ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。   作:シズりん

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火を吹く女

その日の夜のジパングは騒然としていました。

 

”ど″がつくような田舎のジパングの夜は暗い。所々に灯された松明も消えかける深夜はジパングを守る衛兵さえ寝こける程の平和ボケした国民性だと言うのに今夜は騒然としています。

と言うのも美しく聡明な私の従者どもが騒いだせいか霊峰フジヤマとジパングの民たちが崇める山が噴火したのですから仕方ないのかもしれません。

 

「おいルゥ、お前今悪意ある事考えてなかったか?」

「そんな事あるわけ無いじゃない。マコちゃんは心配性なんだから。」

最近は本当にいらないところで鋭くなったものです。

 

「お前らの夫婦漫才より今はあれどうするか…」

「おい、エスタークは地獄の帝王なんだからお前が行けばモンスターは帰ったりしないのか?」

「魔界も多くの国があるからな。アレがオレの国の民なら言うことも聞くだろうが…」

「ちょっと聞いたマコちゃん?この男いまオレの国とか言い出したわよ。ボッチの癖に王様気取りよ。国民は何人いるのかしらね。1人?1人なんじゃないですかー?ぷーくすくす!」

「グッ、なんて嫌な女なんだこのアバズレ。そう言うならお前は確か…大地の精霊とか言われてなかったか?大地の精霊なら噴火も何とかできるだろ。山は大地に聳えるのだから。あー…そうか何とかと言う女神を祭る教団は勧誘だけ!は得意な頭のおかしな連中だからな。その御神体となれば…」

「何ですって!!このウジ虫が!表でなさいよ。天罰を見せてやるわ!!」

「やってやろうじゃねーか!このポンコツ女神が!」

「ま、まぁまぁ2人とも落ち着くのじゃ。先ずはアレをどうするか考えるべきじゃ。妾もパーティの一員じゃが今はジパングの民を避難させる方が優先じゃ許してたもれ。」

「ヒミコ様。危険です。オレたちの後ろに避難してください。」

 

滅多に見せない勇者のやる気。頼もしく感じます。

フジヤマの噴火と同時に現れたモンスターの群れがジパングに向かって傾れ込んでいるのです。

見れば『ごうけつぐま』や、『だいおうガマ』、『きめんどうし』に『ようがんまじん)。今の私たちには厳しい戦いとなること間違いない大群を前に勇者や戦士であるボッチ(エスターク)が前にでると言うのです。

あゝ私のこれまでの苦労が報われた気がします。

 

「おいルゥ、何お前まで下がってるんだよ。お前はオレたちと一緒に戦うんだよ。」

「い、嫌よ。あんなにたくさんのモンスターが血眼になってこっち向かってきてるのよ!?こわいじゃない!」

「お前が祠とかにかけてる加護の力とかでバーンと護れば良いじゃねえか。」

「そんなの直ぐに出来るわけないでしょ!分かってんのよ!どうせこの後の展開なんていつもの事でしょ!?きっとあのモンスターたちに私が酷い目に遭わされて泣かされるんでしょ!?分かってるわよ、いつもの事でしょ!さぁ殺すならころしぇー!!!」

「おいやめろよルゥ、まるでオレ等まで痛いヤツみたいじゃないか。みろ、ヒミコ様やジパングの民の視線が冷たいじゃないか。」

「おいマコト、このポンコツはお前の担当だろ、何とかしろ。こんなところで寝転んでジタバタされては邪魔だ。」

「エスターク、お前かってにオレにおしつけるなよ!」

 

第一陣のモンスターと戦いながら私を邪魔者扱いしやがります。本来なら天罰の一つでも落としてやるところですが、確かに今は後ろのジパングの民を逃すのが先です。

しかし数の暴力はさすがの私たちにも手に負えず、ジパングが炎に包まれ始めました。後ろを見ればミコちゃんがモンスターを退けながら民を逃がしている。

びんぞこ眼鏡をした『チャモロ』とか言う目の腐った男の子も存外戦えているのだから驚きです。

せめてゴリ…やよいがいればあの姿を見ればモンスターの大群も恐れ慄くでしょうが今は居ないのだから仕方がありません。

 

「おいルゥ、ここは俺たちで何とかするからお前はヒミコ様に『ベホイミ』で支援に…」

「zzz…」

「分かったわ、2人ともここはおねが…なんかボッチが寝てるんですけど。」

「あ!コイツまた『だいおうがま』の『ラリホー』で寝やがった!」

「じゃ、じゃあ私はミコちゃんの支援に…ちょっとマコト、私の天使のローブを放しなさいよ。」

 

見れば勇者が私のローブを力一杯握りしめています。

 

「むりむりむり!あの数を1人でなんて無理に決まってるだろ!」

「なによ!ついさっきまでここは俺に任せろ的なカッコいい事言ってたじゃない。男見せなさいよ!」

「お、おお俺を置いていくなよ!」

 

どうにも締まらない男です。

しかしモンスターに囲まれた状況にジリジリと追い込まれていきます。

あぁ、私達のパーティには決定的に攻撃力が無いのだと今更ながらに痛感します。

ジパングを離れたら攻撃力の高い仲間を探しに行きましょう。少なくとも『ラリホー』で寝ない仲間を。

 

