ヒナタの姉はやべーやつ   作:闇と帽子と何かの旅人

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Techno break incident


カブトのなく頃に

 まさか中忍試験中にトイレで大名がぶっ倒れるとは思わなかった。かつて29万石の大名に憧れていた俺は、この世の世知辛さをよく知っていたつもりだったがまさかな。 

 今生の世界に困った時の始皇帝様が居ないので、詳細な原因はわからないが、何か致命的なモノがトイレにあったに違いない。

 

 嫌な事件だったね……と、中忍試験を早々にリタイアした薬師カブト君は語っていたが、唐突に喉を掻き毟りながら『あの時のおはぎか! ダンゾウめぇえええ』と叫びながら死亡した。

 これに対し闇の火影である猿飛ヒルゼンは『彼はセミのような人生だった』と、彼に対して後世に残るエールを送る。尚、中忍試験が再開する頃に復活しているだろう。

 

 そんな事よりも俺はヒナタにお持ち帰りィされてしまい、ヒナタにねっとり嬲られた。ネジを女の子にした彼女の強さは、最早上忍どころか現在の影達ですら霞むレベルになっていた。

 だが、そんな彼女の強さよりも俺とヒナタとの絡みの方が観客と大名達には好評だったようで、ヒナタと共に表に出れば、有名女優扱いされているレベルでサインと握手を強請られるくらいには人気な模様。

 それくらいならまだ良かったのだが、時たま蔑んだ目で踏んでくれとヒナタに金を渡して懇願する熱烈なファンまで登場する始末。こんなプチサポのお誘いが多い里にヒナタを置いて置く訳にはいかない。

 

 「お姉ちゃんの里に来る? こんなんじゃ普通に生活できないでしょ」

 「うん!」

 

 なので、俺の里へ避難するかと問いかければ二つ返事で早く行こう早く早くと、俺がまるでそう言い出すのを待っていたかのように抱きついてきた。ヒナタにしては珍しく公衆の面前で積極的に俺に絡んできていたのはもしや……いや考え過ぎだな。

 ヒアシに説明すればヒナタをよろしく頼むと言われ、ハナビと言う新しい妹にはヒナタ姉さんをお願いしますと頼まれた。日向の家は任せたよと言えば元気に『はいっ!』と使命感溢れる目で返事していたので大丈夫だろう。

 

 ナルトとサスケもヒナタと俺が心配で様子を見に来てくれた。と、思いたい。

 

 「俺達ヒナタとモミジ姉ちゃんのお陰で……目が覚めたってばよ」

 「ああ、女の子同士というのは盲点だった。礼を言わせてくれヒナタ、モミジさん」

 

 何故俺達姉妹は礼を言われているのだろうか。君達も大名と同じように目覚めし者になったのか。ヒナタもヒナタで『良かったねナルト君、サスケ君』とニコニコ笑顔でその礼を受け取っている。

 退院して元気に女の子しているネジも、こっそり俺達の様子を覗いていたようだが『ナルサス……だと……』と、こちらは何か別の方向に勘違いしていた。

 

 やめてくれネジ、その固有名詞はかつて10秒戦争に敗北し、心が折れた俺に効く。

 俺は亡国の王子役をやめて、領主をする仕事に戻った悲しい過去を思い出していた。この世界にファヴランデレちゃん呼べねえかな。滅ぼしたくなってきた。

 

 少々あんにゅい所か、Yeah! めっちゃ滅ぼしたい。という気分になってしまったが、ヒナタがイイ笑顔で手を握りしめてきたので自重した。

 

 

 

 

 「火影、どう責任を取るつもりだ!」

 

 火影室にて三代目火影を怒鳴りつけながら筋肉アピールをしているのは、雲隠れの里の長の四代目雷影aだ。今はこの場に居ない四代目風影とは対象的にaは煩い。 

 

 「貴様らの杜撰な警備のせいでうちの国の大名がテクノブレイクに襲われた。もうこれは国際問題だぞ!」

 「それはそちらの監督不行届ではないのか雷影よ。火影だけを責める訳にはいかんわい」

 「大名様方が全員同時にトイレに行くなんて、誰も予想……できないと思いますわ」

 

 三代目土影オオノキと五代目水影照美メイは火影を援護するような姿勢を見せる。四代目風影は大名と共に既に帰っているのでこの場には居ない。三代目火影はやれやれと肩を竦めながら煽る。火に油を注ぐ様は、火影という肩書きに恥じない立派な立ち振る舞いであるという事に、この場に居る全員は疑問を持ちようがない。

