「おいエスターク、そっちは釣れたか?」
「…zzz」
「…マコちゃん。ボッチは完全に寝てるわよ。」
釣竿で器用にボッチの襟元を釣り上げ海に放り投げた私たち勇者一行は絶賛海の真ん中を漂っています。
「私も何かお手伝いしましょうか?」
「セレシアちゃんは何もしなくて大丈夫だからね?直ぐにオレが大物を釣って見せるからさ。」
心配そうな顔のゆるふわに気持ち悪いウインクをする勇者が釣り上げたのは、先程海に投げ捨てたドザエモン(エスターク)でした。
「それにしても困りましたね〜」
さして困っていないような笑顔のゆるふわは首だけ傾げて言う。
「大丈夫だセレシア。いざとなればオレの部下を呼び寄せて近くの街まで誘導するさ。何も心配しなくていいぜ。」
ボッチが何かほざいていますが、そもそもボッチに部下がいるのかって言うどこから突っ込んでいいか分からない返しをしていますが、対してカッコ良くも無いセリフが私のため息をさそいます。
私たちは新たなオーブを求めて意気揚々と船出をしたのですが、案の定と言うか定番と言うか私たちは遭難したのです。
最初の2日くらいは破壊神(ゴミ虫2号)から貰った大金で食料を買い込んでいたので問題は無かったのですが、それが3日4日となると話は変わります。
空腹と度重なる海のモンスターとの闘いで私たちは既に疲弊しています。
大精霊たる私やエスターク(ボッチ)でさえも疲れが出てきたと言うのに1人呑気に『はなうた』を歌うセレシア(ゆるふわ)はまだまだ余裕がありそうです。
遊び人の職業にはオートベホマでもかかっているのでしょうか。
海風に長時間さらされているにも関わらずサラサラの髪を靡かせて微笑んでいる。
もう1日経っても大陸を見つけられなかったら私たちはゆるふわの『ルーラ』で何処の街へ飛ぶのですが、あの娘のルーラは何がおきるか分からない。なにせ彼女にはバハラタで前科がある。不必要な呪文は使わせないのが世界のためです。
そんな心配を私がしている時でした。今日の晩御飯を釣ると息巻いていたマコトとボッチが声を揃えた。
「「船だ!」」
見れば水平線に黒い船が目に入ってくるのでした。
「…また牢屋の中なのね。私たち。」
「言うなルゥ…余計に惨めになるだろ。」
アリアハンから数えて何度目になるか、私たちは海賊の隠れ家の牢屋に4人纏めて入れられました。この縦の鉄棒から見える風景に見慣れてきた自分が悲しくなります。
「やっと見つけた陸地への手掛かりがまさか海賊とはなぁ。」
「俺も人間相手に本気出すわけにはいかないからな、あれは仕方ないさ。」
チラッチラッとゆるふわに優しいですアピールの視線を送る2人はさておき、どうやってこの状態から出るかを考える。
・開けてくれるのをひたすら待つ (干物になりそう)
・全員で力ずくで扉を壊して逃げる(壊れそうにない)
→・セレシアの呪文で隠れ家ごと吹き飛ばす(但し自分たちも吹き飛ぶ)
などと私が選択肢を考えていると、通路を話しながら入ってくる海賊。会話の内容を聞くかぎりどうやら海賊の首領のようです。
「こいつ等か?お前が拾ったとか言うおもしれーやつ等とは」
「ししし。そうだぜ兄貴もびっくりするぜきっと。」
青い髪をツンツンにした男と、やはり青い髪をポニーテールにした女の子が牢屋の前に立った。見た感じでは海賊と言うよりは盗賊にみえます。
そう、口の悪い青い女の言う通り遭難しているところに援助に駆けつけた船は海賊船でした。
私たちの持ち金全部で助けてやると言った口の悪い女は、しっかり取るものを取っておきながら、私たちが勇者一行だと分かると『お宝の匂いがする』と言って交渉を始めたのです。牢屋に入れてから。
こうなると交渉なんかじゃなく半ば脅迫です。
だから私のゆるふわの呪文による報復も仕方ないものです。
「なぁマコト、どうする?あの女の言っていた『かわきのつぼ』探し本当にやるのか?」
「やるに決まってんだろエスターク!あの女は俺たちの金を全部奪ったんだぜ。絶対に奪い返してやる!」
