ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。   作:シズりん

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魔神の黄昏

「何これ、めちゃくちゃうまい!」

「あらほんと、イケるわね。」

 

「どうやらお気に召したようじゃの。それはジパング特有のスシと言う食べ物じゃ。」

 

私たちは神殿から場所を移し、木造の家にいます。私たちがジパングを脅かすヤマタノオロチの所在をつきとめ、討伐する間に滞在する家屋として女王ヒミコより充てがわれた家です。

 

「すまぬのぉ、本当は同じパーティになったのじゃから妾と共に神殿で寝食を共にしたいのじゃが…侍従がうるそうての。」

「侍従ってあのゴリ…先程の護衛の女性っすか?オレたちは住む所を用意してくれただけでも嬉しいから大丈夫ですよ。なぁ2人とも。」

「そうね。あの無駄に遥か上空に位置するような造りの神殿自体は割と私にピッタリだとは思うけど、いちいち登るの面倒だしね。私は大丈夫よ。」

「まぁバカとルビスは高い所が好きと言うしな。ルビア、貴様はどちらなのだろうな。オレはもともと寝床に拘りはない。たとえこのような見窄らしい小屋でもな。」

「…何よボッチ、私はそんなやすっぽい挑発になんか乗らないわよ。」

「ルゥ、そう言うのならエスタークの首を絞めるのをやめろ。」

 

マコトが私を羽交い締めにして止めるのを見ると、ヒミコはクスクスと笑いだしました。

 

「本当に面白い者たちじゃの。この家屋はの、もともと妾が暮らしておった所じゃ。三年くらい放置しておったからの、所々が傷んでおるのかもしれぬの。まぁ許せ。」

「え?この家屋に女王様が?」

 

何を様づけで呼んでるんですか。私は平気で呼び捨てるくせに…ちょっとだけマコトの態度が気に入らない。

 

「妾はの、女王と呼ばれてこそいるが、本来はジパングの神に仕えるただの巫女じゃ。この喋り方とて侍従に無理矢理の…まぁまだ若輩な小娘である妾を女王に据えようと言うのだから、無理矢理にでも威厳を保たそうとしたのじゃろうな。」

「あー…確かジパングの神さま行方不明なんでしたっけ。」

「……そうじゃの。妾は今はそなたら仲間(パーティ)。わざわざ外国からヤマタノオロチを討ちにやって来た勇者様一行じゃ。そなたらにだけ真実を伝えておいた方が良いのかも知れぬな。」

 

そう言って目を瞑りお茶で唇を潤すと、静かに語り始めました。

 

 

「………と言うわけなのじゃ。」

「そうだったのね…。ミコちゃんも大変ねぇ。」

 

重苦しい雰囲気に私は努めて明るく返してあげましょう。パーティ全体の士気が下がってしまってはこの後に差し支えてしまう。さすが出来る女とマコトも褒めてくれるに違いありません。

 

「……ヒミコ様。」

「なんじゃ勇者様よ。」

「まだ何も話してませんよね。話した程で終わらせないでください。それとルゥ、おまえも普通に乗っかるな。それとヒミコ様だろ。いくらパーティとはいえ相手は女王様なんだから敬えよ。」

「あははは!ナイスな突っ込みじゃ。この方がそなたらのパーティっぽいかと思うての。あぁ、それと妾の事はミコちゃんで構わない。むしろそうして欲しい。四六時中女王でいるのも疲れるのでの。」

「はぁ…ヒミコ様がそれで良いなら。」

「まぁそれは徐々に慣れてくれれば良い。それよりも妾について参れ。」

 

そう言って彼女は私たちを連れて街を出た。

道すがら、彼女にかけよる老若男女のジパングの人たち。この若き女王が国民に愛されていることが分かる。

まるで大精霊たる私のようですね。

私たちは街を出て草原を歩き、小川を渡り小高い山の麓に辿り着く。

 

「ヒミコ様、この山に登るんすか?これだと今日中には都に帰れませんが大丈夫なんですか?特にあのキラーエイ…侍女さんは。」

「大丈夫じゃ。登る訳ではないからの。それにコレは山ではなく前方後円墳と呼ばれる…まぁそなたらガイジンで言うところの墓のようなものじゃ。麓に入口があるから着いて参れ。」

そう言って隠し扉のようなものを開けると階段が現れ、私たちはミコちゃんと共に降りていく。

廻廊にはところどころに松明がかけてあり、暗がりでも視力に影響の無い私以外のマコトたちも難なく狭い通路を歩いていく。

 

「随分潜りましたけど、よくこれだけのモノをジパングの人たちは作れましたね。」

「ジパングはモノ造りの国じゃからな。しかしコレは違う。妾たちが造ったものではない。」

「じゃあ荒ぶる神さまが造ったんすか?」

「それもちょっとだけ違うようじゃ。そら、目的地である玄室に辿り着いたぞ。」

 

