時は1989年聡明な読者はこの数字が意味する事が分かるだろう
ルナ「…プハッ!周りには…誰も居ないわね」
なんとなくの感覚で地上に出てみたものの、うまく人気のない所に出る事が出来たようだ
ルナ「一応、穴はすぐ見つからないように隠しておこうかな」
私の足取りを追われないように、穴の周辺に葉を散らばせて見つかりにくくした
ルナ「…よし!これで良し!」
周りの土と色が変わっていない事を確認した私はそそくさとその場を離れ、東ベルリンへの道へ飛んで行った
数日後
11月8日 夕方
ルナ「ふぅ…どうにか警察に目を付けられずにここまで来れたわね」
流石に国の半分程を横断する旅をした為私は疲れてしまった
ルナ「とりあえず血を…」
少し無理をし過ぎてしまったのか、頭がくらくらしてきた為、血のボトルをバッグから取り出し飲み干した
ルナ「やっぱりこの時期は喉が異常に渇くなぁ…」
改めて血を欲する体の不便さを実感した
ルナ「とりあえず、働いてた時には服とか碌に買ってなかったし、何か新しい服買おうかな…」
寧ろ何年も2、3種類の同じ服をずっと回して着ていた事の方が異常なのだが、私は食費を必要としない分お金に余裕があり、珍しく服を買う気が起きた
ブティック店
ルナ「へぇ…こんなにいっぱい服ってあるんだ…」
19歳(見た目は10歳だが)にして私は服の種類がこんなにある事を知った
ルナ「(まあ、可愛さよりも肌の露出度が低い服選ぶんだけどね)」
10代の女子とは思えない考えだが、背に腹は代えられない。というより何がどう可愛いのかなど私には分からない
なので、いくつか試着をして引きずらない程度に長いスカートとTシャツ2組買った
早速路地裏で新しい服に着替え、ボロくなってきていた服を捨て路地から出ようとした時、私は男の人とぶつかってしまった
ルナ「あっ、すいません」
ウォン「…」
ルナ「(えー…無視?…あれ?ポケットが裏返ってる…)」
ふと財布が無くなっている事に気が付いた私はさっきの人の事を思い出した
ルナ「(まさか…やっぱり!)あの!」
私が呼び止めようとすると、さっきの男の人は私の財布を握り締めたまま走り去って行った
ルナ「まだ走れば追いつけるよね」
相手を見失わないように急いで後を追った
しかし、男は路地の曲がり角を駆使して走っていくため、なかなか距離を詰めれず、ルナがやっと追いついた時には男の住処と思しき場所に来ていた
ウォン「おい!いい加減この金をあきらめろよ!」
ルナ「そのお金は私のよ!返して!」
別に切り詰めて貯めた訳ではないけど、大人しく盗られるのは癪だし
ウォン「このナイフが見えねえのか!?痛い思いしたくなかったら大人しく帰るんだな!」
痛い思いって、こっちのセリフよ…まあ、見た目だけでいったら負ける気しないでしょうけど
ルナ「やれるもんならやってみなさい!」
私がそう言うと、男はナイフを構えて突進してきた。どんだけお金欲しいのよ…
私はその突進をかがんで避け、足払いをした
ルナ「私の財布返して…ね?」メキッ
あっ、今嫌な音が…
ウォン「いってぇぇぇ!!!」
ナイフを放させようとして力を入れたら勢い余って指が少し変な方向まで反り返ってしまった
ルナ「やばっ…うーん、これ位なら放置しても大丈夫…かな?」
病院にかかった事がほとんどないルナには目の前の男の怪我が病院に行くレベルの怪我なのか否かがさっぱりわからないが、不可抗力だと勝手な理論で男を放置し、財布を取り返してからその場から逃げた
十数分後
ルナ「何気に路地裏って日が当たらないから日が出てる時でも行動しやすかったわね…ここまで帰って来るのに超迷ったけど…」
財布を取り返す事ばかり考えて日傘を差していなかったルナだったが、運よく日の当たらない路地裏だったため事無きを得たようだ
ルナ「そろそろ日も落ちたし、どこかの廃墟でも見つけて住む所を作らなきゃ…」
その後、夜中まで街を探し回り、廃ビルを見つけた私は以前ホームレスの人がやっていたように段ボールを広げ自分の住むスペースを確保してから少なくなった血の補充をするために近くの林へ出かけて行った
ルナが仮拠点を探している同時刻
ベルリン警察署
ウォン「うぅ…痛てぇ…」
いつもの様に事務作業を片付けていると、手を押さえながら所内に入ってくる男がいた
警官「ど、どうしたんだね⁉」
よく見てみると、男の指が2本ほど逆方向へ折れ曲がっていた
ウォン「見たら分かんだろ!指折られたんだよ!」
