ヒナタの姉はやべーやつ   作:闇と帽子と何かの旅人

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向こう側の月

 「何か大切なモノを忘れている気がするのよね……」

 「大蛇丸様?」

 

 音の里。その里長の部屋で大蛇丸は悩ましげな表情で呟く。

 薬師カブトはそんな大蛇丸に首を傾げながらも書類整理を続ける。

 

 第四次忍界大戦。連合軍の勝利により、世界に平和が訪れた。

 各里は戦後の事後処理で忙しい。音の里も例外ではなかった。

 だが皆何かしら忘れているかのように少しばかりの違和感を残しながらの平和。

 その違和感に大蛇丸は疑問を呈する。だがその違和感の正体はわからない。

 何を忘れているのだろうか。そもそも自分は現役で音の里長だったか?

 別の人物がやっていたようにも思える。考えれば考えるほど謎は増えていく。

 だが、そんな白昼夢のような思考は事後処理の忙しさにより薄れていく。

 

 

 

 

 「はて、ワシらは何故これほどの口紅を所持していたのか」

 「ダンゾウ、お主もか。何かやる為に集めていたのかのぅ……」

 「気色悪い。捨てるぞヒルゼン」

 

 ダンゾウとヒルゼンは火影室にあったコスメを処理しつつ、戦後処理をしていた。

 何か忘れている気がしてならない。そんな小さな違和感。

 だが、そんな違和感を払拭するよりも、今は大事な時期である。

 五代目火影に就任する事になった自来也への引継ぎや、各国との調整、他にも沢山彼らの仕事があるのだから。

 

 「こんな時奴が居れば……」

 「どうしたダンゾウ?」

 「むっ? ワシは今何か言ったか?」

 「ボケたかダンゾウ。やはり儂等はもっと早くに隠居するべきじゃったな」

 

 他愛の無い会話をしながら書類やら何やらを片付けていく二人。

 そんな光景に違和感を多少覚えながら手伝う綱手と自来也。

 

 「何か忘れておる気がするのォ……」

 「自来也、暇ならこっちも手伝え」

 「次期火影使いが荒いのォ……」

 

 そうぼやきながらも書類整理を続ける。かつて三忍と呼ばれた内の二人。そして片方は次期火影である。

 第四次忍界大戦の功績により綱手と自来也が火影候補にあがったが、綱手も自来也もやりたがらず、結局賭けによる勝負で二人のどちらかが火影になる事になったのだが、珍しく綱手が賭け事で勝ってしまい、自来也が火影をするハメになったのだ。

 

 「ナルトにやらせたいのォ」

 「馬鹿。あいつはまだ子供だぞ」

 「わかってる。ナルトにはまだ早い。だが、次はアイツだ」

 

 そんな風に次期火影が次期火影を語りつつ、木の葉の里の人々は平和に過ごしている。

 

 

 

 

 「長十郎! そっちの処理を頼むわ」

 「ひぃぃ」

 

 水の国、霧隠れの里の水影照美メイも戦後の処理と、拡大し過ぎた事業の板ばさみで寝る暇すら無かった。

 助手のような次期水影候補である長十郎も休む暇はもちろん無い。

 

 「あぁんもう! 何で今まで出来ていたはずの事が出来ないのかしら……」

 

 それは物資の輸送手段。失われた何か。ロストテクノロジー。

 メイの会社が使っていたはずのその輸送手段が使えなくなってしまったのだ。

 

 違和感しかないが、何を使って輸送していたのかそんな些細な事よりも膨大な荷物、商品を届けるほうが先なのである。

 水の国の霧隠れの忍達全員をフルで使っても補え切れない販路。

 何らかの手段で簡単に出来ていた事、それが出来ていない。

 故にその販路を縮小するハメになった。だが、縮小してもしきれないほどにメイの会社は巨大であった。

 

 「うぅ……」

 「悲劇のヒロインぶってないで仕事してください!」

 「うるさいわね……ちょっとくらい良いでしょ」

 

 お菓子が食べたい。唐突にメイはある菓子が食べたくなった。

 

 「シズネちゃんを引き抜けば良かったわね……」

 

 戦後共にアイデアを出しながら会社を大きくしてきた片割れシズネを水の国に招聘するべきだったとメイは考えた。

 あともう一人居た気がしたが、その思考は忙しさに忙殺された。

 

 

▽▼▽

 

 

 「これで良かったのかモミジよ?」

 「故郷に帰れてわたし満足! かもね」

 

 いやー苦しい戦いでしたね(大嘘)。その為の不死、あとその為の月。

 味方に兎の女神の存在が無ければ苦戦していただろうね。

 音の里で作ってたハイヴもどきからロケットを射出して、この世界に居る月の民を蹂躙するBET○ごっこはお蔵入りです。

 あの眼が退化したBET○もどきさん達や死人である穢土転生体全ては今、この月に住んでいる。黄泉の星だね!

