「ここは夜だと言うのに人がみんな起きてるのな。」
勇者が呟くのも少し分かります。
傷心の私たち勇者一行は当ても無く船旅をしていたら河川に入ってしまい、停泊するような港も無いことから船の流れるままに行き着いた辺鄙な村に辿り着きました。
「それにしてもよ、『かわきのつぼ』にはガッカリさせられたよな。ウップ…」
「言うなエスターク。余計に惨めになるじゃねーか。」
「でもよ、アレだけ苦労して手にして海の真っ只中を何日も探してようやく見つけた宝箱の中身が『カギ』だぜ?ウップ…普通は凄い秘宝だと思うじゃねーか。正直オレはオレが探している『進化の秘宝』が見つかっても不思議じゃないと期待してたぜ。オエ…」
「ボッチ(エスターク)、アンタね『進化の秘法』なんて碌なものじゃないわよ?だいいちアレはモノじゃなくて…。」
「キサマこのアバズレが!オレはボッチじゃないとなんでも言ってるだろうが!ヤバっ!?」
「誰がアバズレよ!上等じゃない外に出なさいよ。今日と言う今日は本当の神罰と言うものを見せてやるわ。」
「おいエスターク。船酔いが酷いなら無理して喋らなくて良いんだぞ?」
「まぁまぁ〜お2人とも落ち着いてください。それからタッくん『進化の秘法』はお父さんも危険なものだから決して発動してはダメだよって小さい頃から聞いてます。だからダメですよ〜」
「タっくん?セレシア、もしかしてそれはオレのことか?」
「そうですよ〜。エスタークさんだからタッくんです〜。」
「エスタークだけずるい!セレシアちゃんオレは?オレは?」
「勇者さまは勇者さまです」
ゆるふわはふわふわと笑っている。
妙なあだ名をつけられた当の本人(エスターク)は目尻を下げてニヤついている。
地獄の帝王とやらはそれで良いのかとため息がでます。
そして何よりゆるふわにあだ名呼びされているエスタークに嫉妬してか、自分にも特別な読み方をとお願いする勇者。
この大精霊である私がマコちゃんと言う素敵な呼び方を付けてあげてるのですから、ありがたく思ってほしいものです。
まぁ勇者(バカ)は放っておくとして
「それにしても本当に賑やかね。こんな山奥に賑やかな村があるなんてビックリよ。」
「本当だよな。場所的にはネクロゴンドの近くだよな。ネクロゴンドと言えば魔王バラモスのお膝元だろ。こんな近い村が深夜まで賑わってるなんて凄いよなぁ。案外バラモスって良い王様やってんじゃねーか?」
バカ言って笑っている勇者。あなたのお父さんが魔王バラモスによって討ち死にしたこと忘れたようですね。さすがは鳥頭です。
「ここはテドンの村ですわ。」
「はぁどうも。」
聞いてもいないのに入口に立つ村娘がわざわざ村の名前を教えてくれます。
ここだけじゃなくどの街や村でも共通なので、最近の流行りなのでしょうか。
「まぁ村があって良かったよな。今夜はここで宿を取ろうぜ。エスタークの船酔いも酷いし。」
そう言って私たちは宿屋に入るのでした。
「なんか…部屋はあまり綺麗じゃないわね。」
「はい。所々臭いも気になりますね〜。」
「ん?そうか?エスタークお前も気になるか?」
「ウップ…」
もはやグロッキー寸前のボッチ。さすがにこれ以上は無理と判断しボッチは早々に宿屋で休ませて、看病をゆるふわに任せて私と勇者はテドンの村を散策することになりました。
「そういやルゥ、お前と2人で村の中とはいえ探索するの久しぶりだよな。」
「そうねぇ、確かにいつ依頼かしら。気付けばパーティ仲間がいるものね。」
「それな。レーベではござるの爺さんがいたし、ロマリアではアリーナちゃんとクリフトもいたし…案外アリアハン以来じゃないか?」
「マコちゃん…」
「ルゥ…」
「…マコちゃんよく人の名前覚えてるわね」
私の率直な感想でしたが、勇者は熱のこもった瞳から急に冷え切った瞳になりました。いったい何だと言うのでしょうか。
「お前本当にフラグ折るのな」
「?何よフラグって。」
「…まぁ良いよ。ルゥのちりょくの低さは知ってるから。それより不思議だったのがセレシアちゃんの名前は覚えてたよなお前。」
「なんか納得いかない発言が聞こえたような気がするんですけど…。まぁ良いわ。そりゃあアレだけ行く先々で問題起こした父娘(おやこ)だものね。さすがに覚えるわよ。」
「確かにな。まさかあの歌姫が手記の娘だとは思わなかったよな。」
「あら、私はポルトガで気付いてたわよ。どう凄いでしょう。」
ガツン!