警官「相手はどこに行ったんだね?」
ウォン「すぐ逃げちまった」
警官「相手の特徴とかを教えておくれ。大まかな似顔絵を作るから」
すぐに紙とペンを用意し、男の前へ戻ってきた
ウォン「似顔絵よりも先にこの指を治療してくれよ!」
男が息巻いてそう言ってきたので、包帯を持ってきて簡易な治療をした
警官「それで、相手の顔は覚えてるかい?」
ウォン「ああ、髪は長くて金髪、背は低かった。というよりたぶんあれは、まだ子供だな」
警官「髪が長くてまだ若い男か…」
ウォン「は?いや、相手は女だぞ?」
警官「女性?それはまた怪力なんだねぇ…ところで、そうなった理由は何だったんだい?」
ウォン「理由?…それ絶対言わなきゃなんねぇのか?」
警官「絶対…ではないけど、捜査をする上ではかなり重要かな」
ウォン「…俺が金をすろうとして返り討ちにあったんだよ」
警官「そりゃアンタが悪いだろ…」
ウォン「そうだけどよ…何もここまでする必要ないとは思わねぇか!?」
警官「まあ、そうとは思うけどね。まあ、もっと具体的な特徴を言ってくれないかい?」
ウォン「えっと…目は少しツリ目で、歳は…10歳くらいか?」
警官「10歳?それは女性というより女児じゃないか…本当に君はそんな子に指を折られたのかい?」
内心この男、薬でもキメてるんじゃないかと疑い始めたが、ふと自分の書いた似顔絵に既視感を覚えた
警官「(はて?この顔、どこかで見た気が…)ちょっと、待っていてくれるかな?この似顔絵に見覚えがある気がするんだ」
ウォン「あ、あぁ…」
警官「(この顔、何年か前に指名手配されてた気がするが…こんな子供が指名手配されてるというのもおかしな話だし、俺の思い違いかな?)」
一応の為ここ数年間の指名手配の資料を漁ってみた
警官「うーん、やっぱり俺の思い違いで他の所で見ただけなのかなぁ…あっ、これだ!」
年数を戻っていくうちに自分の思い違いな気がしてきていたが、9年目の所でお目当ての人物の写真が出てきた
警官「9年前に指名手配されてた少女、名前はノエル・オーデン…でも、この情報通りならもう成人が近いはずだな…」
幾つかの疑問は残るものの、被害者に写真を見せる事にした
警官「アンタの指を折ったっていう少女はこんな子かい?」
ウォン「こ、こいつだよ!確かにこいつが俺の指を折った奴だ!」
警官「ただ不可解なことがあってねぇ…この子、今もう成人手前のはずなんだよ」
ウォン「そんな事知らねぇよ、俺は確かにこいつにやられたんだ!」
警官「分かった分かった、そうカッカしなさんな。一応こんな感じの子を捜索しておくから、アンタは病院に行ってちゃんとした治療を受けなさい」
警官がそう言うと、男はしぶしぶ警察署を後にし、病院へ行った
次の日
夜通し血を集め、最近ではすぐに獲物を狩れるようになってきた私だったが、町の近くという事もありあまり野生の動物もおらず苦戦しており、十分な血を集めた頃には日が昇り始めていた
ルナ「そろそろあそこに帰って寝ようかな…」
日向を避けつつ廃ビルへ戻り、段ボールの中に日が入ってこない事を確認してから私はすぐに眠りについた
数時間後
ルナ「なんか外が騒がしいなぁ…」
私が気持ちよく寝ていると、外が騒がしくなり始めた
ルナ「どこかで火事でもあったのかな?」
とりあえずトラブルの元がここではなさそうだという事を確認した私は再び寝ようと寝床へ戻ろうとした
しかし、その眠気は突如響いてきた大音量の声で吹っ飛んでしまった
ルナ「な、なんなの今の音…」
割れた窓からそっと外を見渡してみると、2つ程向こうの道にある広場から声が聞こえている事が分かった
ルナ「今の爆音で眠気削がれちゃったじゃない…」
ウダウダ言っても意味がない為、暇潰しがてら声の主に会いに行く事にした
ふれあい広場
私が広場に着くと、そこには設置式のモニターが置いてあり、声はそこから響いているようだった
ルナ「何が始まるんだろう…」
少しの間どこかの部屋が映し出された音、誰かがモニターの中に出てきた
クレンツ「皆さんこんにちは、以前から常々報じられていた『旅行許可に関する出国規制緩和』の草案が先程、受理されました!これで皆さんは東西ドイツ間、他国への海外旅行が自由にできるようになりました!」
国民「うぉぉぉぉ!!!」
ルナ「(や、やかましい…)」
耳を塞いだうえでも聞こえてくる爆音の内容を整理してみると、どうやら外国間の行き来の規制が緩和されるそうだ。なるほど、確かに東西で壁が作られているドイツでは大ニュースね
