吸血鬼少女   作:フリッカ・ウィスタリア

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ここはドイツの貧民住宅地
生活している人間は皆、金に飢えており、明日の食いぶちもままならない状態だった


少女は心を歪ませ化け物となる

ノエル「ねぇ、お母さん…お腹空いた」

母「…」

ノエル「お母さんってば!」

母「うるさいわね!ただでさえガキの声は高くて頭に響くんだから静かにしな!」バシッ!

ノエル「だって…」

私の家は母子家庭で、父親は去年他の所に女を作って出て行ってしまった。その結果、母は精神が安定しないのかヒステリック気味である

その為、母は働きに出る事も出来ずどんどんうちは貧しくなっていき、すぐに学校にも行けなくなってしまった

だから、お母さんは最近ずっとイライラしていて、私がお腹が空いたことを言いに来ただけで怒鳴り散らし、八つ当たりする始末だ

母「チッ…これでも飲まなきゃ、やってられないわよ…」

そう言ってお母さんは何かの錠剤を飲み始めた

ノエル「お母さん!そんなにお薬飲んじゃったら体悪くなっちゃうよ!?」

母「うるさい!アンタは私のする事に何でもかんでも口出ししてくるんじゃないよ!」バチンッ!

ノエル「痛い…(きっとお母さんは疲れてるんだ…もう少ししたら前みたいな優しいお母さんに戻ってくれる…それまでの我慢だよね…)」

ノエルは父親が家を出て行ってから人が変わってしまった母がいつかは必ず昔の様に戻ってくれると信じ、ノエルは10歳の体で母の暴力も暴言も耐えていた

ノエル「…お母さん、私もう寝るね…」

母「ああそうかい、とっとと寝な!ようやく静かになるわ!」

私はずっとグーグー鳴っているお腹を押さえながら眠りについた

 

次の日

学校にいけない私は昼間は時間を持て余しており、いつも廃品回収の場所に行き何か教材になる物がないかを探しに行っていた

だが、教材などそうそう捨てられている訳もなく、今日も不作に終わった

ノエル「お母さんただいま…」

母「ようやく帰ってきたか…ノエル、あんた私の代わりに働きな!」

ノエル「働く?お仕事するの?」

母「ああそうだよ」

ノエル「どこでお仕事すればいいの?」

母「3番地でガキでも雇ってくれる職場があるって聞いて、話は通してある。そこで働いてきな!」

ノエル「そ、そうなんだ…」

理不尽な怒られ方をしたノエルだったが、これも母は薬が切れてイライラしている所為だと言い聞かせ、言われた職場へ働きに行った

その職場は、子供でも働かせてくれるというだけあって職場環境は最悪で、従業員は奴隷のように働かされるのにも関わらず賃金は2人で暮らしていくのもやっとな金額だった

しかし、それでも母の薬の為、自分達が生きていく為と自分を鼓舞し文句を言わずに必死に働いた

 

