ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。   作:シズりん

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よし決めた!わたし引き篭もろう。

「おおー!これがダーマの神殿かぁ。」

 

神殿無いの教会で目を覚ました勇者が興奮気味に感嘆の声を上げる。

「「…」」

私とエスターク(ボッチ)は応えない。

それもそうでしょう。

ダーマの神殿はムオルの村から西に向かい、高い山を登った中腹にあります。

ゲンナリするような高さにある神殿を目指して登り始めた私たちは羊のようなモンスターのマッドオックスの集団に追いかけ回され『ギラ』から逃げ回り、息を吐く前にジパングのやよい…もといキラーエイプに襲われ、隠れる為に入った洞窟がごうけつぐまの巣だったものですからほとほと私達はついていません。

 

疲れ切った私達の前に現れたのはメタルスライムでした。

普段なら喜んで戦う私たちも、どうせ逃げ出すだろうと無視をしました。

するとメタルスライム達は普段の仕返しとばかりに逃げ出す私たちを回り込んでは『メラ』を雨の如く唱えます。

 

「ちょっとマコト!あなた少しは勇者らしく私を守りなさ…」

振り返った私が見たのは…あとは宜しくと言わんばかりの清々しい程に安らかな顔して棺に入る勇者の姿でした。

 

 

「…なんだよルゥ殴る事ないだろ」

 

頬を摩りながら不平を漏らす勇者。

きっと私は悪くありません。

 

 

「それにしても不思議な場所だな。ここで転職ができるんだろ?どう言う原理なんだ?今までの職業のレベルを捨てて新しい職業になるとか。」

「私が知るわけないでしょボッチ。バカなの?」

「キサマ!!」

グググと歯を食い張りながら怒るエスターク(ボッチ)の姿は滑稽です。

「おいエスターク落ち着けって。ルゥに聞いたって分かるわけないだろ?コイツは基本ヒトに興味ないんだから」

…それはフォローしているんですよね?

 

「それに俺たちは転職しに来たんじゃなくて強い仲間を探しに来たんだし、そこは気にしなくていいんじゃね?」

「それもそうだな。どうせならムオルで聞いた最年少記録で賢者になったヤツを探そぜ。そのくらいじゃなきゃ俺たちのパーティに相応しくないだろ。」

 

そんな2人の横を歩く老人が「ワシはぴちぴちギャルに転職するもんね」とか独り言を呟きながらニヤつくのを私は見逃しません。

いずれにしても転職自体大したものじゃ無さそうですね。

やはり2人の言うように強い仲間探しが無難なようです。

 

 

「強い仲間をお探しですか?」

勇者が窓口の気怠そうな受付に告げると、品定めをするかのように勇者をみる。

「…勇者…お名前はマコト様ですね。希望の職業はありますか?」

「まぁあまり欲は言わないけどやっぱり魔法のエキスパートである賢者が良いですねぇ。それと〜歳は同じくらいの女の子だと良いですねえ。それからぁ…」

 

だんだんと寒い目で勇者を見る受付嬢。気持ち分かります。

 

「勇者様、誠に残念ながら賢者はダーマ神殿で転職するものとは違うのです。賢者には二種類ありまして、長年かけて魔法使いか僧侶を極めた方がもう片方に挑戦する者。その飽くなき探究心が人々から賢者と称されるものです。それでも大体の方は両方を極めるには寿命が足りずお亡くなりになります。それに対してもう一つは『さとりのしょ』を読めたものとなります。こちらは才能に寄るものが強く、先に話したどちらか一方を極めた方程の偉大な方でも読めないそうです。まさに神に選ばれた者のみなのでしょうね。」

「じゃあ勇者の俺と同じですね。」

「ぷっ」

 

受付嬢が鼻で笑いました。

 

「ダーマ神殿では勇者は血筋だと言われていますが、実は誰でもなれると言われています。それこそ『遊び人』でもです。そもそも勇者とは人々に勇気を与える者と伝わっています。ですから誰でも勇者を名乗れるんです。実際に昨日も3人組みのパーティがここを訪れて、賢者の居場所を聞きにきましたから。」

 

「おいルゥ…こんな事言われてるけど本当なのか?」

誰にも聞こえない小さな声で勇者が話しかけてきました。

「名乗るだけなら誰だって自由でしょう。でも『デイン系』は使えないはずよ。あれは私が選定した勇者だけが使える呪文なんだから。もっと私に感謝しなさいよ?」

「そうなのか?誰でも勇者になれるんじゃあまり有り難み無いんだけど。」

「実際にマコちゃんのお父さんであるオルテガさんだって勇者と言われてたじゃない。それは人々にバラモスを倒す希望を示したからでしょ?」

「え?親父は俺の親なんだから勇者の血筋だろ?」

「あら、言わなかったかしら。勇者の血筋はお母様のアンルシアさんの方よ?どこの世界の勇者が覆面パンツの姿に斧を担いでいるのよ。思い出しただけで超ウケるんですけど!」

 

ガン!

