何故どうして?
その日、大蛇丸は深刻なダメージを受けていた。木の葉の里の暗部に追われている。
かつて無いほどに追い詰められた大蛇丸。それもそうだろう。最近噂になり始めた木の葉の天才うちはイタチも暗部に紛れ込んでいたのだから。
どうにかイタチを撒いた大蛇丸だったが、別の暗部に見つかってしまう。
目の前の暗部程度まだ処理するくらい可能だが、いざ戦闘を行えば撒いたイタチに感付かれて追いつかれるかもしれない。
火の国の国境近くの森で大蛇丸はため息を付く。甘く見ていた。若い芽達を。救いの神にでも祈ろうかと少々らしくもない感傷に耽るくらいにはギリギリの状態だった。
だが、そんな大蛇丸に救いの手を差し伸べる女神が居た。否、悪魔のような少女が居た。
暗部の忍の首がもぎ取られる。近付かず、音も立てず。相手が認識できない速度で。そんな芸当、大蛇丸ですら万全の状態でやれるかどうか。五影レベルのソレを行ったのが目の前の少女だ。
先ほど相対した天才と呼ばれるうちはイタチですら――今はまだこのような芸当できないであろう。
いつのまにやら先ほどの暗部の首が大蛇丸の手元に。誰もこんな事は頼んでは居ない。ネクロフィリアになった覚えは大蛇丸にはない。
「ちゃおー。わたしのことを好きになってくれた?」
「……」
流石の大蛇丸もこれには引いた。かつて相対し『どう? 私といいことしない? 気持ちよくしてあげるよ?』と言ってきた少女。日向モミジ。
暗部の首をわざわざ己に持たせて好きになってくれたかと問う精神。目の前の少女はたいがいイかれている。その死体になったモノは味方なのではないのかと愚問は口に出さないが。
何故なら初めて相対した時も、任務に同行してたであろう仲間を手にかけ『わたしは日向紅葉だよ、以後よろしくね、大蛇丸君』なんて自己紹介してきたのだから。
平和ボケした木の葉の里に何故このようなバケモノが生れ落ちてしまったのだろうか。袂を分かった、かつての師を思い浮かべては消す。
「わたしの力が必要? わたしの力、貸してほしい?」
ニコニコとこの場に不釣合いな可愛らしい笑顔を浮かべる目の前の悪魔。その精神性は大蛇丸ですらおぞましいと感じる。
先ほどから感じる悪寒は目の前のおぞましいモノから感じているのだろう。
「……不本意だけどお願いするわ」
大蛇丸の感じたそれは久方ぶりの恐怖である。己以上に生き続けていると言っているバケモノに力を貸してもらう。不明瞭なモノへまた貸しを作ることへの。貸しが増えていく事への恐怖。
「まったく素直じゃないなー君は。でもお願いされましたー。だから助けてあげる」
「また借りができたわね……どう返そうかしら……」
「んふふ。律儀だなぁ君は。普通悪党って借りとか借りっぱなしじゃないの?」
「貴女以外ならそうするわ。貴女からの借りを踏み倒したら命まで取られそうだもの」
「えー……何か怯えられてる? わたし君に危害加えたっけ。まだ加えてないよね。それにしても良いね。君まだ若いのにいい直感してる。濡れちゃいそう。処理し終わったら抱いてく? ついでに結婚する?」
「私にアレだけ暴力ふるっておいて、危害加えてないって……DV嫁は遠慮するわ……」
大蛇丸はうんざりした表情で答える。そうしている間にも大蛇丸を追ってきたであろう木の葉の暗部を淡々と処理していくモミジ。何故このような場所で日向の天才と呼ばれる日向モミジが居るのか。
そんな能天気な疑問を抱く暇すら与えずに首を刈り取られていく木の葉の暗部達。
出逢う前までの大蛇丸の知っている彼女の情報と言えば、最年少で特別上忍になった日向の少女。ダンゾウを泣かせた少女、チャクラ量は人柱力クラスで木の葉のやべーやつ。
何故知っていたかと言えば、うちはイタチと同期で同じ班だった事から監視対象にしていたからだ。
だが、あくまでその程度の情報しか知らなかった。噂など尾ひれ羽ひれ付くもので、ただの笑い話だろうと少女に直接対峙するまでは思っていた。
いざ出逢ってみれば、後悔と喜びの二律背反に苛まれる毎日だ。はっきり言ってしまえば常識外なのだ彼女は。敵対したくないと大蛇丸に思わせるほどに。
あの時、根の時代に使っていた古いアジトに行った時、偶然出会っていなければ敵対していたのだろうかとふと大蛇丸は思う。それとも必然の出会いだったのだろうか。
己をお姫様抱っこで抱えながら淡々と敵を処理していくモミジに抱く恐怖より、それに勝る好奇心が彼を蝕む。
「そうだ。今度わたしの事誘拐してくれない?」
「貴女はいつも唐突ね……いいけれど。貴女、家族はいいのかしら」
「何が?」
