「ところであんた達、魔王討伐の旅はやめたの?」
朝、マコトの家でいつものように朝ごはんを美味しく戴いているとマコトのお母さん、アンルシアさんが尋ねてきました。
「お母さん的にはいくらオルテガ(お父さん)の敵討ちとは言え魔王討伐なんて危ない真似してほしくはないわ。」
いくら勇者の家系だとは言ってもやはり母親は子供が心配なのでしょう。私は胸が締め付けられました。勇者に定められし者はその力を以って魔王を討ち破り、人類に希望の光をもたらすのが当たり前だと思っていました。力がある者は弱き者を守るものだと…
しかし人類最強の力を有する勇者といえど1人の人間なのだ。
親もいれば妹もいる。彼は勇者ではあるけれど、昔時空を超えてやってきたローシュやセニカとは違うのだ。血が繋がっているだけの年若い男の子、そんな義務はないのだ。
私は精霊ルビス
人の世に光を照らす女神。
ですがその平和は1人の勇者の犠牲によってもたされるものであってはならない。もし彼が旅を辞めると言うなら私は…
「でもねマコト、お母さんは辞めないで欲しいって気持ちもあるの。ウチはやっぱり勇者の家系なのよ…。」
「オレ辞めないよ母さん、オレはルビス様に定められた勇者だ。今は準備しているだけだ、ほら行こうぜルビア。」
そう言ってマコトは私の手を取り街へと繰り出しました。
「なんだよ…まさかお前までオレが旅を辞めるって思っていたのかよ。」
街に出るなり訝しむ顔で勇者を見る私に不満そうなマコトが言いました。言っては申し訳ないけれど、私はてっきり『じゃあ辞めようかなぁ』なんて答えるものばかりと思っていました。
「オレだってオヤジの敵討ちもそうだけど、世界から魔王の脅威を退けたい気持ちだって一応はあるんだ。」
少し彼を見直しました。やはり彼にも勇者の魂か引き継がれていました。
「それにあのまま家にいたら本当にお前と結婚させられそうだしな。」
「なんですってー!私のなにが不満だっていうのですかぁ!!」
「そう言う意味じゃブゲッ!」
ヘラヘラと笑いを浮かべる勇者の顔面を蹴り飛ばしてやりました。
女心の分からないヤツです。
「よしルビア、今日はレーベの村を目指すぞ」
意識を取り戻した勇者はついにと言うべきか、やっとと言うべきなのか旅立ちを決意しました。
これで魔王バラモスを、そしてその先には私の本体を…
あぁなんでしょうこの胸の高鳴り感。囚われの美女を勇者が救い出す…このヒロイン的なシチュエーションに顔がにやけてしまいそうです。
改めて私たちのステータスを確認しました。
勇者マコト Lv1 どうのつるぎ 旅人の服
僧侶ルビア Lv1 布の服 装備できない血糊付きこん棒 ホイミ
2人の所持金 51G
旅立ちとしては少し心許ないものがあるのだけれど、マコトに聞けばレーベの村はアリアハンから半日くらいの場所だそうです。
最悪引き返せば良いのですから何とかなる
たしかに私もそんな考えがあった気はします。
「ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか…って言うか、なにカラス相手に全滅してるんですか!!」
「お前だって死んでんじゃねーか!だいたいお前何で精霊の癖に弱いんだよ!」
「仕方ないじゃないですか、私は顕現するのに大量のMPを使用していて大変なんですよ。だいいち戦闘は勇者の仕事でしょ!僧侶は傷を癒すものです。」
「戦えないくせになんでわざわざ顕現してまでパーティに入ったんだよお前は!それなら他のヤツを雇ったほうがマシだ!」
1人にしたら旅に出ないでしょあなたは。
それにしてもこの男ムカつきますね。
この死者が最初に訪れる所、『境界』いるときはルビアではなくルビスだと言うのに、勇者は全く敬わない。
しかし残念なことに今回は私も含めて全滅してしまったのだから強く言い返すこともできません。
私は少しだけ反省点を振り返ってみた。
アリアハンを出て間もなく私たちはスライムとおおがらすに出くわした。マコトは頭に糞をされたことに怒り、おおがらすに向かった。
そうなると私はスライムとなるわけですが、私のもつこん棒では半分液体で構成されている水性モンスターにはダメージを与えられませんでした。スライムのような敵にはマコトの装備している『どうのつるぎ』のような武器で斬るか、槍で核をつく。又は魔法が適しています。
そこで私は勇者に戦う相手を変えて貰おうと振り向くと…
私は目を疑いました。
なんと勇者マコトは既に死んでいました。
あまりの出来事に唖然とし、つい持っていたこん棒を落としてしまいました。
あの後は本当に大変でした。マコトの棺を引きながらスライムやおおがらすから逃げ出したのですが、そんな重いものを引いて逃げられる筈もなく、結果私たちは全滅したのですから。
「ねぇマコト、今度は本当に仲間を探しませんか?2人じゃ無理ですよ。」
「でも、今回の全滅でお金がないんだぜ?」
「それは後で考えましょう。先ずは仲間探しをするってことで。」
「…まぁ仕方ないか、良いぜそれで。」
やっとしぶる勇者の説得に成功しました。それにしてもこの弱さ、どうにかならないでしょうか。この子をなんとか一端の勇者に育つように私が導かなければバラモス討伐はおろか、その先までなど一生無理そうで不安です。
ふとマコトの方を見ると何かニヤニヤしている。
まぁなんとなく想像はつきますが。
「パーティは女の子限定にはしませんからね。」
先に私が釘を刺しておくと
「えーーーー!!!」
勇者の絶望の叫びが『境界』に響き渡りました。
つづく
スライムって…何気に強いのではないかと私思うの。