奪い取るだとかきっとそんなところでしょう。もちろん女神としてそれは看過できないものですが…。しかしそれよりもこの屋敷はもっと気になることがある。
「おいルビア、キサマさっきから何をスンスン嗅ぎ回っている。キサマは一応女だろうが。はしたない。」
「エスターク、ウチのルゥはいつだってはしたない。」
二人とも言いたい放題じゃないですか。しっかりと『ぼうけんのしょ』に記しておきますからな。しかしそれよりも…
「コレよ!壁際に飾ってあるこの青いツボから嫌な悪臭がするのよ。」
「あー!!!こらこら!そのツボに触ったらいかん!!」
くっさい悪臭を放つツボに近寄るとルドマンさんは大慌てで私からツボを遠ざける。
「このツボには大昔。私の先祖のルドルフが凶悪な魔物を封じてあるのだ。」
「ほう?なんて魔物なんだ?」
「名前は確かブオーン、山のように巨大で凶悪な魔物だそうだ。」
「ブオーン?最近話しを聞かないと思ったら人間に捕まっていたのか。」
「知り合いか?エスターク。」
「知り合いって程でもないよ。下々の魔物でもそれなりに有名な奴はいるからな。」
「おまえより強いのか?」
「オレの足元にも及ばねえよ!!」
「はいはい、オレは強いんだぞアピールお疲れ様。私たちも忙しいからね、わざわざ封じてある魔物を出すつもりはないわ。」
「そうか、それなら安心だ。まぁこのツボが青いは大丈夫なんだけどな。ワッハッハ!」
娘さんが誘拐されたというのに随分と豪快に笑いますね。しかし『くろこしょう』も『船』も手に入らないのならバハラタの村になんか用はありません。私たちは店を出ようとすると再びルドマンさんが呼び止める。どうやら彼は意地でも私たちに娘さんを助けさせたいようです。あの手この手で、もう半日くらい私たちを説得しようとしています。さすがに若干疲れを感じたころ、ルドマンさんは聞き捨てならないことを呟いた。
「盗賊団はこの村にいる目立った美女を片っ端からから攫っておるのだ。きっとどこかで入口を見張っているのだろう。我が娘のフローラなんていの一番に攫われたのだ。おお、そう言えば娘の姿絵を持っているのだが見るか?」
そう言って懐から1枚の紙切れを出し私たちに見せる。
すると男二人は姿絵を食い入るようにみた。そこには長い黒髪の可愛らしい女の子がいた。
「どうだ我が娘は。可愛かろう?」
「確かに可愛い女の子っすね。これなら盗賊団も誘拐しそうだ。」
姿絵を見るなり随分と態度を一変する勇者が気に入らない。
「ちょっとマコちゃん?とびきりの美女ならここにもいるんですけど?」
「……」
チラッと横目で私を見た勇者は
「誘拐は勇者として見過ごせない!オレは必ずこの悪党どもから女の子達を救い出して見せる。」
「ちょっと!なんか言いなさいよ!」
「おまえは誘拐されなかった。以上。」
「なああぁんですってえ!このぉ!このぉ!!」
勇者のクビをしめてグワングワンすると、慌てて私をボッチ(エスターク)が私たちを止めに入る。
騒ぎを聞きつけて集まり出した村人たちにも懇願される形で、断るにも断れず…
結局私たちは盗賊団を討伐し、ルドマンさんの娘さんを始めとした村の女の子達を救うことになりました。
つづく