大蛇丸は首を傾げるモミジに辟易した。彼女の使う正体不明の忍術には興味があるが、やはり彼女と自分とでは価値観が違うのだろう。まるで宇宙人と話しているようだ。
幾多の悪事に手を染めてはいるが、常識は持っているつもりだ。だがこの少女は常識を知っているだけで持っているわけではない。
両親に大事にされているであろうに。かつて己が攫ってきた子供達とは訳が違う。扱い辛い。
「攫って欲しい時に連絡するね。カブトだっけ、あの子供に伝えたらいいかな?」
「そうね……そうしてちょうだい」
「あ、いい事思いついた。攫う時はお姫様抱っこでよろしくー。わたしが君にしてるみたいに」
「……貴女みたいに余裕があればね」
攫う時に恐らく出てくるであろう日向ヒアシに日向一族。それを相手にこの日向のお嬢様はお姫様抱っこでの誘拐をご所望である。難易度Sの任務である。
「万全の大蛇丸君ならよゆーよゆー。そうだ、里の子達元気してる?」
「貴女私の事なんだと思ってるのよ。元気よ……なんで貴女に懐くのかしらね」
「少なくとも火影クラスだと思ってるけど。それはねー、単純に君よりわたしのほうが可愛いからじゃない?」
「鏡みせてあげようかしら。おぞましいバケモノよ貴女」
「んふふ、言うようになったね」
ここで言う里は木の葉ではなく音の里だ。ようやく軌道に乗り始めたのは、モミジが助力したおかげでもある。
険悪なように見えるだろうがこれでも大蛇丸は彼女を認めている。己の計画が順調なのは彼女の助力があってこそだと。
森を抜け、少々開けたところでモミジは止まる。
「もう大丈夫でしょ。そろそろご飯の時間だから帰るねー」
「ええ、助かったわ」
「それじゃ、またね」
大蛇丸を下ろし、手を振りながら去っていく。それだけ見れば可愛らしい少女だが中身が終わっている。
やっかいな共犯者を抱えたと思いながらも、その煩わしさすら愛おしく思う感情を大蛇丸は認めたくない。
「貴女には感謝してるわよモミジ」
面と向かって伝える事は無い。小さな小さな呟きは風の音と共に溶けて消えていく。
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「攫いに来たわよ日向のお姫様」
「きゃー……何その眼、君が振ったんでしょ」
珍しく大蛇丸がボケたのでノってあげたのにジト目で俺を見つめてくる。なんでや。俺攫われるお姫様やぞ。
後でお前雪美さんに謝れや。ジト目はあの子が至高なんやぞ。そんな事を説教する俺に完全スルーの大蛇丸。これから毎日ジト目で見てやろうか……
「さあ、無駄口叩いてないで行くわよ」
「ほいほーい」
というか振ったならちゃんと処理しろよ。雑やねん。お前秋刀魚ちゃんに本番中怒られるで。
でもちゃんとお姫様抱っこしてくれる大蛇丸は律儀なヤローだとおもいました。だからスキー!
「君にかかれば木の葉の警備もザル警備。日向の警備は内部からのお漏らしでよゆーと。流石木の葉の三忍! かっこいい惚れそう抱いて?」
「貴女ねぇ……まぁいいわ」
中々なびかねえなこいつ。結構いい遺伝子持ってそうだから会う度に言ってるけど中々上手くいかない。こんなにも美少女なのに。こんなにも美少女なのに!
大事な事実なので二回反芻しました。コイツ美少女な俺に靡かないとかホモちゃうか……
「ねえさん?」
「あら……どうしましょうモミジ」
「あちゃー……」
少々会話の声が大き過ぎたのだろうか。俺の横で寝ていたヒナタが起きてしまった。子供は熟睡しておねんねの丑三つ時やぞ。
泣きそうな顔して俺と大蛇丸の所へ歩いてくる。怖いだろうに夜のまっくらな中での大蛇丸の顔。
「ねえさんをはなせっ!」
「貴女のお姉さんに頼まれたのよ……って聞いちゃいないわね」
果敢にも大蛇丸に殴りにかかるマイシスターヒナタ。ウンザリしながら回避する大蛇丸。とてもシュールで笑いを堪えるのに必死である。
回避しねーと俺でもやべーからな本気のヒナタは。多少当たっても大蛇丸なら大丈夫だろうけど。
「それ以上やるなら殺すわよアナタ」
「!?」
殺気のようなモノを飛ばす大蛇丸。それだけで動けなくなるヒナタ。うむ。大人気ない。あーあかわいそうに。トラウマモンだぜこれ。
「ヒナタ」
「ねえ……さん……」
流石に殺す気は無い。大蛇丸もめんどくさいから動けないように威圧しただけである。殺しても俺は咎めたりしないんだけど後が面倒だもんね。
誘拐とサツガイじゃその後が違うからな。サツガイだと追手がビュンビュンで大蛇丸がストレスマッハでやばい。誘拐でもやばいけど。人質がある分慎重になる。
