ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。   作:シズりん

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それはきっと鏡も割れる。

漂着した漁村を旅立つこと3日目、ようやくにしてヒミコと言う女王のいる神殿へと私たちは辿りつきました。

街の奥にあるそれは一般的にお城と言われるものではなく、神殿と呼ばれる様式の建築物にみえますが、元は荒ぶる神さまとやらが住んでいたらしいので、きっと認識に間違いはないでしょう。

木造でできた神殿は、何本もの巨木を束ねた柱により地上より高い位置にあり、長い階段を登って神殿へと入る。バカと成り金は高いところが好きと言うくらいですから、きっと荒ぶる神さまとやらもロクなもんじゃないのでしょう。

 

神殿の中に入ると、プワァ〜ンとか鳴る不思議な楽器の音色、神殿内を埋め尽くすお香の香り、神殿内で忙しそうに働く者たちと、私は改めてこの不思議な文化を持った国にやって来たのだと実感します。

 

「ルゥ、あんまキョロキョロするなよ。オレまで田舎者だと思われるじゃないか。」

「マコト、こいつの場合は田舎者と言うより挙動不審な痛い女って感じだろ。」

「誰が痛い女よボッチ!!」

「キサマ、オレはボッチじゃないと何度も…」

「おいお前ら煩いぞ。ここは女王ヒミコが在わす厳正な神殿だぞ。静かにしろ!」

 

「ほらルゥ、おまえのせいで怒られちゃったじゃねーか。なんだよ、何か気になる事でもあるのか?」

「何よ、マコちゃんまで私が悪いっての?まぁいいわ。このお香がね…こんなに近くにいるボッチ(エスターク)の臭っい匂いまで分からないほど麻痺させるのよ?」

「あー…おまえの悪魔っ子レーダーのアレか。アレって無いと何か問題でもあるのか?」

「……特にないわね。この悪臭振りまくボッチの匂いから解放されるなら寧ろ喜ぶべきかもね。」

「…キサマッ…さっきから臭いだの何だのと…。」

 

歯をギリギリさせながら私を睨むエスタークの表情は涙目になっていた。

 

「ウケる、超ウケるんですけど!見てよマコちゃん、このボッチ涙目になって怒ってるんですけど!プークスクスクス。」

「キサマッ!もう許さん!!」

 

エスタークがふた振りの剣に手を掛けると、慌てて止めに入る勇者は

 

「エスターク、こんな処で剣を抜くなって。あとルゥ、おまえもあんまりイジメるなよ。」

 

と、下手な仲裁を試みるものだからかえって火がつき再び騒ぎになる。その時だった。イナズマのような怒号が鳴り響いた。

 

「ここは御前であるぞ!!頭が高い控えよ!!打ち首にされたいのか!!!」

そこにはキラーエイプのような女が怒り心頭に仁王立ちしていました。

 

「「ハハァ〜」」

「あっ…」

私とエスタークはどんな失態も必ず許されるという伝説の必殺技を披露すると、マコトは言葉を失っている。アリアハンのような田舎出身の彼には知り得ない奥義です。仕方がありません。優しい私が無知なマコトに教えてあげるとしましょう。

 

「何やってんのよマコちゃん、土下座よ土下座!謝って、ほら早く謝って!」

「お…おまえには元何とか様のプライドとかないのかよ。」

「仕方ないでしょ!見なさいよ、あの女王の姿。あれは絶対キラーエイプかなんかよ。あんなゴツいのを相手になんかできるわけないでしょ!ほら早くマコちゃんも謝って!」

「いやでも…エ、エスタークおまえだって地獄の帝王なんだろ?何で普通に土下座してんだよ。」

「オレは人間にヤイバは向けない…が、オレもあの暴れザルに無抵抗に襲われるのは嫌だからな。」

「いや、土下座しながらドヤ顔されても。」

 

マコトがボソッと突っ込みを入れると、祭壇の方から若い女の笑い声が聞こえてきた。

 

「ふふふ、ガイジンというのもなかなか面白い方たちじゃの。」

「ヒミコ様!」

キラーエイプが祭壇の方に向かって声を上げる。

どうやらゴリ子はジパングの女王ヒミコではないようです。祭壇にある天幕の中から1人の女が現れた。

長い黒髪がツヤツヤと輝く小柄の女は、年齢で言えば私達と同程度に見える。人間の感性は良く分かりませんが、なかなかの美女です。

現に後ろの私の従者(ゆうしゃ)たちは鼻息を荒くしている。絶世の美女なら目の前にいるでしょうが。最近このながれが多い正直面白くない。

これは私への背徳行為としてしっかりと『冒険の書』に記してやりましょう。

 

