ポルトガの城内はいつになく慌ただしい。
それもそうであろう。
何せあの勇者一行がやってくれたのだ。
初めて会った時、あろうことか国王であるワシを『バギ』で殺すような勇者一行、教会の神父供は近年『ザオリク』が効果を示さないなか、生き返りを受けたワシをみて腰を抜かしておったものじゃ。
じゃがそれでも勇者は勇者、我がポルトガの国で死なれるのも困る。そこでワシは良い事を思い付いたのじゃ。勇者一行にポルトガの国では貴重な『くろこしょう』を買い付けてきてもらう事じゃ。
正直期待はしてはおらぬ。
あの感じじゃと逃げ出すのが関の山であろう。
じゃからワシは『くろこしょう』を見事買い付けて来た暁には、ポルトガに残存する貴重な船をやると約束もした。
どうせ無理じゃろうからな。
何せ『くろこしょう』は扱っている店がバハラタにある一件の店しかないと聞く。その金額はと言えばくろこしょう一粒が金一粒に相当すると言うほどの高額。バハラタにたどり着いたところで勇者が買える代物ではないのじゃ。
ワシはワシを殺した彼らを処罰もできず、不問にもできないため無理難題を付けて程のいい追放処分にしたわけじゃが……
意外にも遣いに出した伝令から、なんと勇者一行が『くろこしょう』を手に入れ、このポルトガの地へと向かっていると言うではないか。
しかも、遣いの伝令からの報告によれば勇者一行の中にあの歌姫…いや精霊神ルビス様もいたと言うのじゃから、嫌でも心が躍ると言うものじゃ。
ワシは自慢のヒゲの手入れをし、何時間もかけて侍女どもにおめかしもさせた。
あとは精霊神ルビス様をお迎えするだけ…なのじゃが…
来ない。彼らはいつになったらワシの所へやってくるのじゃ。はっ!もしやルビス様もワシと会う為におめかしとかに時間がかかっておるのではまいか。なるほどなるほど、敢えて待たせてワシの器をはかろうと言うのじゃな?
女神は人間を試すからのぉ。
よかろう、ワシの器の大きさを見せて差し上げようじゃないか。
日が沈み、月明かりがポルトガの街を照らすころになっても勇者一行…いや、女神はやって来ない。さすがのワシも痺れを切らし、彼ら一行に何かあったのではと不安がよぎったそのとき、けたたましい音を立て王室の扉が開き、息を切らせた兵士が入ってきた。
兵士はワシの前に傅くと
「王様、一大事でございます。」
息を整えるのも忘れ叫ぶ。
「おちつけ、何があったのじゃ?またあの化け物が海から現れたか?それとも更なるモンスターでも現れおったか?」
勇者一行がポルトガ領内にいるのを知っているワシには余裕がある。正直戦闘など出来はしないが敢えて供にすることでルビス様に我が勇姿を見せれたなら、更に好感度が上がって…やがて二人は…ムフフ。
しかし兵士から出た言葉は
「ポルトガの城内にある新造艦を紛失しまして…」
ワシは一瞬、兵士が何を申しておるのか理解できなかった。
「し、新造艦ってワシの公用船か?」
「左様でございます。」
「し、しかしあれは屈強な兵士数十名で警備にあたっておっただろう?それがなぜ…」
「それが、昨晩勇者一行がわたくしども兵士に普段の公務ご苦労さんと言ってバハラタで買い付けてきたお酒を振舞ってもらいまして…。」
「公務中に酒を飲んだのか?」
「いえあの…飲まないなら仕方ないなとか言って勇者一行は我らの前で酒盛りを初めたのです。」
「それで?」
「勇者は絡み酒らしくやたらと酒を勧めてくるわ、女僧侶は何やら凄い宴会芸を披露するわ、戦士は二刀流だーとか言いながら色んな酒を混ぜて飲んでまして…その様が凄いのなんの。初めは真面目に警備していた兵士も次第に参加しだしまして…。」
「大宴会になったと?」
「…申し訳ございません。」
「経緯はまぁ分かった。それよりもう1人おったじゃろう?歌姫が…。」
「いえ、かの歌姫はおられませんでした。その3人だけでございます。」
ワシの情報網に間違いがあったのじゃろうか。最も重要な人物がいないと聞き、落胆の色を隠せない。ワシは王にあるまじき不貞腐れたものいいで兵士に語りかける。
「で、それがなぜワシの公用船の紛失に繋がるのじゃ。」
「それが…私どもが起きた時にこんな手紙が…」
ワシは兵士から手紙を引っ手繰ると、それに目を通す。
ポルトガのおうさまへ
から始まるその手紙は…あまりにも字が汚くてよく読み取れなかった。なんとか苦心してようやく理解した内容は、約束の『くろこしょう』は置いておくので船を借りますとの事だった。
本心を言えば今や数少ない船を貸すつもりはなかったのじゃが、一刻も早く魔王バラモスを倒したいと言う勇者の熱い気持ちも分かる。
残存する船の中で一番良い新造艦を持って行ったのはなんだけど、それもバラモスを討った後に勇者に多大な支援を行ったとなればポルトガ国にとっても決して損なことはない。なにより精霊神ルビス様へこれ以上ないくらいの好感度アップじゃ。
