吸血鬼少女   作:フリッカ・ウィスタリア

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露里家に暮らし始めてからもう10年以上が経った
ルナは、かねてからの願望だった平和で平凡な実に人間らしい生活を営めていた
しかし、梱はそうでもないようで…


最期の言葉

時が経つのは早いもので、私が露里家に居候してからかなりの年月が経った

居候を始めた当初はいろいろとトラブルがあったものの、数年もしないうちにトラブルはほとんど起きなくなり、いたって平凡な生活を送っていた

ルナ「梱、体の具合はどう?」

梱「あぁ、大分マシになってきたよ。髪は抜けちゃったけどね」

梱が重病になった事を除けば

ルナ「フフッ、じゃあ私は鏡いらずね」

梱「ハハハ、言ってくれるじゃないか」

梱が急に倒れ救急車で運ばれ、即刻入院してからもう1年が経っているが、治る兆しが見えない

一応、私は梱が高齢になってから養子に取った子という設定でお見舞いに来ている

とはいっても、梱自身結婚している訳ではなく、父子家庭と医者には言い張っているが、よくバレないものだ

医者「露里さん、入りますよ」

ルナ「あっ、こんにちは」

医者「やぁ、葉月ちゃん(私の偽名)」

ルナ「あの、父さんの容態は…」

医者「少しずつだけど、元気になって来てるよ」

嘘だ。大丈夫と言っている割に医者の目は憐れんでいるような目をしている。おそらく、心配させないように言ったのだろう

医者「それで、ちょっと僕はお父さんと話があるんだ、少しの間だけ席を外してくれないかい?」

ルナ「わかった。父さん、早く元気になってね」

そう言い残し私は病室から出た

ただし、ドアを閉めてすぐに聞き耳を立てているのだが

梱「どうしたんですか先生?」

医者「言わなくても分かっているんでしょう?」

梱「…腫瘍が大きくなってる…ですか?」

医者「ええ、しかも肝臓とリンパにも転移が見られます」

梱「そう…ですか」

医者「今はまだ見た目には分かりませんが、いつ症状が現れるか分からない状況です」

梱「助かる方法は無いんですか?」

医者「確率は0ではありません、ですが、かなり低いです。一気に主要器官3か所に腫瘍があるとなると、正直もう手遅れと判断せざるをえません」

梱「僕もあと数か月の命ってわけですか…」

医者「…葉月ちゃんにはまだ隠しておくんですか?隠し続けるほど葉月ちゃんのショックは大きくなりますよ?」

梱「そうですね。でも、もう手遅れみたいですよ」

医者「え?」

医者が梱の視線を追うと、そこにはルナがいた

医者「葉月…ちゃん」

ルナ「父さん、やっぱり…」

梱「葉月、ごめんな。やっぱりもう長くないみたいだよ」

私の予想は的中していたようだ

最近、大丈夫だと言う梱の姿がどんどん痩せ細っていっているのは私が一番よく知っている

おそらく梱の方もその事には気づいていただろう

梱「先生、僕の余命はあとどれ位ですか?」

医者「…早くて半月、長くても2ヶ月が良い所です」

梱「分かりました」

その時、梱は何かを決心したように笑顔を作った

梱「先生、退院させてください」

医者「…ただでさえ短い余命をさらに縮める事になりますよ?下手すれば帰っても2、3日で亡くなるかも…」

梱「いいんですよ。最後くらい家族と一緒に居たいですから」

梱がそう言うと、医者は観念したように梱に取り付けてある医療器材を外していき、退院の手続きをし始めた

 

1時間後

梱「長い間、お世話になりました」

日傘を片手に持った私に支えられ、青い顔をしながら梱は退院していった

ルナ「…梱、なんであんな事言ったの?」

梱「あんな事?」

ルナ「ただでさえ短い余命を削ってまで私なんかと居るなんて…」

梱「だって、ルナちゃんは僕の唯一の家族だもん」

ルナ「家族…か…」

そんなこんな言っているうちに、やっと露里家まで帰ってこれた

梱「僕にしてみれば1年ぶりの我が家か」

私は梱をリビングのソファに座らせた

ルナ「早いとこ遺産をどこに寄付するのか決めときなさいよ」

梱「え?」

ルナ「え?じゃないわよ。私は梱名義の通帳しか持ってないし、そもそも戸籍が無いから通帳が作れないから遺産は相続できないわ。確か梱は従弟もいないでしょ?」

梱「そう…だね」

ルナ「どうしたの?」

梱「いや、若い頃にルナちゃんの戸籍を作っておけばよかったと今更ながら後悔してるだけだよ」

ルナ「…そうかもね」

私はそれだけしか言う事は出来なかった

 

