吸血鬼少女   作:フリッカ・ウィスタリア

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日没から夜中まで行動し、深夜は数時間だけ寝て日が昇る前に起きるという微妙に吸血鬼の生活から外れた生活をしているルナだが、ふと体の異変に気が付き…


天翔ける漆黒の翼

早朝

ルナ「フゥ…よく寝た…日はまだ出てないわね…」

眠い目を擦りながら私は包まっていた布を畳みリュックに詰め、代わりに血の入ったペットボトルを取り出し半分ほど飲みながら今日の予定を考えた

ルナ「…山の中なら警察も滅多に入ってこないだろうし、今日は空飛ぶ練習でもしようかな?」

追われている身だというのに暢気なものだが、空が飛べるのならこれからの移動も楽になる

ルナ「とはいっても、翼の動かし方なんて知らないんだけどね…」

とりあえず、翼の動かし方が分からなければ話にならない為、翼を動かすイメージを作り実践してみた

 

3時間後

ルナ「うーん、さっぱり浮く気配がない…」

あれからずっと練習している為、一応翼は動かせるようにはなったが、服が少しヒラヒラする程度で、飛ぶどころか浮く事さえできない

ルナ「というか、さっきから翼が服に引っかかるわね…」

少し考えた後、シャツに切れ目を入れ、そこに翼を通した

ルナ「よし、これで窮屈じゃなくなったわね。…あれ?」

ルナはその時少し違和感を覚えた

ルナ「翼ってこんなに大きかったっけ?」

私の記憶が正しければ、服の下に隠れていたとはいえ昨日はこんなに翼は大きくなかったはずだ

後ろに手を回して触った感じも昨日触った時は肩甲骨のあたりに小さくあっただけだったのに対し、今は背中を覆いつくし、はみ出している事が分かった

ルナ「(一晩でそんなに成長するはずないよね…?)」

そんな風に考え込んでいたルナだったが、流石に3時間も経てば自分の立っている場所に日向が近づいてきている事に気が付き、一旦考えるのをやめ、場所を移した

ルナ「翼を外に出して動かせば意外と飛べたりして…」

そんな淡い期待を膨らました私だったが、幾らなんでもそれは高望みし過ぎのようだ

ルナ「どっちにせよ少し風が起きるだけか…」

この調子だったら、いつ空を飛べる事やら…

ルナ「まあ、気長に練習するしかないわよね…」

別に飛べないのなら飛べないで歩くなり走るなり移動方法は幾らでもある。焦る必要もないだろう

ルナ「それより、服装をどうにかしなきゃダメよね…」

家から逃げてくる時、顔を隠すためにパーカーは持ってきたものの、今は夏のため脚の方はほぼ素肌が見えているのだ

ルナ「何か布あったかな…」

リュックの中を探ってみると、以前拾ったセーターが出てきた

ルナ「これ…使えるかな?」

少し考えた後、両袖を落とし、スカートもどきにする事にした

ルナ「お裁縫って初めてだけど、うまくできるといいな」

頭の中で大まかに完成形が出来上がったので作業に取り掛かった

ルナ「早速袖を…いや、少し残してポケットにした方がいいよね…パンツ見えちゃうし」

頭の中で考えた案を途中で何度か修正しながら作業に耽る事30分、どうにかこうにか完成した

ルナ「…よし!完成した!」

既製品に比べるには申し訳ない出来栄えだが、自分的には初めて作った割にうまくできたと思った

ルナ「早速着てみようかな」

自分で作った物を着るというのは何とも言えない感情が込み上げてくる

ルナ「丈は…うん、ちゃんと脚が隠れてるわね。腰回りは…もうちょっと襟のゴムを伸ばした方が良いかも…」

大人物のセーターを丸々使った事もあり、ルナの脚はしっかりと隠れていた。これなら日向を歩いていても、まず脚に日光が当たる事はないだろう

ルナ「ポケットの位置がちょっと低い気がするけど、まあ機能性は十分!」

いつになくテンションの高いルナだったが、このような事ではしゃぐあたり、ルナも10歳の少女という事だろう

ルナ「フゥ…はしゃいだら喉乾いちゃった…」

喉の渇きを覚え、飲みかけの血のペットボトルを空けた

ルナ「今日はやけに喉が渇くわね…」

一昨日の夜、猪の血を飲んだ時は一飲み二飲みした(とはいっても、最終的にはほとんど飲んでしまったが…)だけで喉の渇きは潤ったのに対し、今日は起きてからの数時間だけでペットボトル1本を飲み干したのにも関わらずまだ喉の渇きが治まらないのだ