そこは墳墓の中とは思えない広い空間だった。

暗くジメジメしたような場所(魔界)の住人であるナメクジ(エスターク)でさえ、その造りには息を飲んでいる。

広い空間の中央部に台座がありそこには一振の剣が突き刺さっている。そしてそれにかけられた花輪をミコちゃんは退けるとあらかじめ用意していた新しい花輪をかけた。

 

「……なんだこの剣は。何処かで見た覚えがある気がするのだが…。」

ボッチが首を傾げている。

台座に掘られた文字は

 

『我が最愛の弟よ、今は静かに眠れ』と書いてあります。

 

「これは?何すかヒミコ様。」

「……妾も実際に見た訳ではないのじゃが、手記によればこの場所に我らがジパングの神は眠りに就いているようじゃ。」

「手記ねぇ…。」

 

はっきり言って手記にあまり良いイメージの無い私は、ソレをミコちゃんから受け取るとマコトやエスタークにも分かるように声を出して読み始めるのだった。

 

 

 

 

長旅のなか、妻がとうとう倒れてしまった。

少し休めば平気よと笑う妻の笑顔が少しだけ痛い。やはりエルフである彼女は森から離れるべきではなかったのだろうか。しかしとうの本人がエルフの隠れ里に戻ろうとしないのだから私にはどうしようもない。

だって頑固なんだもん。エルフの女王みたいに。

 

そしてひとり娘もいつしか14になり、物事の分別を覚えたのか以前よりはだいぶ大人しくなった。私とアンに似て、とても美人に育った。こりゃあマジで将来が楽しみだ。

まぁ…何処から拾ってきたのか分からないが、姉弟のように可愛がっているペットが娘の心の癒しに繋がっているのかもしれない。だから今は無理矢理に放して捨てなくてもいいのかもしれない。

まぁそれ、かなりヤバいやつなんだけどな。

 

しかし娘は最近呪文を全く使おうとはしなくなった。使えないのではなく使わないのだ。いくら聞いても使わない理由を言わないが、父である私には娘がどうして使わないのか分かる。きっと彼女は自分の力が…いや、彼女の中にいる何かに怯えているのだ。

そう、きっと娘の中にはもう1人の彼女がいる。

今にして思えば、確かに幼い頃から娘には二面性があった気がする。自分の力を恐れ、なるべく使わないとする娘と、誰かしら…主に私の負の内心に反応してはとんでもない呪文をぶっ放す娘とだ。

それはまるで私の本当の故郷にかつていたとされる名も忘れ去られた『神魔王』のごとき闇の根源たる力だ。

だが、どちらも私たちの娘である事に違いはない。

そのとんでもない力とて良い事に使えば良いのだ。

…使い所……あればいいのだけどな。

 

しかしさすがは私。一つの名案を思いついたのだ。

私と共に降りてきた弟を頼ろうと。

ヤツはちょっと乱暴で手を付けられないところがあるが、基本的には弱き者に手を出すようなほどのクズではない。娘も弟相手なら遠慮なく呪文を使えるのではないか?そうなれば呪文は使ってはいけないと言う考えもなくなるかもしれない。弟は歴代最強と言われてたくらいだからな。

しかも弟は大の緑好きだ。変な装備やパンツまで緑色に染めてしまうほどの緑が好きなヤツだ、きっと生命力に富んだ緑豊かな自然の中にいるのではないか?

やっべ!私冴えてんじゃん。

緑豊かな自然ならエルフである妻の体調だって回復するかもしれないんじゃないか?

ついでに弟が娘の相手してくれんじゃないの?

やっべ!テンション上がってきた!

まさに一石二鳥…いや、あの変なペットも要済みで捨てられるから一石三鳥じゃね?

やっべ!私やっべ!冴えまくりじゃん!

 

そう思って弟のいるジパングに夢と希望をもって私たち家族はやってきたのだ。

確かに妻の病状が少しだけ和らいだ気がするよ?

手に負えない娘も最強を自負する弟なら、上には上がいる事を知って娘も安心して自分の力を使えるのでは…。しかも弟の方も可愛い姪っ子と一緒に遊んでれば少しは落ち着くかも知れないしな。

よーし、パパ頑張っちゃうからな?早く妻の病を治しておまえに本物の弟か妹を作ってやるからな!

って思っていたのも束の間…

 

どういう状況なのそれ。

 

弟が目に涙をいっぱいに溜めて木にしがみついているんだけど。そして楽しそうに笑いながらそんな弟を引き剥がそうとしている娘……何そのシュールな状況。

しがみつきながら弟が口をパクパクさせて私に何か語りかけている。

なになに?