ワシは勇者の手紙を折り畳み懐にしまおうとした時、ヒラリともう一枚の紙切れが落ちた。
※※※※※※※※
少しベタつくけれど潮の香りのする風が心地よい。私たちはポルトガ王より頂いた(かすめ取った)船は、さすが国王が乗るだけあって良い乗り心地です。
こんな豪華な船に乗ると、いつだったか誰かに聞いたように船の先端部に立って両手を広げてみたくなる。あとは素敵な男性がそっと後ろから優しく抱きしめてくれれば良いのだけれど……
私はちらりと目線を移すと、それはもう見事な食事を頬張る勇者の姿と、手摺りにグッタリと寄りかかり、今にも死にそうな顔で、時折海に虹色なアレをブチまけている戦士の姿が視界に飛び込んで来た。
はぁ…私は深く大きな溜息を吐くと、それに気づいた勇者が
「おいルゥ食べないのか?全部食っちまうぞ?」
などと、ロマンチックには程遠いことを言っています。まぁマコトに期待するだけ無駄かと思いますが。
私が船の先端部から戻ろうとしたとき、ふと視界に光るものが入りました。
「何かしらアレ。」
「あん?オレには何も見えねーぞ?」
大きな鶏肉を口に頬張ったまま隣に立ったマコトが目を細めている。
私は再び光る方角を見ると
ポルトガの国旗を掲げた数十隻の船がこちらに向かってきている。見送りかしら。私はそのことを勇者に伝えると
「えーオレには見えねーぞ?おまえどんな視力してんだよ。」
「バッカねぇ、私を誰だと思っているの?私は大精霊よ?ずっと貴方達人間界を眺めてきたのよ?視力なんか両目ともに100.0に決まっているじゃない!」
「…暇なんだな。」
「なぁんですってぇ!」
「うわっ!いちいち首を絞めるなって!」
「言っておきますけど私が人間界を眺めているのを喜ぶ人だって……あれ、なんか…数十人の魔法使いが甲板の上に立っているんですけど。な、なんか呪文を唱えているみたいなんですけど…」
「いくら王様だって、自分の公用船をかってに使ったくらいで攻撃なんかしてこないだろ。こんなに豪華な食事や装備だって船に入れといてくれたくらいだぜ?アレだ、きっと旅立つオレ等に祝砲かなんかじゃねーか?」
「そ、そうね」
…ヤバい。食料やら装備品は私が王様のツケで勝手に買ってきたものだなんて言えない。
「おいルゥ、何でこっち見ないんだ?」
「な、なぁにマコちゃん。私の美しい顔がみたいの?」
「良いからこっち向け!」
無理矢理私の顔の向きを変え覗きこむ勇者。
「ん〜?」
「ち、近い近い」
少しの波の揺れで触れてしまいそうなほどに近い勇者のくちびる。それに反して甘さを全く感じない冷たい瞳。
マコトは、それはもう恐ろしい声で囁いた。
「おまえ…何か知ってるな。正直に言ってみろ。」
「あの…装備品と食料は私が買いました……王様のお金で。」
「……いくらだ。」
私はそっと指を3本立てる。
「3万Gは買いすぎだろ。食いきれねーよ。」
「違うの…あの…30万ゴールド…です。」
「こんの…駄女神がぁ!!!」
「怒らないでよ。ちょっと高級なお酒とか買ってたら…気づいたら凄い金額で。仕方ないから王様宛にツケにしてもらっただけじゃない。」
「それにしたって30はやり過ぎだろ!ただでさえ海から現れた謎のモンスターに壊滅させられた船を造るのに国の税金を投入してるって言ってたのに…ッ!」
ドオオオオオン!!
その時、爆音とともに海水が雨のように私たちに降りかかった。
「お、おいマジで撃って来やがったぞ。エスターク!全速で離脱だ!」
「ゲロゲロゲロ…」
「うわっ汚ねえ!遂に吐きやがった!おまえ一応地獄の何とかだろうが!船酔いなんかしてんじゃねー!」
「いや、オレも船は初めてで…ウプッ!」
尚も続くポルトガ国の船団からの魔法攻撃。
私たちは慌てて逃げ出した。
「おお!今ホントにヤバかったぞ!」
「キャー!ちょっと今魔法の弾道が私の髪を掠めたんですけど!ちょっとホントにヤバいんですけど!!」
「ゲロゲロゲロ…」
「おいルゥ!おまえが金を遣ったんだから、おまえがおとなしく投降すれば許してくれんじゃねーか?」
「嫌よ!それにポルトガの王様が、大精霊ルビス(わたし)に最高級の料理を振る舞うって言ってたんだから良いじゃない。ちゃんと目的通りじゃない。」
「それはおまえの事じゃなくて、あの美女にだろ!このぱちモンが!」
「なんですってぇ!誰がぱちモンよ!!」
ドオオオオオン!!!
再び魔法攻撃が船のすぐ隣に着弾した。
私と勇者は顔を見合わせ
「「ごめんなさーい!!」」
「ゲロゲロゲロ」
私たちの悲鳴は海に響き渡るのでした。
続く
あけましておめでとうございます。今年もよろしくね♡
次回からはジパング編をお送りします(*^o^*)