 

 あれからどうなったか。とりあえず、俺が遥か過去に作っていた対創造主(自称)を封じる為の設備がまだこの月に残っていた事を思い出して、俺が産まれた別次元の月をカグヤちゃんブーストで召喚。

 召喚する際、この世界の月をその住民ごと俺がかつて居た世界へ置換してやった。

 せいぜい創造主と戦い滅んでください。俺あの紫色の竜大嫌いだから共倒れしていてくれたらいいなって。一石二鳥とはこの事だ。

 

 そしてマダラや鬼と呼ばれていたこの世界のカグヤちゃんを俺や兎の女神のカグヤちゃんと共にそこへ置換して、召喚した月に封じた訳ですよ。

 もちろん代償はある。俺がこの星から離れられなくなってしまった。

 飛雷神の術で大蛇丸やらヒナタがいる地球? へでも行こうものなら封印が解けてしまうくらいの代償である。

 影分身とか余計なチカラを使おうものなら封印が解けられて世界がヤヴァイ。

 

 俺はどこぞの白皇かよ。

 

 鬼の方のカグヤちゃんが融合しきってるチカラの源が俺と融合しているチカラの源と同じ類というか、同じモノなのが原因だからあながち間違っていない。

 

 かつて滅ぼされた7つの古来種。その怨念。世界から見放された魂の果て。そのチカラは一つのセカイに匹敵する。

 

 その憎悪の側面があっちの、鬼のカグヤちゃんと融合しちゃったのがそもそもの始まり。

 そりゃあチャクラというか自然エネルギーに長時間触れている人は人格歪んでも仕方が無いし、よくわからん言動だったりする訳だ。

 

 このままだと折角ヤバイの封印しているのに世界が狂った人々によって自滅で滅んでしまう。

 そうなるのは流石の俺でも引くので、カグヤちゃんに頼んで普通の思考回路になるように忘却の術やらなんやらを無限月読もどきやらのついでで世界の人々にかけてもらった訳だ。

 恐らく戦争なんて反対だぜ! 平和に殴り合いで解決しようや的な思考回路になっているに違いない。これが緋想天……ッ! 

 

 ついでに俺に関する記憶も消してもらった。

 

 俺という存在の認識から鬼のカグヤちゃんのチカラが漏れ出したり、封印が綻んでしまうのを防ぐ為である。

 封印術って使い勝手が良いようで、実は結構悪い。

 

 思いのチカラがその他全てを凌駕してしまうのが宇宙なんだよなぁ。

 

 多少の綻びから鬼のカグヤちゃんや、ガンギマリのマダラが封印から解けられた! ってなって、月面戦争勃発とか嫌だからねー。

 俺はルナリアンになりたい訳ではないからね。そういうのは恋愛原子核に任せるのだ。

 この世界には居ないけどね。居たら戦術機で侍達と共に俺TUEEEしているだろう。

 

 そしてこの持って来た、廃墟だった月も復興が進んでいる。

 自分の糞を肥料にしてじゃがいも作って一人で生活していた、火星での日々を唐突に思い出した。俺の糞はうまいなぁと自問自答系第六天スマイルしてたっけ。あの頃は過酷でした。

 

 復興作業は四代目火影の穢土転生体が結構頑張ってくれてる。

 息子と会話できる機会がそんなに嬉しかったのかな。すごい俺に感謝してくれて復興作業を手伝ってくれているが、俺はそんな善意でやった訳ではないので……何かげんにょりする。

 

 世界の監視も兎の女神であるカグヤちゃんにお任せである。

 こうして忍世界の平和は兎の女神の抱擁によって保たれるのだった。

 何か黄昏の世界みたいだな。三人の守護者が居ないが。

 無理矢理当て嵌めるならマダラが飢えた獣役で鬼のカグヤが蛇役か?