 

勇者が頭を叩きました。

 

「おい受付嬢、このバカ2人は放っておいて今気になる事を言っていたな。他の勇者パーティが賢者を探してるとか。ここに賢者がいるのか?」

 

エスターク(ゴミ虫)が間に触ることを言っていましたが、確かに私も気になります。先程話していた内容から聞くかぎり賢者がそう何人も居るとは思えません。

私たちと同じように賢者を探している者達がいるようです。この先を考えるとこの戦力は譲れません。

 

「現在ダーマ神殿で賢者認定されている人物は1名のみです。先程話しましたが賢者になるには相当な時間と経験が必要にも関わらずその方は僅か13才で全ての呪文どころか、禁呪や失われた呪文さえ身に付けていると親御様が言っておられました。まさに才能…いえ、女神ですね」

「その賢者はなんて名前なんだ?」

ヤケに食いつきの良いエスターク(ゴミ虫)

「名前はあかせませんよ。個人情報ですから。それに私どもも数十年かけて読むはずの『さとりのしょ』をペラペラと眺めて「もう解りましたから返します」と言われまして…さすがにダーマ神殿としてもこんなにアッサリと返されては沽券にかかわると判断し差し上げたのです。あの親子は確か北の『ガルナの塔』に住んでいると言ってましたね。まぁもう3年も前の話しですが。」

 

個人情報とか言うわりに住所までペラペラと話す受付嬢は頬を赤らめながら興奮気味に話す。よほどその賢者が凄いのでしょう。

いずれにしても確かな情報が無い以上、ガルナの塔に向かうしか無いようです。

先に向かったと言うパチモンの勇者パーティに勧誘されるより早く。

 

 

 

ガルナの塔は山を越えた川辺にありました。

どうみてもモンスターが居るようにしか見えないその塔の下に家屋とペットでも居たのでしょうか。犬小屋にしては少し大きい小屋があり、薄っすらと掠れた文字で『…ドー』と書かれています。

 

「あの家にまだ居れば良いけどな。」

そう言う勇者も半ば諦めているのでしょう。そのくらい家屋が使われた形跡がありません。

次に可能性があるとすれば塔の中…でしょうか。

塔を見上げた私の目に映るのは上空を飛び回る『スカイドラゴン』

…強そうでハッキリ言って登りたくありませんね。

隣を見ればマコトも嫌そうな顔して塔を見上げいます。

何とか登らなくて良い方法は無いか考えていると塔の中から3人組のパーティが現れました。

男2人に女性が1人。

ちょうど私たちのパーティと同じ組み合わせのようです。

きっとアレがダーマの受付が言っていた自称勇者パーティなのでしょう。一般人の平均的なレベルは5前後ですが、彼らは25近くあるようです。

彼らは私たちに気付いたようで話しかけてきました。

 

「私の名はエルギオス、勇者です。君たちはこんな所で何を?この辺りのモンスターは強いから危険ですよ。」

サラサラな金髪を揺らす青年が話しかけてきました。

どうやら彼らには私達が一般人に見えたようです。

彼らのパーティは勇者(自称)、武道家(ハゲ)、遊び人(ストーカーっぽい)みためのパーティです。

しかしなかなかのレベルですからそれなりに強そうです。

 

「おいルゥ、あいつら勝手に勇者名乗ってるけどいいのか?」

「別に良いんじゃないかしら。何かの間違いで私の本体を救ってくれたならラッキーじゃない。」

「それもそうだな。あいつらが魔王バラモスを倒してくれればワザワザおっかない魔王と戦わなくて済むしな。」

「そうよ。さすがマコちゃんね、勇者のプライドなんてさらさら無いところ素敵よ」

「やっぱりそうだよな分かってるじゃねーか。さすがはルゥだ。」

 

私たちが笑い合う横でエスターク(ボッチ)が情けないとかため息吐きますが気にしません。

 

