ルナ「やっぱり、地図上で100㎞近い距離のある遠い場所に行こうとすると直線距離でもかなり時間がかかるなぁ…まだいまいち空を飛ぶっていう感覚に慣れないから休憩が必要だし…」
ローレライから空を飛んで旅をし始めて数日経ち、ようやく私はボンに着くという所まで飛んでこれた
ルナ「えっと…この地名がここで向こうがこれだから…あと2㎞か3㎞位?」
時々地図と案内標識を見比べてみると、あと少しで目的のボンまで着きそうだ
ルナ「今日は日がよく出てるし、早くボンまで行って休みたいなぁ…」
数十分後
ルナ「ここがボンか…首都っていうだけあってまあまあ大きい街ね」
私は生まれて初めて人酔いというものを味わったが、なるほど、確かに気持ちが悪くなりそうだ
ルナ「まずは…仕事を探さないとね」
ここ数日の間に身の回りの物をいろいろと買った為、食費がいらないとはいえ懐が寂しくなってきていた
ルナ「まあ、私なんか雇ってくれる所って言ったら大概酷い仕事環境の所だろうけど…今の私なら何とかなりそうね」
なんだかんだ言って苦労してきたこの体だが、初めて私の生活のプラス要素になりそうだ
ルナ「(でも、日光が当たる場所だと働けないんだよねぇ…日傘を差しながらできる仕事とか、まずないだろうし…)」
室内でできる仕事がないか探すため、私は求人を張り出している所へ向かった
数分後
ルナ「えっと、室内の仕事は…うーん、見事なまでに日当たり絶好調な仕事ばっかりね…」
求人で張り出されている仕事は全て室外の仕事だったり、室内でもルナの歳では雇ってくれないものばかりで、ルナが働けるようなものはなかった
ルナ「やっぱり、仕事探すのは厳しいのかなぁ…ん?あっ…これなら…」
仕事探しを半分諦めていたルナだったが、一つ気になる仕事の求人があった
ルナ「人員求む、腕っぷしと根気に自信のある人歓迎…ダメ元で行ってみようかな…」
門前払いならそれでという位の気持ちで求人元の事務所に地元の人に聞きながら行く事にした
ボン鉱員所
コンコン…
バリー「はいはい、空いてますよー」
ルナ「失礼します」
何気に他人に敬語を使ったのは久しぶりだなと思いながら私は建物の中に入った
バリー「おっ、誰かの娘が来たみてぇだぞ!お前の娘か?」
ルナ「え?あの…」
テト「バリーさんが大きい声出すから、その子怯えてるじゃないっすか…ごめんな、おじさん怖くて、それで誰の子かな?」
バリー「お前の娘じゃないのかよ…でも、今日はお前と俺しかいねぇんだがな…」
ルナ「いや、ここの人の娘じゃないです…」
テト「え?それじゃなんでこんなとこ来たんだい?」
ルナ「仕事探してて…力持ち歓迎って書いてたから…」
私がそう言うと、場の空気が凍った感覚があった。あれ?私何かまずい事言ったかな?そりゃ10歳で力仕事に志願して来るなんておかしい事極まりないかもしれないけど…
バリー「え?それじゃ何か?お前さんは力仕事を志願しにここに来たってのかい?」
ルナ「はい、私これでもかなり力持ちなんですよ?」
テト「お嬢ちゃん、何があったかは知らないけど、鉱員はお嬢ちゃんみたいな小さな子ができるような簡単な仕事じゃないんだよ?」
ルナ「見た目だけで判断しないでください。本当に筋力には自信があるんです」
私がそう言うと、鉱員の二人は困ったような顔をし、お互いの顔を近づけた
テト「どうするんすか?たぶんこの子説得しても帰ってくれないっすよ?」
バリー「そうだな…ちと可哀そうだが、無茶な条件突き付けて諦めさせよう」
テト「そうっすね…」
話が纏まったのか、二人が私の方へ向き直った
バリー「おまえさん、力持ちって言ったな?」
ルナ「はい、まあまあ自信はあります」
バリー「それじゃあ、あそこに岩があるだろ?」
ルナ「岩?…あぁ、確かにありますね」
耕夫の指さした方にはルナと同じか少し高い位の大きな岩があった
バリー「あの岩は大体60㎏ある。あの岩を持ち上げて運べるくらい力持ちじゃねぇとここでの仕事をすることは認められねぇんだ。どうだ?まだ諦めねぇか?」
ルナ「…あの岩を持ち運べたら雇ってくれるんですか?」
バリー「そうだなぁ…そこまでされたんじゃあ断れねぇな。まあ、できたら…だがな」
ルナ「分かりました。頑張ってみます」
私は日傘を差し、岩の方へと歩いて行った
テト「60㎏って…俺でも機械使うレベルの重さですよ…」