そんな事を考えていたら背後で歓声があがりました。

振り返るとそこにはキラーエイプ…じゃなくてジパングで最も美しい(瓶底メガネ曰く)やよいがいたではありませんか。

チャモロさんは盲目に無事を喜んでいるようですが、頭についたスス汚れを見る限り大方地下の水瓶にでも隠れていたのでしょう。

しかしジパングの国民が歓声を挙げるのも納得です。

ぶっとい棍棒を引っ提げた彼女はちょっと近寄り難い程の姿なのですから。

 

バタバタとモンスターを薙ぎ倒す姿は圧巻です。

勇者も隣で空いた口が塞がらないようです。その呆けた顔と言ったらあまりにもアレなので『冒険の書』にしっかりと書きとめました。

 

「ヒミコ様大丈夫ですか?」

「やよい、そなた無事だったのじゃな」

「ヒミコ様!遅くなり申し訳ございません。私は次に生贄に選ばれる美女は私しかいないと思うと怖くて怖くて。」

「「「「…」」」」

 

私たち4人はおどろきおののいています。

気を取り直したミコちゃんはやよいにジパングの民の警護を命じ、改めて私たちのパーティに加わりました。

ようやく私たちは攻勢に回れるのです。

 

「皆の者、よう耐えた。やよいの無事が分かった以上は民はもう安泰じゃ。妾も勇者パーティの一員じゃ。これよりモンスターの掃討じゃ」

 

ミコちゃんが高台に上がりどこから出したのか杖を掲げるとジパングの民から歓声が上がる。ついでに私のオーブを握り締めている勇者からも小さく歓声を上げていたこと、しっかりと『冒険の書』に書き留めました。

 

装備を見る限り彼女は魔法使いのようでした。

杖から大きな火の玉(メラミ)を出したり、火を吹いたりして襲いくるモンスターを次々と薙ぎ倒していくじゃないですか。

ちょっと血を見て興奮している彼女の目は怖いですが、予想外に大きな戦力たるヒミコは私たちに勝利を与えてくれそう…

 

「ねぇマコト」

「何だよ」

「最近の人間って凄いのね。魔法を極めると火を吹く事ができるなんて知らなかったわ。」

「出来るわけねーだろ!!なんでヒミコ様は火を吹くんだ?」

 

勇者(マコト)が首を傾げている間も彼女は凄まじい火炎で敵を火の海に沈めています。そうしてヒミコは杖を掲げて

『ドラゴラム』

呪文を唱えました。

 

その姿を見たジパングの民は絶句した。

勇者は絶句した。

大精霊は絶句しました。

 

そこには『ドラゴラム』で変身した大きなドラゴンが現れたのです。

その体躯は大きく、ビッシリと敷き詰めた鱗は緑色に鈍く輝く。そして鋭い牙を生やした五つの頭からは紅蓮の炎を吹き散らかしてた。

 

「ヤマタノオロチだあああ!!」

 

少しの間を置いてジパングの民から悲鳴があがる。

ヤマタノオロチの姿になったヒミコは敵であるモンスターだけにとどまらず辺り一面に炎を吐き、ジパングは火の海となりました。

 

そんなヒミコに皆が一様に距離を取り怯えています。

「ちょっとマコちゃん、アレどうすんのよ。あんたは勇者なんだからなんとかしなさいよ。」

「ヒミコ様のドラゴラム凄いな。モンスターの群勢も逃げ出してるじゃないか。アレならジパング守れるんじゃないか?」

「…その後はどうすんのよ。」

「MP切れたら戻る…とか?」

「はぁ…マコちゃんアレは『ドラゴラム』じゃないわよ。どうみてもアッチが正体ね。今なら私の魔物センサーにしっかりと反応しているわ。そこで寝ているエスターク(ゴミ)と同じ臭いがね。」

「マジかよ!じゃあアレがヒミコ様だってのか?あんなにジパングの民を大切にしてたのにか?」

 

まぁ、確かに私にもそう見えてはいました。

ですが魔物は魔物です。少し理性を失えばこんなものでしょう。

 

「どっちにしてもヒミコを倒す必要があるわね。ジパングの民のためにも。」

「くっそー、どうすりゃ良いんだ。あんな強そうなドラゴンなんて今の俺たちにはキツいだろ。攻撃の要のエスタークは寝てるし…」

 

「「…」」

私たちは顔を見合わせます。

声に出さなくても分かります。逃げようというのですね。

さすがですね。

 

私たちが行動に移そうと振り向くとキラーエイプ(やよい)さんが紙をヒラヒラさせながらコチラを睨んでいます。

 

請求書と書かれたソレには見た事もない0が並んでいるじゃありませんか。

それに彼女の装備しているこん棒は痛そうです。

 

「おいルゥどうしよう。完全に詰んでないか」

「やばいわね。こんな時にルーラを使える魔法使いが居れば良かったのだけど…」

 

いもしない脱出手段に私たちが嘆いている最中ふたたびジパングの民から悲鳴があがった。見れば正気を失って暴れているヒミコに小さな女の子が近づいていました。

 

「くっこれじゃ戦うしかねーじゃねぇか。おいルゥ行くぞ!お前はまずエスタークを起こしてくれ!それまでは俺が時間を稼ぐから」

 

 

そう言って近づいていく女の子の方に勇者は駆け出すのでした。

 

 

 

つづくかも

 

 

 

 

 




暑い〜
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