次の日

私はふと、ある事を思い出した

ルナ「梱、まだ生きていたい?」

梱「え?そりゃ生きたいか死にたいかって聞かれたら生きていたいけど…」

ルナ「そう、じゃあ…」

そう言い、私は自分の掌を少し切り、血を滴らせた

ルナ「私の血を飲んで梱も吸血鬼になればいいんじゃない?」

梱「ルナちゃんの血を…」

梱はゆっくりと私の手に溜まった血に顔を近づけた

しかし

ルナ「…?どうしたの?」

梱「やっぱり、僕はこのまま死ぬことにするよ」

梱は再びソファに深く座り込んだ

ルナ「なんで!?私の血を飲めば死なずに済むのよ!?」

梱「確かにそうかもね。僕も吸血鬼になったら、今以上にルナちゃんと一緒に居られるだろうし、病気の痛みからも解放されるかもしれない」

ルナ「じゃあなんで!?」

梱「僕はルナちゃんと暮らしたこの数十年は本当に幸せだった。親が死んで、ずっと一人で暮らしてた僕と一緒に暮らしてくれる人が…ルナちゃんは吸血鬼だったけど、来てくれたんだ。でも、その幸せな暮らしも人間という短い命だからこそ価値がある物なんだ」

ルナ「分からないわ。死ぬより怖い事なんてないじゃない!」

梱「死ぬのは嫌さ。でも、思い出を薄れさせてしまうのはもっと嫌なんだ。その代わり…ルナちゃんに一つお願いがあるんだ」

ルナ「お願い?」

梱「僕が死んだら、僕の血を全部吸い尽くしてくれないかい?」

ルナ「な、なんでそんな事を?」

梱「前に何かの本で読んだんだ…血は魂の対価、つまりその血を全部吸うという事は魂をその人に遺すって事らしいんだ。これなら僕の記憶は薄れないし、僕はずっとルナちゃんの中で…生き続けられるんだ」

ルナ「仮にそうだったとして、私はどうすればいいのよ!また私は一人になってしまうわ!」

梱「ごめん、僕もそれだけが気がかりなんだ。でも、僕の最後の我儘、聞いて欲しいな」

正直、私は戸惑っていた

梱が吸血鬼になるのを拒むはずがないと思っていたからだ

私とずっと暮らせる。自惚れるつもりはないが、梱は私とずっと一緒にいれるのが幸せだそうだ

だからこそ、私はこの情報を聞けば梱は喜んでくれると思っていた

しかし、私と一緒に居たいという思いとは別に、長く連れ添う事で思い出を薄れさせたくないという少し背反する思いもあるようで、梱はこの提案を断った

ルナ「…わかったわ。梱の命だもの。梱の好きに使う権利があるわ」

梱「ごめんね…せっかくルナちゃんが考えてくれた案を無下にしちゃって…」

ルナ「気にしないで、私の勝手なお節介よ。でも、気が変わったら言ってちょうだい」

梱「ありがとう…」

家に帰って来てからまだ丸1日も経っていないというのに、梱の容体は少しずつ悪くなってきているようだった

ルナ「…梱、かなり顔色が悪いわ。部屋に運ぶから私に捕まって」

梱「そうだね…そうさせてもらうよ」

流石にここまでは意地を張る気力が無いのか、梱は珍しく私に体を委ねてきた

ルナ「(こんなに軽くなっちゃって…)」

ソファからすっと体が持ち上がった理由は私が人外の力を持っているからだけではないだろう

病気でやせ細り、本来必要であるはずの筋肉でさえ十分に動かせなくなってきているのだろう

階段などで私の振動が伝わる度に梱のふくらはぎは揺れていた。衰えて弛んでしまったのだ

ルナ「(すごい膂力も、空を飛ぶ翼も持ってる私でも、人間一人の病気を前に何もしてやれる事がない…非情な物ね…)」

梱「ありがとう」

ルナ「ゆっくり休んで、残りの命を大事に使いなさい」

梱「ハハ…ルナちゃんお母さんみたい…」

ルナ「実年齢的に言えばお姉さんくらいしか離れてないわよ」

梱「そうだね…ゴホッ!ごめん、僕もう寝るね…」

ルナ「ええ、おやすみ…」

今の梱を見ていると、心が締め付けられる思いで遣る瀬無くなってしまう

 