「いけませぬヒミコ様!この者たちがどれほど危険かもしれませんし、御身ずから御姿を晒すなど…。」

「良いのです。この者たちの姿…とくに頭上に蒼き宝玉をもつその者は、ガイコクで噂になっている勇者と呼ばれる者じゃろう。だから安心して其方は控えよ。」

「し、しかしヒミコ様…」

「妾は控えよと申したのじゃ!」

 

ヒミコの強い口調にすごすごと部屋の隅に小さくなるゴリ子。彼女は年齢のわりにしっかりとした女王なのかもしれませんね。

 

「改めまして、妾がヒミコじゃ。異国のこの地に何用で来たのかの。」

「オレはマコトです。そしてこちらがルビアとエスタークです。オレたちは乗っていた船が難破してしまい…この国に流れつきめした。」

 

私たちを代表して事の経緯を説明するマコト。なかなか立派じゃないですか。そんなにもこの女王にいいところを見せようとしたいのでしょうか。

 

「……なるほどの、壊れた船が直るまで時間がかかり、かつ、直すためのお金がなくて途方に暮れているというのじゃな。ところで改めて聞くが、其方はガイコクで噂の勇者で間違いはないか?」

「オレ等の事を知ってんすか?」

「やはりか!遣ダーマ使に出した斧野芋子の報告にあった出で立ちにソックリじゃからの。」

「はぁ、斧野芋子っすか。」

 

ハッキリ言ってどう噂になっているかは聞かないでいたいものですね。マコトもボッチも微妙な表情ですから、似たような事を考えているのでしょう。

 

「そこでどうじゃろうか。我がジパングを恐怖に陥れている『ヤマタノオロチ』を妾と共に討つのを手伝ってはもらえまいか?」

 

マコトの手を両手で握りしめ懇願するヒミコ。

私は手刀でそれを切り離し、マコトに変わってハッキリと言ってやりました。

 

「悪いんだけどわた…モガモガ」

代弁する私の口に手をあて邪魔する勇者は、ルゥちょっとこっち来いと言って小声で話す。

 

「ちょっと何するのよマコちゃん!」

「おいルゥ、オレたちの置かれた状況が分かってるのか?オレたちの船は壊れているんだ。そしてソレを直すには時間と莫大な金額がかかる。だけどオレたちには金がない。」

「それがどうしたのよ。」

「わからねーか?このままじゃ旅を続けるどころかジパングから出ることもできねーんだよ。それとも何か?大陸まで泳いでみるか?たちまち全滅だぞ。おまえの力で蘇生してもまた溺れて死んでを繰り返すんだぞ?」

 

それを聞いて私は背筋を寒くした。

 

「いいか、オレたちはこのヒミコ様からの依頼(クエスト)を受けます。」

「でも国中を恐怖に陥れるようなモンスターなんて怖いじゃない。」

「バカだなルゥ、捜索に時間がかかってれば先に修理が終わるかもしれないじゃねーか。」

「なるほど…船が直りさえすれば、あとは踏み倒して逃げちゃえば良いって事ね。ついでにあわよくばジパングに滞在中の衣食住も女王もち。」

「…そう言う事。さすがは一番長く一緒に居るだけはあるなルゥ。」

 

私たちは声を潜めて笑い合うと、それを聞いていたボッチ(エスターク)がボソッと

「…おまえ等ほんとうに勇者一行か?」

などと言いやがりました。

 

「と、言うわけでオレたちは必ずやヒミコ様…いや、このジパングの国を救って見せます」

「おお、受けてもらえるか!さすがはガイコクで噂の勇者じゃな。それでは妾も国の政があるゆえずっととはいかぬが暫くはパーティの一員、よろしくお頼みしますね。」

 

そう言ってキラキラとした微笑みを浮かべた。こうして私たちのパーティに女王ヒミコが加わることになりました。

 

 

「それでは私がヒミコ様の影武者を立派にこなしてみせましょうぞ。鏡を見るたびに私はヒミコ様によく似ているので影武者が出来るのではと常日頃から思っていたのです。」

部屋の隅で小さくなっていたゴリ子が声を弾ませて言う。それを聞いて私たちは

 

「「「「それはない。」」」」

 

4人、声を揃える。

どうやら中々相性の良いパーティになれそうです。

 

 

 

続く

 

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