ルナ「(この調子で飲んでたら明日にでも血のストックが無くなるわね…また何か動物の血を溜めないと…)」

急に増大した吸血欲求に戸惑ったが、食欲も起伏するのでそれの一種なのかなと割り切った

ルナ「とはいっても、小動物じゃ数を狩らないと集まらないし、大きな動物だとむしろ私が狩られそうだし…やっぱり猪くらいのが一番良いのかなぁ」

そんな事を呟きながら山道を歩いていると、山の斜面に何かが転がっているのが見えた

ルナ「ん?なんだろあれ……え!?あれって人じゃないの!?」

転がっていたのは物ではなく、人だった

私は急いでその人の所へ走り寄った

ルナ「えっと…生死確認ってどうやるんだっけ!?」

半年以上前に小学校で看護師さんが教えてくれた内容を必死に思い出し、心臓の鼓動を確認する事を思い出した

ルナ「心臓は…動いてる。けど、なんでこんな所に倒れてるんだろう…」

今の地点は遭難するほど深くもない。なんで倒れているのか私にはさっぱり分からなかった

ルナ「この人をこのまま放っておいたら本当に死んじゃいそうだし…何か家が分かる物持ってるかなぁ…」

悪い事だとは知りつつも、身元が分からないのでは何もできないため、この人の持っていた鞄を漁り、何か身元が分かる物がないか探した

ルナ「これは…免許証?住所はフランクフルト…おいしそうな地名だけど、知らない場所ね。名前は…マーコフって読むのかな?」

少なくとも私が来た方ではフランクフルトなんて地名は見た事がない。つまり、他の方角の地名という事になる

ルナ「とりあえずこの人背負って下山しようかな…道路に出たら標識とかに従っていけば着くだろうし」

以前までは集落の中でしか生活していなかった為上を見上げる習慣がなかった私だったが、ここ数日の逃亡生活のを送っているうちに標識や地図板を見る習慣がついていた為、道に迷う心配はなさそうだ

ルナ「でも、あんまり人目に触れないようにしなきゃ…子供が大人背負ってるところ見られたら怪しまれちゃうし…」

数日前の失敗を生かし、今回は人目を避けて行動することにした

 

1時間後

ルナ「そろそろ麓に着くわね…ん?誰か来た?」

ルナが男を背負いながら歩いていると、前方から微かにだが声がした為、ルナは茂みに隠れた

女「マーコフ!マーコフ!!居たら返事をして!」

どうやらこの人を探しに来たようだ

ルナ「(どうしようかな…私は人前に出れないし…)」

少し考えた後、さっきの女性が行った道を先回りしてこの人を放置して初めからそこに居たかのように偽装する事にした

ルナ「ちょっと山道走るけど、少しくらい傷が出来たって大丈夫だよね?私はすぐ治るし、この人も元から倒れてたくらいなんだからちょっとくらい怪我してたって変わらないだろうし…」

自分の顔に木の枝が当たるのも無視して走ると、すぐにさっきの女性を追い抜き、更に300m程行った曲がり角の草むらから山道に脚だけ出した状態で男性を放置した

そして再び少し離れた物陰から見守っていると、女性が男性を無事見つけ、無理やり叩き起こして男性に肩を貸しながら帰って行った

ルナ「よし、一件落着っと…さてと、また野生動物探しでもして血をもらわないと…っていうか、あの人から少し血を吸っておけば良かった…」

 

数日後

ルナ「や、やっと溜まったぁ…」

あれから何日も山の中を駆け巡って野生の動物から血を分けてもらっていた。しかし集めた端から喉の渇きで消えていくのでジリ貧になっていたのだが、ここ数日は少しずつではあるが食欲が減衰してきた為、集める血の量より飲む血の量が下回り、ペットボトル二本分の血を溜める事ができた

ルナ「ずっと走りっぱなしだったから、流石に疲れた…」

いつの間にか日は落ちており、私は溜めた血液を少し飲んでから寝る準備を始めた

本来吸血鬼にとって活動時間であるはずの夜だが、昼間は日の光を警戒し、夜は絶好調に山を走り回っていて疲れていた為、今日は夜を寝るための時間に費やす事にした

 

次の日 早朝

ルナ「ん…もう朝か」

今日の天気は良いのか悪いのか、曇りだった

ルナ「これなら一日中活動できそうね」

いつまでも地面に転がっていても何も始まらないので、今日は何をしようかと考えながら起き上がると、背中に違和感があった

ルナ「あれ?なんか背中が重い…」

首を回して後ろを見てみると、自分の目で目視できる程に翼が大きくなっていた

ルナ「え!?たった二日で翼が急成長してるんだけど…」

昨日と同じように翼を広げてみると、翼の大きさは私の腕を伸ばした長さを遥かに超えていた

ルナ「無茶苦茶な成長スピードね…これ以上大きくなったら逆に邪魔になりそうなんだけど…」

試しに羽ばたいてみると、最初のうちこそ強い風が起きただけだったが、次第に動かし方に慣れてきて、思いっきり翼を動かすと私の体が1m程浮いた

ルナ「び、びっくりしたぁ…でも、もう少し練習したら短距離なら飛べるかも…」

 