バリー「あぁ、俺でも一苦労な重ささ。でも、あんな子供があんな目して仕事しないといけないようになったとは…世間も世知辛いな」
バリーはルナの職に対する必死な眼差しを見抜いていたが、その眼差しの意味を少し取り違えているようだ
一方ルナは…
ルナ「(正直言うと60㎏位の岩なら、片手でも持てないことないけど…あんまり人外じみた筋力見せたら怪しまれちゃうよね…程々に手間取ってる振りしないと…)」
そんな事を考えながらルナは岩の影の方へ回り、傘を背中に背負ってから岩を抱えた
ルナ「(うまく演技できるかなぁ…)」
とりあえず軽く力を入れてみたが、流石に軽く力を入れただけでは持ち上がらなかった
ルナ「(片手で持ち上がるって言うのは流石に自惚れ過ぎだったわね…でも、両手で少し力めば…やっぱり…)」
さっきよりもう少し力を込めると、少し岩が浮いた。これで持ち運びは難なくできるだろう。しかし、あんまり易々とこなしてしまうと色々と詮索されかねない。程よく手を抜かないと…
テト「あの…バリーさん?俺の見間違いじゃなきゃ、あの子いま岩を持ち上げませんでした?」
バリー「奇遇だな、俺にもそう見えた。だが、一瞬しか持ち上がらなかったようにも見える。もしかしたら一瞬浮かせるくらいの力なのかもしれんな」
自分達の言った難題がまさかクリアされるのではと危惧した二人だったが、手こずっているルナを見て少し安心した
しかし、数分後二人は顔を青ざめさせていた
ルナ「ハァ…ハァ…これで…どうですか?(まあ楽勝なんだけどね…)」
ルナは岩を抱え鉱員二人の元へ岩を持ってきてしまった
バリー「ま、まさか…本当にできちまうとは…」
ルナ「さあ、そちらの出した条件はクリアできました。雇ってくれますよね?」
テト「な、なぁ、君はどこの子なんだい?子供を働かせるなら親の許可を得ないと…」
ルナ「私に親なんていません。ホームレスですから」
テト「えっと…じゃあ…どうしますバリーさん?」
バリー「…しょうがねぇ、雇ってやろう。だが、途中で逃げ出したりすんじゃねぇぞ?死ぬ気で働くことだ」
ルナ「分かりました!(元々死んでる私に対して死ぬ気で働けって言うのは言い得て妙ね…まあいいや)」
その後、数日にわたりバリーはルナに過酷な労働環境を与えて自発的に辞めさせようと考えていた。しかし、その思惑は外れ、常識の範疇を超えない限りどんな厳しい条件を出してもルナはその目標を超えてきた
2週間後
ルナ「(いい職場が見つかって本当によかった…この職場なら仕事はほとんど洞窟内か地下だから日光の心配は必要ない。その上人目に触れないから警察からも身を隠せる。ただ、最近また食欲が旺盛になって来てるのよね…)」
食欲の問題を除けば、今のところ私の考えは上手い事いっている。既にあの事件の時効は過ぎている為完全に安心しきっていた
ルナ「テトさん、おはようございます」
テト「あ、あぁ、おはよう」
しかし、ここ2、3日テトさんの様子がおかしい
ルナ「?…テトさん、最近具合が悪いように見えるんですけど、何かあったんですか?」
テト「えっ、いや…なんでもない」
ルナ「そう…ですか。それじゃあ今日も仕事頑張ってきますね」
テト「あぁ、頑張って……ルナちゃん」
ルナ「はい?」
テト「変なことを聞いても良いかい?」
ルナ「内容にもよりますが、聞くだけならまあ…」
テト「ルナちゃん、ノエルって名前に聞き覚え…ない?」
ルナ「っ!!」
なぜテトさんの口から私の前の名前が出てきたのかはさっぱり分からないが、とりあえず誤魔化しておこう
ルナ「…いえ、全然。何でですか?」
テト「一昨日、街に買い物に行ったら、とある人探しの張り紙があってね」
そう言いながらテトさんは鞄からその紙を出した
ルナ「重要参考人兼被疑者疑惑『ノエル・オーデン』情報求む…ですか(もう時効は過ぎてるはずなのになんで…それに、被疑者だってバレてる…)」
テト「ああ、失礼な事なんだけど、この写真の子供が君とよく似ている…というより本人じゃないかと僕は少し疑っているんだ」
ルナ「世界には似た顔は何人かいるみたいですし、私もその一人だっただけでしょう。でも、確かに似てますね…」
本人なのだから似ているのは当たり前なのだが、あたかも似ている人だという振りをした
テト「…じゃあ、この検査受けても大丈夫だよね?」
テトさんがポケットから取り出したのは、DNA検査キットだった
ルナ「なんでこんな物を…」