「俺たちはここに賢者を探しに来たんですよ。」

勇者は快活に返答を返すと金髪サラサラが顔を綻ばせて反応しました。

 

「お前たちも賢者を探しているのか。俺たちと一緒だな。」

「そうみたいだな。ダーマ神殿の受付の女の子から聞いたよ。やっぱり仲間にするため?」

「いや、俺たちは同郷の幼馴染なんだ。パーティはこの3人って決めてるからな。な2人とも。」

イザヤールと名乗るハゲとラヴィエルとか言う少女が頷く。

よほど仲が良いのでしょう。それなだけに賢者を探す目的が分からなく不思議に思っていると、それを察したのか遊び人の少女が応えます。

 

「私たちは『黄金の果実』を求めて賢者を探しています。なんでもその果実を口にすると不思議な力を身に付けると噂を聞いたもので。ねぇイザヤ」

「あぁ。この世界…いや、星を救うにはどうしても力が必要だからな。ダメ元で探しているんだ。」

2人が顔を見合わせて頷く。

そんな2人をみて勇者は

 

「2人はどう言ったご関係で?」

「「は?」」

どうでも良い事を聞き出しました。少し可愛い女の子を見るとすぐコレです。

とりあえず勇者の尻を思い切りつねってやりました。

2人は双子だそうですが、少女はサラサラを好きなようでマコトのテンションはダダ下がりです。良いキミですね。

 

「まぁどうでも良い話だが、この様子だともうここには賢者は居ないかもしれないな。情報が無い以上この広い世界で賢者を探すのは困難だな。」

珍しく真っ当なことを言うエスターク(ボッチ)が溜め息混じりに家屋の扉を叩きました。

 

ギー

それは小さな、それでいて不気味な音を立てて開きました。

 

私たち6人は恐る恐る中に入ります。何故かその扉は目の前の塔より遥かに危険だと本能で全員に告げる。

それは大精霊たる私でさえ息を呑むほどに。

 

危機感とは裏腹に中はテーブルに三脚の椅子。使い古した食器がならんだ棚。そしてまばらに並んだ本棚があるだけのがらんとしたものでした。

 

しかしその本棚から異様なほどに力を発する本がありました。

間違いありません。あれが私たちに危険である事を告げているようです。

「私が中身を確認しよう。」

自称勇者が本物の勇者と見まごうばかりのリーダーシップをもって本を読み出します。ぜひ隣の勇者(おバカ)にも見習わせたいものです。

 

 

 

妻が終に逝ってしまった。

 

最期まで彼女アンは私たち家族とそばにいる事を望み、エルフの隠れ里に帰ることを拒んだ。私がエルフの女王を説得できなかったばかりに…

ジパングを追われたあとも私たちは多くの都市を渡歩き、妻を治せる医者を探して回った。しかし人間どもは妻がエルフだから看れないと断られた続けた。

藁をも掴む思いで治せる人物を求め…激しく吹き付ける雪をかき分けながらレイアムランドにさえ足を運んだのだ。

 

だが、人間はだれもが同じ解答だ。

 

オクサマはニンゲンじゃないからミレナイ

 

と。

そんな状況にも妻はいつも微笑んでいた。

13才と言う若さで全ての呪文を習得し付近のダーマ神殿で史上最年少で賢者になった娘。私にはまるで読めない『さとりのしょ』をペラペラと目を通して

うん、覚えたからもういらない

と返された祭壇のジジイも顔を引き攣らせていた。どうか記念にと娘に『さとりのしょ』を譲ってくれたが…

まさかジジイもそんな大切な書を鍋敷に使われるとは思っても見なかったんじゃないだろうか。

そんな娘の転機はやはりジパングで我が弟ドレアと会ったことでは無いだろうか。

ドレアの私たちの故郷の呪文やスキルを目にし、いつからか禁呪を覚えていったのだ。

そんな娘のベホマでさえも妻にはさして効いていないのが私にもわかる。

だが妻は「ありがとう」と微笑む。

 

そして雨の降る朝、終に妻がいきをひきとった。

私がいけなかったのか。私と出逢わなければアンは今もエルフの隠れ里で幸せに暮らして居たのだろうか。この世界に拘らず我が故郷を目指せば良かったのだろうか。後悔は止まぬが、目の前で涙しながら『ザオリク』を唱えつづける娘を抱き寄せると彼女は大きな声で泣いた。

