最低な目覚めを経験しました。
昨日なし崩し的に勇者の家に泊まったのですが、勇者のイビキや寝相の悪さに悩まされ今日はロクに眠れていない。
幸せそうな顔で寝言を言う勇者に少しだけイラっとした私がデコピンをかましたのは、ささやかな仕返しと言うものです。
寝直すことも出来ず諦めて1階に降りていくと勇者のお母様が『あらルゥちゃんおはよう、随分と早起きさんね。』と挨拶をしてくれた。早起きも何も眠れてません。
しかしそこにいたのはお母様だけではなかった。
記憶操作によるものではあるが、名目上私の父と母たる神父とシスターがまだ早朝にもかかわらず勇者の家に居ました。3人とも目の下にクマを作って…。
あまり会っているとボロが出そうなので避けていたのですが、そんな私の事情など知るはずも無い彼らは向こうの方から近付いてきたのだ。
そしてそんな2人は私に言葉による痛恨の一撃を放つ。
「ルビア昨夜はどうだった?ちゃんと上手くできた?ああ、早く孫の顔が見たいですなぁ。」
「本当ですね。男の子でも女の子でも良いから元気な孫が欲しいですわねぇ。」
3人が身の毛もよだつような恐ろしい話しをしている。メダパニでも食らったのでしょうか。精霊と人間の間に子供が出来るのかって問題もあるが、まず第1に私たちは全くそんな関係ではありません。辞めてください、それは神に対する冒涜です。女神ですが自殺したくなります。しかし3人の幸せそうな笑顔を見ると女神としては強く否定し幸せに水を差すような事をしたくない。
そんな最悪な状況を助けてくれたのは、私のあとから1階に降りて来た女の子サキだった。
彼女はマコトの妹で、兄と違い才能溢れる少女です。
私の見立てでは特に魔法力に優れ、いずれは賢者も夢ではない、そんな少女なのですが、勇者(マコト)は妹だけは絶対に連れて行かないと言っています。自分だけではなく妹まで旅立ってしまっては母とジジイの面倒を見る者がいなくなると。
彼もたまには良いことを言いますね。若干シスコンを疑ってしまいますが。
そんな見目麗しい少女は
「昨夜は2人は何もなかったと思う。そもそもヘタレの兄貴がルゥ姉に手を出せるわけないじゃん。」
何もないのは当然です。勇者はのび◯くんも真っ青なほどベッドに入った途端にイビキをかいていましたから。
それにしても、もう少し上手い言いかたありませんか?
って言うか、貴女も目の下にクマを作っているところを見ると一晩中壁に聞き耳を立てていたようですね…3人もまさか一晩中?これ以上考えると女神にあるまじき思考に至りそうなのでやめときます。
3人はサキさんの言葉にあからさまにテンションを下げ、あくびをしながら降りて来た勇者に
「「「「「おはよう、ヘタレ」」」」」
5人は口を揃えて勇者に挨拶した。
午後になると私たちはルイーダの酒場に来ました。
美しく聡明な精霊である私は気付いてしまいました。
残念ながら勇者は変えられませが、パーティメンバーがしっかりしていれば良いのです。勇者がヘッポコでも仲間が強ければ…。
初めて来た人間の酒場はまだ昼間だと言うのに大盛況でした。マコトが言うには酒場の女主人であるルイーダさんが美人で、ホールスタッフをしている娘のリッカちゃん共々アリアハン中の男性から大人気なのだとか。さらにランチもやっており、これがまた美味しいから客が入るそうだ。
私たちは適当なテーブル席をとると適当に注文する。それがルールだと言うのだから仕方ありません。メニューを見ても人間の料理なんて分かるはずもなく、私は適当に注文しました。
「ルゥ、お前が注文している間にパーティメンバー募集をかけておいたぜ。」
「忘れてなかったんですね、感心しましたよ。」
「お前オレを馬鹿にしてないか?」
「…そんなことありませんよ。」
ちょっと間があいてしまった返答にマコトは納得いかないって顔をしている。さすがはヘボでも勇者、まさか私の心を読むとは侮れません。
しばらくするとルイーダさんから呼び出しがかかりました。マコトが出した条件に合致する仲間が集まったとのことです。
マーニャLv1 僧侶 ♀
ミネア Lv1 僧侶 ♀
「見ろよ2人は姉妹なんだぜ、どうだ可愛いだろうルビア」
ガーン!!
グーのパンチで勇者の顔面をなぐってしまいました。
「痛えなぁ何すんだよ!」
「何すんだよじゃありませんよ、バカなんですかあなたは。何で2人とも僧侶なんですか!私含めて僧侶3人じゃ明らかにパーティのバランスが悪いじゃないですか!!」
「フッ問題ない。」
妙に勇者が自信満々に答えるので私はルイーダさんに頼んでマコトの出した募集要項を拝見させて頂きました。
若く可愛い女の子求む。
職業レベルは問いません。楽しいアリアハンライフを供に送りませんか?
「バカ!!」
募集の紙を破り捨てました。
「何ですかこの募集要項は、それにアリアハンライフって何よ!あなたは魔王討伐の旅に出るんでしょうが!!」
「えー2人とも可愛いんだから別に良いじゃん。」
とことんダメな勇者です。
そんな私の逆鱗をさらに逆なでしたのは姉妹でした。
「ちょっとルビア、あなたマコトと幼馴染だからって調子に乗るんじゃないわよ。私たちはこの仮の世界ではレベルは低いけれど本当の世界ではそれはもう凄く強い踊り子と占い師で…」
「あなたたちの異世界話しなんてどうでも良いわー!この厨二病姉妹が!!」
私はモンバーバラ姉妹から契約書を奪い取ると破り捨て、パーティを解消して2人を追い出しました。
そんな私に勇者は
「安心しろよ、お前が1番可愛いって。」
ウインクまでして言った。私がそんな理由で怒っていると本気で考えているのでしょうか。全くもってこの男は…
「それにそんなに怒ってばかりいるとシワになるぜ。」
決めました。この男には一度キツいお説教が必要なようです。私はアリアハンの王様から戴いた棍棒を笑顔で振り上げました。マコトは悲鳴をあげながら逃げ出しましたが、彼は知らないようです。
精霊からは逃げられません。
ガァァァァン!!
今日もとても良い音が鳴り響きました。
暗い闇の中で立ち尽くすマコトに私はいつものセリフで語りかける。
「ああ勇者よ死んでしまうとは何ごとですか。」
「…今回はお前に殺されたんだけどな。」
今回だけではありませんがね。
「コホン!あなたは何故私が怒っているか分かっていないようですね。」
「分かってるって、ちょっとふざけたダケじゃねーか。それにルビア、お説教だけで毎回こんな所によぶなよな。」
どこまでも不敬な勇者です。
この死の境界にいるときはルビアではなく精霊ルビスとして話しているつもりなのですが…きっと彼には伝わらないでしょう。
私は深くため息を吐くと彼に半ば懇願するように話しかけた。
「分かっているのなら明日からはもう少し真面目にやっていただけますか?」
「まかせとけって!」
…軽いその返事が不安で不安で仕方がないのですが、私はそっといつものように勇者を生き返らせるのだった。
結局3日目も何の収穫もないまま終了です。私の本体はいつになったら石像から解放されるのでしょうか。