テト「警察に昨日ルナちゃんの事を話したらこれを渡されたんだ。僕だって君とは仲良くしたい。でも、もしかしたら…なんて思っちゃうのはお互い嫌だろ?だから、これで身の潔白を証明してほしいんだ」
当時のDNA鑑定の精度は極めて低く、血液型と遺伝子情報が少しくらいしかわからない物だったが、その血液型が違えばまず同一人物ではないという事が証明される
ルナ「(やばい…こんなの使ったら私がノエルだってバレちゃう…でも、この感じ断れそうじゃないし…)」
どうにか検査を逃れる方法がないか必死で考えたが、打開策は浮かばなかった
ルナ「…わかりました(私の逃亡生活短かったなぁ…)」
検査キットを受け取り、血液サンプルを入れて警察へ送った
1週間後
先週出した検査の結果が来たようだ
あの後、バリーさんにも検査の事が知られ、今はバリーさんの方が私より緊張している(というより、本人の可能性大としか出ようがない為、私は諦めているだけだが)
しかし、検査の結果を記した紙を見て、私は目を疑った
血液型が一致していなかったのだ
ルナ「ほ、ほら、只のそっくりさんだったんですよ」
テト「ごめんごめん、でも、これでルナちゃんの疑いは晴れたね」
バリー「ったく、無駄な心配しちまったじゃねぇか」
そう言いながらもバリーさんは安堵の表情を浮かべていた
ルナ「(でもなんで?私の血液型はA型…なのに結果ではB型が出た…取り違え?いや、それはあり得ないわね…)」
その後もずっと自分の血液型の変化について考えていたが、全く見当もつかず月日が経った
数年後
あの出来事から数年が経ち、平凡な人生(吸血鬼生?)を送っていたが、いつまでも見た目の変わらない私を鉱員所の人達は怪しがり、また何か検査を持ち掛けられては堪らない。そのため最近ようやくある程度の貯金ができたので昨晩鉱員所を夜逃げしてきた
ルナ「勝手に出てきちゃったけど、周りの人の目線が最近目立ってきてたし、しょうがないよね…また仕事探さなきゃ…」
言い訳がましい独り言を言いながらルナは空を飛んでいた
この数年にかけて空を飛ぶ練習を夜の人目のつかない時間にしていた為、自分の脚で走るよりかなり速い速度で飛べるようになっていた
ルナ「さてと…また大きい街に出たいところだけど、どこか良い所ないかなぁ…」
一応、以前の出来事からチラッチラッと街の指名手配の張り紙を見ていた為、今度こそ自分は指名手配から外れたという事は確認済みである
だがあまり目立つ事をすると、どんなルートを通って警察に情報が行くか分からない為、何をするのも慎重にしなければならない
ルナ「うーん…東ドイツの国境を跨いじゃうけど、このベルリンって所に行こうかな?ここも人が多いみたいだから隠れ蓑になるかもしれないし…」
行き先が決まりルナは再び飛ぶスピードを上げた
数時間後
ルナ「さすがに国境近くは警備が厳しいわね…」
既に日も落ち、辺りは暗くなってきてはいるが、国境の壁には明かりがついており、そう簡単には突破できそうになかった
ルナ「役所の人を気絶させて入る事は簡単だけど、そうすると顔がバレる可能性があるし…そういえば…」
不意に私は空を見上げた
ルナ「(今夜は…半月だけど…2、3日位なら無茶しても大丈夫そうね…)」
私はここ数年の間であることに気が付いた
以前、小食から急に大食漢になったり、再びそんなに血を吸わなくてもよくなったりする時期があった。最初はなぜかさっぱり分からなかったが、その周期が大体半月周期で入れ替わってるという事を理解し、満月の時に一番食欲がある事が分かった
そして今は満月に向かう半月、つまり食欲は旺盛になりつつある期間である
ルナ「(元鉱員の力、見せつけてやろうじゃないの)」
私は道を引き返し、人気のない所で穴を掘り、そこから国境の壁めがけて自分が通れるくらいの小さなトンネルを掘って行った
すると、近くの物陰から掘り出したという事もあって壁の地面に埋まっている部分にすぐに突き当たった
ルナ「こんな壁…こうしてやる!」
私は素手で壁を殴り、少しずつ壁を削って穴をあけた
ルナ「よし、あとはまたある程度真っ直ぐ掘って地上に出るだけね」
こうして私は地下から盛大に不法入国を成し遂げた
To Be Continued
数年間の鉱員生活を抜け出し、脳筋甚だしい方法で密入国をしたルナは西ベルリンへ進む
今回の滞在は長く続くのだろうか?
次回『ベルリンの壁』