数時間後

ルナ「よし、だいぶ飛ぶのには慣れてきたわ。リュックは…前後を逆にして肩に掛ければいいか」

リュックを抱っこ紐の様に肩から掛け、背中の自由が利くようにしてから飛び立った

ルナ「とりあえず飛び上がれたけど、どこに向かうか決めてなかったわ…」

ふと昨日助けた男性の鞄から地図を拝借という名のもと、パクっていたことを思い出し、リュックから地図を取り出した

ルナ「えっと…あっ、あそこに標識があるわね。人は…来てないから今のうちね」

手元の地図だけでは今の場所が分からない為、国道の標識を空中から見つけ、自分の持っている地図と照らし合わせる事にした

ルナ「えっと、あれがライン川で向こうがフランクフルトだから…私がいるのはここなのかな?」

二つの地図を照らし合わせて見てみると、どうやら私が今いるこの山はローレライという所らしい

ルナ「とりあえず、このボンとかいう所に行こうかな…首都みたいだし」

ルナは大きな土地で身を隠すために当時ドイツ連邦共和国の首都だったボンに向かう事に決め、まだぎこちない動きで飛んで行った

 

時は遡ること数日

ハイデルベルク 精肉所

俺がいつもの様に仕事をしていると、戸を叩く音が聞こえた

男「なんだ?またあの嬢ちゃんか?」

3日前に来た少女がまた肉を売りにやってきたのかと思い戸を開けると、そこに居たのは少女などではなく、警察だった

男「なんだ警官さんよ。小腹でも空いて肉買いに来たのかい?」

警官A「いえ、そうではなく、少しこの辺で聴取を取ってましてね」

男「聴取だぁ?俺ぁ悪い事してねぇぜ?」

警官B「別にあなたが何かしたから来たわけじゃないんですよ。数日前にノルドで起きた事件で犯人が逃亡中なんですよ。最近変な人物を見ませんでしたか?」

男「変な人物ねぇ…いや、見てねぇな」

警官B「そうですか」

男「いや待てよ…変な人物って程じゃねぇが、奇妙な子供なら来たな」

警官A「奇妙な子供?…というと?」

男「3日前だったかな?夜に仕事してたら戸を叩く音が聞こえるんで戸を開けたんだがな?そこに居たのは10歳になるかならないかの嬢ちゃんだったんだ」

警官B「別におかしな事はないじゃないですか。お使いに来たとかそんな感じでしょう」

男「俺も最初はそう思ったんだが、その嬢ちゃんは逆に肉を売りに来てたんだ。しかも50㎏前後もある猪の肉をな」

警官A「50㎏?そんなの僕らでも一苦労する重さですよ?」

男「ああ、俺もたまげたよ。でも、金を払って金額だけ確認したらすぐに帰っちまったんだよな」

警官A「確かにそれは奇妙な話ですね…なぁリム…リム?」

警官B「あ、あぁ、そうだな」

警官A「どうしたんだ?急にボーとして」

警官B「いや…あの、その少女の外見的な特徴って覚えてますか?」

男「特徴?まあ覚えてるが…」

警官B「良ければ、教えてくれませんか?先程の事件に関係があるかもしれないので」

男「そうなのか?…まあいいけどよ。えっと、髪はロングで金髪、目は…よく見てねぇけど確か紅色だった、服装はお世辞にも綺麗とは言えねえ感じだったな」

警官A「おい、そんな女の子の情報集めて何が解決するっていうんだよ…」

警官B「お前、今の特徴聞いてピンと来なかったのか?」

そう言って警官は懐から何かの写真を取り出しもう一人の警官に見せた

警官A「!!…そういう事か」

警官B「貴方が言っている、店を訪れたお嬢さんって言うのは、この子じゃないですか?」

俺はその写真を見て驚いた。確かにその写真に写っている子供は俺が3日前見たあの嬢ちゃんだったからだ

男「そ、そうだ!この嬢ちゃんだよ!でも、なんで警察さんが嬢ちゃんの写真を持ってるんだ?まさか、あんたらの言ってる事件の犯人って…」

警官B「いえ、この少女は犯人ではなく…現場から消えた遺体です」

男「げ、現場から消えた遺体?」

警官A「ええ、現場に駆け付けた警官が鑑識を呼んで、その鑑識が来るまでの数十分の間にこの子の遺体だけが消えたんですよ。その情報が僕たちの所にも回ってきて、遺体を持ち去った犯人を捜していたんですが…まさか生きていたとは…」

警官B「とにかく、この事を本部へ知らせないと…では、失礼します」

そう言うと警官二人はそそくさと帰って行った

 

To Be Continued




THE・吸血鬼という感じの翼を手に入れたルナだが、その動作はまだまだ拙く、第2の移動手段とは呼びにくい状況だ
そんな中、警察にルナの情報が漏洩してしまった為、捜査は打ち切られるどころか延長戦に持ち越されることとなってしまった
次回『ボン鉱員所』
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