「なぁ考えたんだけど、無理にパーティメンバーを探さないでこのまま2人きりで旅に行かないか?」
「え?それって…」
あくる日の朝
家を出ると彼は開口一番に口にした。
ヘタレヘタレと思ってはいましたが、まさかそんな言葉が勇者から聞けるとは思いもしませんでした。
私のような精霊からすれば人の人生は瞬く間に終えて逝く。私はいつも見送る側です。
死を見送るのは慣れる事はありません。それが深く関わりを持った者なら尚更です。だから私は必要以上に人と関わることを避けてきた。
しかし女である以上たとえヘタレ勇者でも、好意を寄せてもらえるのは嬉しいものです。
「…おいルビア聞いてるか?」
「え?なぁにマコト♡」
私は精一杯優しく返事した。
「何?じゃねーよ!金が無いっていってんだよ金が!王様はケチで50ゴールドしかくれないし、お前が説教とか言ってオレを殺すから25Gしかねーんだよ。これでどうやって仲間を雇うんだよ!!」
「え?仲間ってお金がかかるの?」
「当たり前だろ、どこの世界に魔王を倒すから旅費は実費で付いてきて下さいって言って来る奴がいるんだよ、バカなのかお前は」
「…」
「それになんで生き返らせるのに半分も持ち金を奪うんだよお前は。」
「わ、私がお金なんて取るわけないでしょ!神父が手数料に取っているんじゃないの?」
「それだよそれ!お前は仮にではあるけど神父とシスターの娘って事になってるんだろ?」
「ええ、それがどうしたの?」
「分からねーのか?娘のお前がオレを殺したくせに、その親である神父が金を取ってんじゃねーってはなしだ。完全にマッチポンプじゃないか!!だいたいお前僧侶なんだからザオリクとか使えばいいじゃねーか!」
「私レベル1だしまだ覚えていませんよ?」
「は?お前一応精霊だろ?何でザオリク覚えてないの?」
「一応はよけいです。仕方ないじゃないですか、私が普通にパーティ組んだら経験値がほとんど私に入ってしまうんだから。マコトがレベル上がらないじゃないですか。」
勇者は白い目で私の方を見てボソッと使えねーって言った事、ちゃんと聴こえていますよ。これは貸しにしておきます。
そのあともぷりぷりと怒る彼は、今から教会に言って取り返しに行くと息巻いている。結局私が期待していたような甘い話しなんて微塵もなく、ヘタレはどこまでいってもヘタレなのだと知りました。
バン!
勢いよく教会の大扉を開いた勇者マコトは、勢いそのままに私の仮とはいえ父である神父の元にずかずかと歩み寄る。
「おおマコト君、今日は朝から元気が良いな。」
「あ、おはようございます神父さま。」
神父を前にし急降下したテンションで頭を下げる勇者は本当に情け無い。
きっとこのまま何も言えないのだろうなとは思っていましたが、本当に何も言えなくて笑ってしまいます。
「神父さまだなんて他人行儀な、私のことはお義理父(とう)さんと呼んでくれて良いのだぞ。」
神父の有無を言わさぬ物言いにさすがの図太い勇者も若干ひきつっています。
しかしこのままでは私も被害を被るお話になりそうなので今回は助けを出すことにします。
「お父さん違うのよ、今日は別のようできたのよ。ね、マコちゃん?」
「そうなのかい、では何のようだ?毒の治療か?呪いか?それともわ、た、しブゲッ!!」
思わず手が出てしまいました。
でも今の場合は私は悪くないと思います。
「何?生き返らせたときのお金を返してほしい?」
意識を取り戻した神父にヘタレすぎて物を言えない勇者の代わりに事情を説明して返金を求めました。
「いくらルビアの頼みでもそれは無理だよ。教会に入る寄付金は全て精霊ルビス様への捧げものなんだ。2人とも壁にあるルビス像を見なさい。慈愛に満ちた美しい笑顔ではないか。」
「…詐欺だなイッ!!」
神父の見えないところでマコトのお尻をつねってやりました。
「とにかくルビス様に納めたものを回収はできんよ。しかしまぁそうは言っても可愛い娘のハネムーンがお金の無い旅路というのも心苦しい、だがパパはお前がいつか嫁に行くときのために貯めておいたお金があるのだ。それを持っていくといい。」
「お父さん」
取り敢えず乗っかって父の胸に飛び込んでみました。そんな事くらいで勇者との旅路の路銀を出してもらえるのなら安いものですから。
もし神父さんが死んだら特上の天国に送ってあげますからね。
私を抱きしめながら神父はマコトにお金を渡す。
「…って、1ゴールドしか増えてないじゃねーか!」
次の瞬間マコトが叫びました。
私は振り返ってマコトの手のひらにあるものを見て驚愕しました。
26ゴールド。
つまりマコトから取りあげた寄付に1ゴールドしか載せて無いのだ。
もうどこから突っ込めばいいのか分かりませんが、取り敢えずこのバカ神父(オヤジ)に強烈なアッパーを見舞い私たちは教会をあとにした。
もう今日はさすがの私も疲れました。勇者とともに赤い夕日の中勇者の家路へと歩く2人の影が物悲しいです。
こうして私たちの旅は4日目もまたアリアハンから出ることも無く得るもののないまま1日を無駄にしました。
続く?