感情のブレからか彼女から発せられる力は既にニンゲンのそれでは無かった。

黄金の髪色は白銀が混じり、もはやエルフでもニンゲンでもなく彼女は我らと同じモノへと至ったのだ。

 

私は彼女が居ればと一つ思い付いたことを言った。立場的には絶対に口に出してはいけない言葉であろう。その一言。

 

妻がニンゲンじゃないからと見捨てたニンゲン共に復讐しよう。こんな世界ならもう要らない。全て無へと返してしまおう。

 

私にとってはあれだけ懇願しても碌に診もせず断り続けたニンゲンに心底絶望したのだ。それも仕方ないと思わないだろうか。

 

しかしなんと私の胸で泣いていた彼女が激怒した。

 

こえー!まじで激おこだよ。

今までも娘に恐怖した事はあるよ?それこそあのドレアを一方的に蹂躙したときとか。

だけど今の娘はその怒りを真っ直ぐに私に向けているのだ。

やっべーどうしよう。マジで怖い。ちょっとちびっちゃったよ。

 

「お父様!確かにお母様を失ったのは寂しくて悲しいです。でも人を滅ぼすなんて決断は絶対に間違っています!」

 

あ、私終わったな。

それほど激おこの娘の前に立つと分かる恐怖。

弟が「たすけて」と言った時の気持ち初めて共感したよ私。

 

しかし巨大な力…もはや神気と化したそれは彼女の感情に反応しあらゆる所に影響を始めた。

やっべー!ギアガの洞窟が巨大な地震のせいで大穴になっちまったよ。あれじゃ本来この世界に居ないはずの魔王クラスが来ちまうよ!

あっ、それなら私が何もしなくても世界滅びるかも。

 

そう思っていたら遠くで天空から大きな城が落ちてきた。

アレって龍の女王の城じゃないのか?まさか娘の怒りが巨大な稲妻となって城に落ちたとかじゃないよな?

しようがないよな。

だってめっちゃ激怒してるしな。

激おこの娘止められないしな

 

そうだ旅に出よう。

なるべく誰もいないところがいい。ついでに100年くらい引き篭もっちゃおうかな。だって娘が怖いしな。激おこだしな。

 

あぁ娘よ。

セレシアよ、どうか100年くらいで機嫌を直しておくれ。

せめてパパを許してね。

 

 

ゼニス1世

 

終わり

 

 

「またこいつ等か…」

マコトが呟く。そう、私たちの旅先を先回りするかの如くちょこちょこ現れるこの家族の手記でしょう。

しかし…そうですか。ついにエルフの女王(ポワンちゃん)の娘は亡くなってしまったのですね。残念です。私も全ての生命を見ているわけではありません、きっと見逃していたのでしょう。

これまでの話しをまとめると、彼女はノアニールからネクロゴンド、ポルトガにイシス、ジパングからダーマと色んなところを転々としているようです。

ムオルで聞いた話が正しいなら彼女は現在16才。

私と勇者(従者)が旅に出たのも16才ですから、もう3年も前にポワンちゃんの娘は天に返っていたことになります。

私はいつかその事をポワンちゃんに話さなきゃならないことが少し心苦しくなります。そんなことを心のなかで考えていると

 

「し、師匠。ゼニス1世って…まさかあの?」

「あぁ弟神のドレアと言う名前も含めて我らの故郷のあのゼニス様だろうな。引き篭もっていたと思ったらこんな辺境の世界にいらしたとは…。」

ハゲの反応にサラサラが応える。

「じゃあ私たちの目的は力をつけるための『黄金の果実』じゃなくて、ゼニス様を探せば良いのでは?」

「そうだなラヴィの言う通りだ。そう言うワケで私たちは賢者探しから目的が変わった。この本もお前たちにゆずろう」

そう言ってなげてよこした。

 

勇者はとこしえのゆりかごと書かれた冒険の書を手に入れた。

 

彼らはそれを見届けると背中から白く大きな翼を生やして空高く飛んで行ってしまいました。

 

「結局あいつ等は何だったんだろうな。」

エスタークの問いにさぁと首を傾げる勇者。

私たち3人はポカンとした顔で空を眺めていました。

 

結局私たちは新たな戦力たる賢者を見つける事が出来ませんでした。

そうなった以上何もないこの場所に踏み留まることはありません。

 

私たちは新たな地を目指し旅立つのでした。

 

 

つづく

 

 




さり気無く混ざっていた他のナンバリングここで解禁です
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