「うふふ。2人ともやる気に満ちてますね〜。なんだか冒険って感じで私も楽しくなってきました。」
「「オレに任せてくれれば安心だセレシア」ちゃん!」
異口同音でやる気を見せる2人。
私としては探しに行くフリしてそのままトンズラがベストだと思います。
目が合ったマコトが片目を閉じて見せる。なるほど、セレシア(ゆるふわ)と違い付き合いの長い私には分かります。セレシア(ゆるふわ)の前でカッコつける為に無理してカッコつけてはいますが、まぁきっと牢屋を出たら海賊の隠れ家を襲って奪い返して逃げる算段でしょう。
「その様子だと交渉成立ってことで良さそうだな。エジンベアにあると言われている『かわきのつぼ』を手に入れて世界でもっとも凄いと言われる財宝を持ってくるんだ。いいな?」
「おう!オレに任せておけよ!パッパと行ってとってきてやるぜ!なぁルゥ?」
「そうよ!私たちに任せてちょうだい!大船に乗ったつもりでいると良いと思うの!」
「何だこの田舎者どもは。さっさと去るが良い!ここは田舎者がおいそれと来て良い場所では無い!」
青いツンツンとポニーテールに貰った海図をもとに2日。私たちはエジンベアに着いたのですが、エジンベアの城門の兵士に追い返されました。
「だから言ったろ?オレたちだって正規の値段で買取ると何度も交渉に行ったんだ。だが毎回文字通り門前払いだ。取り憑くしまもねぇ。兄貴なんか強硬手段で忍び込んで1週間くらい捕まっていたしな!ししし。」
ポニーテールの家族ネタはどうでも良いのですが、なんとポニーテールも着いてきています。
「兄貴、オレもこいつ等と一緒に行くからな。逃げそうだしよぉ。」
とポニーテールの一言のせいで、宝を持って来るまでセレシア(ゆるふわ)を人質にされ、代わりにポニーテールが着いてくることになったのですから計画倒れも良いところです。
あんなむさ苦しい男ばかりの所にゆるふわを置いてきたことも同じ女として心配ではありますが、まぁあのゆるふわをどうこうできる者が海賊団にいるとも思えないので、一先ずは『かわきのつぼ』を手にする事を優先しましょう。
「あの兵士さん?美味しいスイーツはいかがですか?」
「田舎者は帰れ!」
「あら、兵士さん鉄仮面を装備すると良い男じゃない。ここ通してくださる?♡」
「…帰れ!」
「兵士さん、中で小火が発生してるわよ?直ぐに対処しなきゃよ?」
「うるさい帰れ田舎者!」
とまぁ、数日かけてあの手この手と語りかけ、あまつさえ私の色仕掛けにすら反応しない兵士はもはや飾りかなんかなのでは無いでしょうか。
「おいルゥ、何のつもりか知らねーけど、セレシアちゃんのような色気のないお前が下手な色仕掛けしたところで意味ないからな?」
ズガンッ!
生意気な事を言う勇者は取り敢えず『冒険の書』に記録し後で仕返ししましょう。
私はそっとモーニングスターをしまった。
「それにしてもどうすっかー。何か良い手があれば良いんだけどなぁ。例えば時間を止めるとか姿を消すとか…。」
「ん?おいマヤと言ったか。今おまえ何と言った?」
ボッチの問いにポニーテールが首を傾げて復唱する。
「『きえさりそう』?何よそれ。適当な事言ってんじゃないわよボッチ。」
「おおぅ、創造の大精霊を名乗りながらスライムより小さな脳みその残念な女神よ。お前はもう忘れたのか?ランシールでオレたちは姿を消して試練に挑んだじゃないか。」
「大精霊?女神って…ルビアは正気か?いくら何でも大精霊ルビス様をかたるなんて…」
「あー…マヤ。あまり気にしないでやってくれ。ルゥはちょっと頭がアレなだけなんだ。それよりエスターク!!お前さすがだな。たしかに『きえさりそう』があれば門番にバレずに城内に入れそうだな。」
2人で笑う勇者(バカ)とボッチは絶対に天罰をくだす。私はこころに決めるのでした。
「なん…だと?『きえさりそう』はセレシアちゃんのどうぐに入ってるだと?」
「そうよ。マコちゃんの残念な頭でも分かるようにもう一度言ってあげるわ。私たちは『きえさりそう』を持っていないわ。」