 俺も音の里長としてここに呼ばれている。雨隠れの里長も横に居るのだが、フォースを身に纏って『シュコーシュコー』と呼吸音を響かせるだけ。誰が呼んだんだコイツ。

 

 「ええい黙れ! 元はと言えば貴様のせいだぞ音の里長。貴様が何故木の葉で担当上忍までやっているのか知らないが、貴様が妹を止めていれば良かったのだ。それを成されるがまま……」

 「あいや待たれよ雷影殿。その理論で行くならば貴方にも責任がある」

 

 急に矛先が俺に来てどうしようか悩んでいると、困った時のミフネさんが助け船のビックウェーブに乗ってやって来た。

 

 「なんだと」

 「各国の大名様方がトイレに行った時、貴方はナニをしていたのか、今この場で説明できますかな?」

 「ぬぅう……」

 

 やはりミフネさんは頼りになる。彼には色々と世話になった。もちろん俺もギブ&テイクで剣術を教えに、たまにサムライの国に特別講師として働いていたからイーブンな関係だけどね。

 そう言えばあの時、雷影は五影達が座っている場所で堂々とシていたな……ナニとは言わないが。すぐさま水影に注意され、控え室に渋々向かって行った程の漢らしいジンブツなので俺も嫌いになれない。だが責任転嫁はよしてくれ。

 

 「無益な争いはやめなされ……」

 

 その時、呼吸音を響かせるだけだった雨隠れの里長が喋った。まるでどこかの坊主のように、この場に居るモノ達を諭す。コレには一同騒然。俺も反論しようと思って開きかけていた口を閉じる。

 

 「貴様喋れたのか、雨隠れの」

 『シュコーシュコー』

 「……」

 

 おわかりいただけただろうか。とナレーションが脳内を埋め尽くすかのような、怨霊の仕業かと一同の興味はソレに集中する。怪奇現象かもしれないと、この場をまるでコープスするパーティの様に空気を変えた雨隠れのハンゾウ。やはり只者ではない。

 

 「チッ。水を差されたか。火影、音の里長。後日、使者を出す。使者が着くまでに考えるのだな。貴様らの怠慢で起こった事の重大さを」

 

 そう言い残し、この場を去る雷影。やれやれじゃわいと土影は俺の側まで来て、これから忙しくなるのぅ。と、呟いて去っていく。水影は婿探しツアーの最中だったらしいので、ソレを再開する為に同じく去っていく。

 

 「モミジ殿、大変ややこしい状況になりましたな。何かありましたら、いつでもこのミフネを頼ってくだされ」 

 「ありがとう。ミフネさん」

 

 同盟関係である鉄の国のサムライ大将であるミフネさんは俺の味方をしてくれるらしい。パワードスーツの開発を協力したのが功を奏したのか、武士達の修行をつけたのが功を奏したのかわからないが。何時も協力的だ。

 雨隠れのハンゾウは呼吸音を響かせながら、火影室にある花瓶を手に取る。すると火影室の家具が動き始めた。やはりコイツは只者ではない。

 

 「モミジ。いや、音の里長殿。儂ら木の葉も困った時は助け合おうと思うのじゃが、どうじゃろうか」

 「そうだね……互いに目を付けられたモノ同士助け合おっか」

 

 そんな風に火影であるヒルゼンと話していると、雨隠れの長ハンゾウも何故か俺に向かって人差し指だけ差し出す。

 

 「えっと……」

 『シュコーシュコー』

 「これでいいのかな」

 

 とりあえずE○ごっこすると見せかけて俺の口元に添えてみた。満足げに頷いてくれたので多分対応は間違っていないだろう。もしかしたら俺のファンなのかもしれない。

 こうして鉄火雨音の四カ国同盟が締結されたのは、ある種の必然的な流れだったのかもしれない。好戦的な雲隠れの里の長は恐らく宣戦布告してくるだろう。岩隠れの里は中立を装いつつ弱った里を攻めてくるかもしれない。霧隠れは……男を攫いに来そうだ……

 後にテクノブレイク事件と後世に語り継がれる大事になりそうですね。サラエボかよ。ナニが火種になるかわからん! アンイン橋の橋渡しさん助けて。

 

 

 

 

 「踊れ、遍く万象。全ては卑の女神を彩る舞台装置。オレの脚本に踊る演者達よ」

 