半年後

あれから長い間私は働き、毎日のようにあちこちが痛む日々を送り、こき使われた後は死んだ様に家で眠るという毎日だった

そんな事をして必死に稼いだお金もお母さんの薬代へほとんど消え、残りのお金は生活費に消えてしまい、全く生活は楽にならなかった

母「こんなお粗末な金額じゃ生活できないじゃないか!もっと稼いできなこのバカ娘が!」

娘が身を削って働いているのに全く労ってくれないどころかもっと儲けを要求してきた

その言葉を聞いた瞬間、私は我慢の限界を迎えた

ノエル「いい加減にしてよ!」

母「な、何を言ってるんだい!親に向かって…」

ノエル「育ててくれたことは感謝してる!お父さんが出て行っちゃったのもかわいそうだと思う!でも、私はお母さんの奴隷じゃない!私だって頑張ってるのよ!」

そう言って私はキッチンに置いてあったナイフを手に取った

母「ちょっと待ちな!まさかそれで私を刺す気かい!?」

ノエル「そうよ!お母さんは私がどれだけ頑張っても一回もほめてくれた事なんてない!私もうこんな生活は嫌!!」

そう言いながら私はナイフを振り上げた

母「こ、殺されてたまるもんか!ふざけるんじゃないよ!!」

母親は逃げ出したが、最近は薬を飲んでは寝て、また起きたかと思えば薬を飲んでまた寝るを繰り返していた為、身体中の筋肉が衰え、足の回転がかなり悪くなっていた

その為、ノエルにすぐ捕まってしまった

母「ノ、ノエル!命を大事にしろって学校で習ったはずよ!?こんな事していいと思ってるの!?」

ノエル「お母さんの為に学校に行かずに必死に働いてたじゃない!今更、綺麗事を並べないで!」

既に自分の精神が普通ではなくなっている事に気が付かず、ノエルはナイフを母親の胸に振り下ろした

母「やめ…て…ノエル……死ん…じゃ……」

お母さんは何か言っているようだったが、最後まで言い切る事なく息絶えた

ノエル「ハ…ハハ…ハハハハハ!」

最後の最後まで抵抗していた為、母親の顔は苦悶の表情を浮かべていた

ノエル「ようやく…ようやく自由になる事が出来た…」

自由になったと安心した直後、ノエルは眩暈がし始め、そのまま母親の傍らに倒れ込んだ

ノエル「(あれ?手も…足も動かない…それに、なんかすごく眠い…)」

ノエル自身は気がついていなかったが、半年前からずっと働き詰めだったノエルは本来、以前の倍以上カロリーを摂らなければいけなかった。しかし、食事の量も質も以前と変わらない生活を送っていた為体が栄養失調を起こしていたのだ。ずっと母の為を思って頑張ろうとしてノエルの体はありもしないカロリーを消費し、文字通り命を削って体を動かしていたのであった。その為、心の支えであった『母の為』という信念が崩れた今、ノエルの体は限界を迎えていた事を今更ながら知覚したのである。

 

次の日

隣人「オーデンさん、オーデンさん!入りますよ!」

数日前からノエルの家の母親が外に出てこない事が周りの家庭にも噂になっており、隣人が周りの人から様子を見てくるように頼まれたのだ

隣人「ん?ドアに鍵がかかってない...不用心だなぁ...」

そんなことを呟きながら隣人はオーデン家に足を踏み入れ、リビングでノエル達親子の死体を発見した

隣人「なっ!?オーデンさん!?ノエルちゃん!?け、警察を呼ばないと…」

隣人は死体を見たことで気が動転したものの、警察を呼ぶという事を思いついた

この時代はまだ携帯が普及していなかった為、警察は最寄りの警察署まで自分で行くしかなかった

その時あまりに慌てていた為、隣人はオーデン家のドアを開けっぱなしにしたまま行ってしまった

すると、家の中の食べ物の匂いに釣られてきたのか、一匹の猫が家の中に入ってきた

その猫はリビングを歩き回った後、キッチンを見つけ、棚の上に置いてあったバナナを咥えてリビングに戻ってきたが、バナナを咥えていたことで視界が狭まり、ノエルの死体に気が付かず躓いてしまった

猫は少し考えた後、乗り越えられない程ではないと判断し、ノエルの体をよじ登り、乗り越えて外へと出て行った

その時、一瞬ノエルがピクッと動いたように見えたが、猫は無視して行ってしまった

 

1時間後

隣人「ここです!親子が倒れてるんです!」

警察「救急隊員の人は生死確認を!」

隊員「分かりました」

素早く隊員はノエルたちに近付き、心臓の音を確認し、次に瞳孔の開きなども確認した

隊員「…だめです。既に母親の方は死後硬直が始まっていて、娘さんの方も心臓が動いていません。蘇生は不可能だと思われます」

警察「そうですか…わかりました。貴方、署で発見時の状況を聞きたいのでご同行願えますか?」

隣人「は、はい…」

隣人に同行許可を得てから、警察はトランシーバーで連絡をし始めた

prrrr…prrrr…

鑑識「はい、こちら鑑識」

警察「鑑識、現場を検査して欲しい、至急こちらへ向かってくれ」

鑑識「了解、30分程でそちらへ着く」

警察「さぁ、行きましょう」

警察に促され、隣人はパトカーに乗って警察署へ向かっていった

 