「何だよお前等つかえねーなー。一応勇者一行なんだろ?エジンベアの城に入るくらい余裕じゃねーの?」
「バカねポニーテール。良く聞きなさい。自慢じゃないけど私たちは有名人なの。下手な事はできないのよ。」
「…海賊の情報を舐めるなよ?お前等のした事なんて筒抜けだぜ。ロマリアで30万Gの豪遊から始まりイシスでも国費を使い込んだ挙句に食い逃げ。ポルトガでも国費の散財に船泥棒。ジパングでは船の修理代を踏み倒し、ランシールでは教団の大神官の行方不明に加担し、収益の要であるダンジョン『ちきゅうのへそ』の大損壊と、何かとお前等有名だからな。」
耳が痛いです。
「お、オレたちってそんな評価なの?」
慌て出す勇者とそりゃそうだろと他人事のように呆れているエスターク。
そんな私等をみてしししと笑うポニーテール。
「オホン!ま、まぁオレ等の歩みのことは取り敢えず置いておいて、どうすっか?ランシールに『きえさりそう』を買いに行くか、海賊のアジトにセレシアちゃんのどうぐを取りに行くかだな。」
「単純に距離だけで考えればセレシアのところだな。」
「バカね。まだもう一つの選択肢があるわ。行くわよー!!突撃ー!」
私たち4人は一斉に入口を守る兵士に襲いかかるのでした。
「あら?新しい兵隊さん希望者さん?ずいぶんと田舎臭い方が雇用されたのね。あたしはエジンベアの姫のバーバラで…!」
「よーしマコト人質ゲットだ!」
「でかしたエスターク!」
中々私たちを中に入れようとしない兵士をふん縛った私たちは城内をコソコソと探索する最中に赤いパイナップルのような髪型の人質(エジンベアの姫)をゲットしました。
幸先は良いです。
「…海賊のオレが言うのもアレだけどお前らヤバいな。でも嫌いじゃねーぜししし。」
「ちょっとマコちゃん!どうすんのよ!あの赤いパイナップルお姫様とか言ってたわよ?流石に一国のお姫様に手を出すのは私としては看過できないんですけど。」
「おいルゥ、人聞きの悪い事言うなよ。これはアレだ。出る時に兵士の動きをとめる『アストロン』みたいなもんだ。」
目が泳ぐ勇者。
寛大な私でもさすがに犯罪は見逃せません。
もし本当に手を出しそうになったら境界で大反省会です。
そんなことを考えていた時期もありました。
「ほら早くあたしに着いてきて。こっちが兵士のいない抜け道よ。」
何故か赤いパイナップルは私たち勇者一行を『かわきのつぼ』がある宝物庫へと案内する。
おおかたずっと城の中にいて暇なのでしょう。
人質のくせに目を輝かせてノリノリで私たちを導く。まったく人を田舎者と罵る割にはずいぶんなお転婆なお姫様ですね。
そうして私たちはパイナップルに道案内されエジンベア城の地下にある宝物庫に着きました。
「さぁここからが大変よ。田舎者には解けない謎解きが必要らしいの。王様(おとうさま)が良く言ってるもの。田舎者には知恵がないからエジンベアの民が導くのだと。」
「ずいぶん偏った考えだな。まぁ確かにアリアハンは田舎者だけどもよ。」
「まぁ!勇者様はアリアハンの出身なんですか?それは素敵ですね。アリアハンと言えば全ての田舎が目指すような田舎の中の田舎。かっぺと言われているキングオブ田舎者何でしょう?素敵です。」
「…何だろう。可愛いは可愛いんだけど…ものすごく殴りたい。」
「ちょっとやめてよ?マコちゃん。あんなパイナップルみたいな頭だけどあれでもお姫様なんだからそんな事したらまた牢屋行きよ?」
そんな勇者を宥めながら私たち4人はエジンベアの謎解きにチャレンジするのでした。
数刻後
「ダメだ!出来ねー。」
匙を投げた勇者が城内の冷たい大理石の床に大の字になって寝転びました。
もう無理!と言うのが私にもすぐ伝わる見事な程の諦めポーズ。
「ねぇマコちゃん。もう少し頑張ってみたら?この謎を解かないと『かわきのつぼ』が手に入らないし、海賊に捕まっているゆるふわも助けられないわよ?」
「それは心配いらない自称女神を名乗る頭のおかしい女よ。セレシアはオレが最悪本気を出してでも助けて見せるさ。」