 里長達との会議があった後の夜。木の葉の里の火影岩の上で、どこかの水銀のようなセリフを吐いているのは……木の葉の里の二代目火影だった男。千手扉間。思えば初めて出会った時からコイツはおかしかった。

 『貴様に恋をした、どうかこじ開けさせてほしい花を』と、無理矢理俺の花を開こうとしたくらいおかしかった。思わず落魂陣でコイツを攻撃してしまったのは言うまでもない。

 だがコイツには通用しなかった。それどころかコイツは爆笑しながら、逃げている俺を元気に追い回す始末。何故通用しなかったのか。何故ならコイツは……いや、ソレは今関係ない。

 

 「計画はどうやら大幅に変更せざるを得なくなったな、モミジよ」

 「……邪魔はしないでと言ったはずなんだけど」

 「弟子に試練を与えるのは師の特権よ。ガハハハハハ」

 

 爽やかな笑顔で爆笑してやがる。ヒルゼンやダンゾウが凄まじいパワーアップをしていたのはコイツのせいだ。なんだアレは。最早盧生の眷属か第六天射干レベルじゃねえか。

 

 「千手扉間……あなたは敵? 味方?」

 「ふむ。信じるかは知らんが、オレは常に弟子の味方だぞ」

 

 それはどの弟子に言っているのだろう。ヒルゼンとダンゾウか、それとも俺か。障害になりかけているコイツに対し、今後どう接していいのかわからなくなった。

 

 「……本音は?」

 「師をそんな眼で見るものではないぞ。弟子の機嫌を取るのも師のつとめだな。よし胸を揉んでやろう」

 

 そして飛雷神の術による追いかけっこが始まる。常にこれだ。はぐらかす。まるでかつての自分自身を見ているようで腹が立つ。同属嫌悪と言う奴なのだろうか。逃げながらも扉間に問いかける。

 

 「木の葉の里と同盟を組ませる意味は? 巻き込みたいの?」

 「今の木の葉は腑抜けている。故に試練を与えるまでよ。オレはオレのやり方で木の葉の里を守る。まぁお主のお守りのついでだがな」

 「ついで……ね」

 

 俺にマッサージを施し俺の身体を労わるくらいには、コイツは俺の味方なのかもしれない。とんでもない所まで触って揉みしだこうとするのは、ただのコイツの趣味だろうが。

 下手に穢土転生弄らなきゃよかった。何かよくわからないモノを召喚してしまった。成功したと喜んでいた過去の俺を殴りたい。

 鉄砲でもあれば扉間に向けて発砲していたに違いない。今宵は朔だしね。マブダチだったあの子を思い出す。アイツ男作って幸せになりやがったけどな。ちくしょうめ!

 

 「姉さんにナニをしようとしているのですか? 二代目様」

 「……ちょっとした冗談ではないか、そう睨むでない。怖い怖いお主の妹が来たのでオレは退散しよう。では後を頼むぞモミジの妹よ」

 

 そしてそんな俺を庇うように飛雷神でやってきたヒナタ。俺のピンチにかけつけてくれる彼女は、俺にとっての英雄なのだろうか。俺は別にくしゃみでパンツ脱がせる技能を持っている訳ではないのだが。

 

 「姉さん。大丈夫。これからはずっと守ってあげるから」

 「……うん。ありがとう。ヒナタ」

 

 何か忘れている気がする。だが思い出そうにもノイズがかかる。

 

 「姉さんは何も心配しなくていいんだよ」

 

 だから安心してね。と、俺を抱きしめてくるヒナタは良い子ですね。何か大切な事を忘れている気がする。記憶の混濁具合も相まって、俺は混乱の極地に至っているが、忘れるモノなんて些細な事だろうと忘れる事にした。

 無くしたモノに価値なんて無いんだから。と、柄でもない愁傷な気分に浸りつつ、ヒナタと木の葉の里を後にした。




登場人ブツ

薬師カブト 時報

火影 火に油を注ぐ者也

困った時のミフネさん モミジに援助している パパ活ではない

メイちゃん 霧隠れの里で水影やってます。彼氏募集中です(ゝ∀・)☆

雨隠れの里長 別名イワナのハンゾウ 世界七大怪奇現象の一つ

卑の女神 10秒戦争に敗北し挫折した過去がある

卑道神 兄である青春の神と鬩ぎ合いをしている

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