思い出した…
子供たちは元気に駆け回り、大人たちは田畑で働く。決して豊かではないけど平和なジパングを妾は心から愛しておった。
幸せすぎて妾は忘れておったのだ妾が何者であったのかを。
いつから妾は自分をニンゲンだと思いこんでいたのじゃろうか。
妾は大魔王の命によりジパングへとやって来た。退屈な田舎である村を妾はさっさと火の海にして次の国へと行くつもりじゃった。
計画が狂ったのはそんな田舎の集落に神がおった事じゃった。
全身緑色の甲冑を纏ったその者は、妾達の故郷で神と呼ばれる一柱じゃ。
しかし妾も大魔王のお気に入りと呼ばれた龍の一族。簡単には引き下がれる訳もなく無謀にも戦いを挑んだのじゃ。
完敗じゃった。
妾の炎を全身に浴びながらも瞬き一つせず不敵な笑みを神は浮かべておった。
全力で挑むも八つの頭のうち三つの頭をもぎ取られた時に妾は死を覚悟したものじゃ。
しかし神は妾を殺さずに巫女として自信の世話をさせおった。
最初は酒に毒を混ぜたり寝込みを襲ったりしたものじゃが、神の不適な笑みを消す事はとうとう出来なかった。
転機が訪れたのはそんな時じゃった。
その日珍しく神は妾に話しかけてきた。
「兄がくる。アイツは何もしないグウたらの自宅警備員のような引き篭もりだが
嫁さんと娘を連れてくるらしい。オレにまさか姪っ子ができるとはな。」
いつもの不適な笑みとは違う神の笑った顔を初めてみた。
だが数日後
神が考えていたような家族団欒は無かった。
姪っ子の相手をして欲しいと言われ楽しそうに最初は相手をしていた神の表情から笑みが消え、次第に焦りそして恐怖の表情へと変わっていった。
勝負と言えるのかさえ分からない一方的な蹂躙は瞬く間に終わった。
神の敗北によって。
神の兄上さまはヤバいと思ったのか即座に神を埋めていた。
一方で姪っ子さんはと言えばとても神を屠った直後とは思えない緩い笑顔で妾に近付くと空に両手をかかげて何処から出したのか黄金色した『不思議な果実』を手渡しきた。
少女は無言のまま妾を見ていた。きっと食べろと言っているのだろう。妾は2度目の死を覚悟して食べたのじゃった。
※※※※
「そうして妾はその果実を食べた後に大量の知識を得たのじゃ。それまでは食糧としてしか見ていなかったニンゲンの営みに興味を持ったのじゃ。」
「不思議な果実?なんなのかしらそれ。私は大概のものは知っているつもりだけど知識を得る果実は知らないわね。タネじゃなくて?」
「タネではなかったのう。妾も不思議な体験じゃった。」
「で、知識を得たヒミコ様はジパングの女王になったのか。」
「勇者どのの言った通りじゃ、妾は妾のせいで怯える民を占いと言うて恐怖しないでも暮らせるようにしたつもりじゃった。それがまさか女王に奉り上げられるとはの。とんだお笑い草じゃ…」
「ヒミコ様、この先どうするんですか。」
「そうじゃな。妾の正体が知れた以上はもうジパングには居れぬでな。どうしたものか。」
「それならヒミコ様も俺たちと一緒に行きませんか?エスタークだって居るくらいなんだから今更ヒミコ様はダメとか言わないだろルゥ。」
「…まぁそうね…。最後に近寄るジパングの子供を見て正気に戻れるくらいなら大丈夫じゃないかしら。」
「そうだぜヒミコ。お前も俺たちと来いよ。」
そう言って勇者と戦士が妾に手を伸ばした。
伸ばしてくれた。
「それも良いかもじゃな。しかし妾も一応は女王じゃ。クニの事を幾つかやよいに引き継いでからになるから…それに居なくなると知れば騒ぎになるじゃろうから明朝の夜明けまで待ってくれるかの。場所は主らが難破した海岸じゃ。船はもう修理完了しておるからの。おっとそうじゃ、コレをそなたらに渡しておくとしよう。何せ勇者の武器が『はがねのつるぎ』じゃ心許ないからの。」