「誰が自称よボッチが!」
「貴様オレはボッチじゃないとなんども…。」
「ししし。まぁまぁ仲間割れはよそうぜ。今は謎解きしなきゃお宝が手に入らないんだしさ。」
「まぁそうですね。田舎者に期待した私が悪いのかもしれないわね。きっとここまで厳重に管理されたエジンベアの宝なら私が求める究極呪文『マダンテ』に繋がると思ったのだけど…田舎者とは言え勇者様には期待していたのですけど…ダメなら仕方ないわね。」
そう言ってパイナップル頭(バーバラ)姫は指を鳴らした。
すると何処に隠れていたのかたくさんの衛兵達が武器を構えて宝物庫に雪崩れ込んできた。
「ちょっとバーバラ姫?これはいったいなんのつもりだ?」
勇者が青い顔でたずねると
「私はねエジンベア城の文献で見つけた究極の呪文を求めてるの。お父様は教えてくれなかったけどきっとこの謎解きに関係していると思うの。勇者様なら解けるかと期待して近づいたけど…期待ハズレね。ただのバカじゃない。」
「プークスくすくす!マコちゃんあんた言われてるわよ?ただのバカですって!本当の事とは言えちょうウケんるですけど!」
ガツン!
「痛いわね!ブツことないでしょこのDVおとこ!」
「うるせえ!それにしてもこの状況どうするか。こんな時セレシアちゃんが居れば『きえさりそう』で逃げられるんだけど」
「呼びましたか?」
「「「「は?」」」」
その場にいる全員が声のした方を見て驚いた。
いつから居たのか、そこには眩しい笑顔のゆるふわがかしづくツンツン頭の海賊の頭領を連れて立っていました。
「ちょっアニキ、何してんだよ」
「おうマヤか。オレ達海賊団はセレシア親衛隊に転職したんだよ。ついでにお前もな。」
「は?ちょっと何言ってんだか分からねーよ。何だよセレシア親衛隊って」
困惑するポニーテールを他所にツンツン頭の頭領はゆるふわの歩く道の前に赤いカーペットを引き出し彼女をエスコートする。
「セレシアちゃん!」
「セレシア!」
横にいる勇者とエスタークのテンションが見て分かるくらいに上がっています。
「セレシアちゃん、この兵士に囲まれた状況から抜け出すために『きえさりそう』が必要なんだ。」
「勇者様、きえさりそうはここまで来たカミュさんの船の中に置いてきてしまいましたが、私『レムオル』が使えますのでお手伝いしますね。」
そう言ってゆるふわはパイナップル頭(バーバラ)含めた兵士に向かって呪文を唱えました。
レムオル!その声と同時に発動する効果。
それは『きえさりそう』と同じく姿を暫く消す効果のある呪文。
姿を消して一時的に逃げてまた後日にエジンベアの宝を取りに来ればいい。
私もそう思っていました。
しかし
「あ!ごめんなさい。また失敗しちゃった。」
彼女は可愛らしく舌を出して微笑むと、マコトとエスタークはおろか、カミュと名乗る海賊団の頭領までもが目をハートマークにしていた。
しかし私とポニーテール(マヤ)は絶句しました。
なんと姿を消す呪文の効果が周囲に現れたのです。
そう、今ここにいる勇者一行プラス海賊2名を残して全てが消えてなくなったのです。パイナップル頭(バーバラ)はもちろんのこと、兵士からエジンベアの城そのものまで。見渡せば罠も何もかもなくなり、残された私たちのまえに落ちている壺。きっとあれが…
勇者マコトは『かわきのつぼ』を手に入れた。
「バーバラさんとかどうなったんだろうな。時間が経てば現れるのかなぁ。」
壺を抱えたポニーテール(マヤ)が呟くとツンツン頭(カミュ)は
「気配も何も無かったぜ?吹き飛ばしたと言うよりは存在そのものを消し去ったように見えたが…まぁ女神を怒らせたんだから仕方ない」
と言う。マコトもエスタークも同意するかのようにうなずく。
こうして紆余曲折ありましたが私たちは無事に目的をはたすのでした。
ちなみに
パイナップルのその後が気になり『冒険の書』を開き調べたところ、彼女等は夢の世界で生存?しているそうだったので見なかったことにするのでした。
つづく