 どちらかと言えば扉間だよな蛇役は。彼も今この月に居る。

 

 「モミジよ。やはりオレの目に狂いは無かった。感謝する」

 「ああ、うん。どういたしまして」

 「感謝を身体で示しても良いか?」

 「やめてよね、封印解けたら扉間さんのせいだよ」

 「冗談だ。ガハハハハ!」

 

 彼の正体は俺の射干……ではなく使徒。正確に言えばこの世界における俺の中にあるモノの端末候補だった奴。

 通りで狂っている訳だ。俺の中にあるやばーいのにモロで繋がっているヒトガタなのです。

 そりゃ無茶苦茶な強さと人格で、俺の本気に近い攻撃が通用しないはずだ。

 俺の身体を拉致ろうとしたのも、さっさとこの月に移動させて飛雷神でマダラと十尾になる前の外道魔像を封印するつもりだったらしい。

 ある程度忍達に戦いを経験させて、強くして元々あった月の、その内侵攻してきそうな勢力に対抗する為の、裏切りというより戦争を操作しやすいように敵側に居たとかなんとか。

 

 絶対楽しむ……愉しむために違いない。コイツ俺と似たような思考回路になってるはずやし。

 

 前もって言ってくれればもう少しましな結末になったかもしれないが、そんな協調性は俺も彼も持ってないし存在しない。ガハハ。グッドだー!

 

 ふと、緑の鬼畜王になった気分で復興しつつある町並みに目をやる。

 かつて破壊しつくされた町並みは、その栄華を再び取り戻しつつある。

 俺の中の自我が消えた魂達も浮かばれるだろうかと、柄にも無く感傷に耽ってしまうのは里帰りのせいである。

 

 平和って意図も簡単に邯鄲な感じで作れるし壊す事もできるんだよね。

 それを保つのが大変なんだ。だが、それは俺の仕事ではない。生きている人間達の仕事です。

 見守る系は俺やカグヤちゃんがする。だからまぁ、頑張れよ。おめぇも頑張んだよって言われそうだが気にしない。

 

 さて、これからはこの黄泉の国みたいな月でツクヨミちゃんごっこでもしつつ、平和な世界を眺めながら余生を送りますか。

 あ、大蛇丸が変な表情でカブトを見つつ命令してる。違和感に気付いたんだろうね。彼というか彼女は鋭い。

 伊達に両性類ではないな。不死になってることにいつ気付くのだろうか。気付いた時、違和感が確信に変わるのかな。

 俺が関わらなかった場合の大蛇丸というのを遠くから見守るのもおつである。

 大蛇丸ってしつこいし、蛇だからどっかに記憶とかバックアップとってるかもしれないね。

 その時はカグヤちゃんの判断にお任せー。俺は知らない。関与せん。

 

 ――幸せに暮らせば良いよ。元気でね。

 

 ヒナタはと言えば、元の体と仲良く日向家で暮らしているね。

 ネジはテンテンと仲良くファッション界で活躍しているようだ。

 流石ネジ。あの美しさは恐らく宇宙で通用する。頑張るんやで。

 

 ――欲を言えば、あの輪の中に自分も居たかった気がする。

 

 なんだか久々にあんにゅいだね。陽気な妖精さんでも見て癒されよう。

 

 「オイ! 月でも温泉掘れるんだな! マジ良い湯だぞこれは!」

 

 温泉妖精である幻月のおじさんが温泉を掘り当てて喜んでいる。

 相変わらず元気で陽気で困ったもんだ。

 彼は扉間が穢土転生で蘇らせた穢土転生体で、俺に対する連絡網係のような存在だった。

 

 今は他の穢土転生体のニンゲンもどき達と共に月の復興の為に働いてくれている。

 扉間は相変わらず訳のわからない事ばかりやっているが、封印さえ弄らなければ好きにすれば良い。

 

 「今のわたしってきちんとした自我(、、)があるのかな? ねぇ、カグヤちゃん」

 

 ふと、隣に居る兎の女神に禅問答みたいな問いを問いかける。だって暇なんだもの。

 退屈は精神を殺す。ほら、どっかの金髪で銃ブッパする三蔵も言ってたし。

 俺が封印に飽きて逃げないように、水晶の術を側で使っているカグヤちゃんに問いかける。

 

 「ソナタはソナタであってそれ以上でもそれ以下でも無い。例え自我が薄れ、別物になっていたとしてもな」

 「兎の女神さまにそう言われると納得できるようなできないような」

 「そんなどうでも良いことよりもほれ、ソナタの妹がまた問題を起こしておるぞ」

 「えっ……あちゃー……」

 

 記憶が消えてもそれまで培ってきた体術やらチカラが無くなる訳ではない。

 いつのまにか模擬戦していて、担当上忍ふっ飛ばしちゃってるヒナタ。マイシスターとかサクラと訓練する時は皆命がけだね……

 

