ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。   作:シズりん

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アンディ…永遠に

「えーと…何かしらコレ。」

「……」

 

バハラタを出て間も無く……振り返ればまだ村が見える程に間も無くの場所で一人の青年が倒れていた。私たちは彼を知っている。先程勢いよく村を出て行ったアンディという名の男性です。

盗賊団によって拐われた恋人フローラさんを自らの手で救出すべく静止するルドマンさんを振り切り村を出て行ったあの彼です。

愛する人の為に命を顧みずの行動……女としては憧れるシチュエーションではあります。しかし村人である彼にはフローラさんを救う力が無い。残念ながら彼は目的を果たせずに力尽きたようです。

 

「まぁこの辺りになると『ハンターフライ』や『デスジャッカル』などがいるからな。人間にはちょっとキツいかもな。」

「…オレも人間なんだけど?」

「おまえは勇者だろうが。おまえはノーカンだ。あとそこの自称ナントカもな!」

「誰が自称よ誰が。それよりも早く彼を弔ってあげましょう。腐った死体にでもなったら面倒だし。」

「なんだよルゥ、生き返らせてやれば良いじゃねーか。ケチケチすんなって。」

「ケチとかそう言う話じゃないわよ。何度も言うけど人を生き返らせるのって結構大変なのよ。誰でもお金を払えば生き返れるってなったら人間の世界から争いが無くならないでしょ?どうせ生き返れるからって武力衝突へのハードルが下がるし。それでは人間の道徳心や信仰心が無くなってしまうわ。私にはそんなこと……できない。」

「おお……今日のおまえはまるで本当の女神みたいだな。」

「ふふん、そうでしょそうでしょ…って、私は本物の女神よ!大精霊よ!!」

「でもオレやエスタークは生き返らせたじゃねーか。しかも何度も。」

「あったり前でしょ!マコちゃんは勇者なんだし、ボッチ(エスターク)も一応は貴重な戦力なんだから。人間の道徳心より私の本体を救うのが第一優先よ!」

「魔王バラモスを討伐して世界を救うのが一番じゃないのか?」

「そ、それはもちろんよ!」

「おまえ、今完全に忘れていただろ?」

「そんなことない。」

 

本当にこの勇者は私をよく見ている。まぁ私の美しさを考えれば無理もないでしょうけど。

 

「魔王…バラモス?誰だそれ?」

 

そんな私の気分良い考えを邪魔するエスターク。

 

「そうか、エスタークはバラモスも知っているのか?」

「…いや、聞いた事もないな。魔王クラスにそんな名前のヤツいたかなぁ。」

エスタークはそう言って首を傾げる。

まぁ残念な脳みそしか持たない悪魔っ子の記憶力なんか正直どうでも良いし期待もしていません。そんなことよりより今私がすべきこと…それは目の前で倒れている人間(アンディ)が『腐った死体』になる前に弔(しょぶん)う事です。

私がそっと静かな声で彼への祝福の言葉を唱え、神聖な魔力で彼の魂を浄化しようとした正にそのときでした。大きな声で私たちを呼び止めながら走り来る女性がやってきました。

 

長い黒髪はオシャレな感じに纏め上げ、赤い薔薇の髪飾りをつけている。少しキツめな碧眼、美女系メイクもキッチリとしている。ピンク色のシルクワンピースに短めのスカート。ハイヒールにピンク色のネイルと言った派手めの衣装を身にまとった彼女の手には救急箱が携えられている。

「あの、あなたは?」

私パーティの誰もが思った事をマコトが聞いた。

 

「あぁ私はデボラよ。フローラの姉で、そこのアンディの主人と言うか…まぁ幼馴染ね。そんなことより小魚みたいな顔したあなた、早くそこを退きなさい。」

「小魚ぁ?」

小魚と評価されたマコトは不満そうな顔で道を開ける。それを笑っているエスタークには

「ちょっと虫みたいなあなたも早くどくのよ!」

そう言ってハイヒールをカツーンと打ち鳴らす。

「む、虫ぃ?オレが虫みたいなだと?」

「そうよ、Gじゃあるまいし全身真っ黒な衣装ってどうよ。」

それを聞いて私の我慢も限界です。

 

「プークスクスク!超ウケるんですけど!GみたいだってG。今からボッチ改めGと呼んでやろうかしら。」

「キサマ!!」

「わーちょっと待てちょっと待て!仲間同士で争うなって。」

背に背負った剣に手を掛けたエスタークをマコトが慌てて止めに入る。良い機会だから悪魔っ子にトドメを刺してやろうかと思いましたが、勇者が言うなら仕方がありません。ここは万物の女神たる私の方が大人になりましょう。

 

「アンディはまだ死んでないわ。」

「え?でもさっきからピクリともしないわよ?」

「あー…そいつね、幼い頃から病人やケガ人のフリが得意なのよ。」

「は?何でそんなこと…」

「コイツ昔っから妹(フローラ)が好きでね、少しでも気を引こうといつもこんな感じなのよ。」

「え?じゃあモンスターやら盗賊団にやられたわけじゃないの?」

「おおかた、小川を渡るときに濡れている石に滑って転んだんじゃない?ほら下僕!!さっさと起きろ!!」

 