胸を張る私の頭を叩く勇者。
最初に言っておけと言う意見には多少賛同できますが、大精霊たる私の頭を叩く勇者にはちょっと頭にきますね。
「お、おいルゥなんて顔してるんだよ。」
「私の顔がなんですって?」
「わ、分かった分かった、オレが悪かったから指をポキポキしながら黒い笑みで近づくのはやめろ。それよりカミュとマヤちゃんは『オーブ』見つけたかな?」
「誰よそれ。」
「お前マジか…」
「…。」
「ってか何で覚えてねーんだよ!元海賊の兄妹だよ!つい昨日まで一緒だっただろうが!」
「あぁ!あの青いツンツン頭とポニーテールか。そう言えばあの2人は私たちの為に『オーブ』を探すとか言ってたわね。」
「あぁ、あの2人…とくにカミュはセレシアちゃんの親衛隊を名乗って張り切ってるからなぁ…。まぁ見つけてくれたらラッキーくらいに考えておけば良いんじゃね?」
「まぁそうね。それより賑やかな割に誰も私たちに話しかけて来ないわね。」
「そういやぁそうだよな。まぁ田舎なんてそんなもんじゃね?」
とくに目に付くものの無い田舎だったので私たちも宿屋へ帰るのでした。
「ぼーれー…」
宿屋に着くと何処から現れたのか大量のゾンビどもが宿屋を囲っていました。
その数は20体は下らないのではないでしょうか。
村とは言え人の住む所には余す事なく大精霊たる私の加護が張り巡らされているので内側から崩壊でもしなければ、早々モンスターが入れるものではない。
にも関わらずゾンビの集団が宿屋を囲っているのです。
「ちょっとルゥ、これは一体どう言う事だ。村にはモンスターは入れないんじゃないのか?」
「わ、私も知らないわよ。普通はあの程度のモンスターなら近づくことすら嫌がるはずよ。私の加護凌駕してでも行きたい理由かあの宿屋には有るって言うのかしら…」
「「…」」
私と勇者は顔を合わせ…おそらく同じ人物を思い浮かべている。
「え、エスタークじゃないか?あいつ一応地獄の帝王だろ?部下のモンスター…とか?」
「マコちゃん…ダメよ目を逸らしちゃ。これはゆるふわよ。あの娘の魔王を遥かに凌駕するかのような膨大な魔力がゾンビを引き寄せているのよ。救いを求めてね。」
「やっぱりそうか。なら2人が心配だ!ルゥ、お前はゾンビ特効だろ!何とかならないのか?」
「誰がゾンビ特効よ!」
「良いから早く!宿屋の中からモノ音がしないんだよ!セレシアちゃんとエスタークもいるのに。」
確かにそうだ。
幾ら大量のゾンビとは言え、ゾンビに遅れをとる二人とは思えません。
戦闘の音がないのは逆に不安になります。
『ニフラム!』
「ぼーれー…」
私のニフラムでゾンビが浄化されていく。
ここまで気持ちよく効果が現れるとなってくると少し楽しくなってきますね。まるで私が無双しているようですし。
「ニフラム!ニフラム!ニフラム!ふ、ふははは…じゃんじゃん来ると良いわゾンビども。女神の力を思い知らせてやるわぁ」
その後も私は村中を走り回って浄化をするのでした。
夜明けも近い頃、私と勇者は村外れに牢屋を発見しました。
そこには他の村人とは違ってゾンビではなくスケルトンになっています。
念の為私の『ニフラム』をかけますが、他村人のように「ぼーれー」とか言って浄化する事はなく、どうやらただのしかばねのようです。
私たちは崩れた壁から牢屋内に入る。
「お、おいルゥ…何するんだよ?」
「ここは特に悪臭がするわ。出てきなさい!ここにいるのは分かっているわ!」
すると牢屋の中の暗闇のなかから、青い炎に包まれたモンスターが複数体現れました。どうやらコイツ等がこのテドンの村の元凶のようだ。
私はモンスターに向かい『ニフラム』をかける
「ぐああああ!…き、効かぬぞ小娘ごときの魔力じゃな。ふははは」
「いやお前ぐあああ!とか言ってるじゃねーか。」
隣の勇者が呟く。
「どうしようマコちゃん、コイツには私の『ニフラム』が効かないわ。」
そう言って再びニフラムをあびせる
「ひいいいやぁぁぁあ…き、効かぬと言うのがまだ分からないようだな小娘よ。」
「くっやっぱり効かないわ。ね、ねぇどうしようマコちゃん。」
「いやいや…絶対効いてるだろあれ…でもどうすっかあれ。実体のないモンスターは斬れないし…」
私たちが追い詰められたその時でした。
村中に白い光が足元から噴き出した。それは凄まじいまでの白。言ってみれば白い闇です。直ぐ隣の勇者さえも見えないくらいなのですから
次の瞬間
白い闇は全てを消し飛ばしました。目の前のやみのばんにん達もこの光には抗えないようで