 ナルトもサスケも木の葉の女の子に食われつつも、平和を享受している。おそらく、穏やかな日々が続くだろう。

 兎の女神が見せた、あの未来にはならないはずだ。三代目火影さん? 約束は果たしたよ。

 あとマンダ。ちゃんとお願いされた事はきちんとしてやりましたよ。喜びやがれです。

 

 もう俺の事なんて思い出すことも無いだろうがな。ぺっ。

 

 なんだかとってもエターナルな存在になってしまった気がする。

 永遠神剣なんて持ってないんだけどな。あ、草薙の剣を大蛇丸に返すの忘れてた。

 ま、いっか。大蛇丸の代わりに愛で用としてとっとこう。別に剣に執着する剣狂いではないけど、なんとなくね。これくらいは持っていても良いだろう。

 

 いつか朽ちるかもしれない平和。

 この兎の女神の治世を脅かすような、そういった危険な種族やら、人物が出没するまでは、この向こう側の月と共に世界を見ながら余生を過ごしつつ、まったりやりましょうかね。

 

 もう俺も狂った輪廻に還る事は無いだろうしね。俗世よさらば!

 そんな俺の思いを他所に、何者かが月に侵入してきたと扉間から報告があった。

 

 「この月を認識している存在は限られているはずなんだけど……」

 

 大規模な封印魔術と結界により、大半の存在はただの月だと認識しているはずなのだ。

 そこに誰かがやって来るという事は、多次元宇宙からの侵略者だろうか。まさかト1ロEF2ホか?

 

 隣に居た筈のカグヤちゃんがいつのまにか居なくなっている。緊急事態じゃねえか。はしゃぎまわってた幻月も報告に来ていた扉間も近くに居ない。

 嘘だろ……まさかこの一瞬で何者かに存在を消されたのか?

 困惑する俺を他所に何故か聞き覚えのある声が耳に届く。

 

 「他の連中ならまだしも、私を欺けるとでも思ってたのかしら」

 「えっ……」

 

 馬鹿な。いくらなんでも早過ぎる。カグヤちゃんの術が解けた?

 

 「今まで散々振り回されて来たのだから、これからは振り回してもいいわよね」

 「えっ……えっ?」

 

 やばい。封印は大丈夫なのか。そんな風に困惑しながら封印をチェックするが、異常はないっぽい。あるぇー?

 

 「安心なさい。封印には影響は無いはずよ」

 「どういうこと?」

 「貴方と似たような事をしたまでよ。別次元の私を使ってね」

 

 何でも俺が昔教えた魔術を応用して、とうとう別次元の自分すら召喚できるようになっていたらしい。

 樹に飲み込まれてた方は別次元の方かよ……どおりであっさりやられてるなぁとは思ったが。じゃあさっき覗いて見たのも別の方か。

 いつ入れ替わってたんだろう? 何か教え子に上回られた気分。元が違い過ぎて比較対象にもならんか、この天才は。

 よく見れば解脱してるし、マダラレベルかよ。そらここに居ても問題ないわ。

 そして事前にこっそりカグヤちゃんに教えてもらっていたみたい。亜空間女子会かな。俺も混ぜろよ。仲間はずれよくない。まったく……目の前の……

 

 「前にも言ったでしょう。逃がさない」

 「……うん」

 

 抱擁されるのは久々である。

 何だか急に気恥ずかしくなって、顔を見れなくなって別の方角を見るとカグヤちゃんと扉間と幻月や四代目火影が良い笑顔でピースしてやがった。

 カグヤちゃんは許す。幻月や四代目も悪意は無いだろう。

 だが扉間、てめーの笑顔は悪意に満ちている。むかつく。後で扉間を封印しよう。




永遠の楽園(ツォアル)END











■あとがきとか言い訳とか■
 所謂ヒロイン大蛇丸で恋愛成就しない系かと思えば、逃さないわよED。
 ボールが友達だったとある人物が、気付けばパチンコ玉が友達になっていたみたいな、そんな感じなんだよ。

 Q.何で一ヶ月あいたん?
 A.ランス10で忙しかった。ケイブリス戦のBGMを聴いた時ぐう興奮した。
 最終戦で血の記憶を聴きながら神ゲーだったと満足し涙がでた。虚無感がやべえ……

 ブックマーク入れてくれてる方、全部読んだ方、ここまでお付き合いくださいましてありがとうございまし。
 後は長くなるので割烹で。

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