数分後

ノエル「う…うぅ…頭が…グラグラする…」

なんと、先程まで物言わぬ死体と化していたノエルが生き返ったのだ

いや、正確に言えば今も心臓は止まっている為、生き返るというよりは起き上がるという表現が正しいだろう

ノエル「私…体の力が抜けて…それで…」

意識を失う前の状況が曖昧になっていたが、ノエルの頭の中には他の感情が渦巻いていた

ノエル「(なんか…すごく喉が渇いたなぁ…)」

何か飲み物はないかと周りを見渡すと、目の前に横たわるお母さんが目に入った

ノエル「(お母さんの血…おいしそう…)」

自分の奥底から湧いてくる感情が抑えきれなくなり、少しずつ母親に近付き、ノエルは母親の傷口から血を吸い出した

ノエル「血…おいしい…」

飲みたいという欲求のままに血を飲んでいたノエルだったが、遂に母の血液を飲み干してしまった

ノエル「ふぅ…ちょっとだけ体が楽になった」

先程までの頭痛と喉の渇きがマシになり、改めて今の自分の状態を確認し、自分がしてしまった事をようやく理解した

ノエル「わ、私…お母さんを…どうしよう…」

ノエルは狼狽えつつも、外から音が聞こえてきていることに気が付いた

ノエル「(誰か家に近付いてきてる⁉に、逃げなきゃ…)」

捕まりたくないという一心でノエルは屋根裏へと逃げ込み、息を潜めた

鑑識A「この家だな」

鑑識B「何か手掛かりが見つかるといいんだがな」

鑑識C「あれ?おかしいな…」

鑑識A「なんだ?何か見つけたのか?」

鑑識C「なぁ、この家の死者は母親と娘の2人だよな?」

鑑識B「?…そのはずだが?」

鑑識C「…娘の遺体はどこにあるんだ?」

鑑識B「本当だな。ちょっと聞いてみるか…」

prrrr…prrrr…

警察「なんだ?」

鑑識B「件の家に娘の遺体が見当たらないんだが、どこにあるんだ?」

警察「は?母親の傍に倒れているだろ?」

鑑識B「少し待ってくれ……いや、母親の傍どころか、隣の部屋まで探しても見当たらないぞ?」

警察「どういう事だ!?遺体が消えただと!?」

鑑識A「それにもう一つ、母親の遺体から血が全て抜かれている。首元に唾液と思われる液体が付着しているが…流石にサンプルが少なすぎる。これじゃ誰のものか分からないかもしれない」

警察「…わかった。第一発見者を署へ連れて行った後、俺もすぐそちらへ戻る」

連絡を切り、鑑識は仕事を再開し、1時間弱が経ったところで先程の警察が戻ってきた

その後、日が暮れるまで家の周りへ聞き込みをし、ノエルの遺体の行方を探した警察達だったが、まさかノエルが蘇って屋根裏に潜んでいるなどと思う筈もなく、何の手掛かりも掴めないまま現場からも母親の奇妙な遺体から見つかった唾液以外何も見つからず捜査を切り上げる事となった

 

ノエル「(…静かになった?)」

真っ暗な屋根裏からそっとリビングを覗き、母の遺体が無くなっている事と、警察達が帰った事を確認したノエルはリビングへ飛び降りた

ノエル「これからどうしよう…」

このままこの家に住み続けているのは流石にリスクが高い

ノエル「…逃げるしかない…か」

今は夜という事もあって、外を出歩いている人は皆無である。逃げるなら今しかないだろう

そう結論づけたノエルは家にあったフード付きのコートで顔を隠し、外へ出た

ノエル「(あれ?ここら辺って夜でもこんなに明るかったっけ?月が出てるからかな?)」

私は空に浮かぶ半月を見つつ、少し引っかかる事はあったが、夜の闇に消えていった

 

数時間後

ノエル「(さっきからずっと走ってるけど、全然疲れないわね…それに、私ってこんなに走るの速かったっけ?)」

ずっと走っているのに疲れを感じない事に疑問を感じたノエルだったが、疲れない事に越した事はないので、その疑問はすぐに頭の片隅に追いやられた

ノエル「もう日が出始めたわね…!?熱っ!?」

突如、手と脚を焼く様な痛みが襲い、ノエルは咄嗟に近くの木の陰に飛び込んだ

すると、痛みは無くなったものの、手足に火傷のような跡があった

ノエル「な、何で急に手足が…」

とにかく、どこかで冷やそうと池を探した

しかし、影から出ると再び先程の痛みが襲ってきた

ノエル「まさか…太陽で焼けちゃったの?まるで…吸血鬼じゃない…」

そこまで考え、あることを思い出した

ノエル「(昨日の夜、お母さんの血を欲したのって、私が吸血鬼になったから…?)」

血を欲する体、夜でも見通しの効く目、太陽で焼けた手足、この三つが揃ってしまってはもう否定しようがない

ノエル・オーデンは吸血鬼になってしまったのだった

ノエル「い、いろいろと理解不能すぎて頭が追いつかない…とにかく、日の当たらない所に行かないと、ここもじき日が当たるわよね…」

着ていたパーカーで肌を全て覆い、足は痛みを我慢して出来るだけ影を通るように決め走り出した

 

数分後

ノエル「(ここなら、一日中日陰になってるわね)」

ノエルは森の中に小さな休憩所があるのを見つけ、そこで一先ず休むことにした

ノエル「出来るだけ日陰を通ったけど、やっぱり所々焼けちゃってるわね…」

気をつけながらここまで来たので深刻な火傷にはなっていないが、木漏れ日などに当たった場所が少し爛れていた

ノエル「はぁ…これからどうしよう…」

親殺しをした手前、再びあの家に戻るのは不可能である。それに加え、父親はどこにいるのかさえ知らないので探しようがない

ノエル「とにかく、名前を変えた方がいいよね…名前を聞かれた時に本名じゃバレちゃうかもしれないし……」

いくら何でも警察は誤魔化せないだろうが、可能性は高くなるかもしれないと思い、考え込む

ノエル「ノエル・オーデン…Noel・Auden…アナグラムで文字を入れ替えれば…Luna・O・Eden、ルナ・O・エデンなんていいかも!」

こうして、ノエル改めルナとして、ノエルは吸血鬼としての新しい生活を送り始めた

 

To Be Continued




死んだと思ったら吸血鬼として蘇ってしまったノエル改めルナ。この先、どんな苦難が待ち構えているのか知る由もなかった
次回『吸血鬼の力』
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