「「ぼーれー…」」
そう言って浄化されていく。
魔物だけではありません。先程まで賑やかな村そのものまで消し飛ばし、楽しそうに踊っていた村人から、外にまで漏れ出る家屋の暖かい光。その全てを真っ白に染め上げて纏めて浄化していきました。
私たちの意識もまとめて…
そしてよがあけた
「…アさん、ルビアさん!しっかりしてください。」
誰かが私を呼ぶ声がします。眩むような眩い光とともに視界に入ってきたのはゆるふわの心配そうな顔でした。
横ではエスタークが勇者を蹴り起こしている。
うん、あっちじゃなくてよかった。
私の視界に最初に入ったのがあの悪魔っ子だったら起き抜けにゴッドブローをお見舞いするところでした。
辺りを見回すと跡形もなく吹き飛んだ様子の村でした。
「ちょっとセレシア、幾ら何でも村の中で『イオナズン』を唱えて村人ごと吹き飛ばすのはどうかと思うわよ。」
「ち、違いますルビアさん。私は『マヌーハ』を使っただけなんです。」
「は?なんで『マヌーハ』があれ程の爆風をともなうのよ。」
「おいアバズレ!せっかく助けて下さった女神セレシアになんて事言うんだ。感謝しろ感謝を!」
「あ?誰がアバズレよ?ボッチ、あんたも一緒に浄化してやったっていいのよ?」
「上等じゃねーか…」
「ま、まぁまぁお2人ともケンカはやめてください」
「はい。」
ゆるふわに言われた途端に背筋をただすエスターク。
この男、どうやら本当にゆるふわに惚れ込んでいるようです。女神と言うほどに。
「まぁ…生きている村人も居なそうだしテドンには用は無いだろ。次の街に行こうぜ。」
勇者が気を取り直して言う。そう彼の言う通りゆるふわの『マヌーハ』が効いたと言う事は私たちが見てきたあの賑やかな風景は幻覚だったのです。
ここは魔王バラモスの城のお膝元…やはりとうの昔に滅ぼされていたのでしょう。
「さぁ、3人とも行こうぜ。」
「ちょっと待ってマコちゃん。この人間はただのしかばねよ。ゾンビじゃないのだからちゃんと弔ってあげなきゃ。」
そう言って私は両手を組んで祈りをささげると、村人は天に帰っていくのでした。なんとなく耳にありがとうと聞こえた気がしますが、隣の勇者の様子を見る限りまぁ気のせいでしょう。
立ち去ろうとした時ふと先程までしかばねのあった場所に書置きの紙片と、紙が飛ばないように丸いものが置かれているのが目に入った。
「おおお!これは『グリーンオーブ』じやないかぁ!」
勇者は宝玉を拾い上げ大興奮です。まさかこんな辺鄙な村にがオーブがあるなんて夢にも思いませんでした。
これだけでも村に来た甲斐があると言うもんです。
私もほっとした気分になっていると
「お、おいルゥ。これ読んでみろよ。2人には内緒でな。」
小さな声でそう言って勇者はオーブを乗せていた紙片を預けてきた。
そこには驚愕の事実が書いてありました。
本来なら街や村にモンスターが近付けない私の加護が効かなかった理由が記してあったのです。
ネクロゴンドは知っていた。
アレは確かノアニールの手記にあったようにネクロゴンドの街中でゆるふわが覚えたての『イオ』を唱え、国中を内部から大破壊した結局、私の加護も吹き飛んでしまい魔王バラモスに乗っ取られたのですから。
だけどテドンの村は違います。
この手記の日付はつい先日のものだ。
遥か東から山々を貫いた閃光が直ぐ近くで大爆発を起こしたようだ。なるほどどうりでこの辺りの地形が螺旋状に川が入り組んでいるわけだ。なんて事はない、爆発の中心地から螺旋状になっただけなのだから。
そして問題はその閃光です。
この数日前と言う日付、そして東から放たれた閃光とある事。
私と勇者は背筋に冷たいものが流れます。
そう、あれはランシールのちきゅうのへそで放たれたあの閃光ではないでしょうか。確かにアレは西側だった。遥か彼方で大爆発を起こしキノコ雲を上げていたではありませんか。
しかも音も衝撃波も爆発より遅れてやってきたあの惨事。
私は何故見逃していたのでしょうか。
爆心地に村や国が無いとは限らないのです。
テドンの村は私の加護ごとゆるふわの『メラミ』で吹き飛ばしていたのです。
さすがにコレは本人には言えない。
私と勇者は無言で頷くと次の目的地へ向かうように仲間を促すのでした。
3人がテドンを出たあて私は振り返り両手を組んで祈りを捧げた。
今度は死者の御霊の平安を祈るのではなく、どうか恨まないでくださいと懇願にちかい祈りで。
つづく