『兄ちゃん助けてくれ?』

無理!

私は静かに首を横に振ると、弟は真っ青になった。

暫く逃げていた弟は、やがて我慢出来なくなったのだろうか、まだ年端もいかない娘に向かって『マヒャド』『メラゾーマ』『ギガデイン』『グランドクロス』を次々と繰り出した。

バ、バカ!それはやり過ぎだ!おまえは姪っ子を殺す気か!最強を自負する自分のステータスを考えろよ!と思ったんだけどさ…

 

ちょっと待ってくっさい。なんで娘はそんな楽しそうに笑っているの?『マヒャド』って、そんな、気持ち良い〜♡なんて顔で涼しそうにする呪文じゃないっすよねぇ。『メラゾーマ』をフッと息を吹き、放った本人に跳ね返せるような呪文でしたっけ?。『ギガデイン』なんかまるで効いている様子がない。いや、アレはもうダメージ0、完全に無効化してんだろ。『グランドクロス』なんか娘が目を輝かせて見てるんだけど。ちょっ、ちょっとどうすんのこれ。完全に娘が『グランドクロス』を覚えちゃうながれじゃん!

呪文がまともに効果ない事を知った弟は自身に『バイキルト』と『スカラ』を倍がけして斬りかかる弟の刃をパシッとか言って片手で掴んで投げ捨てる娘。ちょっとその効果音おかしいでしょ!

全ての技をことごとく返し、もう何も無いのかと興味を失せたような瞳で弟を見下ろす娘の表情…

怖っ!アレ絶対にヤバい方の娘だろ!

 

私はそっとその場を後にしようとすると突如大地震が起きた。

嫌な予感がして振り向くと案の定今見たばかりの『グランドクロス』を娘が使おうとしていた。『グランドクロス』は究極の呪文と言われる一つ。見よう真似で出来るものじゃない。やはりと言うか当然と言うか娘は失敗した。

だと言うのになんで?

なんで失敗した方の呪文の方がオリジナルを遥かに上回る威力を発揮してんの?

ちょっと待ってくっさい、向こうの方に見えるジパングの霊峰フジヤマ爆発してんじゃん!この引き起こした大地震、ジパングの町中の家屋を潰しまくってんじゃん!

やっべー!なんか街が大火災に見舞われてんじゃん!

やっべー!!霊峰フジヤマから火災流が街に向かって流れてんじゃん!ありゃあもう無理じゃん。もうダメだ。終わった。ジパングの文化レベルがダダ下がりしそうなほど壊滅状態じゃん。

なんか、噴火しているフジヤマから出てきた魔物の中に多頭のドラゴンみたいの見えるけど、どうしようもないよな。だって、呪文収まらないし、ジパングの街が燃え盛ってるし。

目の前の弟…完全にオチてるし。

この子にマトモな呪文を使えるように教育しなかったやつ、絶対バカだろ!

親の顔が見てみたいってもんだ。

 

 

おっと娘の父親、私でした。

 

 

……愛する弟ドレアよ、せめて立派な墓を創ってやるから安らかに眠れよ。

あと、できれば恨まないでね。

 

 

終わり」

 

 

「またおまえかー!!」

私が読み終えると勇者が叫んだ。私も全く同じ意見です。

そんな私たちと違う反応をみせるボッチ。若干震えているようにも見える。

 

「どうしたのよボッチ。」

「…ドレアだと。そうかどうりで見覚えがあるはずだ。まさかダークドレアムがここに眠りに就いていると言うのか。」

「なんだよエスターク、知り合いか?」

「ダークドレアムはオレたちの世界の…この世界で言えばルビス(アバズレ)みたいな存在だ。そしてオレの知る限り最強の魔神だ。それが負けただと…。」

「なんじゃ、エスタークは荒ぶる神の知り合いじゃったのか。」

「そんな存在の死を知ってしまったらショックだよな。まぁそれはそれとしてルゥ、もう一人墓に埋葬されちゃうから、そろそろエスタークの首を絞めるのやめろ。」

そう言って私を引き剥がす勇者。

 

「どちらにしても我らが神が死んでしまったため、フジヤマに封印されておったヤマタノオロチが復活してもうたわけじゃ。ヤマタノオロチを倒さねば我がジパングに平和が訪れぬ。どうかマコトよ、そなたの勇者の力を妾に貸してたもれ。」

 

そう言って鼻の下を伸ばす勇者の手を握り、上目遣いで懇願するミコちゃん。

面白くないけど、ジパングの人々を救わなきゃならないのも事実。

こうして私たちは成り行き上、荒ぶる神とやらの代わりにヤマタノオロチを退治することになってしまいました。

 

 

つづく

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