「アリアハンの街からやってきたのかね?ここは知っているとは思うけどレーベという村だよ。何もないところだけどゆっくりしていくといいよ。」
私たちパーティが夕暮れ時に村に入ると通りすがりの村人が話しかけてきました。何故私たちがアリアハンから来た事を知っているのか不思議に思っていたのですが、そんな私を見抜いたかのように村人は笑いながら理由を話してくれた。
アリアハンの島から出るには『いざないの洞窟』にある旅の扉から出る必要があるのだそうですが、大陸側から強力なモンスターがアリアハンに流入してこないようにする為、王さまの指示で現在は封印されているとのことでした。
「いきなり躓いたな。」
日も沈み宿屋に泊まる私たち。勇者は部屋に入るなり愚痴り出した。
「そうよね。アリアハンの王さまは自分で封印させときながらマコちゃんにバラモスを倒しに行けとか…ないわぁ。」
「本当だよな、あのジジイボケてんじゃねーのか。」
「きっとそうね。ボケてんのよあのジジイ。」
「それにしてもどうすっか。アリアハン島から出るには旅の扉を除くと船なんだけど、漁師の話しじゃ海には強いモンスターがうようよしているらしいぜ。」
「海の上じゃ不意討ちできないから私たちじゃ無理ね。」
頷く勇者。
完全に行き詰まりです。
私たちは気分転換も兼ねて夜の村を散策することにしました。
「あらあなた達は新婚さん?アリアハンからハネムーンかしら。」
散歩をしていると見知らぬ村のババアがとんでもない事を言ってきました。これは精霊への冒涜と言っても過言ではないレベルです。しかし旅の路銀が乏しい私たちは同じお部屋に寝泊りしているため、変に否定して色々聞かれ、万一にも私の正体が知れたら大騒ぎになります。無念にも否定できない事が口惜しいです。
ババア…もとい、村の女性は私たちをレーベの村中案内してくれました。道具屋や武器屋といった普通のお店しかありませんでしたが。
私が武器屋で可愛くオネダリして買ってもらったブロンズナイフくらいしか成果という成果はありません。
まぁ80Gもする高価なものではあるのでマコトにしては奮発してくれた方でしょう。ババ…村人がたまには奥さんへの贈り物は大切よ〜というアシストもあった事は忘れないでおいてあげます。
そして最後に村はずれにある民家の前で女性は立ち止まり小声で言ってきました。
「ここは変わり者のお爺さんが住んでる家なの。」
「変わり者?」
マコトが聞き返すと女性は頷き、更に声を潜めて続けた。
「昔はアリアハンのお城で研究者をしていたらしいんだけどね、どこかで頭でも打ったのか突然『ワシはルビス様の神託を受けたー』とか言って家に籠っちゃってるのよ。」
それを聞いたマコトが私の方に振り向くのですが、見に覚えのないない私は無言で首を振る。
すると中から怒号のような初老の男の声が響き渡る。
「誰でござるかー!ワシの家の前で堂々と悪口言っている奴らは!」
村人の女性は飛び上がるように驚き走り去って行った。
「オレはアリアハンから来た勇者マコトで隣にいるのが旅を共にする僧侶のルビアです。」
「…なに、勇者じゃと?」
今度は静かな声で返ってきました。
「ワシはメルビン、かつて勇者じゃったものでござる。」
「おいルゥ、爺さんもかつて勇者だったとか言っているけど勇者ってそんなにいるもんなの?」
「そんな訳ないでしょう。」
扉越しに語る老人はメルビンと名乗りました。ローシュの隠し子?とも疑いましたが名前に聞き覚えがないのできっと只の痛い老人でしょう。
「よいか今代の勇者よ、ワシはルビス様の神託でこの扉を開けた者に東の『いざないの洞窟』の封印を破る『魔法の玉』を授けるように仰せつかっているでござる。よいか勇者よ、鍵は海岸沿いに見える『なじみの塔』にあるからワシにそなたの勇気を見せるでござる。」
変な言葉を使うジジイはどうやら扉を開けろと言っているようです。
「めんどくさいなぁ…要は扉を開けてくれって話しだろ。ルゥ、お前一応精霊だろ?扉とか開けられたりするか?」
「一応は余計よ。まぁ美しく気高い精霊の私なら扉を開ける為の呪文を知らないでもないわ。」
「おおマジか!さすがじゃねーか、初めてお前が役に立った気がするぜ。」
「マコちゃんあんたねぇ私を何だと思っているの。」
「役立たずのビッチ」
イラッ
怒りでまた勇者を殺しそうになりました。
「チッ!マコちゃんあなたには一度私の有り難みを見せる必要があるわね。見てなさいよ…『アバカム』!!」
ガァァァン!!
「クッ、なかなかやるわね。アバカム!アバカム!アバカムッ!」
ガンガンガンガン!!
「こらこらこら!ワシの家を壊す気か!!勇者よ、そこのアバズレを辞めさせんかー!!」
「何ですって!!誰がアバズレ…「ってアホか!!」」
バシン!
「いったいわね!何すんのよこのヘタレ!」
「何すんのよじゃねーよ。何がアバカムだよ、ただ蹴破ろうとしてるだけじゃねーか!」
「だってしようがないじゃない!扉が開かないと先に進めないんだからしようがないじゃない!!私嫌だもん、あんな遠くの塔まで行くの。」
「オレだって嫌だ…いい事思い付いたぜルゥ。」
ニヤリと笑う勇者。
あぁその顔はきっとロクでもない事を考えている顔ですね。
しかしどこか期待させるのも確かです。
パチパチパチ…
マコトは何処からか松明に火を灯し、その炎をそっとくべた。
「なるほど、炙り出し作戦ね?マコちゃん冴えてるじゃない。」
「だろ?これなら向こうから…」
「やめんかー!!お主は本当に勇者でござるか…って、あれ?」
内側からバンッと扉が開き、中から初老の男性が現れた。
白い髭と錆び錆びの『くさりかたびら』を着た、私の予想通り何ともマヌケそうなジジイ…メルビンが現れました。
「爺さん、本当に燃やすわけねーだろ。」
そう、マコトは扉の前で焚き火に火をくべただけなのです。まぁ2人で煙が扉の隙間からお部屋に入るように風を送りましたけど。
「なんじゃ焦ったでござるよ。」
「ハハ、一応勇者なんだからそんな事しねーよ。」
「じゃよな、しかしまぁお主も中々頭を使うようでござるな。これからの勇者は力だけではなく知恵も必要でござる。」
「照れるからやめろよー。」
「なんのなんの、マコト殿は立派な勇者でござるよ」
普段褒められる事がないマコトはジジイの褒め言葉だけで得意げになっています。チョロい男ですね。
「まぁやり方は変わってはいたが扉を開けさせたのでござるから、約束通りいざないの洞窟の封印を破る魔法の玉をお主に授け…ん?なんか熱いでござ!!」
「おわー!!火が飛び火した!」
なんとマコトの焚き火の炎が飛び火し、メルビンの家は紅蓮の炎に焼かれていた。人間は火を囲ってキャンプファイヤーなるものが好きとは聞いていましたが、家を丸ごと焼くとは中々やりますね。
その後レーベ中が騒然となった。
火は何とか駆け付けた村人たちによって鎮火し大事には至らなかったのですが、私たちはレーベの村を追われ今後出入り禁止になりました。
仕方ありません、今日の事は無かった事としてそっと冒険の書を消しておく事にしましょう。
続く
良い子は真似してはいけません。ルビスとの約束、ですよ♡