そう言ってデボラさんがハイヒールのカカトでアンディを踏み付けると、小さな悲鳴をあげた。どうやら彼はまだ死んではいなかったようです。全く人騒がせなものですね。

アンディが生きている事を安心したのか勇者もアンディに軽い口で話しかける。

 

「何だアンタ死んでなかったのか。せっかく代わりにオレがフローラさんを救い出し、恩を着せる事で彼女にでもなってもらおうかと思ったのに。」

「引くわー。どうりでマコちゃんにしてはやる気だと思ってはいたけど、引くわー。」

「おいルゥ、これはアンディを早くケガから回復させるために焚き付けているだけだろうが。エスタークおまえまでそんな目でオレを見るなって。」

デボラさんを含めた全員が勇者に冷たい視線を送る。

まぁ勇者(アホ)は放っておきましょう。それよりもアンディに聞きたいことがあります。

 

「アンディさんはルドマンさんの制止も聞かずに飛び出していましたけど、貴方には盗賊団のアジトの場所を知っているのですか?」

「正確にはわかりませんが、盗賊団は東北の方からやって来ると聞いています。だから…先ずはそっちへ行けばと。。」

「場所を知っているわけではないのね。まぁそんなことだろうとは思っていましたが。」

 

要するにアンディもまた盗賊団の情報はもっていないようです。単に盗賊団が来る方角のみです。

私たちはあまりにも情報がなさすぎます。

 

「私が囮になろうか?」

私たちが思考にふけっているとデボラさんが言いました。

「盗賊団は美女を拐っているんでしょう?私も一度拐われかけたことあるし。」

「そん時はどうしたんすか?」

デボラさんの話に勇者が応える。

「決まってんじゃない。撃退したのよこれで。」

そう言って懐から出した皮の鞭をパシーンと鳴らす。

「なるほど…でもデボラさんが囮だなんて危なすぎる。万一何かあったらルドマンさんに申し訳ないし。」

「あら、小魚みたいな顔している割に優しいじゃない。もしかしてあんた私と結婚したいの?あんたなら考えてやっても良いわよ?」

 

そう言って色目をマコトに向ける。そんなデボラをマコトから引き剥がした私は

 

「そうよ!美女ならここにいるじゃない!絶世の美女が。私が囮になるわ。で、拐われた私の後をつけて盗賊団のアジトを見つければ良いのよ!何だ、もう完璧な作戦じゃない!!これはもう解決したようなもんよ。余裕よ、ヌルゲーってやつよ。そうと決まれば明日早速着飾って決行よ。そうと決まれば今日はジャンジャン飲むわよ!」

 

私のテンションが上がります。

 

「ねえ小魚、この女はいつもこうなの?」

「ウチのルビアさんは…いつもブレない。」

「そう…。」

 

そう言ってデボラさんは目を丸くしていた…

「まぁ良い!デボラさんよりルゥなら心配もない。そうと決まれば明日にはフローラさんを救い出してみせるぜ!」

 

西陽が勇者の蒼い宝玉を照らす。正に勇者が決意をした瞬間でした。

 

 

 

 

 

「…今日はここまでよ。」

静かにそう言うと私は『冒険の書』を閉じた。

「えー、その後勇者様がどうなったか聞きたいわ。」

 

数人の女性たちが瞳を輝かせて私の勇者の冒険譚を聞きたがる。女性はいつでもどこでも恋バナが好きなものです。まぁ恋はありませんが…。

辺りは薄暗い牢屋の中。壁にかけてある松明だけが部屋を照らしている。囚われた女性は数人。なかでも目を惹く女性が二人いた。1人はその容姿からフローラさんで間違いなさそうです。しかしもう一人の方が私には問題にみえる。白銀の長い髪をもち、白く透き通った肌にほんのりと赤みを帯びた瞳をもつ彼女はエルフの姿をしているのですが、何でしょうかそれだけではない。彼女からはエルフとは別の…誰かに似ているのだけど誰だったろう。今一つ思い出せない。私はそんな彼女に見覚えがある。そうポルトガであったあの歌姫(ディーヴァ)とか呼ばれていたあの子だ。

私の目的はあくまでもフローラさんなのですが、私はこの人間に興味が尽きません。

 

「ねえ、私はルビア。あなたお名前は?」

「え?私の名前ですか?私は…」

 

その時でした。ガチャンと鍵の開く音とともに大きな音を出しながら数人の男がやってきた。

「何だ新入り。おまえが上玉を拐って来たって?」

「そうなんですよお頭。なかなかの上玉ですぜ。」

 

そう言って牢屋の前に立ったその盗賊団の頭は……

 

 

 

「……」

「……」

 

「あーーー!!おまえは!!」

「出たわね覆面パンツ!!」

 

 

そう、盗賊団の頭とはロマリアで討伐したあの盗賊団だったのでした。

 

 

 

続く

 

 

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