次の日

ルナ「梱?…起きてる?」

そっと梱の部屋を覗いていると、多少険しそうな顔をしているものの、少なくとも死んではいないようだ

梱「あぁ…ルナちゃん?おはよう…」

ただし、昨日以上に顔色が悪くなっている

ルナ「体調は?」

梱「正直、最悪だね…」

ルナ「でしょうね」

心なしか、呼吸が不規則な気がする

ルナ「(…あともって半日…かな)」

私は医学の知識がある訳ではないが、少なくとも死にそうな人間の寿命くらいは大まかに分かる

ルナ「梱、何か食べたいものある?」

梱「そうだね…ルナちゃんの料理が…いいな」

ルナ「嬉しい事…言ってくれるじゃない…」

いつ容体が変わるか分からない為、私は少し急ぎ気味で料理に取り掛かり、梱でも食べれるよう流動食にした

ルナ「ほら、できたわよ。食べれる?」

梱「ありがとう…ちょっと一人で食べれそうにないから食べさせてくれない?」

ルナ「分かったわ。口開けて」

そう言うと、梱は口を開けたが、それもスプーンが入るぎりぎりだった

ルナ「(顎の筋肉も衰えてきてるわね…)」

おそらく、ここ数ヶ月の食事がずっと点滴だったからだろう

その後、数十分かけてほぼ粥と化している食事を食べ終えた梱はまた眠りについた

ルナ「さてと、食器を洗わなきゃ」

とは言っても、梱が食べた分の食器だけなのでさして時間はかからないのだが

ちなみに、当たり前だがこの一年くらいは私は梱から血を一切吸っていない

その為以前と同じように夜に山に出かけて野生の動物から吸血していた

梱が倒れてすぐの頃は自分が吸血していた事で血液内に何か異物が入ってそれが原因で病気になったのではと思っていたが、医者曰く梱の父方の家系は癌家系らしく、以前話していた父親も癌で亡くなっていたそうだ

食器を洗って私が梱の部屋に戻ってくると、先程と変わらず梱は寝ていた

ルナ「息は…してるわね」

まだ多少不規則なものの、梱はしっかりと息をしている

そうはいっても、いつこの呼吸が止まるか分からない。ましてや掃除などしてる間は気が気でない

 

数時間後

ルナ「(もう…限界かな…)」

あれから数時間、時々暴れる梱を押さえつけたり、定期的に息をしているかどうかを確認しに来ていると、少し呼吸が浅くなってきている事に気が付いた

ルナ「梱、聞こえる?」

返事が無い

意識が無いのか、はたまた返事をする気力が無いのかは分からないが、かなり危ない状況だろう

ルナ「(医者を…呼ばなきゃ…)」

すぐに最寄りの病院に電話をすると、梱の主治医がすぐこちらへ向かうとの事だった

電話を終え梱の元へ戻ると…遂に梱は息をしなくなった

ルナ「ついに…死んじゃったか…」

少し位なら延命処置を知ってはいるが、処置をしたところで数秒間だけ梱が生物として生きているだけで、会話も呼吸もおそらく戻る事は無い

私が項垂れていると、玄関のチャイムが鳴った

医者「露里さん!開けてください!主治医の室戸です!」

ルナ「父さんが…」

私が玄関を開けると、主治医と看護師が部屋の中に駆け込んできて、梱の様子をすぐに調べた

医者「…残念だけど、お父さんは…もう…」

なんでだろう、梱が死んでいる事なんて分かりきっていた事なのに…

今日、弱弱しく私に昼食をせがんできた時も、痛みで暴れ出した時も私はほとんど動揺しなかった

だが、改めて梱の死を宣告されると、指が震え、足が竦んだ

医者「11月8日、午後10時37分、ご臨終です…」

医者はそう告げると、死後の手続きを書いたメモを残し露里家から看護師を連れて帰って行った

ルナ「人間の命は…儚いわね…たった一つの病気でこうもあっさり死んじゃうんだもの…」

ふと、梱の遺言を思い出し、私は梱の首元に歯を立て、血を吸った

生憎な事に、今夜は満月だ。人間一人の血を吸い尽くす位、難なく出来るだろう

ルナ「これも…計算のうちか梱…」

流石にジョジョネタを挟んでも全くテンションが上がらなかった

 