勇者は『くさなぎのけん』と『パープルオーブ』を手に入れた
「ヒミコ様、剣は分かるとして何すかこの玉っころは」
「妾にもよう分からぬが荒ぶる神が持っておったものじゃし何かの役にたつじゃろ。ホレこれもマコトどのが持つとよいじゃろ。では皆のものまた後での」
そう言うと満足そうに彼らは先に海外へ向かっていった。ルビアどのが不意に足を止めて妾に話しかけてきた。
「…ミコちゃん。一応言っておきますね。責任の取り方は色々あります。貴女は確かに人の理から外れた存在ではありますが、ジパングを平和に導いたのも事実です。そんな貴女がこの後どのような選択をしようとも私は貴女を受け入れましょう。」
そう言ってルビアどのは普段のジパングでの様子からは考えられない笑顔を向けてから先に歩いている2人のもとへ駆けていく。
その後に妾はどこか距離感を覚える侍女やよいにジパングを頼み、誰一人起きていない深夜ジパングの町を1人歩いた。妾が歩くと町中の人々が話しかけてきてくれた。子供達が足元に駆け寄り遊んでくれとせがんでくれた。
そんな思い出に浸りながら妾が辿り着いたのは霊峰フジヤマの山頂部。
そう、妾は自分の正体に気づいた瞬間から決めていた。
大切なクニの民を業火で苦しめた妾の最期は
やはり、火によって裁かれるべきであろう。ジパングの象徴たるフジヤマの火口に沈むことによって…
あぁ、なるほどルビアどのは最初からこの結末を知っていたのじゃな。だからあのような事を
ただ一つ思い残す事があるとすれば
「勇者たちとの旅路は楽しかったじゃろうな…」
独り言を呟くと自然と笑が溢れた。
※※※※※※
「ぶえっきしょい!」
「何だマコト、お前勇者のクセに風邪か?」
深夜の海岸で女王ヒミコが来るのを待つ私たちは、焚火にあたっていました。
勇者の品の無いくしゃみにエスタークが笑っています。
2人は女王ヒミコが仲間になりにくると信じて待っているのです。
彼女の責任の取り方も知らずに。
せめて船の中で待ちなさいよ。と言ってやりたいところですが何となく2人は外で待ちたいと言うのだから仕方ありません。
しかしこれ以上脳筋2人に付き合っていると私が辛いしそろそろ切出すしかない。この勇者はダメな子ではありますが意外と頑固なとこもあります。夜明けまでどころか何ヶ月も待ちそうな気がします。
そうなればただでさえ遅れている私の本体の救出(ついでに魔王バラモス討伐)がさらに遅くなると言うものです。ここは女神たる私が動くしかないようですね。
「ねぇマコちゃん、あのねミコちゃんは…」
「よし!夜明けだな行こうぜ2人とも!次は何処に行こうか」
「ん?何だマコト。ヒミコを置いていくのか?」
「よく考えたらさヒミコ様は女王だしジパングの立て直しだってあるだろ。魔王バラモスを倒したらまた顔を出しに来ようぜ。」
「まぁお前がそれで良いなら仕方ないな。行くか!」
口ではそう言っていますが勇者は何となく察しているようですね。
彼も彼なりに少しずつ成長しているようで私は少しだけ誇らしく思います。
そうして私ちち勇者一行は真新しい船にのり大海原に飛び出すのでした。
船の修理が手抜きだと知らずに
つづくかしら
あの女王は何年も働かずにジパングにいた事を実は怒っていたのでしょうか。
まさか海の上で手抜き修理の船の底から海水が浸水するとは
やはり引っ捕まえてでも女王を連れてきて一緒にバケツリレーさせるべきでした。