ルナ「(まあ、だから何だよって話だけど…)」
女「これで東ドイツに居る友人に会いに行けるわね」
男「あぁそうだな、長い間待ち望んでたよ」
とりあえず、まだまだ日は落ちそうな雰囲気ではないし、耳に何か詰めて日が沈むまで無理やり寝ようかなと私は考えていた。しかし、この男女の次の会話に嫌な単語が含まれていた
男「それより、聞いたか?」
女「聞いた?今のニュースならしっかり聞いたけど?」
男「違うよ。何年か前に親を殺して失踪した女の子がこの近くに潜伏してるかもしれないんだってさ…名前は何だったかな?」
女「ああ、それなら朝のラジオでやってたから知ってるわ。名前はノエル…だったかな」
ルナ「!?(ちょっ!?私ここにきてまだ2日目なのに、なんでもう存在が疑われてるの⁉)」
昨日勢い余って指をへし折ってしまった男の所為などとは思い至る訳もなく、何処から自分の情報が漏れたのかさっぱり分からないまま私は仮拠点に戻ってきた
夜
ルナ「(私がこの町に居るってバレた原因がさっぱり思い出せないけど、ラジオで放送される位なんだし、警察が探してる可能性も高いわね…忙しい話だけど、また居場所を変えた方がいいわね…いっそ事、外国まで逃げちゃおうかな…)」
いつこの場所がバレるか分からない為、今夜のうちにでも逃げようと考え私は外に出た
ルナ「なんか向こうが騒がしいわね」
昼とはまた別の方が騒がしい事に気が付いた私は、その騒ぎに紛れて逃げようと考えた
ベルリンの壁
老父「壁を撤廃しろ!東西の壁をなくせー!」
若者「そうだ!草案が通ったんだから壁を無くせー!」
役人「そう言われましても、この壁をそんなすぐに無くす事はできないんですよ。ここから数百m行った所に門がありますのでそちらに…」
老婆「なら私らがこんな壁叩き壊してやる!そこを退きな!」
外国の行き来の規制緩和の草案が通ったためベルリン市民は一気に強気になり、半ば一揆に近い行動を取っていた
ルナ「(うわっ、昼間の放送で市民が暴動起こしてるじゃない…)」
壁の方を見ると、最前列の数人がツルハシやハンマーを持って壁を崩そうとしていた
ルナ「この感じじゃ、当分壁は崩れそうにないわね…」
近くに警察がいないか探ってみると、この騒動を聞きつけてかあちらこちらから警察が少しずつ集まり始めていた
咄嗟に大人の影に隠れて警察をやり過ごした
ルナ「(このまま警察が増えたらいつか見つかっちゃう…)」
焦る私を尻目に壁はなかなか崩れる気配がない
時間が経つにつれ増えてくる警察に焦りが募り、私は大人達の隙間をすり抜け、最前列まで進んだ
ルナ「(この人がツルハシを振り下ろすタイミングに合わせて……今だ!)」
隣の男性がつるはしを思い切り振り下ろした瞬間、私は壁を目いっぱい殴り、壁を破壊した
そしてその反発力を利用して後ろに跳び、あたかも発破をかけられた爆風で後ろに跳んだかのように見せかけた(まあ、落ち着いて見れば瓦礫の飛んでいる方向でどちらから衝撃が加わったか分かるんだけどね)
老婆「だ、大丈夫かいお嬢ちゃん!?」
ルナ「え、えぇ、ちょっとびっくりしちゃっただけです」
跳んだ先に居たお婆さんにお礼を言った後すぐに壁の向こう側へ走り去り、人気のない所に逃げ込んだ
ルナ「比較的安全な国で、私の存在が知られてない所……日本?…ここならまだ私の名前が知られてないだろうし、いい隠れ家が見つかるかな?」
流石に日本までは飛んで行けそうにもないので、飛行機の荷物入れに忍び込んで行く事にした
ルナ「ベルリン空港は…あっ、東ベルリンの方だった…」
ベルリン空港は東ベルリンの方へある事に気が付き、今来た道を引き返した
ベルリン空港
ルナ「(ちょうど荷物を積んでる途中ね…)」
作業員が少し荒々しく荷物を飛行機の中に積んでいくのを見ていると、最後の荷物を積み終えたのか作業員諸共ベルトコンベアーが離れて行った
ルナ「(よし、今ね)」
少しずつ荷物室の扉が閉まっていく中、私は滑り込むように荷物室に飛び込んだ
ルナ「(これであとは日本に着くまで待ってるだけね)」
流石に今からこの部屋に人が入ってくることはないだろうと思い、私は昼に寝れなかった分を取り返すために荷物室の中で眠りについた
To Be Continued
遂に飛行機に無賃搭乗したルナだが、ベルリンの壁は壊せても言葉の壁を壊す事は出来ない。さぁ、この問題をどう解決するのやら…
次回『吸血鬼来日』