数日後

葬式も火葬も終わり、ある程度やらないといけない事が落ち着いてきたので、梱の身辺を整理していると、梱の机の引き出しに見慣れない封筒が入っていた

ルナ「なんだろ?これ…」

封筒を開けてみると、そこに入っていたのは…梱が学生時代にバイトで使っていたという通帳と戸籍用紙だった

ルナ「これって…私の…」

その二つに記されていたのは、私の偽名である、露里葉月という名前だった

戸籍の年齢では私は当時15歳、現在は17歳になっていた

通帳の手続きをした日付は1年前、つまり、梱が病気になってすぐの頃だ

ルナ「だから、複雑そうな顔をしてたのね…戸籍も、私名義の通帳も既に作ってあったから…」

2年前からもう自分の命がそこまで長くないと悟っていたのだろう

封筒の中には通帳などの他に、手紙が入っていた

 

ルナちゃんへ

君がこの手紙を読んでる頃にはもう僕は生きていないだろうね

僕が死んだら口座が凍結しちゃうから、死ぬ前にお金をルナちゃんの口座に移しておいたよ

戸籍を作っておいて、ルナちゃんに言おう言おうとしてたのに、拒否されるのが怖くて言い出せなかったんだ

そういう事だから、ルナちゃんは僕の家に住んでても怪しまれないから安心して

どうせ貰い手が無い家だから、要らないなら捨てるなり売るなり、ルナちゃんの好きに使ってくれて構わないよ

最後に、こんな僕に長い間付き添ってくれてありがとうね。本当に僕は幸せだったよ

今度はルナちゃんが幸せになる番だよ

 

私はその手紙を読みながら、ふと自分が涙を流している事に気が付いた

ルナ「なみ…だ?なんで?お母さんを殺しちゃった時も、梱が死んじゃった時も涙なんて流れなかったのに…」

少し考え、私はようやく理解した

ルナ「そうか、私も幸せだったんだ…梱との何でもない日常が…」

梱は私に幸せになれと書き遺した。だが、それは叶いそうにない

だって、梱との生活が幸せだったのに、その梱がもうこの世に居ないのだから

私は少しの間、梱のいつも寝ていたベッドに寝転がり、さめざめと泣いた

そして、1時間が経った頃、ようやく涙は止み、外もすっかり暗くなっていた

ルナ「梱には悪いけど、私は私の信念を貫かせてもらうわ」

泣きながらずっと考えていた事がやっと纏まり、私は何も荷物を持たず、ある場所へ向かった

 

廃校跡

ルナ「確かここよね…」

私は数十年前に梱と出会ったあの廃校の跡地を訪れていた

ルナ「相変わらずここらへんは木が生えてないのね」

独り言を言いながら私は開けた場所の中心へと行き、大の字で寝転んで眠りについた

 

次の日 早朝

少しずつ日が昇って行き、山肌を照らしていった

そして、日の光は遂にルナの所まで達した

ルナ「っ!!」

一瞬ルナは体を震わせたが、その場から動かず、じっとしていた

ルナ「(熱い…すっごく熱いわ…でも、生きているのか死んでいるのか分からない生活を送る苦しみに比べたらこんな物…)」

皮膚を焼き、肉を焦がす日の光は無慈悲にルナの体を焼いていった

ルナ「(梱、怒るだろうな…まあ、梱に怒られるなら本望かもね…それに、私も梱に言ってやりたい事あるし…)」

激痛に耐えながら、私は祈りのポーズを取っていた

ルナ「(親を殺した私が天国なんて行けるなんて思えないけど、あわよくば、あの世で梱に会えますように…)」

そして、そう時間を待たずして、私は完全に焼け死んだ

その後、ルナは梱とあの世で出会えたのだろうか…それはルナ本人しか知り得ない事だろう

だが、少なくともルナの死に顔は痛みに歪んだ苦悩の顔ではなく、どこか安らかな顔をしていた

 

The End




2017年11月22日、ルナ・O・エデン(本名ノエル・オーデン)は死んだ
体は灰となり消え去ったが、住人を失った露里家には二人の写った写真が二人が生きていた唯一の証として今でも残っているという…

~次元の壁~
ここまでご拝読頂きありがとうございました。初めての完全オリジナル小説なので、物語内での矛盾点や、回収していない伏線があるかもしれません(;^ω^)
それでは、また次回作で!( ´Д`)>
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