「良い子は寝る時間だよー。だからヒナタ……おやすみ」
「まって……おいてかない……で……」
ヒナタに幻術をかけて眠らせる。そして大蛇丸に目配せしながら早く行けと指示するのだが。
「……本当に良いのね?」
「流石に二人誘拐となると日向家全員来ると思うよ。わたしの場合置手紙あるからそんなに来ないと思うけど。ヒナタはダメ」
「そういう意味じゃないのだけれど……まぁいいわ」
そんなくだらない事を言いながら日向家の屋敷から出た所にやはりというべきか、父親登場だぜ。
アレだけヒナタが大きな声で叫ぶからもう。ほんとにめんどくさい。
「娘を返してもらおうか」
「ねえモミジ帰っていいかしら。なんだか疲れてきたわ……」
「ちゃおー。父さん。大蛇丸君わたしからの依頼なんだぞ、ちゃんと仕事しなさい」
「モミジ……あの手紙はどういう事だ」
何かキレッキレで白眼使いつつ俺と大蛇丸を見詰めるヒアシファーザー。手紙ちゃんと置いてきたのになんでだろう。
「病気治してくるだけだから安心してよー」
「……木の葉では無理なのか」
「特別上忍になってから禁書も全部漁ったけど無理かなって。綱手姫も居ないし連絡付かない。そこで禁術のスペシャリストに依頼したって訳なんだけど父さん聞いてる?」
そう会話しつつも大蛇丸だけを器用に殴るファーザー。そして俺をお姫様抱っこしながら回避する大蛇丸。いい修行方法じゃねこれ。
音の里に行ったら子供達にもさせよう。そうしよう。
「娘はやらんぞ! 大蛇丸!」
「ねえ、貴女。手紙とやらに変な事書いてないでしょうね……」
「変な事ねー。大蛇丸君と結婚します。探さないでください。とは冗談で書いたねー」
「貴女ねぇ……」
大蛇丸がもううんざりだぁと無双6エンパの農民みたいな表情になった。男がそんな表情しても萌えないし、可愛くないからやめたほうがいいぞ。好きだけど。
それにしても結婚とかイッツアジョークだぜ。誰も真に受けないだろうよ。というかまだ死にたくないから木の葉から出るのであって、まだまだ君らとキャッキャしたいから大蛇丸と研究するのになんでだ?
ちゃんと枕元に忍び寄って手紙置いてきたから大丈夫だと思ったのになー。
「娘はッ! 渡さン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!」
「勘弁してくれないかしら……」
それはかつて見た海賊王になりそうな麦わら君がキレッキレでド派手なミンゴを殴る蹴るした時のように、ヒアシは大蛇丸だけを器用に殴る蹴る。はっきり言って今のヒアシは異常だ。
ヒアシは大蛇丸より弱いと見ていた俺なのだが……俺を抱っこしているのを含めても大蛇丸は余裕でヒアシをあしらえるはずなのに。
どうも大蛇丸は絶不調のか、はたまたヒアシが絶好調なのか。野球してるんじゃねーんだぞコラ。
「埒があかなそーなのでわたしが相手をしよっと。大蛇丸下ろして」
「最初からこうすれば良かったんじゃないかしら……」
ぶつくさ文句を言う大蛇丸を無視してヒアシに突貫する俺。
「ムッ」
「えいっ」
「モ……ミジ……」
そしてヒアシはバタンキュー。俺の16連鎖にヒアシもお手上げ。日向は木の葉にて最強。つまり最強の娘は無敵なのだ。父親くらい一発KO余裕です。術もワザマエもいりません。ただ拳。一発のみよ。
「出鱈目ね貴女。日向宗家当主をこうも簡単に……」
「多分無意識に手加減しちゃったんじゃないかな。腐っても娘だし」
「本当嫌な子ね貴女。娘には持ちたくないわ……」
「じゃあお嫁さんならいいの? 腐る前に貰ってね」
「本当に勘弁してもらえないかしら」
「今の返しすっごく気に入っちゃった。んふふ、大切に扱ってあげるから、これからはずっと一緒だよ」
「……墓穴掘ったかしら」
頭を抱えてうずくまりながら嘆く大蛇丸。しかし俺は君を逃さないZE☆ 何故なら君の研究は大いに役立つからだ。主に俺の身体にな。
禁書を読んでいく内に気付いたのだ、俺の読んでいる大半の著者が大蛇丸だという事に。だから君をつ・か・ま・え・た(ア赤並感)。
今回は長生きしたいのだよ。胃と肺からドバーっと血をしこたま出したくないんだ。
こうして俺は音の里へと、行くのだった。
被害は最小限なのでセーフと言っている俺にアウトよと返すうんざりしている大蛇丸と共に。
登場人物
大蛇丸 今作のメインヒロイン 深遠を覗こうとしたら美少女の皮を被ったバケモノに捕まった
日向ヒナタ 夜の大蛇丸に果敢にも挑むが敗北 将来に期待
日向ヒアシ 娘の門出を素直に喜べない父親
日向紅葉 主人公 大蛇丸よりやべーやつ